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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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親方って何者?

遅くなりまして申し訳ありません。本日分ギリギリ間に合いました。
 一夜明け冒険者たちは再び集まっていた。ダーナの依頼を受けるかどうか返事をする為だ。少し遅れてやって来たダーナは冒険者たちの前に立つと口を開いた。

「どうも遅れて申し訳ない。……早速ですが依頼の件、返答を頂いてもよろしいでしょうか?」

 療養所にいる3名を除いた計13名の冒険者たちに昨夜の返事を尋ねた。

 ダーナの問いにまず最初に答えたのはダグラトであった。

「俺とゴッシュはしばらくこの町に残る。できれば町にいる間だけ護衛をさせてはくれねえか?」

 二人はパーティーメンバーであるイアンが復帰するまではこの町に留まるつもりのようだ。その間ならという条件で依頼を受けると話した。

「私はシキアノスまで付いていくわ。目的地だしね」

 続けて付いていくと言ったのはサミだ。彼女は元々故郷であるシキアノスに帰るついでに依頼を受けたのだという。今回も同様でダーナの依頼を受けるらしい。

 他の者もほとんどが依頼を受けるようだ。当然カンテとアルミラも護衛を継続するし、カルイアも残って依頼を受けるそうだ。

 多くの者が再度依頼を受けた大きな理由は足が無いことであった。現在閉鎖されているこの町からは乗り合い馬車が出ておらず、移動するには徒歩で行くしかない。
 しかしこの付近は何時アンデッドが襲ってくるか分からないのが現状であった。それはこの町に留まっていても同じであろう。

 それならいっそダーナの依頼を受けて他の者と行動を共にした方が、安心な上に報酬も入る。セオッツに至ってはこれで更に稼げると大喜びしていた。

 結局最後まで迷っていた冒険者たちも全員依頼を受けることにした。冒険者のリーダーはガルムの代理でカンテが引き受けることになった。

「皆さん改めて宜しくお願いします。それでは早速ですが、どなたかこの手紙を第三森林警備隊まで届けて下さい」

 ダーナは懐から出した手紙を一旦カンテに預ける。どうやら親方が一筆したためたものらしい。手紙にはこの町の現状説明と、警備隊の応援が欲しい旨を書き綴ったようだ。

 ダーナはカンテに手紙を渡すと、以降の行動は彼に一任することを告げた。

「ダーナさん。馬車を貸りてもいいか?」

「構いませんよ」

 即答で了承するダーナ。どうやら目的地のダグサスまでは歩かずに済みそうだ。馬車に乗っての移動なら半日足らずでダグサスに着くらしい。

「では、馬車を使って御者1名と冒険者3名で向かって貰う。メンバーは……」

 カンテは自分を含め、総勢13人の冒険者一同を見渡してから少し考えた後にこう話す。

「……カルイアは町に残ってもらう。俺とアルミラも当然町に残る」

 回復魔術が使える貴重な人材であるカルイアは、万が一を考えて居残りだ。雇い主を護衛する為カンテとアルミラも同じく居残り組だ。

「俺とゴッシュも残らせてほしい。イアンが心配だ」

 見かけには寄らず仲間思いのダグラトは、現在安静中のパーティーメンバーであるイアンから離れたくないと言う。当然同じパーティーのゴッシュも居残り希望だ。
 それと片手剣を装備した冒険者マルクも居残りを希望した。彼は先の戦闘で骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)によって盾を粉々にされてしまったのだ。代えを用意するまで外出は控えたいと辞退した。

 消去法でほぼ半数に候補は絞られたところで、冒険者たちの指揮を一任されたカンテはこう口を開く。

「できればケージかサミのどちらかには行ってもらいたい。魔術が使える者は最低1人欲しい」

「なら俺とケージとサミの3人で行ってくるぜ!」

 セオッツは何故か行く気満々なようで、同世代の3人で行こうと提案をする。しかしその人選にカンテは渋い顔をする。

「……ちょっと3人とも若すぎだな。手紙を預かっていてもその面子じゃあ門前払いにされかねん。ここはサミの代わりにダンノさん、お願いできないか?」

 この中で一番年配の冒険者であるダンノに同行を頼むカンテ。寡黙な老冒険者はそれに無言で頷いた。

「よし、これで決まりだ。ダンノさん、ケージ、セオッツの3人で準備が出来次第向かってくれ」

「こちらもすぐに馬車と御者を準備しましょう」

 話が纏まると、さっそくダーナは馬車の準備にかかる。恵二たちも準備にかかるが、3人共身軽な装備で特に前準備は何も要らなかった。すぐさま馬車が用意され3人の冒険者が乗り込むと、御者は馬を走らせそのまま門を通りシドリスの町を発つのであった。



