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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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ただの冒険者仲間よ

 さすが貴族が多い町と言うべきか、東門から入ってすぐ近くには馬車を停められる大きな厩舎があった。この町も馬車での往来が激しいのか、通りやすいように道が大きく作られている。

 恵二たちは東門傍の厩舎に馬車を預けると、サミの案内で彼女の実家へと向かう。事前に説明されていたがどうやら彼女は孤児らしく、町の教会に隣接している孤児院で育ったらしい。3人はその教会へと足を運んだ。

(つまり、実家の護衛って教会ってことか?教会を襲う罰当たりな奴なんているのか?)

 この世界ではどうか分からないが、恵二の出身である地球では宗教による抗争が歴史上に何度もあった。様々な性格の人もいれば、その分崇める神も皆違ってくるのだろう。そういった信仰の違いから起こる悲劇はこの世界も同じなのだろうかと恵二は考えてしまう。

 暫く大通りを歩くと、丁度町の中央のやや南側にその教会はあった。

「ここよ」
「へえ」
「ここがサミの実家かあ」

 恵二たちが目にした建物は若干古臭そうではあったものの、きちんと手入れをされていて風格のある教会であった。その横には教会よりも若干新しく建てられたような2階建ての建築物がある。恐らくここが孤児院であろう。中から小さい子供たちの声が聞こえてくる。

 時刻はもう少しで夜7時を回るところであった。恐らく中では夕飯の最中か、その準備をしているのであろう。建物からいい匂いと煙が立ちこめる。

「うーん、見たところ特に異常があるようには見えないけれど・・・。まずは神父様に御挨拶しましょう」

 そういうとサミは教会の扉を開ける。ギイと軋んだ音を立て扉を開けると、内部には何本かの灯りが灯されており粛々とした雰囲気をかもし出していた。

「俺、こういう雰囲気苦手なんだよなあ」
「そうか?」

 セオッツは教会に苦手意識があるようだが、恵二は物珍しさに教会内部をキョロキョロと観察する。

「おや?こんな時間にどうしましたかね?」

 教会の奥、普段は説法でもする時に使用するのであろう祭壇手前にある台の近くには一人の男が居た。その男の年齢は初老に差し掛かったくらいだろうか。その出で立ちはパッと見、まさにザ・神父といった恰好であった。着ている修道服は黒一色で味気なく、ただ一ヶ所右肩の所には見覚えのある模様が描かれている。何かの花の模様の上に十字が描かれているあの模様は確か、以前タナル村で出会った見習い神官の少女ミエリスが着ていた修道服にあったものと同じもののように見えた。

(確かアムルニス教のシンボル、だったか?)

 この神父は、どうやらあの少女と同じアムルニス教の信仰者のようであった。

「神父様お久しぶりです。私です、サミです」

「おお!サミか。風の噂で冒険者として頑張っていると聞いていたが、どうやら元気そうだね。本当に良かった」

 そう語ると神父は顔を綻ばせながら彼女との再会の喜びを噛みしめた。だが、サミの背後にいる二人の少年の姿を捉えると、人前だという事を思い出しすぐに表情を取り繕う。

「ごほん、失敬。つい思わぬ再開に取り乱してしまってね。それで、そこの少年たちのことを紹介してくれるのであろう?」

「はい。二人は私と同じ冒険者で道中一緒に旅をして来た仲間でケージとセオッツと言います」

 サミは少し顔を赤くしながら二人を紹介する。神父の前ということもあってか、普段より柔らかめな口調で二人を紹介する。それにつられて恵二とセオッツも若干照れながらそれぞれ自己紹介していく。

「ふむ、ケージ君にセオッツ君か。サミがお世話になったね。私はこの教会を任されている司祭で、コーディー・ウォールという」

 そう話すと神父もといコーディー司祭は二人に握手を求めた。どうやら握手は万国共通らしい。少年二人はそれぞれしっかり握手をし終えると、コーディーは真面目な顔でこう話した。

