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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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一旦終了

 シドリスの町の駐屯兵団兵士長トッシュから、お願いがあると突然聞かされ戸惑いの表情を浮かべるダーナ。まだその内容を聞いていないうちから嫌な予感しかしなかった。そんなダーナたちの思いを察したのか、トッシュは少し申し訳なさそうに声のトーンを落とし話の続きを語り始める。

「ダーナさんが雇っている冒険者たちには、南の馬車街道沿いにあるダグサスへと向かってもらいたい」

 ダグサスはここシドリスから南東にある南街道沿いにある町だ。最近では街道を通る旅人達の宿場として親しまれている町であり、本来はダーナたち商隊も宿泊する予定であった町だ。ダグサスの町はシドリスと違い、魔物の危険はほとんど無く兵舎や冒険者ギルドなどは全くなかった。その為、町人たちでは手に負えない魔物が出没した際には森林警備隊が出向くらしい。

 今回も大型の魔物が現れたようで、現在第三警備隊が出動しているらしい。その彼らに一刻も早く町へと戻ってきてもらうようにと言伝を頼まれたのだ。

 しかし、初対面の相手にいきなりそんな事を頼まれてもダーナには何の得もない。当然断るだろうと恵二は予想していたのだが、ダーナが何かを喋る前に親方がその話に割って入る。

「トッシュ、少し落ち着け。いきなりそんな頼み方をしてもダーナさんは受けてくれないだろう。最初からきちんと事情を説明しろ」

「――っ!そ、そうですね。申し訳ありません」

 親方にぺこぺこと頭を下げる兵士長。一体この親方は何者なのだろうか。親方の素性も気にはなるが、まずはトッシュの事情とやらを伺うことにした。


 それは3日前のことであったそうだ。太陽がちょうど真上まで昇ったお昼頃、この町に首都ヘウカスから派遣された第三森林警備隊の一団がやってきた。兵士長のトッシュはすぐさま警備隊長に何用で来たのかと尋ねた。するとどうやら南東の町ダグサスの周辺にて正体不明の大型の魔物が現れたという。町長からの討伐要請を受け、道中ここシドリスに寄ったらしい。彼らはすぐにシドリスを発ってダグサスへと向かった。

 それから翌日、つまり今から2日前に近場の森にて大捕り物があった。以前から目撃情報があった盗賊団を町の巡回兵が見つけたのだ。すぐさまトッシュは兵を引き連れて盗賊団を追い詰め、交戦をした。何名か取り逃がしたものの、多くの盗賊を討伐し数名は情報源として兵舎へと引っ立てた。

 そして問題のその日の深夜、事件は起こった。兵舎の地下牢から数名のアンデッドが発生したのだ。その数は5。掴まえて、牢に入れていた盗賊団員と同じ数だ。骸骨が身に纏っていた服も盗賊団のものと一致していたので、恐らく牢獄で何故か死んだ盗賊団員がアンデッドとして蘇ったのだと判断した。

 突然の事とはいえ、たかが骸骨の戦士(スケルトンファイター)5匹に落とされるような兵舎ではなかった。多少騒ぎはしたものの、すぐに殲滅できるだろうと思っていた矢先に町中でそれは起こった。

 なんと町中にも大量のアンデッドが現れたのだ。町中に出現したのは骸骨の猟犬(スケルトンハンター)が十数匹ほどと、骸骨の戦士(スケルトンファイター)が1匹。ただその骸骨の戦士(スケルトンファイター)は、地下牢から現れた者たちとは一線を画していた。一目見ただけで値打ち物だとわかる鎧と魔力の込められた長剣を身に纏った特別な個体であった。

 その骸骨の戦士(スケルトンファイター)の亜種とも呼ぶべきアンデッドの強さはかなりのもので、次々と兵士たちを打ち倒していったのだ。大量に沸いた骸骨の猟犬(スケルトンハンター)も兵たちだけでなく町の住人にもその牙を向ける。アンデッドたちとの壮絶な戦いは明け方まで行われたらしい。

 日が明けると太陽の光を嫌ったのか、いつの間にか骸骨の戦士(スケルトンファイター)の亜種は姿を消していたようだ。何故か骸骨の猟犬(スケルトンハンター)は日が昇り始めても活動していたようだが、親方を中心に炭鉱で働く屈強な男たちも兵たちに加勢をしなんとか撃退できたようだ。しかしアンデッドたちの襲撃で兵や町の住人に数名の死傷者が出てしまった。

