挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

25/83

ロックフォールド伯爵

大地竜(アースドラゴン)
 竜種でも珍しい、翼が無い魔物だ。代わりにその装甲は非常に硬く、ミスリス製の武器でも傷をつけることができないのだとか。成体になると体長は8メートル以上になり、口からは炎の息吹(ブレス)を吐き土属性の上級魔術すらも扱う。
 恵二たちが相手にしたのはまだ幼い個体であったらしく、食べ盛りなのか山奥から降りて町の近くまでやってきたらしい。まだ未成熟な大地竜(アースドラゴン)は、ブレスも魔術も使えなかったお蔭で隊員たちの被害は軽微であった。

 もう日が暮れる寸前であったので急いで町へと戻った第三警備隊と恵二たち。下山中、セオッツはずっといじけていた。

「ドラゴン……戦いたかったなあ……」

「……すまん」

 まさかあれが竜種だとは全然気が付かなかった恵二。翼も無ければ火も吹かない。魔物大全集をパラッとめくってみると確かに大地竜(アースドラゴン)の詳細が載っていた。しかしここのところ忙しくて全く読む暇が無かったのである。

「……大地竜(アースドラゴン)、一度戦って見たかったなぁ……」

「あー。悪かったって……、今度機会があったら譲るよ」

 出来れば余り遭遇したくはないが、そう約束をする。


 なんとか真っ暗になる前には町の手前まで来れた。遠くには町の明かりが見える。これで夜道を迷う心配も無くなった。恵二たち冒険者と御者の4名は、ひとまず警備隊の宿泊先と同じ宿屋で夜を明かすことにした。肝心の手紙も警備隊長に手渡し、それに目を通した隊長は明日にでもこの町を発ってシドリスに向かうと確約してくれた。

 これで一応の目的を果たした恵二たちは、ダグサスで一泊してから翌日の早朝ここを発つことにした。



「すまないが、こちらも準備がある。早ければ午前中には出発できる。恐らく到着は日が暮れる前になるだろう」

 隊長の話では討伐したら“はい終わり”ではなく色々と雑務が残っているらしい。特に滅多に見ない竜種の幼体ともなると、親が近くにいるかの確認や他の魔物の動向も気になるようだ。それを怠ってシドリスに向かっても、ダグサスが代わりに襲われては目も当てられないからだ。

「分かりました。俺たちは先に戻っていますね」

「ああ、ロックフォールド伯爵にも宜しくな」

(ロックフォールド?誰だ?)

 よく分からない名前が出てきたが、恐らくシドリスに在住する貴族だろうか。隊長の言葉に適当に頷き返す。

「それでは出発しますよ」

 御者が出発の合図をし馬を走らせる。これからまた長時間乗り物酔いと格闘するのかとげんなりする恵二を余所に、一行はシドリスを目指しダグサスを発った。



「……ダンノさん。もう切れそう……。あの実はもう無いの?」

 無言で首を横に振り、実のストックが尽きたことを告げるダンノ。出発から6時間くらいが経過したが、特に魔物との遭遇は無かった。流石安全な南の馬車街道といったところか。それより恵二にとって問題なのは、酔いを紛らわせる為に服用していた赤い木の実が切れたことだ。最初の頃は効果抜群だったが、段々と実の酸っぱさが慣れてしまった恵二はその服用回数を増やし、遂には実が無くなってしまったのだ。

(そのくせ馬車には一向に慣れない!)

 ズルをしたつけであろうか、行きよりも気分が悪いように感じる。

「本当にケージ君は馬車が苦手なようですね。なんならいっそのこと自分で操縦して見てはどうですか?」

 御者がそんなことを恵二に話す。そういえば自動車に酔いやすい人も自分で運転すると全然酔わないなんて話を大人たちから聞いたことがあった。それは馬車でも同じく適用されるのであろうか。しかし馬車を操縦できない恵二は今は耐えるしかなかった。



 それから1時間くらいしてようやくシドリスの町へと戻った。予め用意していた白い布きれを旗のように馬車の上に立て、門の見張り番に合図を送る。すると馬車が到着する前にその巨大な門が開門し始めた。そのまま馬車は門を抜けていくと、町の中の大通りで一旦停車をする。

「やーっと到着かあ」
「……うぷ」
「……」

 セオッツは大きく伸びをし、恵二はダウン寸前。ダンノは相変わらず無口であった。そんな3人の元へ帰還の知らせを受けて迎えに来た冒険者がいた。

「お疲れ様3人共。……ケージ君どうしたの?」

「あー、こいつ馬車酔いしちゃって……。カルイアさん、これ治せます?」

「うーん、魔力を温存しておきたいところだけどサービスしちゃおっかな」

 そういうとカルイアは詠唱を始め、恵二に光属性の初級魔術<治療(キュア)>を施す。するとさっきまでの気落ち悪さがスッと引いたのであった。

「凄い!気分が良くなった。ありがとうカルイアさん」

 礼をすると可愛らしい笑みを浮かべて“これは貸しね”とおどける彼女。

(やばい、惚れそう……)