「それで、一体どちらがサミのボーイフレンドかね?」

「「へ?」」
「――なっ!」

 恵二とセオッツは間抜けな声を上げ、サミは悲鳴に近い驚きの声を上げた。それを意に介さずコーディー司祭はさらに語りだす。

「まさかあんなに小さかったサミが、男を二人も連れて帰ってくるとは夢にも思わなんだ。それで、サミの彼氏は君かね?それともそっちの赤毛君かね?・・・まさか、両方かね!?」

「――――んなわけないじゃないですか!?」

 顔を真っ赤にしたサミがコーディーへと詰め寄るも、司祭は“ハッハッハー”と笑い声を上げながら彼女の抗議を受け流す。

「なんだか変な神父さんだな」
「ああ・・・」

 二人は神父と少女のやり取りを暫く遠くから眺めているのであった。



「あー、ごほん。とにかく無事で良く帰って来たね。アマスタやアミーにも早く顔を見せてあげるといい」

 そう話すと神父は、教会内部の横にある扉へと案内をする。どうやらここから直接、隣に建っている孤児院へと入る事ができるらしい。コーディーを先頭に恵二たちは孤児院の中へと踏み入れる。さっきまでの厳粛な空気とは真逆で、孤児院の内部はとても明るめな雰囲気であった。

 軋む廊下を歩きながらサミは神父に尋ね事をしていた。

「そういえば、あの手紙ってなんだったんですか?」

「手紙?」

「ええ、孤児院が危ないからすぐ応援に来てくれって内容でした。差出人がここ、セレネト教会になっていましたよ?」

 サミがそう話すとコーディーはなにやら難しい顔をして考え事をする。

「うーむ、見当がつかないが・・・。何かのイタズラじゃないのかね?」

「ええ!そ、そんなあ・・・」

 神父の返答にホッとした様な今までの苦労はなんだったのかと落胆したかのような表情をするサミ。すると突如背後から声が掛かった。

「サミお姉ちゃん!」

 声がした方を向くと、そこには恵二より少し年下の14才くらいであろうか。人懐こそうな顔をした少女がサミへと駆け寄ってきた。

「ユリィなの?大きくなったわねー」

 サミが驚きの声を上げる。ユリィと呼ばれた少女はサミに駆け寄るとそのまま抱きついてきた。慌ててサミも抱き返す。どうやらサミはこの孤児院を凡そ2年もの間離れていたそうだ。この年頃で2年といえば大分背丈も変わるであろう。彼女が驚くのも当然であった。

 するとこの騒ぎを聞きつけたのか、その他大勢の子供たちも集まりだした。

「あー、サミお姉ちゃんだー!」
「ホントだ、サミだ!」
「おかえりなさーい。お姉ちゃん、すっごくカッコよくなったねー」

「ただいま、みんな元気してた?こら、クント。年下の癖に呼び捨てで呼ぶな!カトリも随分大きくなったわねえ」

 大小様々な子供たちが集まりだして段々と収拾がつかなくなってきた。すると、また一人サミの元へとやって来た。

「はーい、皆。そろそろ食事よ。後でゆっくり時間を上げるから一先ず席に着きなさい」

 そう声を掛けたのは20歳くらいの綺麗な女性であった。サミとはまた少し違った茶色の髪の毛を腰の後ろまで伸ばしスタイルも抜群であった。顔も凄く整っていて、すれ違った男どもは皆思わず振り返ってしまうであろう美人さんであった。

