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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

序章 勇者ケージ編

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大器晩成型だよ

 白の世界<ケレスセレス>

 地球とさほど変わらないこの惑星にはいくつかの大陸が存在する。その中で最も人口の多い大陸を“中央大陸”とそこに住む者は呼ぶ。中央大陸には大小様々な国があり、その一つ「ハーデアルト王国」は大陸の東部に位置する、周りを陸に囲まれた内陸国である。
 王国は四つの国に囲まれている。東南西北から順番に、大陸最東端の「シイーズ皇国」、多種族国家の「ミルクス国」、森林豊かな「グリズワード国」、最北端の強国「レインベル帝国」の従属国「ラーズ国」の四か国が隣接している。
 王国は過去にグリズワード国、ラーズ国と小競り合いや数年にも及ぶ戦争なども繰り返されてきたが、ここ近年では大きな争い事はなく、大陸東部は比較的平和であるといわれていた。
 そのハーデアルト王国では最近、異世界から勇者を召喚したとの噂が立ち始めている。大陸の北東部で発生が予想される大災厄、<神堕とし>に対抗する為である。

 その噂の勇者たちはというと、現在城にある練兵場にて絶賛扱かれ中であった。

「―――っ!こなくそ!!」

 黒服の少年は咄嗟に木剣を右前方に振り回した。右からの対敵を牽制するための攻撃だ。しかしそれを読んでいたかのように、相手は難なくとそれを躱す。牽制とはいえ当てたつもりの一振りが空を切り、一瞬体勢を崩した少年の目の前には襲撃者が―――。

「―――甘い!」

 直後少年の目に映った風景が目まぐるしく変化し、ドタンと背中に鈍い痛みが走る。痛みで細めた目を見開くと、そこには真っ青な青空が広がっている。どうやら仰向けに押し倒されたらしい。少し視線を下げると自分の胸元には木剣の剣先が突きつけられている。

「勝負あり。これで72勝0敗だな」

 そう勝ち誇って引っ込めた剣の代わりに手を差し伸べたのは、バルディスという名の王国騎士だ。年は21才、短い金髪のスポーツマンといった感じの好青年で面倒見がいい。年の離れた兄がいたらこんな感じなんだろうか。黒服の少年、三辻恵二はそう感慨に浸る。

「ケージ。最後の一振りはいただけないな。恐らく動きを阻害するように振るったのだろうが、あんなお粗末な剣では躱してくださいと言っているようなものだぞ」

「む・・・う・・・」

 苦し紛れに放った一撃を指摘され、ぐうの音も出ない恵二。他にアレがまずかった、ココはこうするべきだったと次々に指摘される。バルディスは剣など扱ったこともない恵二に根気よく丁寧に教えてくれる。本当に頭が下がりっぱなしだ。魔力量で仲間と差がつけられている中、なんとか剣で挽回したい恵二であったが中々成果が見られなかった。

 その仲間たちは今どうしているのか、恵二はゆっくりと周りを見やる。仲間たちの行動は様々で延々と走り込みをする者、一人でひたすら剣を振っている者、騎士団長様と熾烈な剣戟を交わす者、何故か兵士と腕相撲を始めるナルと、それを応援する茜先輩。しかもバッタバッタと兵士たちを負かしていく。今は体を動かす時間で八人全員が練兵場に集まっていた。

 そう結局八人全員はこの国に身を置くことに決めたのであった。勝手にこの異世界に呼ばれ、最初は戸惑っていた八人であったが、不思議なことに誰一人元の世界に帰してくれとは言わなかったのだ。
 後で聞いた話ではあるが、呼び出した張本人であるランバルド曰く元々の世界に未練の無い者、異世界に行きたい者が召喚の際に選ばれるとのことだ。

「折角召喚したのに、帰りたいなんて言われたら面倒だろう。まぁ帰りたいと言われても、十数年も魔石と魔法陣に貯め込んだ魔力を全部使い切っちまったんで無理なんだがな」

 と説明された。

 恵二自身もこの世界に来たことが不運だとは思っていない。何故なら恵二には幼い頃からの夢がある。冒険家になって世界中を旅するという夢。あちらの世界にいた頃から、将来は世界中をくまなく冒険してやると息巻いていた。しかし現代は科学が発達し、人類未踏の地なんてもはや存在しないのではと思えるほど世の中便利になっている。それがこの世界ではどうだろうか。聞くところによれば他の大陸など情報は極わずか、自国の領土にも未開地が多数あるというのだ。まさに冒険心に火が付くではないか。

 しかしここは魔物が闊歩し魔法が飛び交い盗賊が野原に隠れ潜むデンジャーな世界。弱者が外に出ようものなら結果は火を見るより明らか。まず強くならなくてはと思い、この国に身を置くことにした恵二。

