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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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どうしてこうなったんだ?

「今度はここで聞き込みですか?」

「・・・ああ。西を目指しているって話だしな。恐らくこの村にも立ち寄っているだろう」

 そう会話した地味な外套を羽織った二人、ザイルとルルカは村人たちに探し人の聞き込みをした。するとすぐにその情報は出てきた。

「15才くらいの冒険者かい?確かにこの村に来たよ。本当に助かったんだけど酷い目に合った」

 助かったのか酷かったのかあやふやな事を言うこの40才くらいの男は、確かにそれくらいの年齢の冒険者が3人来たと話す。

「その中に黒髪の少年はいたか?」

「ああ、いたよ。勝気な女の子と赤髪の男の子も一緒だったよ」

 どうやらシドリスの町で情報を得た同年代の冒険者たちと一緒に行動しているようだ。さらに3人について聞いてみると、その話は信じ難い内容であった。

「ただのオーガが多角鬼(トリプルオーガ)に進化した、だと!?」

「ああ、そう言うんだよ。まあ結局証拠は無かったんだけど、双角鬼(ツインオーガ)の討伐証明は持って来ていたね」

 その少年冒険者たちの話が本当ならば、そのオーガたちは計3回の覚醒進化(プロモーション)をしたことになる。魔物とは何度も矛を交えたザイルだが、目の前で魔物が覚醒進化(プロモーション)する場面なぞ、これまで一度もお目にかかった事は無かった。どう考えても異常事態ではあったのだが――

(俺には関係無い。それよりも8人目の行方だ)

 この村人は相当お喋りなようで、まだ何かを語り続けているようだ。“出費がかさんだ”やら“あの女の子はとんだ守銭奴だ”など。それらを聞き流して再度少年たちがどちらへ行ったか尋ねると、予想通り西へと向かったようだ。

(やはりシキアノスか!面倒だな・・・。どこかでユミル河を渡らんと・・・)

 訳あって正規の検問所を使えない男は国境でもあるユミル河をどう渡ろうか算段をつける。情報をくれた男はまだぺちゃくちゃと喋っているが、時間が惜しいザイルはそれを無視して立ち去ろうとした時に、一つ気になる情報を耳にした。

「しかし、あの3人は人気者だねー。君たちで二組目だよ。彼らの行先を聞いてきたのは」

「・・・なに?」

 詳しく問いただすと、どうやらザイルたちが訪れるほんの少し前にも、同じように彼らの行方を尋ねてきた3人組の男たちがいたそうだ。

(・・・他国の間者も目を付け始めているのか?・・・まずいな、早く接触しなければ)

 必要な情報を得たザイルたちはすぐにこの町を出ようとしたその時、事件は起こった。

「と、盗賊だーーー!!」
「盗賊が来るぞーーー!」

 どうやら村に盗賊の集団が向かっているらしい。さらに運が悪いことに盗賊たちは西の方角からやってくるようだ。

(チッ、面倒な。盗賊なぞに時間を掛けていられるか!)

 咄嗟にそう判断したザイルは、隣にいるルルカに指示を出す。

「え?やっちゃっていいんですか?かなり目立ちますよ?」

「止むを得ん。もうこの国に用は無いからな。今は一刻も早く八人目を追いたい」

「よーし、ルルカちゃん張りきっちゃうぞー」

 二人が村の西側に出ると、もう既に近くまで盗賊団は迫っていた。数は13人。それぞれ粗末な得物を手に持ち、1人だけ馬に乗ってそこそこの装備をした奴がいる。恐らくあれが頭目であろう。声を張り上げ二人を威嚇する。

「ヒャハハア!どけどけ、ヨージュ山賊団様のお通りだぜえ!」

「ルルカ、あの馬は残せ。途中まで足として使う」

「りょーかい」

 二人は山賊の声には一切応じず、代わりにルルカは羽織っていた外套を脱ぎ捨てると、綺麗な青髪と同じ色をした眼を盗賊団へと向ける。

 外套を取ったルルカの姿を見た盗賊団は一斉に沸く。

「お頭、アイツ良い女ですぜ!」
「ヒュー、姉ちゃん可愛いじゃねーか」
「こりゃあ、良いお宝を発見――――」

 ――瞬間、辺り一帯の気温が一気に下がり騒がしかった盗賊団たちは一斉に口を閉じた。いや正確には口を開けたまま一人残らず氷漬けにされたのだ。奇妙なことに馬だけはその被害を免れ、上に乗った氷漬けの男が冷たかったのだろうか身体を揺らし振り落す。