 彼女は集まっていた子供たちに食堂へ行くよう促し、全員誘導し終わると改めてサミと再会の挨拶を交わす。

「サミ、本当に久しぶり。ちゃんとご飯食べてたようね。背もだいぶ伸びたんじゃないかしら?」

「ただいま。アミー姉こそまた大きくなったんじゃないの?色々と・・・」

「あれ、うそ?やだあ。また太ったかしら・・・」

「いや、そっちじゃなくて・・・」

 サミは恨めしそうにアミー姉と呼んだ彼女の胸部を見つめるも、本人はその事に全く気付かずに腰回りを気にしだしていた。

「と、兎に角。アマスタさんにもご挨拶してくるわ。今どこにいるの?キッチン?」

「ええ、丁度夕飯なのよ。良かったらサミも・・・。えっと、そこのお二人も一緒にどうかしら?」

「「――っ!」」

 美人なお姉さんに見惚れていた二人の少年は、急に話を振られビクッと身体を震わせた。

「はじめまして。サミの義理の姉でアミーといいます」

「け、ケージです!」
「セオッツです。サミさんにはいつもお世話になっております!」

「ふふ、よろしくね」

 アミーの笑顔に顔を真っ赤にする二人の少年。一方サミはチッと舌打ちをして二人をジト目で睨んでいた。



「まあ、サミ。良く帰って来たわね。こんな綺麗になっちゃって」

「アマスタさん、ただいま」

 サミはキッチンへと向かうと、そこで食事の準備をしていた女性と再会の挨拶をし抱きしめあう。アマスタと呼ばれた40歳くらいの女性はサミをそっと離すと、後ろにいる恵二とセオッツを見ながらこう言った。

「あら、もしかしてサミのボーイフ――」
「――――ただの冒険者仲間よ」

 なんだかさっきより棘のある紹介だ。恵二とセオッツはそれぞれアマスタに自己紹介を済ませると、彼女も丁寧に挨拶を返した。

「はじめまして、アマスタ・ウォールといいます。私はここの孤児院で暮らす子供たちの母親代わり、つまりサミの義理の母親になります。二人とも、今後もサミの事を宜しくね」

「「はい」」

 アマスタは隣の教会でシスターも兼任しているそうで、すごく優しそうな性格をしていた。家名から察するにコーディー神父の妻なのだろう。彼女にも夕飯を誘われて、恵二たちはそれに甘えることにした。



「アムルニス神の恵みに感謝を込めて――――」

 コーディー神父が祈りの言葉を紡ぐとサミやアミー、アマスタや子供たちも両手を組み目を瞑りながら口を閉じる。

(えーっと、こう、かな?)

 それを習うように恵二とセオッツも祈りを捧げる。食事をする前の孤児院のルールで神や食材に祈りを捧げてから料理を頂く決まりらしい。

「でわ、いただきます」
『いただきまーす』

 元気な声でそう返すと、子供たちは一斉に食事へと手をつける。恵二たちも好意で用意して貰った目の前の美味しそうな料理に舌鼓を打つ。祈りを捧げていたさっきまでとはうって変わって、今は子供たちの楽しそうな会話で賑わっていた。どうやら食事中にお喋りをするのはここのルール上問題無いようで、子供たちは代わる代わるサミを質問攻めにした。

「サミお姉ちゃん、東にはどんな国があったのー?」
「でっかい魔物と戦った?」
「お宝とか見つけたのー?ねえねえ?」

「あー、いっぺんに質問するな。えっとまず最初にシイーズって国を目指してね・・・」

 次々と飛んでくる質問にサミは1つ1つ丁寧に応えていく。実に面倒見の良い彼女らしい。恐らくこの環境が彼女をそうさせたのであろう。サミが質問攻めにあっている間、恵二とセオッツにも質問の矛先が向いた。

「兄ちゃん達も冒険者なんだろう?ランクいくつなんだ?」
「武器は何使ってるの?魔術は?」
「ねえ、お姉ちゃんとお兄ちゃん付き合ってるの?」

 男の子はやはり冒険者が気になるらしくあれこれと質問をし、女の子はおませなことを聞いてきた。

 最後の質問だけ適当にはぐらかし無難に答えていく。食事も終わり質問も粗方出尽くすと、そろそろ子供達は寝る時間だ。子供達の中で最年長であるユミィが皆を寝室へと連れていくと、食堂にはウォール夫妻にアミー、それと恵二たちの5人だけになった。

