挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

34/82

結婚もしてないんだぞ

今回恵二は出てきません。
「射手に魔術師は準備を始めろ!そろそろ来るぞ!」

 男の張り声で一斉に弓に矢を番えはじめる射手に、詠唱を始める魔術師たち。それを守るように前方では鎧を着た兵士たちが展開をしている。彼らは各々武器を手に取り今か今かと襲撃者を待つ。

 彼らはハーデアルトの北方に位置する複数の砦のひとつに駐屯する防衛隊であった。ここは北の隣国ラーズ国との国境が近く、有事の際にはすぐに防衛できるよう一定数の兵士が日夜警戒を行っている。

 しかし今回の襲撃者はラーズ国の兵士ではなかった。遠くから近づいてくる異形の者たち。それは皆が骨だけの戦士であった。

不死生物(アンデッド)
 通常こんな平地には、ましてや日もまだ暮れていない時間には決して現れるはずの無い魔物が大挙して押し寄せてきている。もし事前にグリズワードからの情報を聞いていなければ、指揮官の男は我が耳を疑ったであろう。

(これが<神堕とし>の影響なのか!?本当にアンデッドの襲撃があるとは・・・)

 過去起こった<神堕とし>の記録によると魔物の異変は毎回の事であったが、精々が行動範囲を変えたり突然変異の亜種が出るといった事例だけであり、アンデッドの大群が日が出ているうちに押し寄せてくるなど前代未聞であった。それともこいつ等はアンデッドの突然変異のなれの果てだとでもいうのだろうか。

(冗談じゃない。流石にこんな数相手には凌ぎきれない。騎士団はまだ到着しないのか?)

 巡回兵からアンデッドの大群が迫っていることを聞いた直後に、指揮官の男は迷うことなく王都に応援を依頼した。近場の砦に在中していた兵士も可能な限り回してもらったが、それでもあの大群を見てしまっては心もとなさすぎた。

(こんな時、勇者さまたちがいらっしゃってくれていれば・・・)

 7人の勇者たちは現在、3手に分かれて各地の<神堕とし>による異変に対処をしていた。その内3人は隣国、グリズワードの依頼で南部のアンデッド騒ぎに駆り出されている。他の4人も2チームで国内の別の箇所に派遣されており、とてもではないが応援に間に合いそうには無かった。

 そろそろ大群が魔術や弓の射程距離に入りつつある。指揮官の男は覚悟を決め、再び声を張り上げる。

「諸君、ここ北の防衛ラインを突破されれば更なる戦火が国内中に広がり我々の家族や親友、愛する者たちが傷つけられるであろう。相手がラーズ国の兵だろうがアンデッドだろうが我々に敗走は絶対許されん!各兵そのつもりでことに当たれ!」

『おお!!』

 皆強がりではあったが指揮官の兵を奮い立たせる演説に、無理やりにでも自らを鼓舞させようと声を上げて返してくれた。ならばこちらも応えなければならない。指揮官の男はすかさず後衛に指示を出す。

「後衛、構え・・・放て!!」

 男の合図で矢や魔術の雨が大群へと突き刺さる。しかし厄介なことに不死生物(アンデッド)は死を恐れない。速度を保ちつつ更に接近してくる。

「第二列、構え・・・放て!!」

 続けて入れ替わるように準備をしていた後衛の2列目が攻撃を繰り出す。後衛は全部で3列並んでおり、入れ替わるように矢の準備や詠唱を唱えて待機している。

「後衛第三列が一掃した後、先陣隊は敵右翼から、第二陣は左翼に突撃を敢行する。各兵準備を始めて合図を待て!」

 段々と大群との距離が狭まる。いよいよ白兵戦へと移り変わる時が来た。

「第三列、先陣隊、構え・・・かかれ!!」

『オオ!!』

 指揮官の合図と共に再び攻撃の雨がアンデッドの大群に襲い掛かる。それとほぼ同時に先陣隊が突撃を掛ける。ここからは激しい乱戦となった。
 北の防衛を任される兵士たちの錬度は決して低くは無い。アンデッドの殆どがDランクの骸骨の戦士(スケルトンファイター)ということもあって次々と魔物を蹴散らせていく。

