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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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二度目だよ

 そろそろ日が暮れる時間にも関わらずヘタルスの町中は現在、多くの人が町の復旧作業に当たっていた。被害にあったその現場は辺り一面が凍っており、日常生活に支障をきたしていたからであった。

 自分の住む家を凍らされた者は、ドアも凍ってしまい出入りが出来なくなってしまった。なんとか元に戻そうと氷を上手く削いだり、加減を誤ってドアごと破壊してしまった者もいた。

 その他にも建物の壁面や通りの地面の氷も同じように除去していく。自然解凍を待っていた者もいたが、不思議な事にこの氷は全く溶ける気配が無かったのだ。

「おーい、こっちにもいたぞー!」

「分かった。火の魔術を使える者は直ぐに向かってくれ!」

 呼ばれて魔術師が向かった先には、凍った町の住人達がいた。

「なんてことだ・・・」

 野次馬で駆けつけた者たちであろうか。その氷像の姿勢は様々で、何かを指差して驚いた顔をしている者や逃げようとしたのだろうか。今にも駆け出しそうなポーズで凍っている者もいた。全員瞬時に凍らされてしまったのであろう。

 魔術師は火の魔術を使って凍りついた人たちの解凍作業をしていた。しかし、上手く氷を溶かしても時間が経ちすぎているせいか、まだ一人も生きている人はいなかった。だが投げ出すわけにもいかない。火属性の魔術を扱える者たちは、交代で休息を挟み魔力を回復させながら凍った人の救助作業に取り掛かった。

「おい、こっちも酷いぞ・・・」

 一緒に復旧に当たっていた男の声がする方を見ると、そこには首から上が切断されており、その足元にある頭部と一緒に凍らされた男の氷像があった。

「これは・・・。凍ってる以前に生きてちゃいないだろう。可哀そうだが死体は後回しだな」

 そう言って魔術師たちは、他の凍らされている人たちの解凍作業に戻った。生存者がいるかもしれないという一縷の希望を抱いて。



 三辻恵二(みつじけいじ)が目を覚ましたのは、日が暮れてから数時間後のことであった。スキルを酷使した影響だろうか。身体が何時もより重く感じる。目を覚ますとまず話しかけてきた者は医者のような風貌をした男であった。

「ふむ・・・。外傷は無さそうだし、疲労感はあるようだが問題は無いだろう」

 そう医者が口にすると、近くにいた兵士が話しかける。

「起きたばかりで悪いが少年、歩けるか?」

 この者たちは誰であろうかと恵二は疑問に思うも、寝起きの頭ではうまく考えが纏まらない。とりあえず言われたとおりに立ち上がってみる。

(だるいな・・・。でも動けない程じゃあ無い)

 恵二は寝ていたベッドから起き上がり立ってみると、大丈夫だと頷いた。

「よし!なら済まないが、至急こちらに来てくれ。領主様が話を聞きたいと申されておられる」

(領主・・・?話・・・?)

 なんの事だがよく分からないが、そう口にした兵士が向きを変え部屋を出て行くので、恵二はすぐにその後を歩いて行く。兵士に付いて歩いていると、どこか見覚えのある廊下に恵二は思いを巡らす。

(・・・そうだ!ここはダーナさんの家の廊下だ。昨晩泊めて貰ったんだ・・・。さっきの部屋も昨夜泊まった部屋じゃないか・・・)

 段々頭がクリアになっていく。

 ――――ダーナの家に手紙を届けた事

 ――――夕食を御馳走してもらい、一泊させて貰った事

 ――――翌朝別れを告げて、馬車を走らせてそれから――――

「――っ!二人は!?セオッツにサミは!?町はあれからどうなりました?」

「・・・うむ。どうやら目が覚めてきたようだな。これなら大丈夫だろう」

 兵士はそう言うと立ち止まり、廊下の先にある確か客間があったと思われる方に行けと恵二に指示を出す。

「そちらに領主様がおられる。お前の仲間たちも一緒だ。くれぐれも失礼の無いようにな」

(領主?この町を治めてる領主・・・。貴族か?)

