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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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ええい、放せ!

「おお、素晴らしい!まさか半日で討伐してしまうとは」

 ひ弱そうな男は外見とは正反対に大きな声をあげた。

「しかも、黒鋼狼(スチールウルフ)ですよ!?こいつらの硬い毛は高く取引されておりますし、肉も素晴らしい味だとか」

 ギルド職員も思わず唸る。どうやら貧乏ギルドにとって7匹の黒鋼狼(スチールウルフ)は大収穫であったようだ。

「これで我がギルドも首の皮一枚繋がりました。君たちには何てお礼を言ったらいいか・・・」

 そう大げさなリアクションを取るひ弱そうなこの男こそ冒険者ギルドの長であるマドーその人であった。だが喜びに打ち震えていたマドーに、サミの冷たい言葉が突き刺さる。

「お礼は言葉で無くお金で下さい。調査料、討伐料、そして狼の素材の買取代金」

「・・・分割でお願い致します」

 そこにはギルド長の威厳もへったくれも無かった。



 結局、黒鋼狼(スチールウルフ)の素材を商人に買い取って貰うまでは、報酬の2割程度を一旦受け取り残りの8割については後日という流れになった。どうやらあのギルドは本当にギリギリであったらしく、今回の狼討伐が出来なければギルドの撤去命令が下っていたとマドーは話していた。

「まさかあそこまで酷いとは・・・。危なかったわね・・・」

 恵二たちが訪れるのが遅ければ、あのギルドは無くなっていたであろう。流石にそれは恵二たちも困るので、分割払いを飲んだのだ。


 割と早く狼の討伐が終わり、時刻はまだ夕方前であった。恵二たちはとりあえず孤児院の様子を見ようとそちらへ向かうと、丁度教会の前に一台の馬車が止まっていた。馬車の中には執事のような恰好をした初老の男がおり、こちらを見ると馬車から降りてきて恵二たちに話しかけてきた。

「お初にお目にかかります。わたくし、バアル様の使いの者でトニーと申します。失礼ですがケージ様、セオッツ様、サミ様でございますね?」

「あ、はい。俺が恵二です」

「やはりそうでしたか。宜しければ立ち話もなんですので、馬車の中で如何でしょうか?」

 トニーと名乗った初老の男は恵二たちを馬車の中へと案内した。その馬車は4人乗りで丁度人数分空いていた。馬車に全員乗り込むと、早速トニーは話を始めた。

「それではご用件をお話しさせて頂きます。もうご存知かと思われますが、私はバアル様の御命令でケージ様の元に馳せ参じました。今後は忙しい主人に代わり、わたくしがケージ様のお相手を務めさせて頂きますので何卒ご容赦くださいませ」

「あ、いえいえ。こちらこそご丁寧に」

 余りにも畏まった態度に恵二は慌ててしまう。かなり目上の人にそこまで畏まられると上がってしまうのだ。今後何かと遣り取りをするのなら、喋り方ももっとフランクにして貰おうと考えた恵二はこう口にした。

「俺はただの冒険者な上、貴方より大分年下です。もっと砕けた話し方で大丈夫ですよ。それの方が俺も会話し易いですし」

「・・・そうですか。しかしこの喋り方は染み付いておりましてな。とりあえずこの場ではケージ君と呼ばせて頂いても宜しいですかな?」

「あ、はい。宜しくお願いしますトニーさん」

「こちらこそ宜しくお願いします」

 頭を下げたトニーは顔を上げるとさっそく本題に入った。まず最初はヘタルスで起こった事件の事後報告であった。

 まず町の方は完全に復旧したとは言えないが、道の方は最優先で整備され大きな支障は出ていなかった。だが赤の異人(レッド)であるルルカに凍らされた人々は結局全員死亡が確認された。どうやらザイルが存命なことは気がついていないようだ。恐らく死体だと思われたのであろう。

 それとルルカを殺害した者の正体も一向に不明なままであった。その正体不明の暗殺者に気絶させられていた兵士たちは、全員目が覚め次第問い詰めてみるも、皆が“自分たちと同じ鎧を着ていた”と証言するのみで全く犯人の素性が分からなかったのだ。

