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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

序章 勇者ケージ編

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適材適所です

なかなか擬音の表現が難しいですね。今後の課題です。
 白の世界<ケレスセレス>では魔力を使って起こす奇跡を魔法ではなく<魔術>と呼ぶ。己や周りの魔力を素に、イメージでその奇跡の結果を想像して解き放つ。詠唱はあくまでも「イメージ」と「引き金」の補助でしかない。しなくても発動はするが、したほうがイメージしやすく魔術も早く発動する。熟練の技術を持つ強者は、無詠唱で大魔術を放つらしい。

火弾(ファイヤーショット)!」

 流石に無詠唱とまではいかなくとも、持ち前の制御技術でもって短い詠唱で火属性魔術を放つ恵二。その赤い弾道は迷うことなく目標である猪に着弾する。

「――!」

 火の弾丸は黒猪の頭部に見事命中したが、威力が足らなかったのだろうか。猪の勢いは多少緩めはしたものの、構うものかとそのまま恵二に向って突進してくる。

「ちぃ!」

 すぐさま右に回避する恵二。しかし足場が悪く思うように動けずに回避が間に合わない。黒猪の凶悪な牙はもうすぐそこ。これは痛いでは済まないだろうなと覚悟を決めたその瞬間――。

「――、燃え放て、火弾(ファイヤーショット)!」

 恵二の背後から聞こえた詠唱と同時に、力強い炎の弾丸が黒猪にむかって放たれる。先程自分が放った魔術とは比べ物にならない熱量を秘めている。その魔術の弾丸は、狙いが甘かったのか猪の足元に着弾する。瞬間、凄まじい爆発音と共に熱風が猪に襲い掛かる。

「ブオォォ――!!」

 火だるまになった猪が悲鳴を上げながら暴れまわる。しかし炎は一向に衰えることなく獣を焼き尽くす。わずか数秒で恵二を襲った黒猪は黒炭へと成り果てた。
 背後から恵二を助けてくれたナルが駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか?ケージさん」

「・・・あ、ああ」

 恵二は黒猪の末路をぼんやりと見つめながら生返事で応じた。最初に自分が放った魔術は寸分違わず目標に命中した。しかし大したダメージを負わせることは出来なかった。一方で恵二を救った二射目の魔術。ナルが放った魔術は先程と同じ火属性の初級魔術<火弾(ファイヤーショット)>。しかしその威力は桁違いである。魔術は足元に着弾したにも関わらず、その燃え広がった余波で猪を消し炭にしてしまったのだ。

(ここまで差があるのか・・・)

 生粋の魔術師であるナルジャニアと比較するのが間違いなのだが、同じ勇者である自分と年下の少女との差を思い知らされ落胆してしまう。

「大丈夫ですよ。訓練を続ければきっと強くなれます。ケージさんはやれば出来る子です」

「どっかで聞いたな、それ・・・」

 以前同じように励ましてくれた先輩や後輩の言葉を思い返し、いつまで不貞腐れてもしょうがないなと気持ちを切り替える。そう、ここは魔物のテリトリー。そう深い森の中ではないのだが、さっきのような獣も時々現れる。さっさと用を済ませてしまおう。

「よし、ここら辺の調査はこれくらいで次に行こう」

「はい」

 異世界に召喚されてから凡そ二か月後、恵二たちは現在ハーデアルト王国の北部にあるタナル村付近にいた。この一帯は大災厄<神堕とし>の影響が出ている地域である為、勇者御一行とランバルド魔術師長、王国騎士数名が調査に来ていた。調査隊はそれぞれ二、三人でチームを作り村周辺の探索をしていた。
 恵二はナルジャニアと行動を共にしていた際、先程の黒猪に襲われたのであった。

「今のところ、とくに魔物の姿は見られませんね」

 そう呟き辺りをキョロキョロ見回すナルジャニア。
 そう、先程の黒猪は魔物ではなく単なる獣に過ぎない。その獣にすら後れを取るのに、災厄により凶悪化された魔物など自分に倒せるのだろうかと考え気落ちする。

 この世界における魔物の定義とは、魔力を体内に帯びた人に害為す獣のことを指す。先程の猪は普通の獣だが、魔力を使って身体強化した猪や、中には魔術を扱う猪も存在するらしい。それらは“魔物”と認定される。
 ちなみにファンタジー世界でお馴染みゴブリンやオークなどは、正確には亜人種とされるが種族総じて人類に仇なすとして魔物と同列に扱われている。