 しかし相手の数は圧倒的で、段々と兵士に死傷者が増えていく。

「深手を負った者は一旦引け!左翼が弱いぞ、近場の5名が回れ!」

 最初こそ押してはいたものの、やはり戦に置いて数というものは非常に厄介だ。段々と戦線を押し戻されてしまう。籠城でも出来ればもう少し楽ではあったのだが、奴らは砦などに興味は無くただ生ある者への執着心だけがあった。一人また一人と黄泉の世界へと道連れにされていく。

 しかしそんな最悪な戦況の中、希望の光が現れた。

「――応援だ!騎士団が来てくれたぞ!!」

 それは予想よりも早い到着で、まさに天の使いにも思えた。応援の数は騎馬隊が全部で8騎、少なく思えるがそれでも王国の精鋭である。騎馬隊は大群の横っ腹に突撃をすると、あっという間にアンデッド共を蹴散らせていく。

「オラオラ!日暮れまでには殲滅させるぞ、お前ら!」

『おう!』

 その騎馬隊はバルディス率いる巡回騎士団であった。偶々近場を警戒していたところ異変を嗅ぎ付けて応援に駆けつけたのだ。
 バルディスを始め騎士団員たちの腕前は一線級で、次々と剣や長槍で敵を骨屑へと変えていく。戦況は完全に逆転した。

(凌げる!これなら防げるぞ!!)

 そんな思いを描いた兵士たちに再び不幸は訪れる。希望の光があればその逆、絶望への闇も訪れるのだ。

「――伝令!アンデッドの亜種を確認。報告にあった<警告する者(アドゥマナターズ)>だと思われます!!」

「<警告する者(アドゥマナターズ)>だと!?」

 兵士が指を指した方向では、自軍の兵士たちが次々と悲鳴をあげていき物言わぬ骸と化していった。その先には3体と1匹のアンデッドが存在していた。

 禍々しい光を放つ宝玉の杖を携えた骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)

 目にもとまらぬ速さで兵を斬りつけていく骸骨の斥候(スケルトンスカウト)

 剛腕と卓越した剣技によって兵を真っ二つにしていくのは骸骨の戦士(スケルトンファイター)

 全身に青白い光を纏った骸骨の猟犬(スケルトンハンター)

(間違いない!上から報告のあった特殊個体、警告する者(アドゥマナターズ)だ!)

 そのアンデッドたちの情報はグリズワード国からもたらされたものであった。その3体と1匹は通常の個体よりも化物じみた実力を持っていて、その内骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)においては念話でもって不敵にも人類に警告をしてきたのだと言う。二つ名はそれが由来だ。

 念話の内容によると、どうも一連の騒ぎの主犯格だと思われる。王都からも重要視されているアンデッドたちであった。彼らは他の個体と区別するためにそれぞれ呼称がついていた。

 魔術師が<深淵の杖(スカルロッド)

 斥候が<深淵の刃(スカルエッジ)

 戦士が<深淵の剣(スカルブレイド)

 猟犬が<深淵の牙(スカルファング)

 それぞれの得物を名に冠したその特殊個体は度々目撃報告が上がっていたが、勇者を警戒してかそこまで戦闘に踏み込んでは来なかった。

 しかし、今回勇者不在とあってか4体勢ぞろいで襲い掛かってきたのだ。あっという間に兵の数を減らされていく。そんな中、勇敢にもバルディス以下7名の騎士団員は警告する者(アドゥマナターズ)へと突撃をする。

「アーリー!防御魔術を頼む!その後はラウドと共に魔術で深淵の杖(スカルロッド)を牽制しろ!」

「「了解!」」

 言われる前に詠唱をしていたアーリーと呼ばれた女団員は、すぐに8人分の防御魔術を一斉発動させる。その間、攻撃魔術に長けたラウドがスカルロッドを押さえにかかる。

「俺は大剣持ちをやる!他は5人がかりで残り2体をさっさと仕留めろ!」

『了解!』

 団員に指示を送るとバルディスは馬から飛び降り、そのまま体勢を崩す事無く深淵の剣(スカルブレイド)へと肉薄する。

「オラァ!」

 掛け声と共に渾身の一撃を斬り込むが、それを難なくスカルブレイドは長剣で受ける。骨だけの体のどこにそんなパワーが隠れているのか、バルディスの剣を受けてもビクともしなかった。更に相手はバルディスの剣を弾くと、流れるような動作でそのままカウンターをお見舞いする。

「――っ!ちい」

 素早く後ろにステップをし躱すも、スカルブレイドも全く同じタイミングでバルディスの方にステップの動作で近づくと、更に攻撃を畳み掛ける。

「――舐めるな!」

 敵の二撃目三撃目の追撃ちを自身の愛剣でなんとか凌ぎきると、バルディスは更に後退し一旦間合いを空ける。

(やべえ。コイツ、思った以上に強ええ!)

