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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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私が相手になるぞ!

「よお、坊主。お前には用がねえからさっさと家に帰んな」

 そう1人の男が告げると不安そうな顔を浮かべるアミーの元へと近付いていく。それを割って入るように恵二は男の前に立ちふさがる。

「おいおい。一丁前にナイト気取りかぁ?優しくしているうちに消えな」

「・・・それはこっちの台詞だ」

 恵二はそう返答すると胸元のポケットから冒険者のランク証を取り出してこう口を開いた。

「俺はDランクの冒険者だ。痛い目に遭いたくなければ大人しく手を引け」

 当然そんな事を言っても目の前の男達が引かない事は目に見えていた。いや、ここで逃げられても困るのだ。恵二はこいつらから情報を得たかったのだ。当然逃しはしない。

  恵二の読み通り合計6人のゴロツキたちは逃げ出すどころか、ランク証を見て逆に大きな笑い声をあげた。

「ぎゃははははっ!マジかよ!?コイツがDランクだって?」
「あのオンボロ冒険者ギルドらしいぜ!よっぽど人手が足りないと見える」
「お前がDなら俺はSランクになれるぜ!ぎゃははは――」

 予想通りとはいえここまで露骨に馬鹿にされると頭に来た恵二は意趣返しにこう口にした。

「冗談。お前たちの腕じゃあ精々Fランクがいいところだろう?Dランクの俺でも、お前たちなんか片手で6人まとめて相手できるぜ?」

 余り他人に喧嘩を売ったことのない恵二は、その場で思いつく限りの煽り文句を述べると、その目論見は見事功を奏した。ゴロツキたちはさっきまでの下品な笑いを止め、顔を真っ赤にして恵二を睨みつけた。

「おい。冗談じゃすまねえぞ?小僧・・・」
「綺麗な姉ちゃんの前で粋がりたい気持ちは分かるが、テメエは死刑確定だぜ!」
「こんなふざけたガキ、俺一人で十分だぜ!」

 次々にそう口にすると、ゴロツキの1人が恵二に詰め寄ってくる。全力疾走なのか、はたまた手の内を隠しているのか判別つかないが、セオッツの動きと比べると男のスピードは止まっているかのように感じた。

(・・・これなら強化するまでもない!)

 そう判断した恵二はスキルを一切仕様せず男と相対する。

「――オラァ!」

 声を上げて振りかぶった男の右拳を恵二は悠々と避けた。ご丁寧に声まで上げて繰り出した遅い攻撃など躱すのは造作もない事であった。だが男も喧嘩慣れをしているのであろうか、右拳が空振りした後もそのまま体を回転させ、今度は右足で回し蹴りを繰り出す。その動き自体は悪くはなかったのだが、今まで恵二が相手にしてきた者たちと比べると致命的なまでに遅すぎたのだ。

 その回し蹴りも軽くバックステップで躱すと、今度はこちらの番だと言わんばかりに男へと肉薄した。

「――っな!がはぁっ!?」

 回し蹴りで隙だらけとなっている男に恵二は右拳を男の脇腹に叩きこんだ。いくら強化していない状態とはいえ、毎日鍛練してきた恵二の拳が急所ともいえる脇腹に突き刺さったのだ。効かない訳が無かったのだ。

 男は恵二の右ストレート一発で悶絶し地面を転げまわる。すると今度は見ているだけであった残り5人のゴロツキたちも顔つきを変化させ恵二へと迫った。

「野郎、やりやがったな!」
「気をつけろ!こいつ、結構やるぞ!!」

(お前たちがやらな過ぎなだけだろう・・・)

 そう心の中で呟いた恵二は、5対1ということもあって躊躇うことなく強化(スキル)を発動させた。最近恵二は接近戦をする際、超強化(ハイブースト)の出力を5%程に留めていた。その代り視覚聴覚といった五感の強化はなるべく控えた。完全にスキルに頼りっぱなしになるのも気が引けたからだ。

 その甲斐あってか先程1人で向かってきた男の動きは非常にゆっくりと感じたのだ。これもセオッツとの特訓の成果であろうか。その上、現在は5%の出力とはいえスキルで身体能力を向上させている。5人相手でも余裕で相手取ることが出来た。

「くそぉ、コイツ!ちょこまかと・・・」
「おい、テメエ。邪魔すんなよ!」
「──っ!お前こそ・・・。おい、そっちいったぞ!」

 5人の攻撃を恵二は悠々と躱していく。そして隙を見せた者から順に、強化された恵二の拳をゴロツキたちの腹に突き出す。加減しているとはいえ、強化された恵二の拳を受けた者は一人二人と次々に地面の上を転げまわる。

