挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

52/118

ご助力致しましょう

 恵二にのされ気を失っている貴族の青年カインをアミーが介抱している間に、恵二はサミから彼についての情報を教えて貰った。

 カイン・シア・クロフォード。クロフォード子爵家の長男として生まれ、最近病を患った父に代わって家督を継いだそうだ。年は丁度20才とアミーと同い年で、二人は幼馴染で昔からの知り合いだそうだ。どうやら親同士で交流があったそうだが詳しい話はサミも分からないらしい。

 またカインの父親である前クロフォード子爵には教会の維持費や孤児院の設立に多大な投資をしてくれた恩もあるようだ。カインが当主になった現在でも維持費を寄付し続けてくれており、更には子供たちに読み書きだけでなく乗馬や魔術も教えてくれているのだとか。

「私もカインさんに魔術や馬の扱いを習ったのよ」

「そうだったのか・・・」

 どうやらサミたちにとって大恩人である貴族の青年を殴ってしまったようで、恵二は軽い眩暈を覚えた。まさか自分を監視していた者がその貴族の部下だったとは思いも寄らなかったのだ。

「まあ、それについては私も説明してなかったしね。責められないわ・・・」

「ええ、私も紛らわしい真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 サミに続いて、先程の帽子男がそう謝罪の言葉を告げてきた。この男の名はカッタというらしく、幼い頃からカインをお世話している部下なのだとか。執事みたいなものだろうかと問うと、どうやらクロフォード家の執事はまた別にいるらしく、現在はカインの父親の世話をしているようだ。

 だが、恵二にはまだ腑に落ちない点があった。それはカインが先程述べていた“監視”の件と、“親し名”の疑惑だ。恵二はまず監視についてカッタを問いただした。

「ああ、そうですね。確かに私はカイン坊ちゃんに監視を依頼されました。アミーさんが男に誑かされないようにと・・・」

 カッタの話しでは、どうやら監視を始めた要因の一つが恵二にあったようだ。最近になってアミーの妹分であるサミが帰郷したとの情報をカッタは得ていた。その際にサミは年頃の少年二人を連れて孤児院に入っていったとの報せも受けていた。それをカインに報告したら、どうやら勘違いを起こしてしまったと説明をする。

「勘違い?」

 恵二が疑問の声を上げると横からサミが語り掛けた。

「まあ、どうせすぐ分かるから話しちゃうけどね。カインさんはアミー姉のことが好きなのよ」

「その通りです。あくまで坊ちゃんの片思いなのですが、貴方たちお二人が孤児院で寝泊まりしていると聞いて、居ても立っても居られなくなったのでしょう」

 確かに気になる女の子と男が一つ屋根の下で暮らしているともなれば、気が気ではないだろう。どうやら監視の理由はそこにあったようだ。

「けど、もう一つ疑問があります。彼の親し名“シア”って、もしかしてここの領主から取った名ですか?」

「ああ、それも誤解ですよ。坊ちゃんの親し名はアミーシアさんから頂いたものです」

「アミーシア?」

「アミー姉の本名よ。アミーは愛称なんだけど、何故か初対面の人にも愛称で名乗るのよ・・・」

 サミからそう説明を受けてこれで全ての疑問が解消した。どうやら今回は、完全に恵二の早とちりのようであった。

「マジかぁ・・・」

 やらかしてしまったと恵二は頭を抱え座り込む。確かに彼らの言動には誤解されるようなものがあったかもしれない。それでも教会と孤児院の大きな後ろ盾である貴族の当主をぶん殴ってしまったことには変わりがない。もしかしたら自分のせいで青年にへそを曲げられ、援助を打ち切られてしまうのではと考え、恵二は顔を真っ青にした。

 しかし、そんな恵二の様子にも意に介さずサミとカッタはフォローを入れる。

「大丈夫よ。そんなことで怒るような人じゃないから」

「ええ、その通りです。むしろ目を覚ましたら喜ぶと思います。ほら、そろそろ坊ちゃんも気づかれたようですよ?」

 カッタの言葉通り、カインはどうやら目を覚ましたようだ。カインはいまだアミーに膝枕をされたまま横たわっていたが、閉じていた瞼を徐々に開いていく。

「・・・いつつぅ~。一体何が・・・?私は確か・・・」

「良かった、カインさん。目が覚めたようですね」

「―――っ!アミーさん!?」

 気付いたら、何故か青年の思い人であるアミーの顔がドアップで映っていた。思わず声を上げ身体を動かそうとするが、恵二に殴られた腹部を中心に身体中がズキズキと傷む。青年は堪らず呻き声を上げた。

