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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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使えないらしい

 男は現在グリズワードの森の中を歩いていた。森には凶悪な魔物が多数存在するというのに物おじせず歩みを進めていた。男の出で立ちは一言で現すならば“地味”であった。ごく平凡な長めの外套を身に着け、顔はフードで隠していた。その傍らには同じ様な格好をした女も付き添って歩いていた。

 その男女は一見地味ではあったが、時たまフードから見え隠れする顔立ちはとても端正でどちらもさぞ異性にモテるのであろう。二人は黙って歩いていたが、やがて付いて歩いていた女の方が音を上げて声をかけた。

「あのー。本当にいるんですかあ?八人目だなんて」

「しつこいな。確かな情報だ。・・・この情報には大金が掛かったんだからな」

「・・・それって騙されたんじゃないですか?」

「・・・・・・」

 あんまりな女の言い草に黙ってしまう男。しかし、このまま黙って歩き続けるのが嫌な女は更に男に話しかける。

「それにしても、なんでこんな森の中を歩かなければいけないんですか?」

「そりゃあ、見つからない為だろ?」

「森からの越境行為は違法ですよ?」

「あのなあ、まさか堂々と国境を越える分けにもいかないだろ?」

 呆れた声でそう反論する男。そう、この森は確かにグリズワードの森ではあるが現在二人の位置は正確にはハーデアルトの領土内であった。彼らは森越しにグリズワード国へと不法侵入しようとしているのであった。

 勿論重大な違法行為でありリスクもあるのだが、そうするのには訳があった。彼らは上司から指示された任務を極秘で遂行している。その任務の為グリズワードに行く必要ができたのだ。しかし、彼らは表だって他国へと行き来をする分けにはいかない理由があった。

(なんだって、俺たちにこんな任務を・・・。間者にでも任せえればいいのに・・・)

 本来隠密行動など行わない男は、専門家である間者にでもやらせればいいのにと心の中で愚痴っていた。だが、それを押してまで彼らにこの依頼を託した上司の気持ちも分かるのだ。文句は色々とあるが、それは別で男はこの任務に意欲を燃やしていた。

(なんとしてでもこの任務を成功させる!あの方の為にも降って沸いたこのチャンス、必ずモノにしてみせる!)

 そう息巻いていた男であったが、直後何者かの気配を感じ取った。

「――っ!」
「っと。どうしたんですか?」

 男が急に止まり、慌てて後ろにいた女も足を止める。その質問には答えず男は黙って前方を見据えた。

 釣られて女もその視線の先を追うと、そこには小人族の男がいた。

「やあ、こんにちは。こんな森中で奇遇だね」

「・・・・・・」

 茶髪の小人族は場にそぐわない陽気な声で語り掛けてくる。その容姿は一見少年のようだが、顔の作りは若干大人びておりアンバランスさを感じさせる。典型的な成人した小人族の特徴であった。小人族の男はさらにこう続けた。

「君たちはここへは観光へ?それとも――」

「――まさか不法侵入かな?」

 小人族がそう告げたのと同時に外套を来た女は突然動き出した。彼女は男より一歩前に出ると、突然頭に羽織ったフードを取った。フードを取ると女の美しい青い髪と顔が露わになった。だが、たったそれだけの行為で全てが終わっていたのだ。

 それは一体どういった手品であろうか。女の視線の先にいる小人族と、その周りに生えている草や木々が一瞬で凍りついたのだ。小人族の男を中心に凡そ直径4.5メートルの範囲が一瞬で氷点下の世界となった。その突然の行為にも動じることの無い男は、代わりに深い溜息をつく。

「・・・だからお前と一緒に行動するのは嫌なんだ」

「なんですか、それ。ザイルさんのせいで森林警備隊に見つかったんじゃないですか!?」

 恐らくあの小人族は森林警備隊なのだろうと女は当たりをつけた。報告される前にさっさと凍らせた自分のファインプレーをむしろ褒めるべきだと主張したが、ザイルと呼ばれた男は再び深い溜息をつく。

「名前を呼ぶな。後なんでもすぐ凍らせるな。これでは結局侵入の痕跡を残してしまったではないか」

「あぅ・・・」

 尤もな反論にぐうの音も出ない。そんな彼女にザイルはさらに続けた。

「仕方ない。さっさとこの場を離れてグリズワードに入るぞ。そこにはきっと八人目がいる」

『ああ。やっぱりそれが目的だったんだね』

「「――!?」」

 突然の声に僅かに驚くが、すかさず臨戦態勢を取る二人。この声はさっきの小人族の男の者であった。直ぐに凍った小人族を見るが、それは凍りついたままであった。にも関わらずどこからか声は続けて聞こえてきた。

