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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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出しゃばらせてもらうわ

「ぎゃああああ!お、オレの、オレの腕がああアッ!!」
「てめえ!?」

 一番右にいた男の腕を斬って落としたセオッツは続けて隣にいる背の低い男に身体を向けるが、男は咄嗟に後ろへ下がって距離を取った後に詠唱を始めた。

(魔術師だったか!?)

 どうりで1人だけ武器を隠し持っていなかったわけである。詠唱を止めさせないと、と思い向かおうとするが左にいた男がポケットから予想通り隠し持っていた短剣で襲い掛かる。

強化(ブースト)、10%!)

 すぐに己の身体能力を強化する。加減5%ほどでもセオッツと渡り合うスピードを出せるが、今回は倍増である。そこらの凡夫には到底対応できる速さではなく、恵二の素早い一撃は男の武器を持った右手を切り裂く。

「!!――ぎゃああああああッ!!」

 すかさず切り口を片方の手で押さえながら悲鳴を上げる男。人を斬った嫌な感触が手に残り男の悲鳴で更に背徳感を増すが、一先ずこれでもう1人戦闘不能だ。

(逃がした魔術師は!?)

 セオッツの方は魔術師に追撃をかける前に、右にいた片腕の男が再び武器を拾おうと試みていたのでその首を刎ね今度こそ息の根を止めた。その間魔術師は恵二たちから十分に距離を取っていた。もう間もなく詠唱が終わるだろうと思われた時――

「――炎槍(フレイムランス)!」

 背の低い男が詠唱しきる前に、後から詠唱を始めたサミの魔術が先に発動する。それは男が放とうとした魔術よりも長い詠唱時間を要する火属性中級魔術<炎槍(フレイムランス)>であった。サミの詠唱は確かに男よりスタートが遅かったはずだ。にも関わらず先に魔術を発動させたことに男が驚愕の声を上げる。

「馬鹿な!?俺の方が詠唱を先に――」

 その後の言葉は続かなかった。サミの杖から放たれた魔術は見事に男の喉元に命中をした。

「――――ッ!」

 喉から体全体に炎が広がって焼かれていく。こうなっては男に為す術も無く炎にまかれ地に倒れ伏す。サミが放った火槍は短い詠唱にも関わらず威力・命中ともに抜群であった。恵二は短い期間しか教えていないが彼女はもう魔術制御のコツを掴んだのだろうか。

「ケージ、そいつも止めを刺しておけ。武器を拾われたら危険だ」

「ひいッ!」

 セオッツは自分がしたように、短剣で襲おうとした男も首を刎ねておけと指示する。しかし男は既に片手を失っており痛みで起き上がる事も出来ない。涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら命乞いをしてくる。流石にそんな相手に止めを刺せるほど恵二は割り切れはしなかったのだ。

「もうそいつは戦闘不能だ。それより伏兵の6人がそろそろ来るぞ!」

「お、おい・・・」

 恵二に何かを言おうとしたセオッツだがそんな暇はなかった。恵二の予告通り6人の盗賊風な男たちが迫ってきていた。

「私は右端から倒していく。後はお願い!」

「分かった」
「――くっ!」

 サミの言葉に恵二は頷きセオッツは恵二に言おうとした台詞を一旦飲み込み、素早く左端の男へと斬り込む。

(なら俺は真ん中だ!)

 恵二は詠唱を全く行わず、自身の周りに火の弾を3つ発生させる。勿論その火の弾3つともにスキルで強化をしてから男たちに放つ。至近距離で、しかも無詠唱で放たれた恵二の火弾(ファイヤーショット)を男たちは躱せるはずが無かった。その火弾は寸分の狂いもなく、恵二が狙った男たちの脚へと着弾していく。火弾を脚に受けた男たちは一斉に悲鳴を上げる。

「ぎゃああアア、熱い!!」
「くそおオオッ!消えろ、消えろ!!」
「誰か火を消してくれ!!」

 脚に燃え広がった火をなんとか消そうと地べたに転がりながら声を上げる男たち。セオッツの方を確認すると彼はあっという間に二人の賊の首を刎ねていた。相手も剣を持っていたのだが一度もセオッツに当てることなく一方的に戦闘は行われたようだ。サミの方も短い詠唱で再び火槍を放ち、顔に被弾した男は声を上げることなく地べたに横たわった。

(これで6人全員戦闘不能だな)