「か、カインさん。無理しないで下さい。治癒魔術を掛けたといってもさっきまで気を失っていたんですから暫くは安静にしていて下さい」

「い、いや。しかし往来でこのような・・・。非情に嬉し・・・いや、恥ずかしいのですが・・・」

「安静にしていて下さい!」

「・・・はい」

 カインはなんとか痛む身体に鞭を打って動かそうとするも、アミーの言葉に威圧され顔を真っ赤にしながらも大人しく現状に身を委ねた。しかし、本心は満更でもないようで青年の顔がにやけきっていた。

「・・・いいなぁ」

 セオッツが心底恨めしそうにそう声をあげるのであった。



 日も暮れ始めカインも状態が安定すると、一同は立ち話もあれなので孤児院の中へと場所を移した。もうすっかり夕飯の時間で、カインもそのままご相伴に預かることにした。カッタは一度屋敷へ戻ってこのことを報告しにいくようだ。

「いやー、悪かったなケージ君。変な疑いを掛けてしまって」

「いえ、俺の方こそ本当にすみません・・・」

 気にするなと背中をバンバン叩いてくるカイン。現在恵二は孤児院の食堂でカインと隣同士で座っていた。最初の出会い方こそ最悪であったが、あの膝枕の件以降すっかり打ち解けていて青年からはお礼を言われたぐらいであった。

 食堂と言っても普段はウォール夫妻にアミーと子供たちしか利用しない食卓に、現在は合計15人もの大所帯となっていた。小さいテーブルも持ち出しくっつけて、所狭しと皆席に着く。その後孤児院恒例のお祈りを捧げた後、楽しい夕飯の時間が始まった。

 カインも何度か御馳走になったことがあるらしく孤児院の雰囲気は手馴れたものであった。子供たちと談笑しながら料理に手をつけ、それがアミーが作った物だと知るとべた褒めをする。やがて子供たちが食べ終わりユリィが子供たちを寝室に連れて行くと、残った者たちで話し合いが始まった。

 まず今日起こった事を恵二は報告していった。時折アミーやカインも言葉を告げ足していく。今日の事は不幸な行き違いということで、恵二は心から謝罪をしカインは笑って許してくれた。

 その後恵二は最近冒険者ギルドが貴族の圧力を受けている事、コーディー神父からは最近起こっている教会や孤児院の嫌がらせの件をカインに説明していた。どうやらその件は彼にとっても初耳であったらしい。コーディーは心配させまいとカインには何も告げていなかったのだ。カインは特に孤児院に被害が及ぼうとしていることに強い憤りを感じていた。

「まさか私の知らぬ所でそのような事になっていたとは・・・!ガルシア伯爵め、よくもいけしゃあしゃあとあのような戯言を・・・!」

「戯言?」

 カインの言葉に疑問を感じた恵二は質問を返す。

「ああ、実は今日そのガルシア伯爵の家へ招待されたのだよ。月に一度町の貴族間で行われる会議のようなものさ」

 会議の内容全ては話せないが、カインは恵二たちに関わりのあるであろう部分だけ情報をくれた。

「なんでも冒険者ギルドは最近全く責務を果たせていない。必要の無いギルドは解体してしまおうと・・・」

「ほ、本当ですか!?」

 サミの驚いた声に無言で頷くカイン。存在が危ういとは聞いていたが、実際に会議の話題になるほど状況が深刻だとは思わなかったのだ。

「だが、君たちの話を聞くと明らかに伯爵かそれに近い権力の者が糸を引いている。素材の売買拒否や門兵の対応など言語道断だ!」

 カインは親し名で誤解されがちではあるが、どこの派閥にも与さない庶民派で知られているらしい。町の現状に強く懸念を抱いてはいるが、新米当主であることと民衆よりであることで貴族たちからは煙たがれている存在のようだ。それでも完全に無視はできない程、古株でもあるクロフォード子爵家の家柄は発言権があるようだ。

