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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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買えばいいんじゃね?

「あれからよく考えたのですが、この町に暫く留まることに致しました」

 昨日返事を保留してからの翌朝、商人ダーナはそう結論を告げた。やはり日頃世話になっているガルムの怪我を無視できないと理由を話した。

(なんとなく、そう選択する気がしていたな)

 短い間ではあるが、この商人は損得よりも人との付き合いをとても大事にする性格なのだと知った。それも良い商人の条件の一つでもあるのだろう。彼は一緒に旅をして来たガルムたちの意向を汲んだ。

 結局シキアノスへ辿り着く前に依頼を終える形となった。ダーナは冒険者たち一人ひとりに謝罪をし、出来うる限りの要望は飲むことを告げた。しかし十二分に報酬を貰っている冒険者たちは誰一人とも文句を言わず、それ以上の見返りを求めなかった。
 恵二の気がかりはガルムと同じく重症のリックであったが、ダーナは纏めて面倒を見ると約束してくれた。

 しかしダーナはシドリスの町では物資を格安で提供し商談する時間も無く、その上目的地に着くことさえできずにで大赤字では無いかと恵二は尋ねた。それにダーナは確かにと苦笑いをしてからこう言った。

「得る者はありましたよ。ケージさんを始め有能な冒険者に縁を作ること、そして親方さんに恩を売ることも出来ました。これだけあれば何時かは元が取れますよ」

 なんとも商魂逞しいものである。恵二はダーナから途中までの報酬を貰うと別れの挨拶を済ませる。しかしその際、商人からひとつ頼まれ事をされた。

「聞きましたよ。なんでもエイルーンを目指しているのだとか」

 どうやらセオッツかサミに話を聞いたのだろう。二人には恵二の目的地を話していたのだ。

「それでしたら、もしシキアノスの<ヘタルス>へ寄ることがあればこれを渡しては頂けないでしょうか?」

 そういうと商人は手紙を恵二に渡した。

「これを私の家にいる家内に渡して欲しいのです。今回の経緯と遅れて帰ることが書かれております」

 ダーナの簡単な家の場所や特徴を聞かされ、機会が無ければ捨てても構わないと告げられた。

「さて、ケージさん。名残惜しいですが余り引き留めても申し訳ないですね」

「色々お世話になりました。リックさんを頼みます」

「ええ、任せて下さい。ケージさんたちも旅のご無事を祈っておりますよ」

 こうして初護衛の任務は中途半端な形ではあるが終了した。



「それじゃ、さっさとシキアノス行きの乗合馬車を探すわよ」

 サミの言葉に頷く恵二とセオッツ。依頼を終えた同世代の冒険者3人組は、サミの故郷であるシキアノス公国のセレネトを目指すことにしたのだ。そのきっかけとなったのはセオッツであった。
 以前サミが恵二に持ちかけたボディーガードの件をどうやらセオッツにも話したらしい。依頼を終えたばかりで次の予定を考えていなかったセオッツは二つ返事で了承したようだ。更にセオッツは恵二にも一緒にどうだと話を持ちかけた。それにはまだ返答をしていない恵二だが、とりあえずセレネトの町までは同行しようと決めたのだ。

 そうと決まれば早速行動に移す恵二たち。一先ずシキアノス行きの馬車を探すがこれがなかなか見つからない。やっと情報を得たと思ったら、なんとその馬車はつい先程発ったばかりらしい。次に来る予定は一週間後(この世界では六日後)になるという。

「流石にそんなには待てないわね・・・」

 昨日もそんな節があったが、どうやら彼女は急いで帰りたいようだ。そんなに実家の状況は悪いのかと尋ねるが、彼女自身も余り詳しいことは分からないとおかしな回答が返ってくる。
 どうやら彼女はハーデアルト王国の東隣、シイーズ皇国で活動をしていたようだ。しかしある時実家から便りが届いた。その手紙にはどうやら実家が面倒事に巻き込まれている旨が書かれていた。いても立ってもいられず、シキアノスへ帰ろうとしたところに丁度ダーナの護衛依頼が舞い込んできたらしい。

「だから極力早く帰りたいのよ」

 しかし、乗合馬車はタイミングが合わず最低でもこの町で6日間は足止めをくらう。徒歩で行った方が早いだろうかと考えていた恵二とサミにセオッツはこう切り出す。

「なら馬車買えばいいんじゃね?」

「あのねえ、どこにそんなお金・・・」

 何を馬鹿なと反論しようとしたサミは途中で言葉を止め考え事をする。馬車の相場が分からない恵二はセオッツに買えるのかと尋ねる。セオッツは農家の出で作物の他に家畜なども扱っていたらしく、馬の相場を多少は知っていた。車両の方はいくらするのか分からないが、ダーナから多くの報酬を受け取った3人ならば折半でギリギリ買えないことも無いだろう。

(買えるのか?いや、そもそも誰が操縦するんだ?)

