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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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いてえ・・・

なんとか1か月間、1日1話ペースで書き続ける事ができました。なるべくこのペースを維持したままクオリティーアップしていきたいです。後、休みの日に若干の修正も加えていきたいです。
「先にまず誤っておくわ。私は冒険者の先輩として恵二に大事なことを教えていなかった」

 小言が続くのかと思った恵二は突然のサミの謝罪に訳が分からなかった。恵二の疑問を余所にサミはこう続けた。

「冒険者たるもの、自分の身は自分で守るってのが常識よ。ただそれはあくまで一人だけだった場合よ」

 なんとなくサミの言わんとしていることを理解し始めるも、また杖で殴られたくない恵二は黙って話を聞き続けた。

「私たちは今一緒に行動している。言わば臨時とは言えパーティーなの。貴方を守る責任を私もセオッツも背負っているの」

 そう、特に明言してはいなかったがダーナとの依頼が終わった後も一緒に行動を共にしてきた恵二たち3人は、紛れもないパーティーであった。サミはさらに続ける。

「そしてケージも、私やセオッツの為に行動してくれていることは知っているわ」

 そのつもりではあった。未熟な自分でも少しでも力になりたいと思っていた。しかし初めての人殺しに抵抗感が芽生え、危うくパーティーメンバーを危険な目に合わせるところであった。

「俺は・・・パーティーメンバーとして失格ってことか・・・」

「そうじゃない。さっきの件はどちらかというと私たちに落ち度があるわ。・・・貴方、人殺しをした事ないんでしょう?」

 サミの問いに無言で頷く恵二。グリズワードの森では賊と戦闘にはなったが、結局片腕を斬った男はその後何故かアンデッドへと化した。それを抜かせば生身の人間との生死を賭けた戦いは初めてであった。

(いや、そういえばコマイラの町で絡まれた時も死闘って呼べるのか?)

 恵二のスキルを覚醒させた切っ掛けでもある斧使いの冒険者とのやり取りも命がけであった。ただあの時も依頼中にあった賊の襲来時にも恵二の方に殺意は無かったのだ。

 恵二がそんな事を考えてることを露知らず、サミは言葉を続ける。

「ちゃんと事前に教えるべきだった。時には人を殺す必要があるってことを」

「え?」

 サミの過激発言に間抜けな声で返す恵二。かなり意表を突かれた一言であった。今までの話の流れからてっきりサミは恵二よりの考え方だと思っていたのだ。それをまさかセオッツの発言を肯定するようなことを言うとは思いもしなかったのだ。

「いい?勘違いしないでね。私は人殺しなんてしたくないし、殺さず解決できるならそれが最善よ。これは間違いないわ」

 若干混乱気味の恵二は、それでもなんとかサミのいう事を理解しようと黙ってその言葉に頷く。

「でもね、解決っていうのは戦闘を終わらせることとイコールではないと思うの。仮にケージがさっきの盗賊を見逃したら、貴方その後どう責任取れる?」

「それは・・・」

 答えに詰まる。セオッツも似たような事を言っていた。自分が見逃した盗賊がその後別の誰かを傷つけるのをどう責任取るのかと。

(取れるわけがない・・・)

 今後ずっとその盗賊の動向を見張っておくなど不可能なのだ。しかしだからって殺すという結論も安直な気がする。どこか町の兵にでも突き出せばいいのではと考えるが、サミはそれを否定する。

「この先旅を続けていけばあんな奴らと出くわすこともあるわ。その度に全員を命がけで殺さないように掴まえて、町まで引き連れていくの?そんなの私は御免よ」

 そう、そこまでしてやる義理は確かに無い。彼女はセオッツと同じことを言っているようにも聞こえるが、丁寧に優しく諭していくので目茶苦茶なことを言っているようには思えない。それでも、やはり自分に人を殺すことができるのだろうか。この先同じようなことが起こってもやはり躊躇ってしまう気がする。

 恵二が浮かない顔を浮かべていると、サミはこうフォローした。

「ケージの考えた方は確かにセオッツの言うとおり甘いけど、私は嫌いじゃないわ。とっても良いことだと思うの。でも私たちは万能の神様なんかじゃない。なんでも思い通りにはいかないのよ」

 仕方がない。自分たちは無力だから相手を殺めるしか方法が無いのだと彼女は恵二にそう説いた。盗賊にまで情けを掛けるほどの力も余裕も義理も無いのだと教えられた。それに恵二は歯切れ悪くこう答える。

「・・・まだ完全に割り切れたわけじゃないけど。少しは納得できた・・・と思う」

「ま、今はそれでいいわ。でも次までには覚悟を決めておきなさい。もしケージが人殺しを嫌だというのなら、その嫌なことを代わりに私やセオッツがするだけだから」

 最後に恵二の胸に刺さる言葉を浴びせるサミ。そうだ、二人だって何も好き好んで人を殺めているわけではないのだ。

「セオッツには私からフォローしておくわ。とりあえずアンタは盗賊の亡骸の処分をお願い。それくらいなら出来るかしら?」

「ああ、分かった」

 本音を言えば死体の処理なんて御免だがこのままにしておく訳にもいかない。恵二は盗賊たちの亡骸を火弾にて燃やして処理をしていく。サミはどうやら反対側で処理をしているセオッツのところへと話し合いに向かった。殴り合った後ですぐに顔を合わせるのも気まずいので、ここは彼女に任せようと作業を続ける。