 王国側も勇者が強くなってくれるに越した事は無いらしく、午前は魔術師長自ら魔術を教え、午後は騎士団長をはじめとした騎士の皆さんに訓練を受ける。他の人が聞いたら嫉妬で刺されかねないくらいの英才教育とのことだ。

 しかし、ここで恵二には一つの問題が生じた。そう、時はひと月ほど前に遡る。



「さて、各自色々と思惑はあるようだが、とりあえずはこの国に身を置いて貰えるんだよな?」

 ランバルドの問いに頷く一同。結局、王国を救ってほしいという頼みは一旦保留したものの、全員が一時この国に身を置くことにした。

「私の世界の魔術は全て修得してしまいましたし・・・。ランバルドさんほどの魔術師から、こちらの世界の魔術を学べるのでしたら願ってもないお話です」

 ナルジャニアは異世界の魔術修得の為、この国に残ってもいいと言っていた。他の者たちも理由はそれぞれだが、まずはここで知識や力を身に着けることにしたようだ。

「よし、ではまず始めにやって貰いたいことがある」

 そうランバルドが話を切り出すと、何やら兵士さんたちがテニスボールほどの水晶のような物を八個、恵二たち異世界人と同じ数を運んできた。

「諸君らには、まずこの水晶にて<色世分け>を行って貰う。配ってくれ」

(しきよわけ?また新たな単語が出てきたな)

 ハーデアルト国王がそう号令をすると、兵士たちは恵二たちにそれぞれ水晶を渡してくる。

「それは諸君らの出身世界を色で区別する為のマジックアイテムだ」

「まぁ、お前さんらがどこの出身でも構わないんだがな。異世界人は出身地によって特徴があるらしい。ま、今後の参考程度にってことだ」

 王様の説明にランバルドが補足をいれる。どうやらこちらの世界では稀ではあるようだが異世界人が他にもいるそうだ。この水晶は異世界人の魔力に反応し色を変化させる。その色で対象の異世界人がどの世界出身かわかるようだ。つまり対異世界人用のサーチアイテムだ。
 面白そうだと皆魔力を水晶に通そうとするが、ここに戸惑っている現代人が三名。

「しっつもーん!魔力ってどうやって出すの?」

「ん?お前さんとこの世界は、もしかして魔術がないのか?」

 石山コウキの質問に質問で返すランバルド。もしかしてと呟いた後、少し思案してから返答する。

「・・・手の平に乗っけて踏ん張ってみればいい。直に触れてさえいれば、例え少量でも魔力は出る。今はそれで十分だろう」

 早速水晶を持って踏ん張る三人。んー、と可愛い踏ん張り声を上げるのは水野先輩。

「私は・・・緑色か?」
「ほう。ルウラード殿は、緑の世界<レアウート>出身のようだな。昔、武に優れた異世界人がいたと聞く」

 そう王様が説明してくれる。面白い、地球人の俺たちはどうなんだろうと水晶を持つ手に力を入れる。

「・・・ふん、私も緑色だ」
「なるほど、イザー殿はルウラード殿と同郷であったか」

「わたし・・・灰色?」
「俺も灰色だな」
「エルフの嬢ちゃんに、そこの大男も同じ世界出身、灰の世界<ヘルトゥナ>か。結構偏って呼ばれてるな」

 エルフ幼女のミイレシュに大男ことグインさんも、やはり同じ世界出身らしい。偏ってるってどのくらいの異世界が存在するのだろう。

「さすが私です。なんかギラギラと光ってます」
「珍しいな。銀色か。なんてえ世界だ?」
「えー。文献によりますと・・・銀の世界<ベスカトール>出身の勇者様ですね」

 ナルジャニアの生まれた世界は珍しいらしく、文官らしい人が何やら本で確認していた。
 というかそろそろこっちも踏ん張るの疲れてきた。いい加減色の変化は起きないのだろうか。やっと思いが通じたのか地球人組三人の水晶に変化が現れ始めた。

「こ、この色は―――!!」

 王様や文官たちは三人の水晶に目が釘付けとなる。水晶の色は三人とも見事な真っ青であった。

「・・・青、ですね」
「青だな」
「あわわ・・・ブルー・・・・・・」

 何やら様子が変だった。そんなに珍しい色なのだろうか。何故だろう嫌な予感がする。

「そんなに良い色なのかな?私たち」
「いや・・・それフラグだから先輩・・・」

 水野先輩の期待の籠った台詞に水を差すコウキ。400年後の未来にもフラグは存在するらしい。さて、拉致が明かないのでランバルドさんに聞いてみる。

「ランバルドさん?青色はどんな特徴が?」
「あー、そのだなぁ」

 この男にしては珍しく歯切れが悪い。ランバルドは近くの文官に目で「お前が言えよ」と合図を送っている。ひどいパワハラを見た。文官さんは気まずそうに口を開く。

「・・・えー・・・皆様の青色はですね、大変珍しくって、そのぉ・・・」

「「「・・・・・・」」」

「青の異世界人さまも、決して悪い方たちではないのです。大変個性的といいますかぁ」
「要するに変人が多いってこったよ」

 痺れを切らしたランバルドがそう身も蓋も無い説明をした。

「「「・・・・・・」」」

 何やった地球人。恵二は先達の異世界人に文句をいってやりたい衝動に駆られた。



「さて。これで坊主たち三人も、青の世界<アース>出身だということがわかった」

 どうやら我らが地球は、青の世界<アース>と呼ばれているらしい。過去何人かの異世界人が大陸のあちこちで地球節を炸裂させたらしい。お蔭さまで青の異世界者、通称ブルーはすっかり変人扱いらしい。

