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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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バレなきゃいいんだな?

 ザイルと別れた後、恵二はヘタルスの北部にあるという兵舎を目指した。兵舎はすぐに見つかり、警戒に当たっていた兵士に事情を説明する。現場に領主バアルが居たことからすんなりと確認の許可は下り、恵二は地下牢の殺害現場へと通される。

「確かに、間違い無く死んでますね・・・」

 女の死因は焼死と聞いていた。色々とグロい想像をしていたのだが、実際に見てみると首から下は完全に消し炭にされており、床に焦げ目を残すだけで何も残っていなかった。にも関わらず、頭部だけは綺麗に残されており、仏の身元確認がハッキリと分かった。既に彼女に着けられていたアイマスクも外されているが、完全に事切れているので凍らされる心配も無い。

「第一発見者の話しだと、この女は黒い炎に焼かれていたそうだ。何か心当たりはあるかね?」

「・・・すみません。俺は魔術には疎くて・・・。ただ死体を見た限りは非常識な炎だってことは分かります」

 バアルの問いに恵二はそう答えると、横から魔術に詳しそうな専門家が助言をしてくる。

「バアル様。兵が目撃した黒い炎なのですが、それは闇属性か暗黒属性の可能性があります」

「暗黒属性、だと!?」

 闇属性は良く耳にするが、暗黒属性とは一体なんだっただろうかと恵二は首を捻る。

(確か王城で習った気がしたなあ。・・・そうだ、ランバルドさんが話していたんだ!)

 確か光属性の対になるのが闇属性、そして神聖属性の対になると言われているのが暗黒属性の筈だ。思い至った恵二を余所に魔術の専門家はバアルにさらに説明をする。

「暗黒属性を扱えるのは、基本魔族だけ。もしかしたら今回の一件、魔族が関わっているやもしれません」

「ううむ、魔族とはまた厄介な・・・。しかし、闇属性の可能性もあるのだろう?」

「はい、闇属性にも黒い炎はございます。しかし、これ程の威力となると私は魔族の仕業ではないかと思えてなりません」

「・・・最悪、魔族と交戦することも視野に入れて行動した方が賢明であるな」

 バアルはそう覚悟を決めると、すぐにこの情報を全ての兵に伝えるよう指示を飛ばした。

(魔族、か・・・。確か北の大陸にいる種族だよな?)

 現在魔族の殆どが恵二がいる大陸とは別の、北部にある大陸に棲んでいると聞く。その為恵二はまだ一度も魔族とは遭遇したことが無い。

(やっぱり魔族って聞くとあんまし良いイメージないよなあ)

 前回の大災害<神堕とし>では魔王が大暴れしたと聞いていた恵二は、この事件も何か関係があるのかと疑ってしまう。

(・・・これ以上は考えてもしょうがない。全て想像の域を出ないしな)

 そう考えを纏めるといい加減眠くなってきたのでバアルに挨拶をした後、ケージはダーナ邸へと引き返していった。

 恵二は屋敷に戻るとセオッツたちに現場の状況を説明し、その後はすぐに眠りへと着いた。



 翌朝、3人は完全に寝坊をした。何時もは少しでも先を急ぐ為に日が明けるのとほぼ同時に行動していたが、現在の時刻は朝の8時。レイチェルが気を利かせて作ってくれた朝食の匂いにつられて目を覚ました。

 暖かい朝食を食べ、準備を終えた3人は再び町を発とうとしていた。


「レイチェルさん。また朝食まで御馳走になって、本当にありがとうございます」

「いいのよ、3人は町を救ってくれた英雄ですものね」

 3人はレイチェルとレイナに別れを告げると、今度は歩きでそのまま領主の館を目指した。なんでも館の方に馬車を用意しているそうで、そちらまで来て欲しいと早朝に使いの者が来ていたらしい。