 今のところこの事件は、赤の異人(レッド)が何かの理由で青の異人(ブルー)である恵二を追って国に不法侵入し、殺害しようと試みた事件として考えているようだ。赤の異人(レッド)はどこかの組織に所属していて口封じで始末をされたとみている。

「以上がバアル様のお考えですが、どうですかな?」

「・・・恐らく合っていると思います」

「では、どうしてケージ君が狙われたのだと思います?」

「・・・それは元勇者だからでしょうか?」

 やはりそれしか考えられずそう答えるが、トニーはさらに問い詰めた。

「それはやはりそうでしょうな。それは大前提として、何故元勇者の君が狙われたのか、何か心当たりがございますかな?」

「・・・」

 無い知恵を振り絞って考えて見るも分からない。恐らくシイーズでの何かが関係しているのだと思う。ザイルは第一王女に仕えていると言っていた。ならば、それを疎ましく思っている連中の仕業だろうか。しかし、それと元勇者の恵二に何の因果関係があるのか分からなかった。

(伯爵にはザイルさんの事は一切話してなかったしなあ)

 特に庇っているわけでは無かったのだが、ついザイルについての報告を怠っていた。だがあの男は厄介事を持って来たことに変わりは無いのだが、命を賭して恵二を守ってくれたり、ザイルの頼みを断っても無理強いをしなかった。だから出来るだけ彼については黙っていようと考えていた。

「やはり見当がつきません」

「ふう、そうですか・・・」

 トニーは大きな溜息をつくと、それでは仕方ないと話題を切り替えた。

「では今度はもっと利のあるお話に致しましょう」

(来たか・・・)

 ある意味こちらも厄介な話題であった。

「我がご主人様は、ケージ君の育った世界での知識を所望しておいでです。何でも結構ですので、ヘタルスの利になるお話はございませんか?」

 その何でもというのが非常に厄介であった。まずあの町の発展に、日本の中学レベルの知識しかない恵二がなんの役に立つのかいまいちピンとこなかった。何かしらは彼らの持っていないアイデアがあるだろうと思ってはいるのだが、その持っていないモノが何なのかハッキリとはしなかった。

 そんな恵二の心情を察してか、トニーはこう助け舟を出した。

「いやはや、質問の仕方が悪かったですかな?それならば、まずはケージ君はあちらの世界で何をしていたのか教えて頂けませんか?」

「何をしていたか?」

「はい。普段どこで何をしていたのかお聞かせ下さい。たまに質問も交えさせて頂きますが」

 そういうことならと恵二は普段の日常生活を語った。朝起きて朝食をとり学校へ行って勉強し部活動を終えたら帰ってテレビや漫画を見てご飯を食べたら風呂に入って寝る。

 その合間合間にトニーは恵二に、何を食べているのか?学校で何を習っているのか?部活動とは何か?テレビや漫画とは?風呂はどういった作りなのかを質問していく。セオッツやサミも興味があるのかトニーと同じ様に質問しては聞き入ってと、それを暫く繰り返していった。

 日も暮れだし夕飯の時間が近づくと、トニーは会話を一旦止めた。

「ありがとうございます、ケージ君。お蔭さまで貴重なお話が聞けました」

「えっと、こんなんでお役に立てました?」

 恵二はただあちらの世界の日常生活を話していただけであった。時たまトニーの質問にも答えたのだが果たして満足して貰えただろうかと尋ねた。するとトニーは笑顔でこう答えた。

「ええ、勿論でございます」

 どうやら気にいって貰えたようで安心した。そこで恵二はこちらからも聞いて欲しい話を持ち掛けた。

「実はトニーさんにご相談したい事がありまして・・・」

「ほう?伺いましょう」

 それは昼に森で話した孤児院の嫌がらせについてであった。もし背後に貴族が関わっているのだとしたら、どう対応したらいいのかを相談してみた。話を聞き終えるとトニーは暫く考え込み、こう口を開いた。