 恵二は馬車の操縦どころか馬にも乗ったことが無い。セオッツに操縦できるのか聞いてみるが同じく出来ないとのことであった。

「御者を雇うにしても予算オーバーか?」

「ああ、片道となると行きたがる奴を探すのも面倒だな」

 駄目かと諦めかけた恵二とセオッツ。しかしそこに突然サミが割って入る。

「それなら任せなさい。私が操縦するわ」

「「へ?」」

 突然の少女の台詞に思わず間抜けな声を揃って出す少年二人であった。



「ほう、馬車をですか・・・。それなら良いお店を紹介しましょう」

 馬車の購入を決めた3人は、先程別れたばかりのダーナの元へ再び戻ったのだ。最初は自分たちだけで馬車を買いに行こうとしたのだが、流石にセオッツも馬だけでなく客車の方までは善し悪しが分からずここは目利きの商人を頼ろうとダーナの元へと訪れたのだ。

 早速ダーナに連れられとある店へと案内される。その店は恵二たちが最初に向かおうとした大きな馬車の店では無く、小さくはあるが小綺麗な商店であった。

(こんな所に馬車売ってるのか?)

 恵二の疑問も尤もであった。馬は一切見当たらず、それどころか客車も入りそうに無い小さな店であった。

「御主人、久しぶりだね」

「やや、これはダーナさん。よくいらっしゃいました。今日はどのようなご用件で?」

「実は彼らが馬車を欲していてね。・・・彼らは信用できる。ひとつお願いできないかな?」

「ダーナさんがそう仰るなら。どうぞ中へお入りください」

 そう言って恵二たちを店の中へと通す主人。戸惑いながらもダーナの後を追って店内に入る。中に入ると奥にある扉の方に案内される。どうやらその扉は裏庭に繋がっているようで、店の裏側に出た。その裏庭は高い木材の塀で囲まれていて、外からは中の様子が伺えないようになっている。さっきの思わせぶりな会話といい何やら秘密があるようだ。

「さて、始めましてお客様。ダーナさんのご紹介という事ですが、まずは名乗らせて頂きます。私はマウロ商会の代表マウロと申します」

 ただの店主かと思いきや、どうやら商会の代表のようだ。恵二たちもそれぞれ自己紹介をする。それが終わるとマウロは再び口を開いた。

「これから行うことは他言無用でお願いします。その為にこの裏庭に来ていただきましたので」

 何を行うのか皆目見当がつかず、説明も無しに他言無用と言われ戸惑う三人。しかしここはダーナを信じその言葉に頷くと、マウロは古びたポーチを取り出した。

(ん?あのポーチ、魔力が込められているのか?)

 そのポーチにはかすかに魔力を感じる。恵二は魔術の制御技術だけでなく、魔力にも人一倍敏感な才能を持っていた。その事にはまだ自覚が無かった恵二は、その魔力を籠ったポーチに目を奪われる。

 マウロはポーチに手を突っ込みすぐに何かを取り出すと、信じられない現象が起こった。なんとマウロの目の前には馬車用の車両が飛び出てきたのだ。

「「――なっ!?」」

 余りにも現実離れした光景に度肝を抜かされる三人。見間違いでなければ目の前の大きな車両は確かにポーチから出てきたのだ。精々じゃがいもが3個分くらいしか入りそうにないポーチからだ。

「・・・【マジックポーチ】」

 サミがそう呟く。なんだそれはと尋ねるセオッツにサミは答えた。

【マジックポーチ】
 魔導具の創作に長けた魔術師が生み出した希少なマジックアイテムである。ポーチの中は異空間になっており、そのポーチの大きさを無視して物を出し入れすることが可能である。その積載量は作り手の技量や素材次第で増減し、馬車の車両を持ち運びできる程のポーチなど3世代は遊んで暮らせる売値がつく代物なのだとか。

(なんだそれ!?超便利アイテムじゃねーか!)