 ふと、さっきまで全然気にならなかった殴られた頬の部分がズキズキと痛み出す。どうやらセオッツとの口論は恵二の思った以上に精神的にきていたようで今まで痛みに気がつかなかったようだ。

「いてえ・・・」

 殴られた左頬を抑えながら盗賊の死体を燃やしていくのであった。



 一方別の死体を処理していたセオッツも左頬を抑えながらこう呟いた。

「いてえ・・・」

 さっきはあんな強がりを言ったが、いくら強化されていないとはいえ殴られれば痛く無いわけがなかった。思わず顔を顰めたのは決してサミの小言にうんざりしてという理由だけではなかった。

「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」

「あー、はいはい。聞いてますよ」

 セオッツは只今、自分と同年代の女冒険者サミから絶賛お説教中であった。自分たちは恵二よりも1つ年上で冒険者としても先輩なのだからもっと大人になれと小言を言われ続け、若干うんざりしてきた。

「“はい”は1回って教会の司祭様に習わなかったかしら?」

「生憎うちの村には教会なんてなかったんでね・・・」

 そう軽口で返す少年にサミはひとつ溜息をついた後こう話を切り出す。

「気づいてたんだけどね。アイツが人殺しをしたことがないだろうって」

 グリズワードの森で恵二が片腕を斬った男がその後、骸骨の戦士(スケルトンファイター)に変貌したことがあった。その時の少年の反応で察していたのに、すっかり忘れていたのだ。

「アイツ、それだけじゃなく人の死に対しても拒絶反応ってほどでもないけど、慣れていないっていうか・・・。平和ボケしてんのよ」

「へえ、随分と良いとこ育ちの甘ちゃんだったんだろうな」

 サミの言葉に皮肉で返すセオッツ。いい加減彼女もイラついてきたのか口調が強くなってきた。

「いちいちねちっこい男ね。私たちは慣れてしまったけど、アンタも最初は人を殺した時も平然としていたって言うのかしら?」

「それは・・・」

 少年も初めて人を殺めた時はひどく動揺したものだ。今でもその時の事を覚えている。セオッツも決して人殺しを軽んじているわけではないのだ。

(――それでも、盗賊だけは・・・)

「もう少し言い方ってものを考えなさい。最初はちゃんとケージを心配してのアドバイスだったんでしょ?」

 そう、確かに最初は恵二を思っての発言であった。それに恵二も自分が間違っていたと謝罪までしてくれたのだ。しかしその後の、まだどこか甘い恵二の台詞に対して段々と熱くなってしまったのだ。

「まあ、アンタが盗賊に思うところがあるのは分かるけど、確かに過激発言だったわね。・・・貴方、盗賊に家族でも殺されたの?」

 口調を少し変えて突っ込んだところを聞いてくる少女にセオッツは答える。

「いや。俺の両親や兄弟は健在だぜ」

「じゃあ、なんでそんなに盗賊を目の敵にするのよ?」

「・・・踏み込んでくるなあ。昔、一度村が襲われたことがあっただけさ」

 その時に知り合いを何人か殺されたけどな、と付け加えた。

「そう、どこにも不幸話なんて転がってるものね」

「そういうサミはどうなんだよ?貴族に家族でも殺されたのか?」

 今回セオッツが、サミから受けた依頼内容は実家の護衛だ。しかし詳細はまだ全く聞いていなかったのだ。ただ旅の道中、なんとなく貴族に思うところがあるのを察したセオッツはそう口にしたのだ。しかし返ってきたのは意外な答えであった。

「さあ、わからないわ。私は孤児だし本当の両親の死因を知らないもの」

 なんと、最初はいい所のお嬢様ではと疑っていた彼女はどうやら孤児であったらしい。彼女は教会の施設の孤児院で育ったのだとか。それに比べて自分は両親ともに健在で十分恵まれた環境だったのだろう。さっきまで子供みたいに熱くなっていたことに急に恥ずかしさを覚え始めた。

「ま、どこにでもある話よ。そろそろ落ち着いたかしら?ほら、行くわよ!」

 そう言うと彼女はセオッツの手を取って、さっきまで喧嘩をしていた恵二の元へ引っ張っていく。いきなり手を握られたのとまだ恵二にどう話していいのか分からず、顔を赤くしながらされるがままに引き連れられる。

(あー、くそ。やめだ、やめだ。出たところ勝負だ!)