 すると色ボケた事を考えていた恵二の元へ、到着の知らせを受けた親方が兵士長トッシュを引き連れてやってきた。

「よう、どうだった?警備隊は来れそうなのか?」

「はい。今日の日暮れ前には到着予定だと言ってましたよ」

「そうか、森林警備隊の連中さえ来てくれればひとまず戦力としては安心か」

 今日中には来れると聞いて安堵する親方。兵士長のトッシュはその情報を部下に告げ、衛兵に伝えるように指示を出す。

「そーいえば、サミのヤツはどこにいるんだ?」

 セオッツがそう疑問を口にしたので辺りを見回すが、彼女の姿は見えない。それにカンテやアルミラを始め、他の冒険者もあまり見かけなかった。

「ああ、彼らには町周辺の探索をしてもらっている。勿論ダーナさんの許可も取っている」

 どうやらダーナが気を遣ったようで、護衛につけていたカンテたちや手の空いている冒険者を、町のすぐ近くで探索させているようだ。今のところはアンデッドの報告はないとのことだ。

「ダーナさんや警備隊にだけ頼るのも悪いな。自分たちの町は俺たちが守る。俺は鉱山の男連中を引き連れて警備団を作ってくるぜ」

 親方はそういうと、さっそく人を集めに走り去った。それを見た兵士長は青い顔をして慌ててその後を追いかける。

「ま、待って下さい!貴方様が何も直接指揮しなくても代わりの者を用意します。ちょっと待って、ロックフォールドさまー!!」

「ええい、その名で呼ぶんじゃねえ!俺は“親方”だ」

 騒ぎながら去っていく二人を恵二たちはポカーンと眺めていた。

(ロックフォールドってさっき聞いた名前……だよな?)

 気になった恵二は近くにいた兵士にあれは何のやり取りだと二人を指差して聞いてみた。すると兵士は苦笑いを浮かべながらこう教えてくれた。

「あのお方はこの町の領主兼鉱山の持ち主(オーナー)であるマイク・ロックフォールド伯爵様だ」

 あの作業着を身に着けた厳ついおっさんは伯爵様だと告げられ思わず耳を疑ってしまう。それも無理はない。恵二の思い描く貴族とは煌びやかな服装で横柄な態度、運動不足の体型に髭面といった容姿が思い浮かぶ。思わず呟いてしまう。

「貴族に全然見えないなあ」

「……余り口にはするなよ。それと伯爵様を呼ぶときは“親方”とお呼びしろ」

 兵士に軽く窘められ、呼び方について注意された。どうやら本人がそう呼んでほしいと周りに言い放っているらしい。この国一番の変わり者貴族だそうだ。

「なあ、とりあえず腹減ったから飯にしようぜ」

「そうだな……。その前にダーナさんにもちゃんと報告してからな」

 報告・連絡・相談のほうれん草(ホウ・レン・ソウ)は社会に出たら重要だと、大人たちが言っていたのを思い出した。お腹が減ったのを少し我慢して恵二たちはダーナの元へと向かった。



 報告を終えてお腹を満たした恵二たち。自分たちも探索に出た方がいいかと聞いたのだが一先ず休んでいいと言われ、遠慮なく身体を休めることにした。

 探索から帰ってきたサミがそれを少し恨めしそうに見ていた。彼女に話を聞く限りだと、あれからアンデッドは全く姿を見せないらしい。更には他の魔物も見かけないと付け加えた。なんだか嫌な予感がする。

その後3人で療養所にお見舞いに行った。ガルムもリックも目を覚ましていたが、まだ起き上がれそうにない。一番軽傷だったイアンでさえもまだ復帰に時間はかかると医者に告げられた。

 お見舞いを終え3人は宿泊先へと戻った。そろそろ日も暮れる時間となり、森林警備隊の連中も到着予定だ。少し早い晩飯を取ろうかと考えていた矢先にそれは起こった。

『――敵襲!!アンデッドの群れだーー!!』

 宿の室内からも聞こえた大声の凶報に、休んでいた冒険者たちはすぐに気持ちを切り替え装備を身に着け屋外へと出る。

 すると多くの兵が慌ただしく西の門へと駆けていた。どうやらそちらからの襲撃らしい。すかさず護衛隊長代理のカンテが指示を出す。

「さっそく事前に決めたチーム分けをするぞ。目的はこの町の脅威の排除だ。裁量は各々に任せる!」

 冒険者たちは襲撃があった際にチーム分けをする事を決めていた。アルミラはダーナたち商人の護衛に着き、残り12人を3人4班に分けて迎撃にあたる。恵二はセオッツ、サミと同じ班であった。