「ケージ、大丈夫か?」

「……問題ない」

 強がりであった。恵二は久しぶりの馬車の中で、再び乗り物酔いとの壮絶な格闘を繰り広げていた。早いところなんとか克服したいのだが、こればっかりは時間がかかりそうでなかなか慣れそうにない。セオッツが心配そうに様子を伺うがその度に大丈夫、問題ないと強がりを放つのであった。

「予定ではもう少しで着くはずです。我慢して下さい」

 前方で馬を操っている御者がそう告げると、少しばかり気持ちが楽になる。もう少しでこの地獄から解放されるのだと恵二は己を奮い立たせた。

「……これを使え」

 すると唐突に老冒険者のダンノは恵二に赤い木の実を2粒手渡した。これは何かと尋ねると、飲んでみろと短い言葉しか返ってこなかった。意を決して木の実を口にする。途端口の中に強烈な酸っぱさが広がっていく。

「――っ!んンッ!」

 なんだこれはと言おうとしたが言葉にならない。代わりに涙目の視線でダンノに抗議をすると、彼はまた短く言葉を放つ。

「酔い騙しだ」

 どうやら刺激物を口の中に入れることによって、酔いを吹き飛ばす効果があるようだ。病は気からという言葉があるが、その強すぎる酸味は実際に効果があるらしく大分楽になった。気分が落ち着いたところで恵二はダンノに感謝の言葉を告げるが、心の中ではもっと早く出してよとも同時に思う。

「――視えました!ダグサスの町です」

 御者の言葉に前方を確認する恵二。そこにはシドリスの高い塀と比べると、無いにも等しい低さの柵に覆われた小さな町が見えてきた。


 馬車で町の方に近づくと入り口付近には、緑を基調とした皮の軽鎧に身を包んだ青年と壮年の兵が二人で番をしていた。町に近づいてきた恵二たちに若い方の兵士が声を掛ける。

「そこの馬車、止まれ!現在この町は森林警備隊の警護対象となっている。そちらの身分と町へ来た理由を伺いたい」

「私はシキアノスのダーナ商会の雇われ御者です。後ろにいる方は商会の依頼を受けている冒険者です。この町には森林警備隊の方に用があって赴きました」

 そういって御者さんは運転免許証か通行許可証なのだろうか。何か書状を取り出して己の身分を証明していた。恵二たちも冒険者のランク証を見せると、壮年の兵士は感嘆の声を上げる。

「ほう、その若さでDランクとは腕が立つようだな」

 恵二とセオッツの年齢でDランクというのはやはり珍しいことのようだ。そう考えるとCランクのサミって結構凄いヤツなのではと少し見直した。

「それで、我々に用事があると言っていたがどのような要件だ?」

「えっと……」

 質問された恵二はこの場で最高齢の老冒険者を見遣る。すると彼は無言で手紙を壮年の兵士に渡す。何も説明がないまま手紙を渡された兵士は少し訝しんだ。慌てて恵二はそれをフォローする。

「それはシドリスの町の親方が森林警備隊の方宛てに書いた手紙です」

「――っ!親方さんの!?」

「え。ええ……」

 思わぬ兵士の反応に少したじろぐ恵二。どうやら森林警備隊の人にも一目置かれた存在らしい。

(一体親方って何者?)