 1人で押さえるつもりであったが、まるで相手になりそうにない。それは少し剣を交えただけですぐに分かった。目の前の骸骨は信じられないことに、自身が尤も尊敬する団長にも匹敵をする剣技を持っていた。

「ジェイス、こっちの応援頼む!一人じゃきつい!」

 バルディスはあっさりと単独で挑むのを諦め、5人がかりでアンデッド2体へと向かったうちの1人に応援を求めた。しかし、あちらの状況も芳しくないようであった。

「隊長。それがコイツら、避けてばっかの癖して離れようとすると仕掛けてきて・・・っ!」

 横目で見やると、5人の団員に囲まれた深淵の刃(スカルエッジ)深淵の牙(スカルファング)は回避に徹していた。しかし完全に逃げに入っているわけではなく、そちらに意識を外すと途端に短剣や牙で仕掛けてくるのだ。

 バルディスの作戦では、まずスカルロッドとスカルブレイドを最少人数で押さえ、その間に5人がかりでスカルエッジとスカルファングを倒してその後に各個撃破していこうと考えていたのだ。

 しかしこれでは逆に5人が足止めをされているではないか。

(コイツら、ただ強いだけじゃねえ!動きが熟練の戦士そのものだ!)

 侮っているつもりは無かったが、それでも見積もりが甘かったと言わざるを得ない。バルディスはスカルブレイドの猛攻に防戦一方だ。スカルロッドの方に至ってはバルディス以上に一方的で、決着が着くのは時間の問題であった。

「くそお!こんな所で死ねっかよお!俺はまだ結婚もしてないんだぞ!!」

 段々と死期が迫って来たのを感じたバルディスは変な事を暴露しながら剣を振り上げる。しかし無情にも相手は剣も腕も格上で、バルディスより先に剣が力尽きた。スカルブレイドの魔剣がバルディスの愛剣を叩き折る。守る術が無くなったバルディスにスカルブレイドが身構えた瞬間。

「バルディスさん、それって死亡フラグですよ」

 なんて呑気な声と共に石の槍がスカルブレイドへと叩き込まれる。

「――!?」

 突然の不意打ちにスカルブレイドは数メートル吹き飛ばされるもすぐに体勢を整えて立ち上がる。何が起こったのか理解できなかったバルディスは声のした方を振り向くとそこには石山コウキと水野茜、二人の勇者が現れた。

「ゆ、勇者様だ!勇者様が来てくれたぞ!」
「おお!応援に来て下さったのか!?」
「勇者様ならあんな奴ら、すぐに倒してくださるぞ!」

 コウキと茜二人の姿を見た兵士たちは思い思いに歓喜の声を上げた。誰の目に見ても絶望的であった状況に、また新たな希望が二つ現れたのだからそれも無理は無い。バルディスもさっきまで死を覚悟していたが二人を見て安堵する。しかしすぐに気を引き締め直し声を掛ける。

「助かった。コーキ、アカネ。ついでに悪いが助太刀をしてくれ。特に<深淵の杖(スカルロッド)>は俺たちの手に負えねえ。頼む!」

 何故遠くにいた彼らが間に合ったのか疑問に思うも、今はそれどころではない。一向も早く助太刀をしなければ団員の命が危なかったのだ。

 バルディスの言葉に無言で頷くと、先に動いたのは茜の方であった。

水神(ミズハノメ)!」

 彼女がそう唱えると、真横から突然大量の水が流れ出す。その水は物理法則を無視して一直線にスカルロッドの方へと向かう。それを察知したスカルロッドはすぐに回避行動に移ると、水はそのまま敵と団員たちを遮るように水の壁と化した。

「茜先輩、捉まって下さい」

 コウキが茜に声を掛けると、彼女はコウキの肩に手を置く。すると二人は一瞬にして姿を消した。それを見ていた兵士たちは思わず辺りを見回す。すると二人はいつの間にか、水の壁に守られるような形で地面にへたり込んでいた二人の団員の元にいた。信じられない事だが、二人は一瞬でそこまで転移したのだ。