「はい、終了」

「よし、馬を捕まえて早速シキアノスへと向かうぞ!恐らく向かった先はヘタルスだろう」

「でも、異世界人なら検問所に引っかかりません?」

「む」

 そうであった。追っている少年は異世界人であり、国によっては入国を規制している場合もある。ここグリズワードは特に規制をしてはいなかったのだが。

「確か公国は規制対象はレッドだけなはずだ・・・」

「レッドですか・・・うーん」

 何か思うところでもあるのだろうか。珍しく彼女は考える仕草をする。兎に角ここで考えていても仕方がない。ザイルは馬を捕まえると、早く後ろに乗れと告げた。

「まずは検問近くまで行く。最悪二手に分かれて行動するぞ」

「りょーかい」

 馬に乗った二人は氷漬けの山賊たちを尻目に、更に西へと向かうのであった。



「今日はうちに泊まっていきなさい」

 レイチェルのその提案に3人は甘えることにした。既にとってしまった宿は勿体なかったが、隙間風のある狭い部屋よりかは、朝食まで付けてくれるというダーナ邸に泊まった方が断然良かった。

 恵二とセオッツはそれぞれ来客用の部屋を1つずつ借り、サミは女子同士で話したいらしくレイナの部屋にお邪魔をすることにした。そこにレイチェルまで加わり、女性三人は夜遅くまで雑談に耽る。

「サミはケージ君とセオッツ君、どっちと付き合ってるの?」

「いや、あの二人とはそんな関係じゃないわよ」

 レイナの年頃な質問にハッキリ違うと答えるサミ。すると今度はレイチェルから質問が飛ぶ。

「それじゃあケージ君とセオッツ君、二人の関係はどうなの?」

「え?」
「お母さん・・・」


 そんなやり取りがされていたとは露知らず、恵二は久しぶりの1人部屋にこれはいい機会だと今後の事をゆっくりと考える。

(サミの依頼の件、どうするかな・・・)

 もう答えはそこまで出かかっていた。よっぽどのデメリットが無い限りは受けようと考えている。

(まずはサミの実家を見てからだな)

 その件は置いといて、次は異世界人の事に思いを馳せる。

(アルニの町にいた地球人、それとミリーズ書店の創設者・・・結構いるもんなんだな)

 それと最近ではレイチェルの親し名相手でもある、センリ・ヒルサイドという作家もそうではないかと疑っていた。

(そういえば、この国は赤の異人(レッド)だけ規制対象なんだな・・・。何をやらかしたんだ?)

 まだ会ったことの無い、赤の異世界人を想像する。

(それにしても、今日は危なかったなあ。まさか検問所でこの水晶が使われているとは・・・)

 恵二は右手に持っているテニスボールくらいの水晶を見つめる。それに魔力を通すと反応し青い輝きを放つ。この水晶は初めて異世界に来た時に、恵二たちがどこの世界から来たのかを判別する際に使われた水晶であった。結構値打ち物らしいのだが気前が良い事に王様は、この水晶をそのまま恵二たち8人にプレゼントしてくれたのだ。

(どうやらこれは、ある程度離れていても反応するらしいからな)

 恵二が手にしているその水晶は、検問所で使われているのと似ているようで実は別物であるらしい。わざわざ近くで相手に魔力を通してもらはなくても、水晶にある魔力を使って離れた相手の識別をすることができるようだ。その識別距離は大体魔力探索(マジックサーチ)の半分くらいの範囲であった。

 試しに恵二は水晶を発動してみるも、白く輝くだけであった。この場合、使用者である恵二の識別は行われず、それ以外の範囲内にいる全ての者の識別を行うらしい。ちなみに違う世界の住人が範囲内に複数いる場合はごちゃ混ぜの色に輝くのは王城でテスト済みだ。

(反応しても正確な位置は分からないし、いまいち使い勝手が悪いが無いよりはマシか)

 そう考えた恵二は水晶を荷物袋の中に仕舞う。明日は朝食を頂いたらすぐに町を出る予定だ。もうそろそろ寝るかと恵二は久しぶりに柔らかいベッドの感触を楽しみながら眠りにつくのであった。




「<赤躍石(レベル1)>の回収はまだか!?一体何をやっているんだ、あの馬鹿共は!」

「も、申し訳ありません。現在ニコラスたちはシキアノスに入ったそうです」

「シキアノスだと?確かニコラスたちの管轄している実験場所は、グリズワードの辺境であろう?」

「そ、それが大変申し上げにくいのですが・・・」

 白衣の男は上司である白髪の老人に、機嫌を損なわないよう丁寧に事情を述べていく。しかしその努力も空しく老人は再び怒声を上げる。

「ふざけるな!実験対象のオーガを目を離していた間に倒された挙句、<赤躍石(レベル1)>を持っていかれただと!!」

 そう怒鳴りつけると老人は手に持っていた杖を、報告した男に投げつけた。老人の力で放たれた杖が当たってもたいして痛くはなかったが、少しでも機嫌を損なわないよう痛そうな演技をしつつも弁明を続ける。