 恵二の疑問を余所に壮年の兵士は手紙に目を通していくと、段々と顔色を険しいものに変えていく。その表情から、どうやらシドリスの現状を理解してくれたようだ。手紙を読み終えると兵士は再び恵二たちに話しかける。

「そういえばまだ名乗っていなかったな。私は第三森林警備隊の副長を務めるライアンだ。要件は確かに承った」

 どうやら目の前の兵士はこの町に派遣された警備隊のNO.2らしい。これならすぐに警備隊も動いてくれるかもと思ったが、その恵二の期待はすぐに裏切られた。

「だが、申し訳ない。すぐには応援に向かえそうには無い」

「えー!どうしてー!?」

 一緒に話を聞いていたセオッツも思わず正直な感想を上げる。それに副長のライアンは困った顔をする。

「私としても親方さんの頼みとあればすぐに動きたいのだが、今この町には私を含め4人しか隊員がいないのだ」

 恵二は兵士長トッシュから事前に、森林警備隊は20人を超す大所帯だと話を聞いていた。残りの人たちはどうしたんだろうと疑問が浮かび上がった。更に話を続けるライアンに耳を傾ける。

「実は隊長を含めた18人の隊員は大型の魔物の討伐に行ったきり、まだ帰って来ないのだ」

 どうやら魔物の討伐に向かった隊長以下17名の隊員は、目撃情報のあった山へ行ったきり戻ってきていないらしい。予定では発見できなかった場合でも戻ってくるはずなのだが、一向に音沙汰が無いようだ。

「……ふむ。少し道に迷ったか遅れているだけかと考えていたが、シドリスの異常を鑑みると楽観はできないな」

 そう呟いたライアンは目の前にいる恵二たちに再度話しかける。

「すまないが私はここを離れられない。留守を任されているからな。代わりに君たちで隊長の向かった方へと様子を見に行ってはくれないか?」

 ライアンにそうお願いをされ少し考える恵二。ここは先輩の判断を仰ごうとダナンに視線を向ける。

「……」

「……」

 暫く見つめていたが反応が返ってこない。駄目だこの人。

「良いんじゃねーか?サクッと魔物退治手伝って、とっとと来てもらおうぜ!」

 結局楽観的なセオッツの意見に後押しされるかたちで、大型の魔物が出没したという山へと向かった。


 目撃された場所は町から1時間ほど、山に入ってすぐの所であった。確かにこんな近くで正体不明の魔物が現れたら町の人も警備隊を呼ぶわけだ。

「今、合図を送るから少し待っていてくれ」

 そう言ったのはライアンと共に見張りをしていた青年隊員であった。彼もいた方がスムーズに話が進むからと副長命令で付いてきたのだ。
 彼は口に何かをくわえると、息を出し高い音を響かせる。どうやら笛で合図を送っているようだ。暫くするとさっきと全く同じ音が、山奥から響き渡る。

「あっちだ。行くぞ!」

 どうやら討伐に向かった者たちが全滅といった最悪の事態は避けれたようだ。音の返ってきた場所はそう遠くはない。これならば日が暮れる前にはギリギリ町に戻れそうだ。


 青年隊員と恵二たちが笛の音がした場所に近付くと、激しい戦闘音と何やら地響きがする。どうも例の魔物と交戦中のようだ。視界を遮る林を抜けると、ライアンたちと同じような装備をした隊員が声を上げていた。

「もっと距離を取れ!攻撃は側面に一転集中させろ!!」

 檄を飛ばす隊員の指示通りに他の隊員も動きを変える。かなり連携が取れており、森林警備隊の練度の高さが伺える。

 しかし相手も一筋縄ではいかないようだ。その巨体を揺らしながら尻尾や前足を動かし攻撃をする。だがその巨体故に動作はかなりゆっくりだ。距離を取っていた隊員たちは悠々とかわす。巨大な魔物が攻撃をする度に凄まじい地響きが起こる。万が一攻撃を受ければひとたまりもないであろう。

 隊員たちは攻撃を受けないように慎重に剣や弓、時には魔術で応戦するが魔物の装甲が硬いのか全く効いていないようであった。完全に勝負は均衡している。

「ちぃっ!このままでは日が暮れるぞ……」

 そう悪態ついた男のもとに青年隊員が駆け寄る。

「隊長!」

「どうした!?町に何かあったのか?」

 町にて警護を命じたはずの部下がやって来たのを見て、どうやら不足の事態が起こったかと判断したようだ。何があったか問いただすと青年隊員は慌てて口を開く。

「はい。あ、いいえ。ダグサスの方は異常無しです。ただシドリスの町が大変らしく 、親方からの手紙を預かっております。至急応援が欲しいとのことです」

「親方!?……あの親方か?」

「はい、あの親方です」

 どうやら恵二が思い描く親方とこの国の親方という単語は、全く違う意味なんじゃないのかと疑念が浮かんだ。しかし自らを親方と名乗った男は、確かに恵二が想像した通りの粋なおっさんといった容姿であった。