 昨日は全くアンデッドの襲撃はなかったのだが、地下牢から出た骸骨の戦士(スケルトンファイター)はともかく、骸骨の猟犬(スケルトンハンター)はどこから湧いて出てきたのか全くわからなかったのだ。それに骸骨の戦士(スケルトンファイター)の亜種はまだ倒せていない。また何時来るかわからない襲撃に備え町の皆がピリピリとしていた。そんな時にダーナたちがやってきたというのがこれまでの話の流れだそうだ。

 そう説明したうえで兵士長のトッシュは改めてこう話す。

「現状の我々の戦力では正直不安があります。ダーナさんの雇った冒険者たちには急ぎ第三警備隊の元へ駆け、この町を警護してくれるように交渉をしてほしいのです」

「ダーナさん、俺からも頼めねえか?勿論冒険者や雇い主であるダーナさんには対価を用意する」

 兵士長と親方の頼みにダーナはしばらく無言で考え事をする。恵二は別に受けてもいいのではと思うのだが、事はダーナ一人で決めることができない案件のようだ。この話は持ち帰って考えるとダーナは言い、外で待つ者たちの所へと戻ろうとする。それに親方は制止の声を掛ける。

「わざわざ外にいかなくてもいいぜ。外の連中も中に通す。これはさっきのお願いを聞く聞かないは別で許可しよう」

 そう言って近くの兵士に門を開け商隊を中に入れるよう指示を出す。

(鉱山の親方にそんな権限あるのか?これって町長とか兵士長の命令で動くもんじゃないのかな?)

 そう思った恵二は兵士長の顔を見ると、彼は面白くなさそうな顔をしていた。やはりまずいことのようであったがトッシュは親方に何も言えそうに無く口を閉じたままであった。一体親方は何者なのだろうと恵二の中で疑問が大きくなってく。

「心遣いありがとうございます。ついでに恐縮ですが療養所の場所を教えて頂けませんか?重傷者が3人いるので、すぐに休ませたいのです」

 ダーナがそう話すと親方はすぐに療養所の場所を教えてくれた。更には兵士をひとっ走りさせてすぐ治療できるよう手配もしてくれた。親方は兵士長の頭越しにまた勝手に兵士へと指示を出し、それを見たトッシュは深い溜息を吐く。なんだか兵士長が可哀そうに思えてきた。

 一旦話が終わると恵二たちは商隊の元へと戻った。兵舎を出て今度はちゃんと正規の門へと向かうと、丁度巨大な門が開き終わったところでダーナの馬車が入ってきた。ダーナは他の商人たちに簡単な説明をした後、一行はひとまず療養所へと向かった。


 3人の診断結果は当分安静と告げられた。とても近日中に護衛の任務など着けそうにない。ひとまず宿を取ったダーナたち商人は、今後の予定について話し合うことにした。もうそろそろ日も暮れるとあって、雇われ冒険者であるカンテとアルミラ以外の冒険者は自由行動を許されていた。

 晩飯までの時間、恵二はサミに魔術を教えていた。といっても教えるのはあくまで技術的な事、正確には魔術の制御についてである。サミは恵二の無詠唱の技術や、放った後の魔術のコントロール技術に一目置いていた。恵二のように詠唱無く魔術を放ち、自由自在にコントロールできればかなりの戦力アップになると考えたからだ。

 しかし、恵二による魔術のレクチャーは難航を極めていた。

「だから、空気を燃やすイメージで火を生み出すんだよ」

「ハァ!?なんで空気が燃えるのよ……」

 現在は無詠唱で火弾(ファイヤーショット)を生み出す練習をしているのだが、どうにもやり方をうまく伝える事が出来ないでいた。恵二にとっては別段苦労せずして行ってきた無詠唱での魔術の発動。故に特に意識せず使ってきた為、改めて自分はどうやって魔術を発生させているのかと考えれば考えるほどよく分からなくなっていく。

 それでも考え抜いて恵二が辿り着いた結論は想像(イメージ)であった。魔術を発動する前には、言葉の代わりにイメージをする。それを放つ時もどうやって動かし、どこに当てるかをイメージする。つまりイメージが大事なんだと恵二はサミにそう告げると、返ってきた答えは「そんなもん、とっくにやってるわよ」であった。

 そこで具体的にどのようにイメージしているかを詳しくサミへと話す。しかしそれが難しかったのだ。

 恵二とサミでは火についての認識が全く違っていたのだ。例えばサミの場合は何かを擦ったりすれば火は着き、木などの燃えやすい物があれば燃え続けるといった認識だ。一方恵二は酸素の存在を知っている。火は燃える物だけでなく燃やすための空気が必要なことも知っていたからだ。
 そこまで詳しく燃える原理については分からないが中学レベルでの授業を受けていた恵二は、サミには想像もつかない科学の世界を認識している。その想像力の差が、そのまま詠唱の差に出ているのではないかと恵二は予想したのだ。
 また恵二は魔術をコントロールする際に曲げたい方向に回転をかける、いわば野球の投手が変化球を投げるのと同じような理屈でイメージをしていた。