 恵二が何故、早朝に発った筈のダーナ邸で寝ていたのかはなんとなく察しがつく。多分気を失った恵二をセオッツたちが運んでくれたのであろう。しかしそこに領主が絡んでくると、どういった経緯でこのような状況になったのかとあれこれと考えてしまう。

(ま、行けば分かるか)

 領主との面談とあって多少緊張はするが、こちとら王様とも話したことがあるのだ。まだ少しだるい身体に鞭打ってそのまま客間へと踏み込むと、そこには見知った顔が数名と見知らぬ人達が大勢いた。

 見知った顔の人たちは全員が着席をしていた。冒険者仲間のセオッツにサミ、それとこの家の住人であるレイチェルが座りながらこちらを見て顔を綻ばせた。

「ケージ!大丈夫か?」
「ケージ君、具合の方はもう良いの?」

「ええ、大丈夫ですよレイチェルさん。ご心配をおかけ致しました」

 セオッツには軽く手を上げ大丈夫だとジェスチャーをし、レイチェルには丁寧に返事をする。サミは恵二が無事に目を覚ました事に笑みを浮かべるも、すぐにその表情を曇らせた。

(サミはなんであんな仏頂面をしているんだ?)

 それは恐らくこの場にいる、見知らぬ者たちに原因があるのではと恵二は推察する。客間を見渡すと、壁に沿って周り中に軽装の鎧を身に着けた兵士が立っていた。軽装といっても要所はしっかり守られるように作られていて、煌びやかな飾りつけをした鎧であった。その内数人は鎧の上から派手なマントを羽織っている者もいた。一介の兵士とは外見からして異なって見えたその者たちは、奥に座っている男の付近に直立して集まっていた。

(恐らく近衛兵って奴なのか?するとあそこに座っているのが・・・)

 客間の中央には大きなテーブルがあり、その最奥に位置する場所には恰幅のいい見知らぬ男が座っていた。40代くらいに見えるこの男はかなり身なりの良い恰好をしており、お高そうな指輪や首飾りを身に着けている。一目見て“お金持ちです”と自己主張するような恰好であった。それでいて余り下品だと感じないのは男のセンスがいいのか、それとも他の人が見立てたのか。その高貴そうな男は恵二を少しの間観察した後、こう口にした。

「身体の方はもういいかね?とりあえず空いている席に座りたまえ。それから話をさせて貰おう」

 男に促されセオッツの隣が空いていたのでそこに座ると、男は再度口を開いた。

「宜しい。では改めて自己紹介をしよう。私はこの町を治めるバアル・エッケラーと言う。君の名を伺ってもいいかな?」

「ケイジ・ミツジと言います。Dランク冒険者です」

「ふむ。そこのサミ君やセオッツ君といい、その若さでたいしたものだな。しかし、君にはもう一つ肩書きがあるんじゃないのかね?」

 男の言葉に恵二は思わずギクッと肩を震わせる。恵二が来る前ここでどういったやり取りが行われていたのか分からないが下手に隠すのも良くはないかと判断し、ある程度は話すことに決めた。

「・・・仰る通り、私は異世界人です。青の世界<アース>出身の者です」

 勇者の事は伏せ、自分が青の異人(ブルー)である事を告げると、バアルと名乗った男は少しの間考えた後こう返した。

「確かに君はブルーのようだな。フォルセトの検問所からもブルー入国の報告を受けていた。もしやと思ったのだが・・・」

 そう話すとバアルは口を一旦閉じ、何か考え事をした後にこう話す。

「今回の事件、首謀者は赤の異人(レッド)の女であった。奴にはさっそく尋問しようと思っていたのだが、なかなか口を割らなくてな・・・」

 どうやら恵二が気を失った後、赤の異人(レッド)ルルカは駆けつけた兵に捕らえられたらしい。ルルカが首謀者である事はセオッツやサミ、それに難を逃れた野次馬たちから証言が取れた。その後ルルカに尋問を試みたのだが、強情なのと戦闘の疲労から気を失ってしまい取り調べは難航しているらしい。

 そこで領主自ら今回の無差別襲撃解決の立役者でもある恵二に話を聞こうと、恵二が運ばれたダーナ邸にまで足を運んだらしい。

(いくら大事とはいえ、領主自らお出ましとは行動派な人なのかな?)