(本当にあの人は何者なんだろう……)

 恵二の疑念を余所に、隊長は少しだけ思案した後青年隊員にこう告げた。

「とにかく目の間のアイツを倒さない事には町へは戻れん。丁度いい、お前も手伝え」

 まずはダグサスの町から討伐依頼があった魔物退治を優先したようだ。あちらを見ると状況は全く変わっていなさそうであった。

 その魔物は土色の巨大な亀のようであった。ただ、亀のシンボルでもある甲羅は無くその代りに土色の硬い皮膚で全身が覆われている。防御はかなりのもので警備隊員たちの攻撃を全く寄せつけなかった。そこに青年隊員1人加わっても恐らく余り意味がないであろう。

(仕方ない。時間が惜しいし俺も手伝うか)

 恵二が思ったのと同時にセオッツも同じ事を考えたのか、警備隊長に話し掛ける。

「ねえ。良かったら俺たちも手伝いますよ!」

「ん?なんだ、お前たちは?」

「隊長、彼らは親方の使いの冒険者です」

 青年隊員から冒険者だと聞いた警備隊長は訝しんだ表情をする。恵二もセオッツもまだ少年で、とてもそうは見えなかったからだ。それを察したセオッツはすかさず腕自慢をする。

「俺とケージはDランクで剣と魔術が使えるぜ。そこのダンノさんはCランクのベテラン冒険者さ」

「ふむ、魔術にCランクか……」

 戦況は依然拮抗している中、猫の手も借りたかった隊長は少し考えた後ケージたちに戦列に加わる事を許可した。

「よっしゃあ!!」

 やたら気合が入っているセオッツ。そこまで戦いたかったのであろうか、目をギラギラとさせて魔物の方を睨む。そんな中、恵二は一刻も早く魔物を仕留めて町へと戻ろうと考えていた。留守にしている間にアンデッド共がサミたちを襲いに来るかもしれないのだ。

(セオッツには悪いが魔術で瞬殺させてもらう!)

 詠唱はせず心の中で準備をし、いざ火弾(ファイヤーショット)を放とうとした。しかし、ふと骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)に魔術を防がれたことが頭をよぎる。

(……アイツ硬そうだし、念の為超強化(ハイブースト)をかなり強めに使ってみるか)

 また防がれたくはないと考えた恵二は、フルパワーを100とし大体50くらいの強さで強化をかけた。通常恵二が放つ火弾は、せいぜい強くても5%といったところだ。

(今回はその10倍。いくらなんでもこれで倒せるだろう)

 50%くらいの按配で超強化(ハイブースト)をかけた火弾を大型の魔物へと放つ。威力だけで無く、スピードも増した火の弾丸は、その愚鈍な魔物に躱せる道理は無く寸分違わず命中する。

「グオオオオォォ――!!」

 全身火達磨になりながら絶叫する魔物。その巨体をバタバタと揺らし、大地が激しく振動する。どんな生き物でも全身火達磨になって生きていられる者はいない。地球ではそれが常識であったが、ここ白の世界<ケレスセレス>ではどうであろうかと心配する恵二。しかしそれは杞憂であった。
 流石の装甲を誇っていた魔物も、超強化(ハイブースト)50%での火弾は耐えきれなかったようだ。1分間くらいはジタバタと動いてはいたがとうとう力尽きたのか動かなくなり、それでもなお炎は燃え盛っていた。
 更に1分経ったところで魔物は完全に消し炭と化した。それを見て安堵する恵二。

「よし、なかなかしぶといヤツだったけどなんとか倒せたな」

 骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)戦で少し自信を無くしていた恵二は満足げにそう呟く。周りは余りの出来事に開いた口が塞がらない。何故かセオッツは、ひどく落胆していた。そんなに戦いたかったのだろうか。やがてぽつぽつと会話が聞こえ始める。

「信じられん。なんだあの魔術は……」
「まさか大地竜(アースドラゴン)を一撃とは……」
「俺の竜退治デビュー戦……」

 なんだか聞き捨てならない単語が聞こえてきた。どうやら消し炭にしてみせた魔物の正体はドラゴンであったらしい。

 一部始終を見ていた警備隊の隊長は青年隊員にこう呟く。

「なぁ。俺たちの応援っているのか?」
「……さぁ」
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