「この世界に来たばかりで色々と気を揉んだろう。今日はさっさと休むとして、明日からはまずこの世界について学んでもらう。」

 そう、力をつけるのは何も剣や魔法だけではない。まずはこの世界の常識を身に付けなければ。ナルジャニアの魔法に対する好奇心ほどとは言えないが、恵二も人並み以上の知識欲はある。やらなければならないことが沢山ある。明日からのファンタジー生活に期待を膨らませる。



「坊主、おまえさんちっとも魔力量が増えねーな」

 白の世界<ケレスセレス>にきてから二週間、恵二たちは座学に魔術、剣を教わってきた。今は魔術の師であるランバルドから魔力の扱いについて学んでいた。魔術を使ったことの無いひよっこ地球人組も、一週間後には普通に扱えるようになってきた。さすがは勇者召喚の恩恵だ。しかし、そこから更に一週間、つまり異世界に来て二週間が過ぎた頃になると徐々に差が出始める。才能があったのであろう、茜とコウキはぐんぐんと魔力保有量を増やしていき、元々魔術を使えていたファンタジー組にも迫る勢いである。

 しかし一方恵二はというと、その魔力保有量は一般の魔術師並である。二週間前には存在すら知らなかった魔術。十分立派な成長ではあるのだが――。

「勇者様としては落第だな」

 ハッキリと口にするランバルド。さすがに少し凹んでくる。

「だ、大丈夫だよ恵二君。君は大器晩成型だよ。出来る子だよ」
「先輩は魔術の操作技術は上手なんですから。焦らなくてもきっと立派に戦えるようになりますよ」

 先輩と後輩に慰められる。しかし強化召喚された勇者の強み、魔力量の多さは戦力として最高のアドバンテージを誇るのだと事前に説明を受けている。魔術で攻撃をするのにも、体を動かす時に魔術で強化をするのにも、魔力の保有量で大勢が決まるといっても過言ではないからだ。

「確かにお前さんの魔術操作の技術は大したもんなんだがなぁ・・・。それだけに惜しいな」

 こればっかりは仕方がない。元々使えすらしなかったもの、高望みはすまい。それに魔術が駄目なら剣技で、後は強化召喚の特典ともいる<スキル>がある。

 スキルとはこの世界の住人が稀に所持する、生まれもった特殊技能のことである。それは魔術とは全く別物の、いわば超能力。よく発現する能力だと<鑑定>や<治癒>、<念話>などが代表的だそうだ。

<鑑定>は未知の鉱物や植物、マジックアイテムなどを見ただけで看破する。
<治癒>は自分や他人の怪我を、魔術無しで癒すことが可能。
<念話>は遠く離れた者と会話をすることができる。
 とその性能は様々。魔術で代用できる微妙な能力から、得難い能力まで多数あるらしい。

 その中でも俺たち異世界人は、強化召喚の恩恵で相当強力なスキルが発現した。

 水野先輩は何でも水を発生し、操るスキルのようだ。水といっても水道水を蛇口から垂れ流すなんてレベルじゃない。偶に外で行う演習では、それこそ津波レベルの水を発生しゴブリンどもを押し流した。

 グインさんは<魔術無効>というレアスキルを発現したらしい。文字通り魔術を一切通さない。ただし悪意のある魔術のみ防御し、回復魔術や補助魔術は効くのだから反則級だ。

 ルウラードはなんと未来が視えるらしい。ほんの数秒先までらしいのだが、そのスキルの恩恵で、今ではキース騎士団長と互角に剣で渡り合っている。未来視とか、イケメンはスキルまで格好いいらしい。

 コウキに至ってはいきなり瞬間移動するのだから心臓が飛び出るかと思った。今は距離に制限があるようだが、その距離は徐々に伸びてきているとのことだ。

 その他のメンバーも色々なチートスキルを手に入れたようだが、なかなか教えてくれない。ナルもビー玉のようなものを手の平から生成していたが、それは何かと尋ねても秘密です、と突っぱねられる。

 俺もいつかはチートスキルをと期待を膨らませ、魔術に剣に勤しんでいたが――


 ――結局魔力量は増えず、スキルも得られぬまま一か月が過ぎるのであった。

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