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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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ごほん

今日もギリギリセーフで投稿できました。次の分も頑張るぞ!
「そっちに3匹いったぞ!」

「おーけー!」

 セオッツから魔物3匹を取り逃したと告げられ代わりに恵二が迎え撃つ。相手が持っているのは棒切れや錆びついた盾など拾い物なのだろうか。装備はどれもボロボロでちぐはぐであった。

 迫る3匹の魔物は何れも小柄な恵二より更に小さい体型であった。それでも武器を持って襲ってくる以上は決して油断をしていい相手ではない。己の身体能力を超強化(ハイブースト)で5%くらいの匙加減で強化させる。

 強化した状態の恵二は、すぐに相手との距離を詰めるとまずは1匹の首元に逆手で持った短剣を走らせる。そのマジッククォーツで作られた切れ味鋭い短剣は、魔力を通すと更に威力を増して襲撃者の首を豆腐のように切り離す。

 あっという間に1匹がやられたのを見て、他の2匹が動揺する。その間に恵二は体を反転させ今度は順手に短剣を持ち替えて更に1匹の首を飛ばす。すかさず3匹目を捉えようとするも、1匹目がやられた瞬間に逃げ出したようで、恵二に背を向けて森の方へと駆けて行った。

「私に任せて」

 突如後ろの馬車から声が掛かる。御者をしていたサミは魔物の襲撃時も馬を宥める為、操縦席に座りっぱなしであった。彼女はその体勢のまま魔術を詠唱する。訓練の成果か以前彼女が詠唱した時と比べると、大分時間が短くなったようだが無事魔術が発動する。

火弾(ファイヤーショット)!」

 威力は小さめだが速度は十分出ており、背を向けていた魔物は躱す事が出来ずに頭部に着弾する。頭に火が纏わりつきバタバタと地面に転がり続け数十秒、動きが完全に止まった。どうやら事切れたらしい。

「悪い、何匹か逃がしちまって」

 声がした方に目を向けると、手に持った長剣を血で染めたセオッツがこちらにやってきた。セオッツの後ろには先程の襲撃者の仲間であろう同種の魔物の屍が数えきれないほど血まみれで転がっていた。それにもかかわらず彼自身には全く返り血が付いていない。恐らく汚れないよう気にして戦える程余裕があったのだろう。

「気にすんな。俺も小鬼(ゴブリン)と一度戦ってみたかったし」

「おまえ、そのランクになるまでゴブリンと戦ったことが無かったのか?」

 そう、恵二たちの馬車を襲撃したのはファンタジー世界でお馴染みの小鬼(ゴブリン)の群れであった。最初姿を現した時には、その数に度肝を冷やされたが先陣をきったセオッツがバッタバッタと倒していくのを見て安心して戦う事が出来た。
 今回がゴブリンデビュー戦だと伝えると二人は呆れたような声を上げた。

「ゴブリンより先にドラゴンを倒すなんて、ホントあんたらしいわね」

「ドラゴンデビュー戦、したかったなぁ・・・」

 サミの一言に以前そのチャンスを逃した事に気を落とすセオッツ。恵二はサミに抗議の視線を送ると、余計な事を言った自覚があるのか彼女はそっぽを向いた。

「と、とにかくさっさと後片付けして先行こうぜ」

 恵二の掛け声でそれぞれ動き出す3人。ゴブリンの死体をそのままにはしておけず、貰える物や必要な素材を頂いた後はまとめて火葬した。


 やっと片づけ終わった3人は馬車に乗り込み再出発をする。馬車を進めていくと、街道の北側にずっと景色の一部であった広大な森が段々と離れていく。どうやらグリズワードの森はここまでのようで、この先西に進むと小さい森や山々などが点在し、更に進むと今度は平原地帯に入るらしい。
 3人が目指しているシキアノスは、国土のほとんどが平地であるようだ。その為整備された道が多く、商人の馬車が頻繁に行き来しているらしい。大陸のほぼ中央に位置するこの国の人々は比較的豊かな暮らしをしているのだとサミは話す。

(しばらくはグリズワードの森ともおさらば、か・・・)

 恵二は森であった銀狼たちの事を思い出す。彼らの住みかはここから大分離れてはいるが、同じグリズワードの森なことには変わりない。しかしこの国に来てからは森には殆ど入らなかった。骸骨の弓手(スケルトンシューター)を倒す為に踏み込んだくらいである。

(一区切り付いたらこの森やあの山脈も見て回りたいなあ)