 領主の館に到着すると、衛兵に事情を説明する。すると暫く待たされた後にバアル伯爵が護衛を付けてやって来た。

「待たせたな、何せ色々と仕事が増えたものでな」

「いえ、こちらこそ馬車を頂ける上にわざわざ領主様自ら足を運んで頂いて恐縮です」

 貴族嫌いのサミがそう丁寧に返答をする。昨日のやり取りで大分棘が取れたのか、はたまた社交辞令かは読み取れなかったが、彼女の表情には若干の笑みを浮かべていた。

「うむ、それには及ばん。何せ町を救ってくれた英雄たちの出立だ。見送らない訳にはいくまい?」

 バアルはニヤッと悪そうな笑みを浮かべそう話した。レイチェルもそう話していたが、英雄扱いはちょっとこそばゆい。セオッツやサミも顔を若干赤くしている。

「さて、昨日も言ったが暫くしたらセレネトに使者を送る。可能な限りで構わんから助力を願うぞ?」

 バアルの使者越しに今回の事件についての聞き取りと、青の異人(ブルー)の知識の提供。この二つをお願いされ恵二はしっかりと頷いてそれに答えた。

「宜しい。では3人とも達者でな」

「はい、それでは失礼致します」
「ありがとうございます伯爵様」
「伯爵様もお元気で」

 3人はそれぞれ挨拶を済ませると馬車に乗り込む。新しい馬車の車両はなんと6人乗りで、両サイドの席に3人ずつが座れるサイズであった。後ろには荷物を収納できるスペースもある。馬も2頭備えられており、サミはキチンと操縦できるのか少し心配になるもゆっくりと馬車を動かし始めた。

 道中に昨日の惨事が起こった現場も通ったが、この町の生命線でもある商人の馬車を止めないよう領主の指示により、急ピッチで氷を除去していたお蔭か問題なく馬車は通れた。

 さらに町を出る際も領主の計らいか、殆どフリーパス状態で通過できた。衛兵には町を救ってくれたお礼まで言われる始末である。

「これも領主様の差し金でしょうね。こりゃあ後が怖いわね、ケージ」

「うわあ・・・」

 これはいい加減な仕事が出来なくなった。セレネトへと向かう馬車のなか、恵二は馬車酔いと格闘しながら伯爵の使者にどういった知識を助言していこうかと思い悩むのであった。



 出発するのが遅れはしたが、セレネトへと続く街道も綺麗に整備されており、日が暮れる前にはセレネトの町が見えてきた。遠目で見る限りはヘタルスほど大きくはなさそうだが綺麗な外観であった。小さい川も見えてきて、どうやら町はそこを跨ぐように建てられているらしい。

「町中にはセレネト川が流れているのよ。気をつけなさい。川を汚したら厳罰よ」

「へえ、町中に天然の川が通ってるのか」

「洗濯するのに便利そうだな」

「・・・あんた、人の話し聞いてた?」

 セオッツの感想にサミが思わず突っ込む。話を聞くと、どうやらその川を生活用水として使用するのは厳禁であるらしい。セレネト川から引いてきた用水路や井戸からの使用は認められている。

「景観が損なわれるって貴族様からのお達しよ」

「・・・成程」

 それもまたサミが貴族を嫌う一因だろうか。済む人にとって水場というのはとても大切なものだ。それを景観の為に使うなというのは、余裕がある者の台詞であった。一般市民にはそれが受け入れがたいのであろう。厳罰であるにも関わらず、つい破ってしまう者もいるのだとか。

「他にも立ち入り禁止区域や町中での攻撃魔術は禁止といったルールがあるわ。後でそこら辺教えてあげるから大人しくしていなさい」

「へーい」
「わかった」

 そんな会話をしている内に、馬車はセレネトの東門へと近づいていった。


<水の町セレネト>
 シキアノスの南部寄りに位置するこの町の中央には、北と南を分断するようにセレネト川が流れている。その川から引っ張ってきた用水路が町中に張り巡らされ、訪れる者を魅了する景観となっている。しかし、それはあくまで北側の貴族街のみである。
 南側は主に庶民の住まいとなっていて、北側と比べると整備も全くされていない。最近は領主の指示で南も段々と整備をされつつあるが、その実態は古くて景観を損ねる建築物を壊し、新たな町の施設を増築する為である。
 ちなみにこの町はダゥード伯爵家が治めているらしく、どんな領主なのか聞いてみると・・・。