(これでSランクだなんて、よくもまあ抜かしたもんだな)

 先程の男の台詞を心の中で嘲笑いながら、恵二は淡々と腹パンを男たちに繰り出す。すると、ものの数分で恵二の周りに立っているゴロツキは1人もいなくなった。男たちは全員地面に身を沈め悶絶していた。

「アミーさん。とりあえず排除し終わったけど、新手がくるかもしれない。荷物は後で持っていくから先に孤児院へと戻ってて下さい」

「――え、ええ。分かったわ」

 恵二の強さに呆気にとられていた彼女はハッと我に返り頷くと、すぐに孤児院へと向かった。これでひとまず彼女の安全は確保できただろう。後は男たちから情報を聞き出そうと思ったのだが、ゴロツキ達はまだお腹を押さえてうめき声をあげていた。子の様子だと聞き出すどころでは無さそうだ。

(しまった!これじゃあすぐに聞き出せないなあ・・・)

 そう考えた恵二は、直後何者かの視線を感じた。それは背後の建物の陰からこちらを伺っている男から発せられているようだ。どうもこちらを監視している帽子をかぶった男は、隠密行動はド素人のようで強化を全くしていない恵二にも気配が丸分かりであった。

 多分このゴロツキ連中の関係者であろうと当たりをつけた恵二は、絶対に逃がすまいと自身の身体能力をフルパワーで強化し男の方へと移動する。超強化(ハイブースト)を全力で行使して男の背後へと超スピードで回り込んだ。さっきまで恵二を監視していた男には恵二が突然消えたように見えたであろう。慌てて辺りを探ろうとするも背後から恵二に声を掛けられ仰天する。

「俺に何か用?」

「―――ッ!?」

 帽子の男が振り向いた先には、ついさっきまで10メートル程離れた場所にいた筈の少年の姿があった。驚きで開いた口が塞がらない男に、恵二は再び話しかけた。

「あんた、貴族の手の者だろ?正体はとっくに割れてるんだぜ?」

 勿論嘘である。男の正体など正確には分からないが、多分そうであろうと恵二は鎌をかけてみた。突然の出来事の上にいきなり問い詰められ、男は面白いように慌てはじめた。

「い、いや。ち、違うんだ。私は偶々通りかかっただけで、別に君に用事はなかったんだ!」

「ふーん。通りかかったあんたは、何で建物の陰からこちらの様子を伺ってたんだ?誰かに頼まれてゴロツキどもや俺たちを監視していたんじゃないのか?」

「な、なんのことでしょう?全く分かりませんね。それでは私は時間が無いので・・・」

 そう言ってこの場を去ろうとする男の腕を恵二は掴んだ。

「ちょーと待った。まだ話は終わってないよ?あんたに俺たちの監視を命令した人を教えて貰うまではね」

 恵二の言葉に青ざめる帽子の男。口をパクパクさせ視線を泳がせていた。あからさまに怪しい。

(もうひと押し、か?)

 恵二は超強化(ハイブースト)を使って何か脅かしてやろうかと考えていたその時―――。

「その手を離せ!狼藉者が!」

 男の怒声が聞こえた。すぐに聞こえた先へと振り返るとそこには、金髪の小太りな青年が立っていた。青年の服装はそこらを歩いている町の住人と比べると、凄く出来栄えの良さそうな作りでとても高価そうだ。一目見て突如現れた青年が、金持ちか貴族なのではと察しがついた。

「ぼ、坊ちゃん!」

 すると、恵二に腕を掴まれていた男が青年に反応をした。どうやら顔見知りであるようだ。

(もしかして、こいつがこの男に何か命令をした貴族か?)

 恵二は記憶を辿る。孤児院にちょっかいを出しているであろう貴族の名は、確か町の領主でもあるガルシア・レイ・ダゥード伯爵であった筈だ。目の前の青年がそうなのだろうかと考え始める。だが恵二は領主の名だけ聞いており、その詳しい容姿までは分からなかった。

(てっきりもっとおっさんかと思ったが、この小太りな奴がガルシアか?)