 目の前の森だけでなく、大地竜(アースドラゴン)騒ぎのあった山脈も見てみたかった。先の依頼で色々と体験した恵二ではあるが、もっとゆっくり観光したかったと嘆く。

 グリズワードの森が段々と小さくなっていくと、サミの言った通り今度は小さい森が見えてきた。小さいとはいってもあの広大な森と比べてなので、それなりの規模ではあった。

「なあ、この森はなんて言うんだ?」

「さあ?名前なんてあるのかしら?」

 近くに人里も無く、特に名称がなくても困らないのだろう。

(よく考えたら“グリズワードの森”というネーミングもそのまんまだしな)

 あまり森や山には名前を付ける習慣がないのだろう。この世界の住人の大半は、生まれた町や村から出ることなくそのまま生涯を終える。“あの森”とか“そこの山”で十分話が通じるのだ。

「そういえば、そこの森には遺跡があるなんて話を聞いたわね」

「なに!?」

 森や山の名称について考え事をしていた恵二は、突然のサミの発言に食いつく。

「ホントか!?どんな遺跡なんだ?」

「わ、わからないわよ。聞いたってだけで詳しいことは・・・」

 どうやらサミは故郷からハーデアルトへと向かう馬車の途中、一緒に乗っていた男が“この森には遺跡があった”と話しているのを思い出したらしい。それ以上は分からないと語る。

「ケージって遺跡に興味あるのか?」

「ああ!」

 セオッツの質問に即答する恵二。未知の森や山などにも興味をそそるが、遺跡巡りなんてまさしく冒険の代名詞とも言える一大イベントだ。ぜひ行ってみたいとその森をジッと見つめアピールする。しかし無情にも彼女は一向に馬車のスピードを緩めない。

「・・・悪いけど、寄り道している時間が惜しいわ」

「・・・」

 目で訴えるも彼女は馬車の運転で前方を見ているため無駄に終わった。

(仕方ない、いつかまた訪れるか。待っていろよ遺跡の森)

 勝手に森を命名する恵二を余所に隣にいるセオッツは語りだす。

「俺は遺跡より断然ダンジョンの方がいいね。強い魔物がいっぱいいそうだ」

「おお!ダンジョンか!」

 この異世界にもダンジョンはあるらしく、恵二が目指す魔術都市エイルーンにも2つ存在するそうだ。セオッツもダンジョンは未体験らしく、二人はあれこれと聞いた話から想像を膨らませ盛り上がる。

「なあサミ。シキアノスにダンジョンってないのか?」

「んー、聞いたことないわね。お隣の<ヴィシュトルテ>にならあるって話だけど」

(そうか、シキアノスにはないのか・・・)

 少し気落ちする恵二だが、確かヴィシュトルテという国はシキアノスの西隣だったと記憶している。つまりエイルーンへの通り道にある国だ。

(寄ってみるのも悪くないかもな)

 気が早く既に1つ先の国のことを思い浮かべていると、突然隣でセオッツが声を上げる。

「サミ。前方に人影だ」

「・・・本当ね。あんた、なんで前にいる私より先に見えるのよ・・・」

 セオッツは本当に視力がいいようだ。恵二も前方を見るが、目を凝らしてやっと人らしいと判断できたくらいだ。どうやらその人影は3人のようで、街道をこちら側に歩いている。その内この馬車とすれ違うだろう。

 人影を確認したサミはキョロキョロと辺りを見回す。隣にいるセオッツも周囲に目を配る。何をしているのだろうかと疑問に思った恵二は、次のセオッツの言葉で理解する。

「サミ。この辺に盗賊って出るのか?」

「そういう話は聞かなかったわね。少なくとも行きは出なかったわ」

 どうやら二人は、彼らが盗賊ではないかと疑っているらしい。すかさず恵二は魔力探索(マジックサーチ)強化(ブースト)して辺りを探る。

「・・・いた。前方右側の岩陰に3人。反対の茂みに3人誰かが隠れているぞ!」

「あんたも大概ね。よくこの距離で探れるわね」

 もうこの反応にも慣れてきた恵二はサミの呆れ混じりの言葉にこう返す。

「そっちこそ、よく盗賊だって見抜いたな。なんで分かったんだ?」

「ん?分からなかったわよ?」

 サミはキョトンとしてそう返す。セオッツも不思議そうにこちらを見るが、“ああそうか”と呟いてから恵二に説明をする。

「街道で出会ったヤツを見かけたら山賊と疑ってかかる。冒険者というか旅をする上での常識だぜ」

 どうやら二人は初めからそう疑って行動していたようだ。お蔭で事前に山賊だと気づく事が出来たのだ。

(俺ってまだまだこの世界の常識が身に着いていないなあ・・・)