「・・・現時点ではご協力できる事はございませんね。まず相手が誰であるのかを突き止めねばこちらも動く事ができませんし、私の判断では勝手に動く事も出来ません」

「そ、そうですかぁ・・・」

 色よい返事を貰えず肩を落とす恵二たち。だがトニーはこうも告げた。

「確約はできませんが、我が主は貴族の古臭いお考えをお嫌いになるお方です。もし強権を振りかざす貴族の正体を突き止める事さえ出来れば、何かしらご助力を得る事ができるやもしれません」

「ほ、本当ですか!?」

 トニーの言葉にサミが食いつく。

「はい。一旦この件はバアル様にお話しいたしますが、現時点ではどうしようもありません。もう少し情報が出ましたらまたご相談下さい。私もまたケージ様にお話を伺いたいと思っておりますので」

 トニーはまた日を改めて訪れると告げ、3人を降ろすと馬車を走らせた。どうやら今晩は町で宿泊をし、明日の朝にはヘタルスへと戻るようだ。

「何はともあれ、これで少し前進できたかな?」

「そうね。後は明日、もう少し情報を探ってみましょう」

「南にいる町のゴロツキ共から聞きだすんだな?」

 明日の予定を決めた3人は、孤児院へと戻るのであった。



「あら?おかえりなさい。もうすぐで夕飯の準備ができるから、それまで子供たちの相手をお願い」

「ただいま、アミー姉。任せて頂戴」

 出迎えてくれたアミーの頼みで子供たちの相手をすることにした3人は、孤児院の中央にある大きな部屋へと向かった。そこには上は14才のユリィから、下は3才になったばかりのおチビまで合計9人の子供たちが遊んでいた。

「あ、サミだ!」
「お帰りなさいサミお姉ちゃん」

「こら、呼び捨てにすんな!ただいまカトリ」

 確かクントという名の男の子はサミを呼び捨てにし怒られていた。そのクントと同い年くらいのカトリと呼ばれた女の子は、サミに抱きついてきた。

「お姉ちゃん、おかえりなさい」

 子供たちの中で一番年上であるユリィは、幼い子供たちの面倒を見てあげていたのか最年少の3歳児をあやしながら絵本を読んであげていた。

「ユリィ。あんたいつの間に字が読めるようになったの?」

「うん、教えて貰ったんだ」

 どうやらウォール夫妻は読み書きが出来るらしく、大きくなった子供たちには字を教えていたのだ。サミが字を読めるのもそのお蔭らしい。

「・・・セオッツ。あんた、ユリィにも負けてるわね」

「う、うるせえ!今日は丁度サミが教えてくれる番だろう?今夜中にマスターしてやるぜ!」

 3人で剣や魔術、読み書きを教え合う約束は今でも続いていた。セオッツも読みは少しだけ出来るようになってきたのだが、まだ大分怪しい。字は自分の名前だけなら完璧に書けるようだ。

「・・・そうえいば、ケージに魔術を教えてあげるって約束してたわね」

「?そんな約束したっけか?」

「覚えてないの?護衛の件、受けてくれるなら私が知ってる魔術を教えてあげるって」

 余りハッキリとは覚えていないが、確かそんな事を言われたような記憶がした。今日森でみせて貰った光属性の魔術も面白そうだ。だが、実際にまだ何も護衛らしい事をしていない上に、日中は孤児院を留守にしていたのだ。それなのに護衛の報酬だけ貰うってのも虫が良すぎるかと思うが、ここでこの話を受けておけば恵二の魔術も向上し、護衛や依頼もスムーズにこなせる。