「真に申し訳ありません。ニコラスたちには責任を持って回収に当たらせております」

「当たりまえだ!もし失敗したら貴様らの命は無いと伝えろ!」

「はっ、心得ております。しかし悪い報告だけではありません。実はそのオーガなのですが・・・」

 白衣の男は少しでも機嫌を良くして貰おうと、上司である老人に報告の続きをする。それは近くの村人からもたらされた情報であった。

「何?一角鬼(シングルオーガ)から多角鬼(トリプルオーガ)まで成長した、だと!?」

「左様です。今まで一段階の進化には稀に成功しておりましたが二段階もの進化は、レベル2の成功は初です」

「そ、その赤躍石は?レベル2の赤躍石は回収できたのか?」

 老人の問いにしまったと表情を固まらせる白衣の男。この質問に答えれば、この老人は更に激怒するであろう。しかし答えないわけにもいかず正直に話す。

「回収できておりません・・・。恐らく同じ人物が持って行ったのかと」

「・・・死体は?多角鬼(トリプルオーガ)の死体は回収できたのか?」

「相当強い火属性の魔術で焼かれたのか、それらしい個体は消し炭になっておりました・・・」

 それを聞くと老人は黙りだす。これは相当お冠かと思いきや、老人は何やらブツブツと独り言をつぶやいた後、静かな声で白衣の男にこう告げる。

「ゼノークを向かわせろ。ニコラスたちにはそのまま例の冒険者を追わせ、ゼノークが到着し次第証拠を残さないよう回収させろ」

「ゼノーク君をですか!?些か過剰すぎではないですか?」

 男の言葉に再び老人はボルテージを上げた。

「愚か者が!情報通りなら、Aランクの魔物を消し炭にした冒険者から回収をするのだぞ?ニコラスなぞに任せておけるか!」

「ハッ!申し訳ありませんでした。すぐに手配致します」

 これ以上老人の怒りを買いたくなかった白衣の男はそそくさと薄暗い部屋から立ち去る。

(しかしゼノーク君が大人しく言う事を聞いてくれるかどうか・・・)

 頭の痛い出来事が立て続けに起こり翻弄される白衣の男であった。



「ちっ、ドジ踏んじまったぜ・・・」

 そう呟いた男は真っ暗な街道を突き進んでいた。いくら街道沿いとは言え、夜は魔物の時間であり心得の無い人間が出歩けばたちまち命を落とすであろう。

 しかし夜の暗闇に臆することなく、顔をフードで隠した3人の男たちは行商の町ヘタルスへと向かう。乗合馬車であればすぐに到着できたが、男たちが西フォルセトへと入った時には既に最後の便が発っていた。少しでも早く先に行きたかった男たちは、徒歩でヘタルスに向かっていたのだ。

「まさか、実験場所に他のオーガが棲みついていたとはな・・・」

「そうですねニコラス様。それさえなければ無事に役目を果たせたものを」

「全くです。お蔭で他のオーガを始末している間に、検体のオーガ4匹が何者かに倒されてしまうとは・・・」

 ニコラスと呼ばれた先頭を歩く男におべっかをする二人の男。彼らはグリズワードの西の辺境にいたオーガを退治した冒険者の後を追っていた。付近の村人やフォルセトの町で情報を集めながら追っていたのだ。

(しかも、退治した奴はどうやらブルーって話だ・・・。ただの変人ならいいんだがな・・・)

 異世界人の中には強力な戦闘能力を有したものもいる。東の国ハーデアルトで発表された7人の勇者なんかはいい例であろう。ブルーはどちらかというと知識に長けた者が多いと耳にするが、どちらにせよオーガの群れを倒せる程の実力者だ。油断は出来ないであろう。

 本来ならこの任務はもっと簡単なはずであった。ニコラスに与えられた仕事は、赤躍石と呼ばれるマジックアイテムを埋め込まれた4体のオーガを観察することであった。

 たったそれだけのはずが不幸が重なった。なんと検体であるオーガを放った付近には別のオーガも棲息していたのだ。それが一つの誤算。

 任務に支障が出ると感じたニコラスたちは急ぎオーガたちを殲滅する。まさかその間に観察対象である検体のオーガが討伐されるとは。

 この二つの誤算が事態をややこしくしてしまったのだ。

(面倒くせえ。どうしてこうなったんだ?)

 心の中で悪態をつきつつ3人の男たちはヘタルスへと向かうのであった。
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