 サミの説明を聞いて俄然欲しくなる恵二だが、そのあり得ない相場を聞いて早々に諦める。

「これを持っていることを他人に知られると、最悪殺されてでも奪い取る輩が現れるかもしれません。どうか他言無用に願います」

 確かにこんなレアアイテムを持っているのなら、決して誇張なんかでは無く本当に命がけであろう。マウロはこのポーチを極一部の人間にしか教えていないのだとか。それをあっさり恵二たちに教える当たり、紹介したダーナの信用度も相当なもののようだ。

 マウロはこのポーチを使い商売を営んでいる為、店の大きさは必要としないのだとか。しかしあんまり派手に使う事も出来ず、ダーナのような信用ある商人を仲介に商売をしているようだ。

 これで車両は用意でき、後は馬だけなのだがそちらも知り合いの馬主に話をつけてくれるようだ。ダーナには結局最後までお世話になりっぱなしであった。改めてお礼と別れを告げて三人が町を出発したのは太陽が西へと傾き始めた頃合いであった。



 三人が折半して購入した馬車は馬一頭と4人乗りの軽い客車の馬車であった。荷物などは最低限しか持っていない恵二たちは、積載量は少ないがスピード重視の馬車を購入したのだ。

「しかし馬車の運転までできるなんて、サミはもしかしていいところのお嬢様なのか?」

「んな分けないでしょう。たまたま教わっただけよ」

 恵二の質問にそう答えるサミ。彼女は御者として車両前の操縦席で馬を操り、恵二とセオッツの役に立たない男二人は後ろの席で暇を持て余していた。

(たまたまで馬車の操縦を習うか?普通・・・)

 サミの返答になんだか腑に落ちないものを感じるも、それ以上は突っ込まない恵二。それよりも恵二は馬車酔いとの戦いに忙しいのであった。それを察したセオッツは気の毒そうに恵二を見た後サミに話しかけた。

「なあ、この後どこに向かうんだ?今日はとりあえず野宿か?」

「そうなるわね。街道沿いに進めば町があるけど、少し離れているのよ。多分到着は明日の昼過ぎじゃないかしら?」

 サミはかつて故郷からハーデアルトへと旅した記憶を辿り、到着予想時間を口にする。この世界では地図は余り普及されていない。計測技術が未熟なのと紙が贅沢品な為、一部の金持ちか要職の人間なら所持しているが一般人は頭の中で覚え会話で場所のやり取りをする。

(まあ街道を沿っていれば迷子になることもないか・・・)

 サミには悪いがここは任せて馬車酔いと本格的な死闘を演じるのである。



「完敗だぜ・・・」

「お前は本当に馬車に弱いなあ」

 前回の馬車ではドーピングに頼っていたツケであろうか、依然として慣れる兆しが無かった。こんなことならダンノに聞いて酔い騙しの実を購入しておくべきであった。



 日も大分落ちてきたのでそろそろ野営の準備をする。といっても3人はテントなど必要とせず馬を近くの木に繋げて簡単に晩飯を済ませる。後はそのまま車両の中で寝るだけだ。ただし1人は見張りに立たせることにした。

「本当に見張りをしなくてもいいの?」

「ああ、俺たちが見張ってるから寝てろって」

 馬車の操縦を任せっぱなしであった少年二人は、せめて夜くらいはとサミを休ませる為見張り番を買って出たのだ。

「そう。じゃあ遠慮なく」

 おやすみと一言挨拶をすると、すぐさま毛布に包まり寝息をたてる。己の体を何時如何なる時にも休めさせる為に、直に寝れるのも冒険者として必要な技能だと恵二は教わった。

(それにしても、男二人を前にしてこうも簡単に寝るのもどうなんだ?)

 年頃の少年である恵二はどうしてもたまに彼女の仕草などに意識を向けてしまう。しかしサミの方は二人を男として見ていないのか、それとも仲間として信頼してくれているのだろうか。平然としているように見える。

「なあ、寝顔覗いてやろうぜ」

「…止めとけよ、魔術ぶっ放されるぞ?」

 巻き添えなど御免であった恵二はイタズラしようとしたセオッツを嗜める。この後二人で交互に見張りをするのだが、セオッツが魔術で軽い火傷をした以外は至って平穏な一夜を過ごした。
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