「私も貴族の責務として事に当たってみるが、何しろ相手が本当にガルシア伯爵となると、いくら私の家といえども太刀打ちできない。済まないが冒険者ギルドの件は先延ばしにはできても、現状打破は無理だと思う・・・」

「いえ、それだけでも十分ですよ」

 まだ根本的な解決には至らないが、貴族の味方がいるだけでも有り難い。恵二はそれだけでも助かるとカインにお礼を言う。

「すまんな。せめて孤児院だけでも力になってやれると思う。そうだ!暫くは家の者をそちらに送ろう。サミ君たちは日中は冒険者の仕事で忙しいだろうから、その間に見張りの者を用意しておく」

 それはいいと恵二は思ったが、流石にそこまでして貰うのは申し訳ないとコーディーは遠慮したのだが、半ば強引にカインは護衛を付けると決めてしまった。

 その後、恵二たちだけでなくカインも孤児院に泊まると言い出したが、後から迎えに来たカッタが強引に屋敷へと連れ去ってしまった。その際に恵二とセオッツに絶対に間違いを起こさないよう散々注意をしてから孤児院を去っていった。



 翌朝、恵二たちは冒険者ギルドにてテラードと待ち合わせをしていた。今日も馬車の操縦を習うためだ。待ち合わせ場所をギルドにしたのは、様子見も兼ねて現状を情報共有する為であった。

 特にギルドの方では変化は無く、相変わらず素材は売る宛てがないらしい。仕方がないので黒鋼狼(スチールウルフ)の肉は、職員たちでおいしく頂いたようだ。残りの肉も恵二たちにお裾分けされたが、よくよく考えて見ればこの肉は元々恵二たちが獲って来たものだ。それを告げると職員は少しバツが悪そうにしながら、ちゃんとその分も支払うからと告げた。勿論先の見えない後払いでだ。

 その日もテラードに付きっきりで馬車の操縦を習う。恵二は飲み込みが早く既に粗方の操縦は出来るようになった。今度は馬に直接乗る練習をしてみてはとテラードに進められ、現在は乗馬の訓練に切り替えている。

 セオッツも馬車の操縦はそつなくこなせるようになってきたが、何故か最初から操縦できていたサミは、馬車の扱いが荒いままであった。

「サミ先輩、もっと馬を優しく扱ってですね・・・」

「や、やってるわよ!」

 どうやらサミの操縦が荒いのは生まれつきの性分のようであった。

「じゃじゃ馬娘・・・」

 そうボソッと呟いたセオッツは、後でサミに散々杖で叩かれていた。

 結局この日は恵二とセオッツの操縦技術が上がっただけで、サミは杖の扱いに磨きがかかっただけであった。



 テラードとギルドで別れたあと孤児院へ戻ると、そこには以前も見掛けた馬車が見えた。その車両に刻まれている紋章は、恵二達の所有している馬車にもついていた。

(間違いない。バアル伯爵の馬車だ)

 中に乗っていた人物も恵二の予想通り、バアルの忠臣であるトニーであった。此方の姿を確認すると、直ぐに馬車を降りて挨拶をしてくる。

「お帰りなさいませケージ君、サミさんにセオッツ君も」

「ただいまトニーさん。前回お話した情報は、何か使えそうですか?」

 この前トニーとは、殆ど日常会話くらいしかしていなかった。もしかして伯爵は、その事に不満を持ったのではないかと不安が過り思わず老人にそう尋ねた。

「ええ、大変興味深いとバアル様はおっしゃっておられましたよ?更に詳しく聞いて来いと、この老骨を寄越したくらいです」

 そう笑って答えるトニーに少し安心をした。

「さ、立ち話もなんですのでどうぞ馬車の中へ。本日は“ジテンシャ”と“ブカツドー”について詳しく教えて欲しいのです」

 トニーは前回恵二が通学する際に使用していると話した自転車と、学校帰りに参加していた部活動が気になるのだという。

(自転車はまあ分かるけど、なんで部活動に興味を持ったんだ?)