「碌でもない奴よ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 間違いなくサミの貴族嫌いは、そのダゥード伯爵が影響しているのであろう。最近伯爵家は代替わりをしたらしく、現在はガルシア・レイ・ダゥードという人物が町を治めているらしい。

 “レイ”という親し名は、シキアノスにいる貴族の多くが付けている名だそうだ。一般庶民の親し名と貴族ではその概念がやや違い、ある意味派閥のような物らしい。つまり、自分が支持している貴族の名を取って親し名として使っているようだ。

 ちなみに“レイ”というのはこの国の最大派閥であるレイナード・ワードナー侯爵から取った名らしい。親し名を付けていないヘタルスの領主バアル・エッケラーは恐らく無所属であろうとサミは説明をする。

(つまり、親し名で誰がどこの派閥か分かるってことか・・・)

 恵二たちは現在、サミに町の事を聞きながら東門の前で順番待ちをしていた。どうやらこの町でも出入りする者を調べているらしい。

「それにしてもやけに時間が掛かっているなぁ。ここの検査ってそんなに面倒なのか?」

「まぁ貴族が多いし問題があると困るから念入りにしてはいるけど、それにしては遅いわね」

 どうやら地元人であるサミも時間が掛かっていることに困惑しているようだ。それを聞いたセオッツは馬車の窓から身を乗り出して前方を眺め出す。するとどうやら原因が分かったらしい。

「おい、ケージ。どうやらここでも<色世分け>の検査してるっぽいぜ?」

「何?」
「なんですって?」

 思わず聞き返す二人にセオッツは説明をする。

「衛兵が水晶玉を持って調べさせていたぜ?間違いない」

「そうか、ヘタルスの事件を耳にして急遽取り入れたんだわ」

「・・・サミ。この町は異世界人は立ち入り禁止か?」

 思わず恵二は確認をとる。

「いいえ、赤の異人(レッド)以外は平気よ。そんな法は無いわ。だけど・・・」

 彼女は言葉に詰まる。

(あれだけの事件があった後じゃ、面倒ごとになるのは間違いなし、か・・・)

 恵二はそう考えた後に口を開く。

「要するにバレなきゃいいんだな?」

「どうするつもり?」

「こうする」

 恵二は荷袋からハーデアルト王に貰った特注の水晶玉を取り出すと魔力を通す。すると水晶は青く輝きだした。

「?青いまんまだぜ、ケージ」

「まあ、見てろって」

 セオッツにそう答えると恵二は手に水晶玉を持ったまま、魔力の流れを操作する。

「む。意外に難しいぞ、これ」

 恵二はそう呟くも、端から何をしているのか分からないセオッツとサミはお互いに首を傾げながら傍観している。

 やがて青く輝いていた水晶玉は、徐々に変化が現れた。

「おお、色が!」
「嘘でしょ!?」

 二人の視線の先には、段々と青い輝きが薄くなっていく水晶玉があった。そして青白かった輝きは、ついに真っ白な輝きへと変えた。

「よし!」
「よし!じゃないわよ!!」

 サミはすかさず恵二に問いかける。

「一体どういうことよ!色世分けの色を変えるだなんて、聞いた事無いわよ!?」

「サミ、声大きいって・・・」

 セオッツに指摘され思わず両手で口を塞ぐ。少し落ち着いたのか、声のトーンを落として再び問い詰めた。

「あんた、今度は一体何をしたのよ?」

「見ての通り、魔力の質を変えただけさ」

「輝きの色が変わったんだから、そりゃあそうなんでしょうけど、どうやってその質を変えたのよ」

「どうやってって・・・。サミ達の魔力を参考にして、波長?いや、濃度、かな?口で説明するのが難しいな・・・。とにかく見よう見まねだよ」

「また、とんでもないことを・・・」

 恵二の発言に心底呆れかえるサミは更に問い詰める。

「ちなみにそれって、他の色にも変えられるの?例えば赤とか・・・」

「うーん。じっくり観察すれば真似出来そうだが、あの赤の異人(レッド)の女は殆ど魔術を使わなかったしなあ。それに遠くからしか見れなかったし、今のところこの世界の人達と同じ波長の魔力しか出せないなあ」