 どうやら目の前のバアルと名乗った領主はここら一体を統治する伯爵様であるようだ。サミから事前に聞いていたこの国の貴族と比べると、そこまで横柄な態度ではないため好ましくも思える。それでもサミの貴族嫌いは相当なようで、相変わらず不機嫌な顔をしている。

「そこで奴について知っている事を教えて欲しい。そもそも何故アイツは君たちを狙った?犯人はレッドで被害者である君がブルーなのは偶然か?何か理由あっての凶行ではないのかね?」

「それは・・・」

 恵二にも自分が何故狙われたのか分からなかった。だが心当たりならある。

(十中八九、俺が元勇者だってのが影響しているだろう・・・)

 それ以外に理由は考えられなかった。

(最初は始めに襲撃してきた奴等の仲間かとも思ったが、俺個人に用があって名前も知られているとなると、オーガ絡みでも無さそうだしな)

 始めに襲って来た連中の1人を詰問したところ、オーガを倒した恵二たちを追って来たと白状していた。しかし、後から来たザイルやルルカはどうもそれとは別件のように思えてならない。

 そう心の中で結論を出すと次の問題は、目の前の男にどこまで話すかだ。

(勇者の件、言ってしまうか?しかしそれが原因で今回の騒ぎが起こったと考えるとな・・・)

 恵二がどう答えたらいいものだろうかと長考していると、横からサミが口を出してきた。

「伯爵様、襲ってきた賊はどこか人間として壊れておりました。理由など無く、たまたま異世界人だと知ったケージを巻き込んだ無差別殺人では無いでしょうか?」

 彼女はただの考え無しの凶行だと訴えるも、バアルはそれに反論する。

「それは些か早計な結論であろう?この町の治安を預かる者として、偶然起こったレッドの気まぐれで片付けるわけにはいかんのだ」

 そう言われるとサミはそれ以上異論を唱えることができなかった。

「領主様。俺たちが話した、先に襲撃してきた奴等と関係があるんじゃないですか?」

「・・・オーガの異常種を倒した君達を追ってきたという連中かね?君達の話と住人達の証言からみても関係ないと思うがね。悪いが私はケージ君を疑っている」

「な!?」
「それは!」

 バアルの言葉にセオッツとサミは過剰に反応をする。二人は恵二の素性を、元勇者であることを知っていた。つまりルルカが恵二を襲った理由も恐らくそれ絡みであろう事を予想していた。
 それでも二人は恵二の情報を一切洩らさなかった。例え伯爵という立場を使って無理に聞き出そうとしても話さない覚悟があった。

(二人とも、俺に気を使って・・・。すまない)

 恵二も二人が庇ってくれている事はすぐに分かった。しかし、目の前の領主は立場上絶対に折れないであろう。最悪、強権を使ってでも聞き出されるかもしれない。

(本当にすまない。だが、これ以上二人に迷惑はかけられない)

「ケージ君。君は何かを隠しているね?」

 バアルは何か確信を持ったかのように再度語りかけてきた。その目は嘘偽りは許さんぞと言わんばかりの力強い視線であった。

「・・・俺は、勇者召喚された異世界人です」

 それに恵二は素直にそう告白をした。




 一方で、ここヘタルスの町中にある兵舎の地下牢では、今回の首謀者、赤の異人(レッド)であるルルカが幽閉されていた。頑丈な鉄格子の中で、彼女の四肢は完全に拘束されていた。更に恵二に斬られ視えなくなった目の上には、アイマスクで厳重に覆われていた。彼女のスキルを考慮して、万が一為が起こらない為の措置である。

 ルルカはつい先程目を覚ましていた。しかしルルカへの尋問は明日再開との通達を受けており、現在は異例の3人体制で牢屋の前に兵士たちが見張りをしていた。

「おい、アイツ目を覚ましやがったぜ?」
「マジかよ・・・。よりによって俺の当番に・・・」
「大丈夫だろ?スキルさえ無ければただの女さ」

(見張りは3人・・・かな?)