 そこだけ理解できなかったのだが、後でトニーから説明を受けて多少納得した。

 この世界では戦争やいさかい事は珍しくなく、魔物や野盗の存在もあることから己を鍛える者は少なくない。だがそれはあくまで必要に迫られてで鍛えるのであって、青の世界の人々のように趣味や健康を意識して体を動かす人は殆どいなかった。
 どうやらヘタルスの町には運動不足の金持ちが大勢いるらしく、それらを解消する為に何か異世界のスポーツを採り入れようと考えているようだ。

 恵二はトニーに自転車とスポーツについて語っていく。自転車の構造など詳しくは分からなかったが、覚えている範囲の情報を伝えた。トニーも前回より深く突っ込んだ質問をし、恵二から聞いた事を逃さずメモを取る。一通り自転車について語った後は、今度はスポーツについてだ。

 恵二は思いつく代表的なスポーツを挙げていく。サッカー、バスケット、野球、テニス、バレー、etc...。それぞれどういった競技なのか、かなり端折って説明をしていく。

「ふむ。その“さっかー”なるものはこちらの世界にも似たものがありますね。稀に貴族の子供たちが興じております。玉さえ用意すれば行えるというのは大変普及しやすそうですが、逆に道具が必要な種目はありませんか?」

「?道具が必要だと面倒じゃないですか?」

 トニーの質問に質問で返す恵二。流行らせるのなら手間がかからない方がいいのではと思ったのだが、トニーはそんな恵二の疑問に分かりやすく答えてくれた。

「ただ運動不足を解消させたいだけでしたら、極論ですが走らせれば良いのです。それだけでは無く、普及をさせた上に商売も考えたいのです。つまり道具をこちらで用意して売り出したいと考えております」

 成程、確かにその理屈だとサッカーでは玉やゴールを用意するだけで終わってしまう。恵二の育った青い世界<アース>では、サッカーは世界中に普及しており、スポンサー代やら放映権、観戦代などで儲けているのだろうが、こちらの世界でいきなり初めてもそれらの儲けは見込めないだろう。一番手っ取り早いのは競技用の道具を売るか賭け事をするかだ。

「うーん。道具を売る事前提でしたら、色々入用なのはやはり野球ですかね・・・」

「ふむ、先程説明してくれた棒で玉を打ち込む競技ですな。もう少し詳しく教えて頂けませんか?」

 この後恵二は分かる範囲で野球の説明をした。詳しい道具の作り方などは全く分からなかったが、どうせ最初は皆素人だし丁度いいのであろう。その他の競技もいくつか質問を受け答えしていたら、あっという間に日が暮れ始めた。


「・・・今日はもうお疲れでしょう?この辺で切上げましょう」

「・・・ですね。ちょっと疲れちゃいました」

 日中は馬車でそこらを駆けまわり、やっと帰ってきたらトニーの質問責めに心身ともに疲れ切ってしまった。だが、恵二にはトニーにまだ大事な用が残っていたのだ。

「・・・トニーさん。さっきお話ししたスポーツ、書く物を頂けるなら分かる範囲でルールや青の世界での運営方法など記しておきますよ?」

「――っ!本当ですか?ケージ君は読み書きが出来るのですね。・・・しかし日中は冒険者の活動もありますし、大変なんじゃないですか?」

 確かに大変ではあった。今も出来るならすぐにでもベッドに寝転がりたい。この恵二の提案には勿論打算があった。

「その代りというのも図々しいかもしれませんが、ひとつ相談事があります」

「ふむ。期待に応えられるといいのですが、どのような件で?」

 ここで恵二は、昨日起こった出来事や冒険者ギルドの現状を正確に伝えた。その上でなんとかならないかと相談を持ち掛けたのだ。

 一通りの説明が終わると、トニーは何やら難しい顔をして考え込んでいた。

(やはりどうしようもないのだろうか・・・?)

 恵二の不安はいい意味で裏切られた。

「分かりました。根本的な解決は出来ませんが、ここは一つご助力致しましょう」

「本当ですか!?」

 トニーの台詞に歓喜の声を上げる恵二たち。それに力強く頷くとトニーはある提案をしてきた。

「では、これから一緒に冒険者ギルドへと向かいましょう。素材の買取でしたらご協力出来る筈です」

 ありがたい事に老人はある提案を持ち掛けてきたのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