 目の前で脚を燃やされた3人の賊はなんとか消火できたようだが、その痛みでとても歩けそうにはなかった。その代りに口で恵二たちを罵る。

「て、てめえ!舐めた真似を・・・」
「俺たちが誰だか分かって手を出してんだろーなあ!」
「お、俺たちはヨージュ山賊団だぞ!」

 自分たちに手を出したことを必ず後悔させてやると口々に言い放った。

(もう動けないだろうにやたら強気だなあ)

 態度を改めない賊に呆れる恵二。この後こいつらをどうしようかと考えていたが、その前にセオッツが動いた。

「ぎゃッ」
「ひぃ!」
「たすけ――」

 なんと少年は動けなくなった男たち3人の首を順に刎ねていったのだ。これには流石に恵二も黙ってはいなかった。

「お、おい!いくらなんでもやり過ぎだ。相手はもう動けないんだぞ?」

 非情にも止めを刺したセオッツを糾弾する恵二に、少年は身体を向けこう反論する。

「甘いぜケージ。こいつらは生かしておいてもまた誰かを襲うぜ?」

「でも、牢屋にブチ込むとか縛っておくとか何か方法はあっただろう」

「どのみちこいつらは縛り首か、よくて奴隷扱いだ。それに手負いのヤツは何をするか――」

 セオッツは言葉を続けようとしたのだが、こちらを見たまま一瞬硬直するも直に声を上げた。

「ケージ!後ろだ!!」

「――!?」

 反射的にスキルを最大強化して振り向く恵二。そして見た光景は片手を失った男が無事な方の手で短剣を持って、恵二を庇ったサミを刺している光景であった。

「――――っ!」

 咄嗟にスキルで身体能力と五感全てを限界まで上昇させた恵二には、周りが止まったかのような錯覚を受けた。正確には凄くゆっくりと時間は動いているのだが、恵二にはそう感じられたのだ。

 時間が停止したかのような感覚の間に、普通に動ける恵二はサミに短剣を突き刺している男の首を斬りつける。さっきまでは人を殺めることに抵抗感があったが、それ以上に今はサミを助けたい一心で行動した。

 恵二に斬られた男の首からは、非常にゆっくりとではあるが血飛沫が飛び出つつある。血の滴一つ一つが視認できるほどの光景はとても奇妙であったが、そんなこと恵二にはどうでもよかった。

(――サミ!)

 彼女を見ると、男の短剣は彼女の右肩にその鋭い先端を刺しこんだばかりであった。どうやら恵二を後ろから刺そうとした男にいち早く気がついたサミが咄嗟に間に入って庇ったようだ。

 直ぐに男を後ろに蹴飛ばし、短剣を彼女の肩から引っこ抜く。短剣の刃先にはサミの血がついていたが、その血糊を見る限りではほんの数センチ刺さっただけのようである。

 ひとまず強化を解除すると、蹴飛ばされた男は首から上を切り離され血飛沫をあげながら倒れる。

「――っ!」

 サミも刺された箇所に痛みが走り、思わず顔をしかめる。肩からは少しずつ血が出始めた。

「サミ!無事か!?」

「えっと、何がどうなってんの?」

 恵二を庇ったサミは刺されたと思った瞬間、目の前の男がほんの少し離れた距離で首を切断され息絶えていたのだ。一瞬の変化に思考がついていかない。肩から血を流してもお構い無しで状況を質問してくる。

(とにかく止血をしないと)

 そう考えた恵二はすぐに救急袋を取りだそうと馬車へと駆けていく。セオッツも慌ててサミの方へと駆けつける。

「サミ、痛まないか?毒とかまわってないか?」

「少しチクってしただけで大袈裟よ。暗殺者じゃあるまいし、毒なんて塗ってるわけ無いでしょう?」

 大騒ぎしすぎだと本人は言うが、ちょっとの出血にオロオロとする二人。セオッツは念のためだとサミの傷口を清潔な布で巻く処置を施した。一息ついた後セオッツは口を開いた。