 兵士の台詞には一切反応を見せず、ルルカは自身の聴力を総動員して現状把握に努めた。

(両手両足拘束され、目もやられた上に更に目隠しされてる、か・・・)

「ちっ、薄気味わりぃ女だぜ」
「おい、てめえ!何か妙な動きをしてみやがれ!処刑の許可は貰ってるからな!」
「なんか反応したらどうだ?レッドの殺人犯さんよお」

「・・・・・・」

 ルルカは答えない。少しでも情報を得ようと聞くことのみに徹している。兵士の罵りを一切無視して耳をたてていると、何者かが近づいてくる音がした。その音は男たちにも聞こえたようで、ルルカから目を離し唯一の出入り口である階段を睨む。

(もしかして、もう助けに来てくれたのかな?)

 そう、ルルカが探っていたのは何時救助が来てもいいように準備をすることであった。自分にもしもの事があれば、同志が駆けつけてくれる手筈であった。訓練されたかのような見事なその足音から察するに、恐らくただの兵士の巡回だという落ちでは無いだろう。

(にしても早すぎでしょ。もしかして、私どこかで監視されてたのかな?)

 それはそれで信用無いのだなあと少し落胆をする。そんな事を考えている内にその来訪者は現れた。

「おい、お前!何の用だ?」
「まだ交代の時間じゃ無いだろう?」

「領主様からの指示だ。明日の予定であった女の尋問を今から行う。囚人を移送させるから手伝って欲しい」

 突如現れた者は、野太い声でそう話す。目が見えないルルカはその声に心当たりは無かったが、壮年の男の声かと推察する。

「そんな話は聞いていない。俺たちは朝までこの女を絶対に出すなと命令を受けている」
「領主様の指示ならばちゃんと令状を出せ。無ければお引き取り願おう」
「怪しいヤツだ。貴様その兜を取って見せろ!」

 どうやらその男は兜で顔を隠しているらしく、兵士たちが不振がっている。

(ありゃ、これはビンゴかな?)

 どうやらルルカを助けに来た者で間違いなさそうであった。もしそうであったならば、この先聞こえてくるのは――――

「ふむ、やはりそうなるよな。しょうがない、手荒な真似をしたくは無かったが・・・」

「――こいつ!?」
「て、敵襲――!!」
「返り討ちにしてや――」

 男の宣戦布告とも取れる台詞に兵士たちが騒ぎ出すも、一瞬で静寂が訪れる。聞くことしか出来ないルルカには何が起こったのか正確には分からないが、鈍い打撃音と3人倒れた音がした。その内残った1人が声を掛けてくる。

「貴様がルルカだな?」

「おや?やっぱり初対面の人のようですね」

 ルルカはこの男の声に聞き覚えが無かった。てっきり顔なじみが助けに来るかとも思ったが一体何者だろうかと考える。しかし野太い声の男は意外な事を口にする。

「いや、二度目だよ」

「?あなたの声に聞き覚えないですが、どちら様で?」

「まあ、この声は聞いたことないだろうな」

「は?」

 思わず間抜けな声を上げる。この男が言っていることが良く分からないからだ。すると更にもっと分からない事態が起こった。

「これなら聴き覚えあるでしょ?言ったよね?ケイジ君に手を出したら許さないって」

「――!?」

 突如別人の声が聞こえてきた。さっきまで野太い男の声だけであったのに、今聞こえたのはやはり男の声のようだが口調も変わっておりやや高めの別人の声だ。いや、それよりもどこかで聞いた台詞に記憶を辿り、思い至った彼女は戦慄した。

「ま、まさか・・・!?貴方は・・・!」

「そう、情報屋さ」

 それはグリズワードの森で聞いた小人族の声であった。そしてそれが彼女の聞いた最期の声であった。
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