「よし、俺たちも西へ行こうぜ!」

 セオッツの言葉に頷き3人は直に西門へと向かおうとする。しかし直前で、念のためにスキルで五感を高めていた恵二の耳に妙な音が入り込む。それは北側の外壁の方であった。分厚く高い壁がそびえる北側からは襲撃者などあり得ない。そう思えたが恵二が捉えた音は、まさしく骨が擦り合うようなアンデッド特有の音を立てていた。

「――っ!セオッツ待て!北だ。北から恐らくアンデッドたちが侵入している!」

「へ?」
「なんですって!?」

 まさかの北からの襲来を告げるとそれぞれ違った反応を返す二人。しかしすぐに二人は恵二の言葉を信じたようだ。何も言わず北へと進路を変える。すると向かった先の方で戦闘の音が聞こえてくる。

「ちぃ、こいつらどっから入ってきた!?」
「くそぉ!来るなぁ、あっち行けよ!」

 音のする方へと着くと骸骨の戦士(スケルトンファイター)が全部で6体、二人の兵へと襲い掛かっていた。その傍らには血溜まりの上で事切れていた兵士の死体が1つ。どうやら遅かったようだ。

 すぐにセオッツが飛び出し、生き残りの兵2人をフォローする。恵二も後に続いて短剣を抜き骸骨の戦士(スケルトンファイター)へと斬りかかる。

「す、すまねえ」
「助かったぁ……」

 助けた兵士たちを尻目にセオッツは骸骨の戦士(スケルトンファイター)を斬り倒していく。セオッツの腕前は相当なもののようで、Dランクのアンデッドに囲まれたところで全く後れを取らなかった。魔力とスキルを温存したかった恵二は、この場は防御に徹して2匹の気をひきつけ後はセオッツに任せる。
 サミも詠唱を中断し、セオッツに任せる腹づもりのようだ。その代りサミは二人に声を掛ける。

「北からもアンデッドが来た事を誰か報告しに行って」

「お、おお!」
「わかりました!」

 年下の少女の言葉に素直に従った兵士は2人揃ってその場を去って行った。

「……一人は残りなさいよね」

 サミの文句も尤もであった。まあ足手まといが減ったからいいかと続けてそう呟く。

「でりゃあ!」

 セオッツの鋭い一撃がまた1体アンデッドをただの骨屑に変えていく。残りは2体、楽勝であった。すると恐れをなしたのか、2体のアンデッドは踵を返し更に北側へと逃げて行く。

「逃がすかよ!」

 すぐに後を追い猛進するセオッツは、まさに猪のようであった。慌てて恵二とサミも後を追う。

「あの馬鹿、絶対調子に乗って命を落とすタイプね」

「……否定はできないな」

 さっきまで急上昇していたセオッツの評価を少し落とした二人は、慌てて少年を追いかける。するとそこには追い込んだアンデッド2体にジリジリと詰め寄るセオッツがいた。セオッツも逃げる知恵がある魔物に一応の警戒はしているのだろう。すぐに間合いを詰めようとはしない。油断なく少ずつ近づいて行く。

 恵二たちも周囲を気にするが、今のところ伏兵の存在は見受けられない。念の為に五感を強化する恵二。すると、あることに気が付いた。

(暗くて良く見えなかったがここは墓地か。……墓地?)

 ハッと何かに気が付いた恵二。心なしか骸骨の戦士(スケルトンファイター)の顔が笑っているかのように見えた。

「セオッツ気を付けろ!ここは――」

 墓地だ、と言葉を続けようとした瞬間、背後から急接近する何かを微かに感じとった。

「「――っ!」」

 咄嗟に回避行動を取る恵二と必中のはずの不意打ちを躱された襲撃者、両者の驚きが重なる。恵二の背後から突然現れた襲撃者は骸骨の斥候(スケルトンスカウト)であった。
 元々は斥候を務めていた兵か冒険者の死体が甦ったアンデッドだとされている。生前よりは落ちるものの索敵能力が高く、気配を消すことに関しては更に強化された厄介なCランクの魔物である。

 しかし一度姿を見せればその強さは骸骨の戦士(スケルトンファイター)と差ほど変わらない。逃がすと厄介だと判断した恵二はここで骸骨の斥候(スケルトンスカウト)を始末しようと身構える。そう考えていた直後、背後の地面から音を立てて何者かが起き上がってくる。

(やっぱりそういうお約束かよ!)

 セオッツが踏み込んだ墓地からは、続々とアンデッドが起き上がってきた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