『ザイル君か。その名は確か、東の大国シイーズの有名な異名持ち、<飼い狂犬(サーヴァント)>の名前だったっけ?』

 女の失言ですぐに自分の正体を理解した声の主に、ザイルと呼ばれた男は舌打ちした後こう尋ねた。

「――っ!貴様、何者だ?」

『情報屋だよ。ま、今は休業中だけどね』

「・・・なるほど、他国の間者か!」

 男はそう言い放つと同時に何かを凍った小人族に投げつける。それは鋭い投げナイフであり見事小人族の氷像に命中すると粉々に砕け散る。こうなっては生きているはずなど無い。だがそもそも青髪の連れの女が凍らせた時点で生きているはずがないのだ。

 しかし不思議なことに相変わらずその声は辺りに響いた。

『酷いことするなあ。ただ話しかけただけで凍らされて、名乗ったらバラバラにするなんて』

「黙れ、道化!何が目的だ!?」

 ザイルは焦燥に駆られていた。最初はただの警備隊員かと思っていたが、その考えは間違いであった。未だに声の主の力量が計り知れないでいたが、恐らく相当格上の相手だということは分かった。それは連れの女も理解したようで、慎重に辺りを伺うも声の出所が特定できない。一体この小人族は何者なのであろうか。

『僕の目的は、君たちの目的を知る事さ。でもザイル君の名前を聞いて狙いがピンときたよ』

 心の中で舌打ちをするザイル。余計な情報を与えてしまったこの女を、やはり連れてくるべきではなかったかと後悔するがもう後の祭りだ。そんな苛立つ男の胸中なぞ我関せずと、声の主は更に語り掛ける。

『まあ、君なら大丈夫だろうとは思うけど、一応忠告はしておくね。もし、ケイジ君に手を出したら例え君やその主といえども・・・。――消えてもらうよ?』

 瞬間、心の蔵を鷲掴みにされたかのような圧迫感を受ける。今までに感じたことの無い濃厚な殺気だ。だがそれはすぐに治まる。

『以上、僕からのためになるお得な情報でした。ではこれにて失礼』

 その陽気な言葉と共に声の主は完全に気配をくらませたのであった。

「・・・・・・」
「・・・おっかねえ」

 思わずそう漏らす青髪の女に、心の中だけで同調する男であった。



 丁度同じ頃、旅を続けていたダーナ商隊一行は遂にグリズワードの首都<ヘウカス>へと無事辿り着いた。あれからアンデッドの襲撃は一切なかったが、その代わりに魔物たちは平常運転で襲い掛かってきた。何度目かの魔物の襲撃を退けて、やっとヘウカスへと到着したのであった。

「やっとまともな飯にありつける!」

 セオッツの第一声に他の冒険者たちも同調した。猪どものお陰で肉には困らなかったが、やはりキチンと調理された食事をとりたいと考えてしまう。

 町の入り口で手続きを終えると、一行はそのまま大通りを進んで行く。どうやら大通り沿いに泊まる予定の大きな宿屋があるそうだ。

 着いた先の宿は、馬車を牽引する馬たちを何頭も繋いでおくことができる広い厩舎があり、宿の中も大所帯のダーナ商隊全員を泊められるほどの広さがあった。

 一旦フロントのような所で集まった冒険者たちは、カンテから今後の予定を聞かされる。

「まずはこの町の教会にガルムとリックを連れて行く。二人の回復次第で今後の予定を決めるが、最速でも出発は明後日を予定している」

 ひとまず教会の神官に二人を看て貰うらしい。もう1人の重傷者イアンは既に自力で歩けるようになっており、高額な神官の治療を辞退したのだ。またダーナたち商人はシドリスで殆ど品物を売ってしまった為、明日はこの町で色々と仕入れるそうだ。ガルムとリックに問題なければ明後日の早朝出発となる。

「俺たちは一先ず教会に行くが、誰か手伝ってくれないか?」

 カンテは雇い主のダーナやパーティーメンバーのアミエラと共に、早速ガルムたちを連れて行くようだ。しかし大の男二人を運ぶのに途中までは馬車を使うが人手が欲しいという。

(リックさんには世話になったしな。手を貸すか)

 恵二が手伝うと告げると、セオッツとサミも同行すると言ってきた。最近同世代のこの二人とは戦闘や休憩時につるむことが多くなった。結局この6人で二人を教会まで連れて行くことにした。


<アムルニス教>
 中央大陸で尤も勢力を伸ばしている宗教である。なんでも最初は好き勝手に自分たちの想像した神様を信仰対象とする宗教団体であったようだ。それが遙か大昔に突如現れた、奇跡の殉教者アムルニスを神として信仰する宗教へと変貌したのだという。発祥の地とされる西の大国、聖教国グランナガンの聖都セントレイクからアムルニス教は広がり、現在では中央大陸のほとんどの国に教会が置いてあるほどだ。

