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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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後で覚えてなさいよ!

 一晩泊めて貰った上、朝食までご馳走になった3人は旅の準備を終えて出立しようとしていた。

「レイチェルさん、大変お世話になりました。レイナもまた今度会おうね」

「こちらこそ、夫の件ありがとうね。良かったらまたいらっしゃい。今度は別の本を紹介してあげる」

「え、ええ」

「サミ、冒険者の仕事頑張ってね」

「ええ、レイナも元気でね」

 女性組は一晩ですっかり打ち解けあったようだ。別れを惜しみながらそれぞれ挨拶をする。

 一通り挨拶を終えると、恵二たちは馬車を預けていた厩舎がある宿へと向かう。

 馬車を回収して西門へと向かうと、馬車の前に突如フードを被った男が道を塞ぐ。町中でそれほどスピードを出してはいなかったが、急に飛び出てきたのでサミは慌てて停止させる。

「ちょっと危ないじゃない!」

「・・・・・」

 すぐさまサミは怒鳴りつけるが、飛び出してきた男はそれには一切応じない。表情もフードで隠れていて読み取る事が出来ない。

(一体何のつもりだ?)

 恵二が疑問に思っていると、横で座っていたセオッツが腰を浮かし声を掛けてくる。

「ケージ、警戒しろ」

「――っ!おお!」

 すぐに言葉の意味を察し魔力探索(マジックサーチ)を周囲に展開すると共に超強化(ハイブースト)で自身を強化する恵二。すると強化した五感が二人の襲撃者が接近する足音を捉えた。その二人は丁度止まった馬車へと両サイドから踏み込むところであった。

「セオッツ!」
「――わかってる!」

 セオッツに敵襲を告げようとするが、あちらも既に把握していたようだ。狭い車内では不利だと判断したのかセオッツが打って出るのを見て、恵二もそれに習い馬車から降りる。

「――っ!」

 恵二の目の前にはフードを被った男がすぐそこまで迫っていた。その手には刃が曲がった剣、サーベル(曲刀)を握っていた。男は間合いに入ると直ぐにそのサーベルを下段から恵二の胴へと滑らかに斬り上げる。

(こいつ、盗賊なんかより断然早い!)

 以前グリズワードで遭遇した盗賊とは比べ物にならない動きであった。だが――

(――だが、強化した俺の敵じゃない!)

 強化された恵二の動体視力は敵が放ったサーベルの一撃を確実に捉え、同じく強化された身体能力でもって寸でのタイミングで、しかし悠々と回避をする。

「――っな!?」

 渾身の先制攻撃を見切られ回避された男は思わず驚きの声を上げる。完全に取ったと思った一撃が空振りに終わり、フードの男は体勢を大きく崩す。それほど恵二の回避するタイミングは抜群であった。

「寝てろ!」

 恵二はそう言葉を放つと同時にカウンター気味に強化した右拳を相手のお腹に叩きこむ。所謂“腹パン”である。

「――――ッ!!」

 強烈な一撃をお見舞いされた男は声にならない悲鳴を上げ、腹を押さえながら地面を転げまわる。余りの痛みにどうやら悶絶しているようだ。

(意識を断つつもりだったんだけど、うまくいかないもんだな・・・)

 襲われたとはいえ、まだ相手の命を取ることに躊躇している恵二。しかし前回の二の舞をしたくない恵二は、まずは他の二人の様子を見る。

 サミの方もどうやら馬車を停止させた男が襲ってきたようだが、既に返り討ちにしたのだろう。フードの男が一人横たわっている。

(何時の間に・・・。セオッツの方は?)

 少年の方を見ると未だ交戦中であった。剣と剣がぶつかる音が何度も聞こえてくる。馬車越しで見辛いが、どうやら相手の男も相当やるようで時間が掛かっているようだ。それでもセオッツの方が押しているようで段々と男は後退しているように見えた。

(あれなら手助けは要らなそうだな)

 そう判断した恵二は、まず自分が相対した敵を武装解除しようとサーベルを取り上げ、馬車の荷袋から道中購入していた頑丈なロープで悶絶している男の両腕を縛る。

(これで安心だな。さてセオッツの方は・・・)

 急いでセオッツの応援に向かうと、こちらも既に決着は着いたようだ。さっきまで男が手にしていたサーベルは数メートル先に飛ばされており、その首元にはセオッツの切っ先が突きつけられている。