「そ、そう。けど、そんな簡単に色世分けが誤魔化せるなんてこれが知れたら大変よ」

「・・・簡単なんかじゃないぞ?もう維持できそうにない・・・。これ、すっごく難しいんだぞ?」

「うーん、あんたで難しいのなら、そんじゃそこらの魔術師には真似出来ないかしら?」

「二人とも、そろそろ俺たちの番だぜ?ケージも色世分けの準備、大丈夫か?」

「ああ、コツは掴んだ。少しの間なら誤魔化せると思う」

「ほんと、あんたって奴は・・・」


 この後3人は無事に検査を終え、サミの故郷であるセレネトの町に踏み入れた。



「失敗しただと!?」

「はい・・・」

 老人の怒声に白衣の男はただ頭を垂れた。報告すれば必ずどやされることは分かっていた。いや、それだけならまだマシであった。

(今の地位を落とされるか、最悪責任を負わされ首が飛ぶことも有り得る・・・)

 それほどの権力が目の前の老人にはあった。しかし報告を誤魔化したり、ましてや逃げ出すなど最悪手であった。それほど自身もその闇に染まっていた。一度この研究会に身を置けば抜け出すことは出来ない。そう、この研究会の祈願を成就しない限りは。

「ニコラスは?それにゼノークの奴はどうした?アイツが行きながら失敗したと言うのか?」

「はい、ニコラスは敵に殺されたらしく、ゼノーク君はなんとか窮地を凌いで帰還したと申しておりまして・・・」

「ただ逃げ帰ってきただけではないか!?普段大口を叩く割に使えない小童めが!」

 老人は年齢も考えずに怒鳴り散らす。顔を真っ赤にして死んだニコラスや、逃げ帰ったゼノークを汚く罵る。

(そもそもゼノーク君を指名したのはお前じゃないか・・・。ついに頭がいかれたか?このじいさん)

 内心毒づくも、表情はひたすら申し訳なさそうにそ頭を下げる。それがこの白衣の男の処世術であった。ひたすら罵倒し少しはクールダウンしたのか、老人は再び口を開いた。

「しかし、その冒険者どもはそれほどの腕前なのか?」

「は!報告では一人、手練れの者がいると。それに今回はタイミングが悪い事に赤の異人(レッド)の横槍もあったようです」

「ちっ、いかれた異世界人共めが!奴らは一人残らず排除してやる!!」

 どうやら男の余計なひと言にまた老人に火が付いたようだ。今度は出会ったこともない赤の異人(レッド)を罵り始める。

「えーい、忌々しい。こうなれば仕方がない。3号を使え!」

「はあ!?」

 老人の命令に男は思わず声を上げる。

「お待ちください!!アイツは貴重な被検体(サンプル)です。ここで失う訳にはまいりません!」

「アイツがそう簡単にやられる筈がなかろう?それに良い実験にもなる。表での実戦経験は予定に入っていたであろう?」

「それはそうですが、早すぎます!それに相手の実力も未知数です。危険過ぎます!」

 白衣の男にとって3号とは、自身の研究に欠かせない貴重な存在であった。そんな被検体を危険な目に会わせたくなかったのだ。だが、目の前の老人は取り合おうともしない。

「ええい、五月蠅い。これはもう決定事項だ!それに3号に加えチックも付ける。これで万が一もありえまい」

「チック、ですか・・・」

 白衣の男は一度チックという名の男の戦闘を見たことがある。あれはまさに人智を超えた存在に思えた。ゼノークが天才ならチックは正真正銘の化物だ。

「確かに、その二人なら万が一は無いかと・・・」

「分かったか?ならば早急に指示を出せ。一刻も早く赤躍石(レベル2)を取り戻せ!」

「はっ!」

 白衣の男は返事をした後すぐにその場を後にしながら、自分の首がつながった事とこれでようやくこの件も終わりだろうと安堵をした。
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