「しかし、本当に<神堕とし>なんて起きているのでしょうか?魔物が全く見当たりません」

「いいことじゃないか。災厄なんて起きないに越したことはない」

 ナルの疑問も尤もだ。調査を始めてまだ二日目だが、魔物の姿は一向に見当たらない。それでも王国が<神堕とし>が起きるという根拠はタナル村のとある人物が証明してくれた。それは昨日の出来事である。



「ようこそ、こんな田舎村によくぞいらっしゃってくれました。ワシは村長を務めますイムルと申します」

 勇者御一行とランバルド、王国騎士たちは到着早々タナル村の村長と村民からの歓迎を受けた。滅多に外部の人間がこないこの村に勇者や高名な魔術師が来たのだ。村人全員来ているのでは、というくらいの人だかりができた。すぐさま歓迎の宴の準備をしますという村長にランバルドは制した。

「俺たちはここら辺を調査しに来ただけだ。気持ちだけ受け取っておこう」

「・・・そうですか」

 しょんぼりする村長や村人たち。そんなに宴がしたかったのだろうか。

「早速だがこの村に残っている神官を呼んできてくれ」

「かしこまりました」

 ランバルドの要請にすぐさま駆けつける村人。数分しないうちに村人と一緒に、白い清潔感のある修道服を着た少女が現れた。

「連れてまいりました。彼女がこの村唯一の神官です」

「はじめまして、ミエリスと申します」

 そう名乗った少女は白金の長い髪をした、恵二と同年代くらいの少女であった。なんでも以前この村には他に二人の神官がいたそうなのだが、<神堕とし>の影響か得意の神聖魔術が使い物にならなくなった為、村を出て行ってしまったのだとか。残った彼女がその二人の分まで仕事をこなしているのだという。

「早速だが、何か神聖魔術を使ってはくれねーか?」

「・・・そうですね。では防御魔術を使わせて頂きます」

 ランバルドの問いに答えると、ミエリスは詠唱を唱え始める。仲間たちほどではないが、自分とは比べ物にならないほどの膨大な魔力だ。

「――主よ、我を守りたまえ。聖盾(セイントシールド)!」

 詠唱が唱え終わると、その膨大な魔力は光り輝く小さい盾へと変化する。少女は魔力を使い果たしたのだろうか、頭を下げ肩で息をする。

「どうだ、おまえさんら。何か気づいたか?」

 ランバルドが恵二たちに問いかけると、すぐさまナルが答える。

「そうとうの魔力を込めた盾ですが、強度が貧弱ですね。王都の神官さんに見せて貰った魔術と比べると大分落ちてしまいます」

 そう、これこそが大災厄<神堕とし>の前兆にして弊害の一つ、神聖魔術の低下である。本来の聖盾(セイントシールド)ならば体を覆うほどの巨大な盾となり、上級魔術ですら防ぐのだという。それが今目の前に輝く盾はあまりにも弱々しい。

(あの盾なら俺の魔術でも・・・うん無理だな。)

 自分の魔術程度なら防げるであろうと自虐していたら、恵二の近くにいた村人たちのひそひそ声が耳に届いた。

(・・・たく、こんな時だってのに逃げ出した神官の野郎め)
(しかもよりによって残ったのが見習いじゃあな)
(やっぱあの娘じゃ神官は務まらないわね)

 どうやらこの村から出て行った神官に不満を持っている村人がいるようだ。そのとばっちりで神官少女の陰口を叩く者もいる。
 しかし解せない話である。事前に聞いた話だと、村を出た神官二人はこの地では神聖魔術が使い物にならないと移動届けを出したのだという。国の教会はそれを了承し、二人は別の地での勤務となった。ミエリスにも移動の打診は来ていたが、この村のため自分は残ると主張したのだという。
 神聖魔術が振るえないのなら、この地に留まる愚をせず余所で仕事をするのは有りではないかというのが恵二の考えた方だ。村を出た神官二人は新たな勤務先で人の助けになっているのであろう。
 だがこの村に留まったミエリスに落ち度があるとも思えない。ミエリスは神官の居なくなった村を思ってここに残ると言ったのだ。村人から感謝されこそすれ、非難されるのは筋違いではないだろうか。

 そんなモヤモヤした気分で彼女を見つめていると、ふと目が合ってしまった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 無言でペコリと頭を下げられた。なんか気恥ずかしい。そのやり取りに気づいたのかコウキが声を掛けてくる。