 そんなことを考えていた恵二の横では、セオッツが御者であるサミと色々と相談していた。

「このまま馬車で突っ込んだらどうだ?あいつら馬持って無さそうだぞ」

「そうしたら間違いなく馬を狙ってくるわよ?嫌よ、買ったばかりの馬車を傷つけられるのは」

「それなら迂回すれば良いんじゃないか?」

「却下だ」
「却下ね」

 恵二の提案に二人揃ってダメ出しをする。何故駄目なのかを尋ねると、迂回するにはまず街道を外れること。すると目の前の厄介事は避けられても、危険な魔物に遭遇する恐れがある。更に盗賊にも既にこちらを見られており、つけられでもしたら面倒だと諭される。街道と違って道の無い所は馬車も速度が出ないのだ。

「それにお前、これ以上の悪路で馬車酔い大丈夫なのか?」

 そう言われると何も言い返せない。結局短い間に行われた議論の末、盗賊だと気づかない振りをして近づくことにした。向こうも盗る対象物である馬車や、奴隷として売れる3人を迂闊に傷つけたりはしないだろうと考えたからだ。

 もう大分近くまで迫ってきて3人の姿がハッキリと捉えることができた。街道の真ん中にいる3人は一見普通の旅行者に見える。武装も一切していないようにも思えるが、魔物や盗賊が出る街道で非武装なのがそもそも怪しい。疑ってよく見ると分かりやすいもので、左の男はポケットに手を突っ込んでいるが恐らく短剣でも持っているのだろう。右の男はあからさまで片手を背中の後ろに回していて何かを隠している。

 真ん中の背の低い男だけはよく分からなかったが注視するとあからさまに怪しい3人組であった。

「おーい、止まってくれー!」

 真ん中の背が低い男が両手を大きく振って大声で話しかけてくると、サミは馬車の速度を緩めて向こうに聞こえるよう声を張って返す。

「何か用かしら?」

「さっきそこで盗賊たちに馬車や食い物を盗まれちまったんだ。助けてくれ!」

 サミの質問に大声で返す男。どうやらそういう設定らしい。

(なーにが“盗まれちまった”だ。盗賊はお前らだろうが!)

 心の中で悪態をつくが恵二たちは助けるそぶりを見せる為に馬車を3人から少し離れた場所に停車させる。馬車に乗ったままだと最悪、足止めとして馬が攻撃されかねないからだ。

(――動いた!?)

 魔力探索(マジックサーチ)で探っていた恵二は、岩陰や茂みに隠れている者たちが動くのを感知した。恐らく馬車を停止させたのが行動開始の合図になったのだろう。

「あー、ごほん、ごほん」

 恵二はわざとらしく咳をする。予め決めていた“伏兵が動いた時”のこちらの合図であった。恵二の下手な演技に二人は思わず顔をしかめる。

(俺にそういうのを求めるな。苦手だって言ったじゃないか)

 心の中でそう弁明する。駆け引きの苦手な恵二は事前に自信が無いとは告げていたのだが、冒険者ならそれくらいの芝居をやって見せろと言われ仕方なくやったのだ。

 恵二の様子に若干怪訝な表情を見せた盗賊(仮)の3人はこちらに近づきながら笑顔でこう話す。

「いやー、まさに天の恵みだよ。困っていた所に丁度君たちが現れて助かったよ」

 背の低い男は心底ほっとしたような表情で話しかけてくる。まるでこれが演技をするということだと恵二に見せ付けるように。

(こいつ、うめえ!多分俺だけだったら確実に騙されていた・・・)

 恵二は共にいた二人の機転で伏兵を見つけることができたのだ。それがなければ何も知らないままこの男に手を差し伸べてしまっていただろう。一方伏兵たちは隠れながらコソコソと近づいてくる。そろそろこちらも芝居は終わりでいいだろう。サミが一歩前に出て男たちにこう言い放つ。

「ところでおじさん。後ろに何持ってるの?」

 ビクッと表情を凍らせる右側の男。一瞬躊躇った後、背後に隠し持った得物を取り出したのとセオッツが飛び出したのは、ほぼ同時であった。

 男が持っていたのは刀身が曲がった剣、恵二のイメージでは海賊が持っていそうな剣であった。その刃の部分は部厚く、叩き斬られたら死ぬほど痛そうだ。しかしその剣が本来の役目を果たす機会は無さそうだ。何故なら剣を持っていた男の腕ごと宙を舞ったのだから。

 こうして冒険者たちと盗賊たちの戦いの幕は、男の右腕と一緒に切って落とされた。
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