「ケージ、なんで止めをちゃんと刺さないんだ?危うくお前が殺されるところだったんだぞ」

 セオッツは静かな口調で恵二をそう責める。確かにセオッツの掛け声が無ければ、それにサミの咄嗟の行動がなければ気づかないまま後ろから刺されていたかもしれない。

「すまない、俺の判断が甘かった。今度は武器もちゃんと取り上げておく」

「いや、そんな手間かけるよりさっさと殺った方が楽じゃないか・・・」

 自分のミスだと謝罪した恵二に返ってきたセオッツの台詞は物騒なものであった。人を殺めたのが初めての恵二にとってはとても容認できる言葉ではなかった。

「待ってくれ、そう簡単に命まで奪わなくてもいいじゃないか。俺はなるべく殺しをしたくない」

 正直な自分の気持ちを伝えるもセオッツは鼻で笑ってそれに応えた。

「甘いぜケージ。盗賊なんかに情けを掛けるなんて自分の首を絞めるだけだぜ。現に自分だけでなくサミにも害が及ぶところだったじゃないか!」

「ちょっと、セオッツ・・・」

 自分の甘さがサミをも巻き込むところだったと責められ言葉を失う恵二。話が変な方向に行きそうな予感がしたサミは止めようとするが、それにかまわずセオッツは言葉を続ける。

「お前が情けを掛けた相手は、その次の日に意気揚々と他のヤツを殺すだろう。殺されそうになった相手にまで手心を加えるなんて間抜けすぎるぜ!」

「そこまで言わなくてもいいだろう。俺はお前ほど人殺しには慣れていないんだよ!」

「じゃあ今すぐに慣れろ!盗賊なんていくら殺しても誰も責めはしねーよ」

「二人とも少し落ち着きなさい」

 段々とヒートアップしてきた二人にサミは声を掛けるも耳に入っていないのか口論は続いて行く。

「なんでそんなに盗賊を目の敵にする?仕方なくやってるヤツや命まで取らないヤツもいるかもしれないじゃないか」

「ハッ、仕方なく盗人している奴は悪くないから見逃せだって?冗談じゃない!お前、盗賊に家族を殺されたヤツを目の前にしてもそんな台詞を吐けるのか?」

「ぐ、それは・・・。でも殺したらそれまでじゃないか!生きて罪を償わせるとか改心させるとか・・・」

「綺麗ごと言うな!アイツらは一生クズのままだ。盗賊は生かす価値なんて無い、皆殺しにでもすればいい!」

「・・・お前、盗賊に恨みでもあるのか?それで盗賊を皆殺しだなんて、やってることはアイツらと変わらないじゃないか」

「――っ!ケージ、テメエ!」

 セオッツは声を上げると右拳で恵二の頬を殴りつける。2、3歩後退するも恵二は咄嗟に強化したお蔭で踏みとどまると、セオッツへと駆け出す。

「やりやがったな!」

 今度は強化をせずにそのまま拳を繰り出す。殴られたせいで大分頭に血が上っていた恵二だが、なんとかギリギリ残った理性で強化をするのは避ける。素の状態での恵二の拳など、セオッツには欠伸が出る攻撃であろう。しかしそれをセオッツは避けもせず見事に貰うが、恵二の時とは違いセオッツは後退することなくその場に留まり声を上げる。

「強化もしねえお前の攻撃なんざ屁でもねえ。いいから遠慮せずかかってこいよ!」

「――っ!後悔すんなよテメエ!!」

 完全に切れた恵二が強化を掛けようと試みた瞬間――

「はい、そこまで」

 サミの声とゴンッという鈍い音が頭上でしたのはほぼ同時であった。少し遅れて頭がジンジンと痛みだす。どうやら彼女の杖で叩かれたようだ。思いがけない不意打ちに頭を押さえ蹲る恵二。

「サミ、出しゃばるんじゃねえ!」

 セオッツが暴言を吐いた瞬間、確かにピキッと音がしたのを恵二は感じとった。サミを始め周囲の気温が下がって行くように感じたのは果たして気のせいなのだろうか。

「出しゃばるなって何それ?もしかして、私にいったのかしら?」

 サミの感情の籠っていない口調と蔑んだ目に怯んだセオッツはすっかり熱が冷めていた。

「出しゃばらないで頂けないでしょうか?」

「丁寧に言いなおしても駄目。出しゃばらせてもらうわ」

 どうやらサミの小言が始まるようだ。すっかり威勢を挫かれたセオッツはげんなりした表情をする。

「二人とも論点がずれ過ぎよ。とくにセオッツ!あんたは冒険者として先輩なんだから恵二にちゃんと教えてあげなさい。感情が先行して滅茶苦茶言ってるわよ」

「・・・ちっ」

 軽い舌打ちをするとセオッツは馬車とは反対方向の盗賊たちの亡骸へと向かった。

「ちょっと、まだ説教は終わってないわよ。ったく・・・」

 叱っていたセオッツがいなくなると今度の矛先は恵二へと向かった。サミの小言はまだまだ続きそうであった。
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