 あれこれと考えるのを放棄したセオッツ。恵二の元へと二人は向かった。



「・・・すまなかった」
「・・・わりぃ」

 謝罪の言葉はすんなりと出た。お互い完全に納得したわけではないが、それでも口に出してみると案外気持ちが晴れるのだから不思議なものだ。それを見て腕を組みドヤ顔をしているサミに思うところはあるが、一先ず少年二人は無事和解をした。それからすぐに3人で後片付けをした後、馬車に乗り込み再度出発をする。

「大分時間を取ったから、ちょいと飛ばすわよ」

 サミの死刑宣告に近い発言に恵二は顔を青ざめる。速度を上げるという事はそれだけ馬車の揺れも激しいものとなるからだ。大丈夫かとセオッツが語り掛けるも、時間を取らせたことの一要因でもある恵二は無言で頷くしかなかった。

 暫く馬車を進めていく。操縦は相変わらずサミ頼りなので、自然と車内はさっきまで喧嘩をしていた少年二人だけとなる。なんとか気まずい空気を破ろうと、そういえば1つ思い出した事を恵二は口にした。

「そういえば、さっきの奴らなんとか団って名乗ってなかったか?有名なのか?」

「えっと、たしかヨウジョ山賊団だったっけ?」

(それは絶対違うと思う。なんだその可愛らしい山賊団は・・・)

 恵二は思わず幼い女の子たちに囲まれて金品をたかられる想像をしてしまった。

「ヨージュ山賊団って言ってたわね。聞かない名だし、まあ問題ないでしょ」

 前で聞いていたサミがすかさず訂正をする。確かにどこにいるかも分からない盗賊団を気にしていても仕方がないかと考えるが、しかし日暮れ前に次の村まで辿り着かないとなると少し面倒だ。野宿となると視野の効かない状態で一晩中、山賊団を警戒し続けなければならなくなるからだ。

「急げばなんとか暮れる前には着くんじゃないかしら」

 サミも村までの正確な距離は分からず、そう答える他なかった。




「やっと着いたか」
「シドリスの町。ここに8人目がいるんですか?」

 地味な外套を羽織った男女の二人組はグリズワードの森から不法入国をし、ここシドリスの町まで辿り着いた。入口の門はなんだか物々しい警備をしていたがそれでも国境よりかはザルなチェックで、二人は駆け落ちカップルという設定でなんとか町へと潜り込めた。

「私みたいな美人とカップルだなんて役得ですね。でも本気にはしないで下さいね」

「・・・・・・」

 女の戯言には一切耳を貸さず辺りを見回す。入り口でもそうであったが町中もかなりの数の兵士が巡回をしている。

(何かあったのか?しかし、これでは少々動き辛いな・・・)

「ちょっと、冗談ですってば。無視しないで下さいよ」

 どうやらスルーしていたのを、怒って口を開かないのだと女は勘違いしたらしい。しかしザイルはそれどころでは無かった。今は任務の事で頭の中がいっぱいであったのだ。

(とにかく極力目立たないように情報収集するしかないな。・・・問題はこいつだ)

 ザイルは急に女の方を向く。この女は思ったよりも騒々しく、何故今回の隠密行動に付けられたのかはいまだに謎であった。

「ん?なんですか?そんなに見つめちゃって、ルルカちゃん照れちゃうじゃないですか」

「・・・」

 こんな女に頼むのは癪であったが、目立たないように情報を集める以上時間が掛かる。どうしたって人手はいるのだ。今は一刻も惜しい。男は軽く舌打ちをすると、ここで情報収集することをルルカと名乗った女に告げた。その際、目立たないよう自重するようにと口を酸っぱくして告げた。

「もう、わかってますって・・・。ところで8人目ってどういう容姿をしてるんですか?」

 どうやら彼女は探し人の情報をまるで知らなかったようだ。

(ちゃんと資料に書いてあっただろうが、ちゃんと読んどけよ!)

 心の中でそう罵倒するも、時間が惜しい男は淡々と8人目の容姿を告げる。

「年齢は15才くらい、黒髪、身長は年齢相応かやや低い方、冒険者・・・え?これだけですか?」

(さっきまで何も知らなかったお前が言うな!)

 とは言えザイルも情報が少なすぎることは自覚していた。これでも道中可能な限り拾った情報なのだ。それに、その年齢で冒険者となればかなり数も絞れるはずだ。

「そういえば、あのおっかない小人族は8人目を“ケージ君”って呼んでませんでした?」

「・・・当てにならん情報だ」

「ですよねー・・・」

 しかしその発言は間違いであったことに暫くあとで気づかされた二人であった。


 聞き込みを始めて数刻後、意外に早くその冒険者の名前は出てきたのだ。ついでにこの町の警備の多さにも納得がいった。どうやら<不死生物(アンデッド)>たちの襲撃があったようだ。

「アンデッドのボスを追い返したらしいです」

「こっちは竜を倒したって情報が出てきたぞ?」

 眉唾な情報ではあるが、どうやらケージと名乗った黒髪の少年冒険者は確かにこの町にいたようだ。だがしばらく前に西の方へと発ったらしい。

(西、か・・・。ここから西だとやはり首都のヘウカスか?)

 今はろくな手がかりが無く、ザイルは次の目的地をヘウカスと定め行動を開始した。一刻も早く“異世界の勇者”を我が主の元へと送り届ける。それこそがこの男の使命であった。
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