 しかしその理屈だと同じ地球出身の現代人である茜先輩や未来人のコウキも恵二と同じかそれ以上の認識を持っているはずだ。だが、その二人と比べても恵二の魔術制御は抜きんでていたのだ。どうやら科学の認識だけが魔術制御向上の決め手ではない気がする。

 しかしそれ以外に現状教えられそうなことは無く、物は試しと恵二は自分の分かる範囲でサミに火の燃える原理を話してみる。

「あー、空気中には酸素っていう火を燃やすのに必要な物質があってだな」

「・・・そんなの初めて聞いたわよ。どうゆうものなの?」

「えーっと、小さすぎて目に見えないんだよ。でも確かにある」

「うーん、魔力みたいなもの?どうやって感じとればいいのかしら?」

「ちょっと違うかな。うーん、なんと説明すればいいのか……」

「ケージ。物覚えが悪い生徒を持つと大変だな」

「――っ!うっさい!あんたはさっさと自分の名前くらい書けるようになりなさい!」

 横で字の練習をしていたセオッツが、いつかのお返しだとばかりにサミをからかう。馬鹿にされたサミは一生懸命理解しようと努力をするのだが、恵二の説明下手なことも重なり余り上達が見られない。この後も結局、手当たり次第の感覚でサミに教え続けていた恵二であった。



 ダーナ商隊がとった宿は1階が大きな食堂になっていた。日が完全に暮れると商人や冒険者たちが一堂に集まってそこで晩飯をとっていた。そんな中、ダーナが突然話があると切り出してこう告げた。

「今回の依頼ですが、ここで一旦終了とさせて頂こうかと思います」

 ダーナのその言葉に動揺する冒険者たち。依頼内容は現在いるグリズワードより更に西の国、シキアノス公国のヘタルスという町までの護衛であった。距離からするとまだ半分も進んでおらず、ここで終了となると報酬はどうなるのか冒険者たちは気になったのだ。しかしそんな不安もすぐ解消される。

「今回はこちらの判断で終了となりますので、依頼は成功とさせて頂きます。当然報酬もお約束通り全額お渡しいたします」

 その気前のいい台詞に喜ぶ冒険者たち。しかし状況が状況なだけに、ほとんどの者がすぐその笑みを消す。依頼成功とは言っていたが思わぬ襲撃に怪我人が出てこれ以上は続けられないと判断しての中断で、言わば失敗したようなものだ。冒険者たちにとっては、とても素直に喜べる内容ではなかった。そんな微妙な空気の中、ダーナはこう続けた。

「先程お話しました兵士長の依頼の件、私どもは受けようかと思います」

 それは南東にある町までひとっ走りして第三森林警備隊を呼び戻すというトッシュの依頼の件だ。ダーナは続けて説明をする。

 ガルムをはじめ重傷者たちは、しばらくこの町を動けそうにない。ダーナもまだここでの商談を終えてはいないのだ。しかしこの町には何時またアンデッドの襲撃があるか予断を許さない状況だ。自分たちの身を守る為にも第三警備隊にはここにいて貰った方が絶対にいい。

「そこで、改めて依頼を貴方方に直接提示します。前回の依頼と同額をお出ししますので、改めて護衛兼今回の兵士長の使いの件を頼まれてくれないでしょうか?」

 その言葉にメリット、デメリットを考える冒険者。利点はまた稼ぎが入ることであろう。今回の依頼は通常であれば相場以上の報酬であった。しかしデメリットはアンデッドの襲撃といった異常事態に見舞われかねないことだ。もう一度あの規模の襲撃があれば、いつ命を落としても不思議ではない。それならば今回の依頼の分だけで良しとして、南の街道を使って戻るか更に西へと逃げるかが賢明ではないだろうか。

 今までの考えはあくまでも一般的な冒険者の考えであった。それぞれ冒険者には事情がある。そう恵二には西へと向かう理由があった。一人で行っても良かったのだがこれも何かの縁だ。しかし、ここでセオッツやサミとお別れだと、剣や魔術、字を教え合うというのはこれで最後だろうか。

 あれこれと考えていた冒険者たちにダーナは明日の朝、依頼を受けるかどうか返事を欲しいと言われた。ひとまずそれでこの場は解散となった。

(さて、どうしたものか……)

 もう一度ゆっくりと考えてみる恵二であった。
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