「ああ、空いた時間でいいからお願いできるか?」

「ええ。まあアンタは物覚え良さそうだから、誰かと違って楽なもんよ」

「おい、こら!」

 サミの嫌味にセオッツは思わず声を上げた。



 恵二たちがセレネトへと到着して二日目の夜、とある貴族の館ではある青年が部下からの報告を受けていた。

「何?サミ君が戻っただと?」

「はい、左様でございます」

「思ったよりも早かったな・・・。彼女は今孤児院にいるのか?」

「はい坊ちゃん。ただ少し気になる情報が・・・」

「ん?なんだ?」

 坊ちゃんと呼ばれた金髪で若干小太りの青年が訪ねると、報告をしていた部下は少し言いよどむも話を続けた。

「どうも彼女はお一人ではなく、見知らぬ少年を二人連れて戻ったそうです。また先程まで孤児院の前には一台の馬車が停まっておりまして、その中で見知らぬ老人と何やら話しこんでおりました。これは何かがあったので―――」

「―――待て。その少年二人は今どこにいる?」

 部下の言葉を遮って小太りの青年はそう口にした。報告を中断させられた男は少し戸惑うも、主の質問に大人しく答えた。

「サミさんとご一緒に孤児院へと入られました。調べによりますと昨夜も孤児院に泊まっていたようで」

「なんだと!?」

 男の返答に思わず大きな声を上げる青年。あまりの声量に報告をした男はつい腰を抜かしてしまう。

「彼女と見知らぬ少年が、それも二人も一つ屋根の下で寝泊まりをしている、だとお!!」

 そう声を上げた小太りの青年は、席から立つとそのまま部屋を出て行こうとする。慌てて部下の男は問いただした。

「ど、どちらへ?」

「決まっている!孤児院だ!その者たちを引きずりだしてやる!」

「お、お止め下さい!もう、夜の遅い時間です。外は物騒ですしあちらにもご迷惑ですよ!?」

「ええい、放せ!」

 部下は青年をがっしりと抱きしめてなんとかその場に押し留めようとする。しかし強引に振りほどこうとする主に見かねた男はこう口にした。

「あ、あの孤児院にはコーディー司祭様がおられます!彼がいるのに間違いなどある筈もありません。どうかここは堪えて下さい!」

「――っぬ、ぐぅ」

 部下に説得され、青年は振りほどこうとした力を抜く。

「・・・それならば早朝だ。すぐ孤児院へと向かうぞ?」

「坊ちゃん、お忘れですか?明日は朝からダゥード伯爵家へと招待されているではありませんか・・・」

 そう、明日はこの町の領主であるガルシア・レイ・ダゥード伯爵に呼ばれていた。月に一度開催される、町における重大な指針を決める為の会議が行われるのだ。この家の当主である青年が出席しない訳にはいかない重要な集まりなのだ。

「――くぅぅ!ならば、会合が終わればすぐに向かうぞ!いいな?」

 そう言葉を吐くと青年は部屋を後にした。



 一方別の貴族の館では。

「くそっ!冒険者ギルドめ!まさか黒鋼狼(スチールウルフ)の群れを討伐してくるとは・・・」

 男はそう悪態をつきながら目の前の少女に鞭を振るう。

「んんーーー!!」

 少女は口を轡で塞がれ、身体を縛られており身動きできない状態で男の鞭を浴びせられていた。

「忌々しい。折角明日の会合でいよいよあのギルドを潰せたと言うのに!」

 そう口を開くと再び鞭を少女へと振り下ろす。その度に彼女は悲鳴を上げ、その身体に生々しい傷を増やしていく。彼女はこの館のメイドであった。この館の主人は気難しい男で、何かと粗相を起こせば現在のように非道な行いを浴びせられてしまう。だが今回彼女になんの落ち度も無く、これはただの八つ当たりでしかなかった。

 十数回鞭を振るった男は疲れたのか、はたまた気が晴れたのかその手を止めた。

「ふん、まあいい。あんなギルド、次こそ潰してやる。大体この町で冒険者の素材など買い取る奴はいやしないんだ」

 それはこの男が手を回した結果だ。折角手に入れた黒鋼狼(スチールウルフ)の素材もこの町でこの男の息のかかった商店では買い取らないよう通達をしてある。どのみちいずれかは経営が立ち行かずに潰れるであろう。

「だが、私の計画を狂わせた冒険者とやらは目障りだな。・・・潰すか」

 そう決断すると男は部下を呼びつけ、ひとつとある命令を下した。
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