 これが石山コウキに与えられたスキル「空間転移」である。最初は己自身しか転移できなかったが訓練の成果で距離も大幅に伸び、更にもう1人なら一緒に転移が出来るようになった。このスキルのお蔭でここまで早く応援に出向く事が出来たのであった。

水霊の癒し(アクアヒール)

 すかさず茜は水属性の中級魔術<水霊の癒し(アクアヒール)>で傷ついた団員を癒す。スカルロッドを相手にしていたアーリーとラウドは、かなりボロボロで重傷であった。茜の魔力は凄まじく、あっという間に傷を癒すも気力までは回復できずに限界を超えていた二人は安心した途端意識を手放した。

「――っ!アーリーさん、ラウドさん!?」

「大丈夫ですよ先輩。気を失っただけみたいです」

 コウキと茜にとってこの二人は魔術の先輩に当たる見知った間柄であった。それを殺されかけたとあっては普段は温厚な茜も頭に来たようだ。キッと視線をスカルロッドへと向ける。

「――水神(ミズハノメ)!」

 再び彼女はそう唱える。すると更に彼女の真横から大量の水があふれ出すと、もの凄い勢いでスカルロッドへと迫る。

水神(ミズハノメ)
 日本の古い水の神様にミズハノメという水神がいたという。コウキからそう教えられ命名した茜のスキル<水神(ミズハノメ)>は、大量の水を生成し自由自在に操るという攻守共に優れた強力なスキルだ。彼女は現在自身が出せる最大水力で持ってスカルロッドへと放った。

 それはまさしく巨大な鉄砲水であった。流石にこれを魔術で凌ぐのは不可能だと判断したスカルロッドは、どういった魔術なのか空へと浮かび上がりこれを回避する。

「――石槍(ストーンランス)!」

 事前に詠唱をしていたコウキは、すかさず自身の得意な地属性魔術<石槍(ストーンランス)>で持って追撃を掛ける。しかし相手も一筋縄ではいかなかった。スカルロッドはコウキが放った大量の石槍(ストーンランス)と同じ数の石槍(ストーンランス)を短い詠唱でもって発生させ綺麗に相殺させた。

「――っ!流石は深淵の杖(スカルロッド)と呼ばれるだけあるね」

『それはこちらの台詞だ、異世界の勇者たちよ』

 突如コウキたちの耳に言葉が響く。恐らくこれが報告にあったスカルロッドの念話であろう。

『流石に勇者殿二人を相手には分が悪そうだ。今回は引くとしよう』

 いつの間にか他の警告する者(アドゥマナターズ)たちは撤退をしていたようだ。予め勇者が来たらそう動くように示し合わせていたのだろう。

「こんなことを仕出かして、逃げれると思ってるの?」

 茜にしては鋭い口調でそう言い放つ。まるで逃がす隙など与えるかと言わんばかりに水を操るも、スカルロッドは念話で時間稼ぎをしながら魔術の準備をしていたようだ。杖の先の宝珠に大量の魔力が凝縮されていた。

『逃げれるとも。貴殿らが他の者たちを見捨てなければな』

 そう言い放つと同時にスカルロッドは魔術を放った。それは赤く燃え盛ったドッジボールくらいの火球であった。大きさはそれほどでもないが込められた魔力は尋常ではない。すぐにそれに気づいた茜は、大量の水でその火球の周りを覆う。

 直後、火球は弾け飛び強い光が辺りを照らし出す。

「くっ!」

 眩しい光に思わず目を細める。光から少し遅れて凄まじい爆音が辺りを木霊する。

爆炎玉(フレアバースト)
 火属性上級魔術で最大の火力を誇る魔術である。込められた魔力も凄まじく、茜が<水神(ミズハノメ)>で防いでいなければ周辺の兵士たちは皆蒸発していただろう。

 水で無理やり押さえ込んだ影響で、辺りは水蒸気が漂っていて視界が塞がれる。やっとクリアになった時には警告する者(アドゥマナターズ)たちは完全に姿を消していた。
勇者回でした。恵二の冒険譚の合間に、他の勇者たちの動向も書いていきたいと考えております。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