「なかなかやるな、おっさん。でも、俺の敵じゃないぜ?」

「馬鹿な!?俺がこんな小僧なんかに・・・」

 セオッツに命を握られた男はそんな負け惜しみを口にする。男もフード付きの服を着ていたが、戦闘で激しく動いたせいか既に顔は明るみに出ている。年齢は20代後半といったところだろうか。金髪に青い目をしており目の前の少年を忌々しげに睨んでいる。

「・・・おっさんたち、盗賊って雰囲気でもないよな?一体俺たちに何の用だったんだ?」

「・・・・・・」

 セオッツの問いに無言で応える男。セオッツはその沈黙に応じるように剣を更に男の首筋に近づける。ほぼ密着している刃から男の血が零れ落ちる。

「そのまま黙ってるつもりなら手伝うぜ?一生口が開けなくなるけどな」

「・・・お前たち、オーガを倒した冒険者だろ?」

「オーガ・・・?」

 セオッツの背後からサミが疑問の声を上げる。彼女も襲ってきた男をロープで縛り終えたらしく、恵二たちと合流した。朝の大通りは少年たちに縛られ剣を突き付けられる男たちという異様な光景が広がる。町の住人達はそれを遠くから何事かと伺っている。

「オーガなら何度か相手にしたことあるけど、それがどうかしたのかしら?」

 セオッツに代わり、ここからはサミが質問をする。こういった遣り取りはサミの方が適任であろう。セオッツもそう判断したのか、詰問は彼女に任せて男の動向に目を光らせる。

「・・・恍けるな。多角鬼(トリプルオーガ)を退治したというのはお前たちだろう」

 勿論彼女はオーガと聞いて、真っ先に<覚醒進化(プロモーション)>をしたあの異様なオーガたちを連想した。しかし馬鹿正直に言ってやる必要は無い。会話の主導権を握っているのはこちらの方なのだから。

「・・・仮に多角鬼(トリプルオーガ)を倒したのが私たちだとして、よくその程度の腕で挑んできたわね?返り討ちに会うって思わなかったのかしら?」

「くっ・・・」

 目の前の男は相当剣の腕が立つようだが、それでもAランクの魔物を相手にするには力量不足に感じられる。そんなことは分かっていただろうに、年端もいかない冒険者と侮ったのか。それとも何が何でも襲わなければならない理由でもあったのだろうか。恵二たちは目の前の男の素性に俄然興味が沸く。

「貴方たちは何者?・・・どうしても答えたくなければ貴方に用は無いわ。他の人に聞くから無理しなくてもいいのよ?」

 そう言ってサミは他の縛られている男の方を見る。そう、この男から無理に聞く必要はないのだ。情報を持っていそうな者は後二人も残っているのだから。

 遠まわしに喋らなければお前を殺して他の者に聞く。そう冷たい目で告げた少女に男は身震いをした。見た目は17の少女でも彼女は立派なCランク冒険者。この手の荒事には慣れたものであった。

「・・・俺たちはとあるオーガの研究をしていた者だ。そのオーガにはある特別な素材が出ると聞いて俺たちは討伐に出たんだが、既に他の者に倒されていた。お前たちの事は近くの村人から聞いて後を追ったんだ」

「とある素材?」

 それは十中八九あの赤黒い宝石のような物であろう。しかし心当たりがある事を悟られないように、サミは無表情のまま同じトーンで質問を続ける。

「その素材はどういった物なの?私たちを殺してでも奪い取るほど貴重な物なのかしら?」

「・・・それは」

 言いよどむ男にセオッツは剣を少し動かし続きを喋るよう促す。首筋に当てられた剣を動かされ、軽くうめき声を上げた男は続きを喋ろうとする。すると丁度それと重なるように後ろから騒がしい音がガチャガチャと聞こえ始めた。

「――襲撃があったという現場はここか?」
「賊はどこだ!?」

 町の衛兵が声を上げながら駆けつけて来た。どうやら完全武装した鎧姿の兵士たちが立てた音のようだ。ガチャガチャと音を立てながらこちらへ全部で6人の兵士が駆けつける。

「ちっ、流石に殺すのは不味いわね」

 そんな物騒な台詞を吐く彼女。正反対に金髪の男はこれで一先ず命を落とす心配は無くなったと胸を撫で下ろしたようだ。

(どちらにしろ兵に尋問される運命だと思うけどなあ・・・)