 コーディーは一度咳払いをすると、真面目な表情でこう口を開いた。

「さて、改めてお帰りなさいサミ」

「ただいま、神父様」

「うむ。久しぶりに会えて嬉しいが、先程気になることを言っていたね。突然の里帰りも、もしかしてそれが理由なのかね?」

 神父の問いに頷くと、サミは今までの経緯を語った。

 シイーズで冒険者として活動していたら、ギルドを通してサミ宛に手紙が届いた事。

 その手紙には"孤児院が危ない。直ぐに応援に来て欲しい"と書かれていて、差出人がセレネト教会になっていた事。

 それを見たサミは、急ぎセレネトへと帰る途中に恵二やセオッツと出会った事。

 一通り話を聞いた後、コーディーはこう口を開いた。

「私は手紙を送ってなどいないよ」

 彼はそう話した後、アマスタとアミーの方を見た。

「私も心当たり無いわねえ」
「・・・同じく送ってはいないわ」

 この場にいる全員が心当たりが無いという。

「イタズラか何かかしら?」

 アマスタはそう考えたが、サミはそれに異論を唱えた。

「それにしては度が過ぎてるわ。私がシイーズにいることを知っていた上、ギルド宛に手紙を送ったのよ?お金もかかったでしょうし、ただのイタズラとは思えないのよ」

 サミの言う事も尤もであった。確かにどんな理由があって誰がこんな手の込んだイタズラをするのだろうか。

「話は分かった。私たちもそれとなく気に掛けてみよう」

「お願いします。ちなみに神父様は孤児院が危ないという言葉に何か心当たりがありませんか?」

 サミの質問にコーディーは暫く黙ったままであった。よく見るとアマスタやアミーも浮かない顔をしていた。どうやら覚えがあるのだろう。サミもそれを察したようで再度問いかけた。

「・・・何かあったんですか?」

「ふう。独り立ちしていった娘にはあまり心配を掛けさせたくはないのだがなあ・・・」

 コーディーは大きな溜息をついた後、話の続きを語った。

「最近この孤児院と教会にちょっかいをかけてくる者が居てな・・・。まだ子供たちに直接の被害は無いのだが、建物のガラスが割られたり動物の亡骸を捨てられたりと嫌がらせを受けておる」

「っな!どうしてそんな!」

「それは悪質ですね。一体誰がそんなことを?」

 恵二は横から質問をするも、コーディーは首を横に振ってこう答えた。

「わからんのだよ。いや、犯人の姿は何度か見ておるのだが、どうやら複数いるようでな。その者たちはこの町の南端でよく集まっているごろつき連中だ」

「?ならばそいつらが犯人なんじゃあ・・・」

「・・・ケージ。そいつらはあくまでも実行犯。バックには恐らく貴族がいるはずよ」

 恵二の疑問にすかさずサミが答えた。どうやらそのごろつき連中はここらじゃ有名らしく、主に町の南部でたむろしているらしい。いさかいを起こしては捕まるのだが、何故かすぐに釈放となるらしい。どうもそれは貴族の手回しがあるらしく、奴らは貴族の言いなりの云わば便利屋であった。

「あいつらの厄介なところは、特定の貴族にはついていないことにある」

「と、いいますと?」

 コーディーに質問を投げかけると横からサミが教えてくれた。

「起こす問題によって主人が変わるってことね。今回の嫌がらせがアイツらの仕業だとしても、それだけではどの貴族が命令しているのか分からないのよ」

「じゃあ、そいつら捕まえて吐かせればいいんじゃないか?」

 セオッツの尤もな意見にサミは浮かない表情でこう話す。

「まあ、それしか実際手は無さそうなんだけどね。アイツらもそこら辺は熟知しているから簡単には割らないでしょうし、最悪やり過ぎると今度はコッチがしょっぴかれるわよ?」

 そこでもどうやら貴族の強権が邪魔をするようだ。うまく立ち回らないとそこを貴族に付け込まれるらしい。

(力技でいっても後が怖いかあ。うーん、貴族の権力に対抗するにはどうしたら・・・)

 あれこれと考えた恵二であったが妙案は浮かばなかった。だが、もしかしたらというアイデアなら思いついた。

(完全に他力本願な策ではあるが、悪い手では無い筈だ。どちらにしろ、今はもう少し情報が欲しいな)

 そう思った恵二は、浮かんだ策は一旦置いておいてこう告げた。

「・・・とりあえず、暫くこの町に滞在して様子を見てみよう。何か動きがあるかもしれないし、もう少し情報が欲しい」

「・・・そうね。でもあんまりにも酷い様なら、最悪手を出すわよ?」

「ああ」
「おう!」

 話が一旦纏まると、後はサミを中心にこれまでの冒険話しに盛り上がる。夜も遅くなってきたので恵二たちはこのまま孤児院へと泊まらせて貰い一夜を過ごすことにした。
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