「先輩は金髪シスターがタイプなんですねー。定番ですもんね」

 なんかウザったい。ランバルドが「調査に行くぞ」と号令を出すまで散々からかわれた恵二は、普段は一緒に行動するコウキを置いて、ナルに声を掛ける。

「ナル、調査一緒に行こうぜ」

「ん、いいですよ。この天才魔術師が駄目な貴方をしっかりサポートしてあげましょう」

 こっちも若干ウザったいかもしれない。しかしコウキよりマシかと思いなおし調査に出る恵二とナル。

 そして調査は二日目が過ぎる。



 結局今日は黒猪以外の外敵は発見できず、村へと帰る恵二とナル。他の面子も殆どが村へと帰還しているようだ。恵二たちが寝泊まりしているのは、普段は使われていないボロ宿屋だ。稀に来る外来客用で普段は営業していない。客人が来た時だけ村人が持ち回りで運営するのだとか。その宿泊先へ向かっていた二人はふと道先で神官少女ミエリスと出会う。

「あ、おかえりなさい。ケージさん、ナルさん」

「ん、ただいまです」
「ただいまミエリスさん」

 ミエリスは現在神聖魔術をうまく使えない為、村人たちに宿屋の運営を押し付けられていた。料理に掃除と家事はなんでもこなし、その上ミエリスは可愛いしでこちらとしては大変有りがたい。きっと将来はいいお嫁さんになるであろう、あと大変可愛い。
 そんな彼女は両手いっぱいに野菜を抱えていた。どうやら夕飯の買い物の最中だったようだ。重そうなので持ってあげることにしたら、彼女は凄く恐縮してしまった。

「本当にすみません、勇者さまに荷物持ちなんてさせて・・・」

「そんな遠慮しないで下さい。適材適所ですよ」

「そーです。ケージさんは素晴らしい荷物持ちですよ」

「おいコラ魔女っ娘」

 心の中で悪態つく。そうナルは調査の際、戦力にならない恵二に荷物持ちをさせていた。確かに自分は戦う術を余り持ち合わせてはいない。荷物持ちでもしなければ、むしろ自分がナルのお荷物になるだろう。そんな恵二にもナルは遠慮がない。だがそれは恵二の扱いが悪いというわけではない。ナルは魔術が得意でない恵二を変に気遣わず対等に見てくれているのだ。だから遠慮もしない。

「森の調査はどうでした?何かわかりましたか?」

「いや、黒猪が一匹出てきただけで、大した情報は得られなかった」

 そう返すとミエリスは慌ててどこか怪我をしていないか聞いてくる。大げさだなぁと思わなくはない。現に恵二は危なかったのだから。

「大丈夫ですよ。私が付いていますので魔物なんてイチコロです」

「そうですか、お強いんですね勇者様たちは―――」

 そう少女が呟いた直後それは起こった。

 ドゴオオオオオオォォ――――ン!!

 体にずしりと響く重低音の爆発音と振動がビリリと伝わる。すぐさま音がした方を振り向く三人、そこには先程の爆発音で起こったであろう黒い煙が森の奥で立ち上がっている。

「な、なんだ!?何が起こった!?」

「・・・多分火属性の魔術ですね。あの規模の爆発魔術を放てるのは、恐らくランバルドさんかミイくらいでしょう」

 あの規模の爆発を起こせるのは王国魔術師長のランバルド・ハル・アルシオンか、幼女エルフのミイレシュ・フィアの二人だけだとナルは言う。確かランバルドは騎士二名と、ミイはグインさんと一緒のはずだ。
 ミイは魔力量もさることながら強力なスキルがある。そのスキルは、何でも精霊の協力を得ることができるのだとか。つい一週間ほど前、強力な大地の精霊を味方に付けることに成功したと言っていた。精霊種は非常に魔術に長けた種族である。
 グインさんも、元の世界では囚人にされる前は騎士だったようでその実力はピカイチだ。あの二人とランバルトさんたちなら後れを取るはずもないと思うが若干心配だ。

 同じことを考えたのか宿屋の方角から茜先輩たちが走り寄ってきた。一緒にランバルドさんや騎士たちもいるが、ミイとグインさんは見当たらない。やはりあの二人か!

「あの二人なら心配ないと思うが急いで現場に行くぞ!何か収穫があるかもしれない」

 この二日間で魔物を全く発見できなかったことを疑問に思っていたランバルドだが、ここに来て得られそうな手がかりだ。逃す手はないと現場へと走っていく。それを追いかける勇者たち。恵二も続こうと思ったがナルに制されてしまう。

「ケージさんはここに残ってミエリスさんを送ってあげて下さい」

「何いってるんだ!ミイたちが心配だ、俺も行く」

「あれ程の爆発を必要とした魔物が出現したのなら、ケージさんでは力不足です。それに――」

 と続けてナルはミエリスの方を見やる。

「彼女の荷物運びが途中です。適材適所ですよ」

 そう告げて森へと引き返していくナルを、恵二は見送ることしか出来なかった。
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