 そんなことを思い浮かべていた恵二を余所に、サミは続けて男を詰問する。

「あれ?命が助かって安心しちゃった?別にいいのよ?不審な動きをしたからといって貴方の首を刎ねてもいいし、なんなら手足だけで我慢してあげてもね」

 サミの容赦ない言葉に再び顔色を青くする男。慌てて男は口を開く。

「お、俺は悪くねえ。命令されただけなんだ。あのオーガに<赤躍石(レベル1)>を埋めて監視するように、そう命令されただけなんだ。お前たちを殺す気は無かったんだ、信じてくれ!」

「は?レベル1?」

 急に素直になった男はペラペラと喋り出す。途中よく分からない単語が出てきて思わす聞き返すサミ。レベル1とは何のことか、命令した者は何者かと再び問いただそうとした瞬間、なんとセオッツはいきなりサミを蹴飛ばした。

「――ぐっ」
「ケージ、新手だ!」

 セオッツはサミを蹴飛ばしながらそう叫ぶ。突然の衝撃にサミはうめき声を上げながら詰問していた男から突き放されるように飛ばされる。

「なっ!?」

 恵二は余りにも唐突なセオッツの行動に目を白黒とさせていたが、直後大きな音が轟くと徐々に状況を理解する。その音は尋問していた男の方からしたのだ。

 一体どこから放たれたのか、火属性の魔術だと思われる炎が男の全身に纏わりついていた。それだけでなく爆発でもあったのか、辺りの地面が大きくえぐれている。さっきまで男の首筋に剣を当てていたセオッツや、詰問していたサミの居た辺りもだ。あのままでは二人ともその爆発に巻き込まれていたであろう。

「―――っいつつぅ。セオッツ!後で覚えてなさいよ!」

「そ、そりゃあないぜ!?」

 サミも状況を理解し助けて貰ったのは分かっていたのだが、咄嗟だった為加減がうまくできず蹴られた箇所が痛むのか顔をしかめながら横腹を押さえる。サミの理不尽な言葉に思わず声を上げる少年。

 二人の無事を確認すると、恵二はすぐさま魔力探索(マジックサーチ)を発動し辺りを確認する。しかしその必要は無かったようだ。何故なら――

「おいおい、それは喋っちゃダメな情報だろ。ニコラスさんよお」

 ――声のした方を見上げると、そこにはこの炎を発生させた首謀者らしき青年がいたからだ。

 その青年は近くの民家であろうか。2階建ての建造物の屋根の上に立っていた。青年は灰色の短い髪に、身体にフィットした赤い皮のような服を着ていた。両手は徒手で刃物や杖のような装備は一切持っていなかった。代わりに青年からはかなりの魔力を感じる。

(魔術師か・・・?さっきのもアイツが?)

 口を割らせようとした男を瞬時に燃やし尽くし更に大きな爆発跡まで残した魔術は相当の難易度であろう。しかし詠唱のような声は全く聞こえてこなかったのだ。

 突如現れた青年を油断無く見つめていると、ふと恵二と視線が合う。青年はどうやらこちらに興味をもったようで、不敵な笑みを浮かべながら恵二に話しかける。

「お前、なかなかな魔力量だな。こりゃあ楽しめそうだ」

「――え?」

 魔力量が多いなど初めて言われた恵二はつい“何言ってるんだこいつ”といった表情で返事をする。しかしすぐに超強化(ハイブースト)で強化した状態で魔力探索(マジックサーチ)をし続けていた事に思い至る。魔力量を強化したほうがより広範囲で索敵可能だからだ。

 慌てて強化を解除するが青年の視線は恵二を見つめたまま、完全にロックオンされてしまったようだ。

(こいつ、もしかしてあれか?戦闘中毒者(バトルジャンキー)ってやつか?)

 青年の言動からそんな雰囲気を感じ、嫌な汗が背中を伝う。不幸にも恵二の不安は見事に的中してしまった。

「進化したオーガを倒したってのもお前だな?どの程度か俺が相手してやるよ。簡単にくたばるんじゃねーぜ?」

「うわー、やっぱりか・・・」

 恵二は己の迂闊さを呪うのであった。
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