 頭の中で色々考えていた恵二は、未だに帽子の男の腕を掴んでいたままであった。それが気に食わないようで、小太りの青年はさらに恵二へこう告げた。

「その手を離せと言っている!聞き入れないようならば、私が相手になるぞ!」

「へ?」
「い、いけません、坊ちゃま。この男は危険です!私には構わず逃げて下さい!」

 てっきり荒事は手下に任せ自分はふんぞり返っているだけの貴族かと思いきや、中々気概のある台詞を吐く奴だ。それとも腕に相当の自信があるのだろうかと恵二は警戒をした。だが、これは逆に好都合だ。帽子の男から背後にいる者を吐かせようとしたら、目の前にその首謀者が現れたのだから。

 もう帽子の男に用はないと判断し、恵二は男の腕をそっと離した。すると男は逃げ出すように小太りの青年の元へと駆け寄る。

「ぼ、坊ちゃま、助かりました。すぐに逃げましょう!」

「何故逃げる必要がある?それにこの状況は一体なんだ?私は彼女の監視を命じただけだぞ?」

(成程、狙いはやはりアミーさんか・・・)

 二人の会話にそう判断した恵二は、青年に声を掛けた。

「お前たち、何者だ?何故彼女をつけ狙う?」

 そう尋ねると小太りの青年は丸いお腹を更に張り、ふんぞり返るように口上を述べた。

「私の名はカイン・シア・クロフォード子爵だ!礼の無い冒険者め!まずは己の名を名乗るのが先であろう?」

 どうやらこの男は貴族で間違いないようだ。しかしガルシア本人かと思っていたが当てが外れたようだ。だが青年のミドルネーム、親し名には気になるところがあった。

(シア・・・?ガルシアの傘下か!?)

 確か貴族の多くは、己の支持する大貴族の名を頂戴し親し名とする風習があるとサミから聞いていた。どうやらこの青年はガルシア傘下の者で間違いないようだ。

「ふん、生憎と敵に名乗る程の礼儀は持ち合わせてはいないんでね。つまりあんたが孤児院に迷惑をかけている奴の手先ってわけか」

「何を抜かす!孤児院に寄生している害虫は貴様たちであろう?ここであったが百年目!成敗してくれる!」

 そう青年は切り出すと、有無を言わさず恵二目掛けて突進してくる。その後ろで驚いた顔をした帽子の男が必死で主を止めようと声を荒げる。

「ぼ、坊ちゃま。いけません!坊ちゃまーー!!」

 男の制止を聞き入れずカインと名乗った青年は恵二へと迫る。小太りの体型らしい実に遅い速度でだ。その鈍足さはどう贔屓目にみても、先程のゴロツキ連中以下の動きであった。

(コイツ、正気か?それとも貴族ならではのマジックアイテムでも隠し持っているとか?)

 この男の動きはまるで警戒に値しない。だが青年が宿している魔力量はそこそこであった。あくまでも平均と比べてだが。

 恵二は青年を警戒しつつ、慎重に、油断無く、迎撃態勢をとった。肉薄してきた青年がパンチを繰り出してきたが、その拳が当たる前にその出っ張ったお腹に軽くパンチを繰り出した。

「ぎゃふん」

 まるでアニメキャラのような呻き声を上げた小太りの青年は、恵二のパンチの威力に地面を1回2回とバウンドしながら後方へと吹き飛ばされていった。

「──っぼ、坊ちゃまーー!!」

 セレネトの町中に男の叫び声が木霊するのであった。



 小太りの青年カインに気をとられている間に、いつの間に復活したのかゴロツキ連中は逃げ出してしまっていた。

(ま、いいか。親玉をとっちめたんだから)

 恵二の視線の先には、吹き飛ばされ目を回しているカインとそれを介抱する帽子の男の姿があった。この二人から問い詰めればいいかと考えていた恵二の元に、孤児院の方からアミーがセオッツやサミを引き連れて戻ってきた。

「よお、二人とも。黒幕の貴族を捕まえ──」
「──カインさん!?」

 恵二の言葉を遮るように声を上げたアミーは、恵二の横を通過しそのまま小太りの青年の元へと駆け寄った。

「へ?」

 思わずそう呟いた恵二は、アミーの行動を首を傾げながら見守る。彼女は気絶しているカインの頭の下に膝を入れ、いわゆる膝枕の姿勢のまま聖属性の治癒魔術を青年に施す。

「えーと、どういうこと?」

 近くにいたサミに説明を要求すると、逆にこちらが質問を受けた。

「こっちの台詞よ、それは・・・。ゴロツキどもが絡んできたって言うから駆けつけてみたら、どうしてカインさんが目を回してるのよ?」

 状況がいまいち読み込めない恵二は、サミに促されるまま現状に至った経緯をなるべく細かく説明をする。全て話し終えると、サミは頭を押さえ深い溜め息をつきながらこう話した。

「カインさんは私たちの・・・少なくとも孤児院の味方よ。彼の寄付金で孤児院も教会も成り立っているようなものよ」

「な、なんだってーー!?」

 今度は恵二の叫びが町中に響き渡った。
+注意+
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