 ここヘウカスにも大きな教会が存在する。普段は祈りや催し物、有り難い説法に懺悔を行う場所であるが、高額な“寄付”をすることで神の奇跡を受けることができるらしい。

(要は代金払って神聖魔術を掛けてもらうってことか)

 寄付という言い方には疑問があるが、代金を払って治療して貰うという話なら別段おかしなことではないなと考える恵二。
 日本で生活していた頃は、神社にお参りや墓参りなどは行ったことくらいあるが教会には足を踏み入れたことは無かった。恵二の中では宗教問題とか余りいいイメージが宗教に無かった為、ここケレスセレスに来てからも教会には余り訪れなかったのだ。

(まあ病院だと思えばいいか。それにミエリスみたいな可愛いシスターさんがいるかもしれない)

 正確には神官見習いであった少女ミエリスの事を思い浮かべる。彼女はたしか聖者隊と呼ばれるアムルニス教においてのエリート職にスカウトされて、現在遙か西の聖教国グランナガンにて猛勉強をしているはずだ。その後は聖都の要職やこの町のような大きな教会を任されるようになるのだと話していた。


 懐かしい少女の事を考えていたら、あっという間に教会へと着いた。教会の前に一旦馬車を停める。先に神聖魔術を掛けて貰えるよう話をつけてくると、ダーナとカンテは二人で教会の中へと入って行った。
 暫くすると二人は戻ってきた。しかし、話がついたにしては何故か浮かない表情を浮かべている。

(・・・?何かトラブルか?)

 馬車の所へ戻ったカンテの第一声は悪い報せであった。

「・・・今、神聖魔術は使えないらしい」

 二人の話を纏めるとこうである。どうやらこの教会で治療の魔術を担当している神官が、急に魔術を使えなくなってしまった。最初は魔術の使い過ぎで魔力切れを起こしたのかと思ったのだが一向に使える兆しは無い。仕方なく近場の教会に応援を頼もうと別の神官が神聖魔術の初級魔術<聖なる便り(セイントイヤー)>で連絡しようとしたが、これも使うことが出来ない。
 ここで初めて神聖魔術が使えないという結論に至ったのだ。

(おいおい、これってまさか・・・)

 恵二はこの現象に心当たりがあった。情報に目聡い商人のダーナも同じ考えに至ったようだ。

「・・・どうやらこの町は、現在<神堕とし>の影響を受けているものと考えられますね」

 その言葉に衝撃を受ける冒険者たちであった。



「さて、どうしたものでしょうか・・・」

 現在宿屋のロビーではガルムとリックを除く、ダーナ商隊が勢ぞろいであった。怪我人の二人は一旦町の療養所に預けてきたのだ。先程言葉を放ったダーナに続いてカンテが口を開く。

「二人の治療には暫く時間が掛かる。それを踏まえた上で、一旦この町に留まるか、それとも置いて商隊を動かすか率直な意見が欲しい」

 それにまず反応したのはダグラトだ。

「イアンが動けるようにはなったが、まだ本調子じゃねえ。俺たちは出来れば一度腰を落ち着かせたい」

 商隊が先へと行くのならここで護衛を辞めたいという。その分報酬も減らして構わないとダグラトは告げた。

「私は先へ急ぎたいわね。ここに留まるって判断なら同じく報酬は要らないわ」

 サミはダグラトとは反対の意見で先に進めたいらしい。もともとシキアノスへ行くことが目的だと話していた彼女の決意は固いようで、さっそく意見が別れた。

(俺としても出来るなら早いところ西へ行きたいんだけどなあ)

 恵二がこの依頼を受けたのは、西にある魔術都市エイルーンへと行く為のついでに受けたようなものである。どの道エイルーンへと行くには、途中にあるシキアノス公国も通るのでそれならと受けたのだ。

 恵二や他の冒険者も自分たちの考えを口に出す。理由あって先を急ぎたい者、無難に留まった方がいいと意見する者など様々だ。だが、アンデッド襲撃や<神堕とし>の範囲が広がったことが影響したのか、シキアノスに向かいたいという者の方が少し多かった。

「ううむ、意見は割れたが若干先に進みたい者の人数が多いか・・・」

「そのようですね・・・。少し考えさせて下さい」

 カンテやダーナは、旅を共にしてきたガルムの事を考え留まりたいと意見していた。しかし多数決では先に進む意見に軍配があがった。勿論最終的に決めるのは依頼主であるダーナであったが、冒険者の意見を蔑ろにする性格ではない商人は、一晩考えさせて欲しいと言ってこの場を去った。

(さて、どうなることやら)

 恵二はどっちの意見が通ってもすぐに行動できるよう、今後の事について色々と考えるのであった。
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