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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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面目ない

 急ぎ回復魔術が使えるというカルイアの元へと向かう。するとそこには、体中に痛ましい傷を負ったガルムとそれを心配そうに見守るパーティーメンバーのカンテにアルミラ、そして今まさに回復魔術をかけているカルイアの4人がいた。

「いた。カルイアさん!」

「あら?ケージ君、無事だったのね」

 駆け寄るケージに視線を送る4人。恵二が無事であった事が嬉しかったのかそれぞれ笑顔で話しかけてくる。ガルムも声を掛けてくれたが、喋った拍子に傷が痛んだのか途中で言葉に詰まる。

「無理するな。お前カルイアがいなければ死んでいてもおかしくないんだぞ?」

「っぐ!・・・面目ない」

 思った以上にガルムの傷は酷いようだ。しかしBランク冒険者とあろうものがこれ程の深手を負うとは、一体どんな魔物だったのだろうかと辺りを見回す。すると恵二の目に入ってきたのは骨、骨、骨と一面骨だらけであった。どうやらこちらにも多数の不死生物(アンデッド)が襲ってきたのだろう。

 しかし、今はそんなことを気にかけている場合ではない。全身傷だらけのガルムを前に少し言い辛い内容であるが、時は一刻を争うかもしれない。恵二は簡潔に状況を説明し、リックにも回復魔術をかけて欲しいとカルイアに告げる。それを聞いて真っ先に口を開いたのはガルムであった。

「カルイア、俺は大丈夫だ・・・。先に、リックを看てやってくれ」

「分かったわ。ケージ君、エスコートお願い」

 ガルムの気遣いに感謝をし、カルイアを連れてリックの元へと急いで戻る。こんな状況でなければ美人のお姉さんと二人っきりではしゃぎたい気分だが、今はそれよりもリックが心配だ。

 すぐにカルイアを連れ戻った恵二が見たのは、血だまりをさらに広げ横になっている顔面蒼白なリックの姿であった。

「――!これは思ったよりもまずいわね」

 カルイアは到着した後、すぐさま詠唱をしながらリックの容体を看るといった器用な真似を披露する。傷を見る彼女の目は険しく、リックが深刻な状態であることを物語っていた。

「――水霊の癒し(アクアヒール)!」

 長い詠唱が終わるとすかさず水の回復魔術を放つカルイア。確か茜先輩が使っているのを見たことがある。水属性の中級魔術であるはずだ。以前タナル村で見た神官見習いの少女が放った回復魔術とは別物の魔術であった。
 魔術で発生した青白い光が消えると、効果があったのか多少出血は収まったようだ。しかしリックの顔色は相変わらず悪そうだ。再び魔術を、そうカルイアにお願いしようとしたが彼女の顔色も優れない。

「・・・ごめんなさい。もう魔力切れよ・・・」

 元々魔力量が少なかった彼女は、貴重な回復魔術の使い手ということで戦闘でも魔術は温存してきた。その戦闘でガルムが深手を負い、ここぞというタイミングで回復魔術をガルムに使ったのだが、他の者に回す余剰分など彼女には元々無かったのだ。

 打つ手がなくなった冒険者たちは皆黙り込んでしまう。後はリックの体力が持つことに賭けるしかない。そう思った矢先、いつの間にか離れていたのかさっきまでいた商人が馬車から何かを持って走ってくる。

「ハァハァ、これ・・・使ってください」

 息を切らしながら商人が急いで持ってきた物は、青い液体が入った瓶である。その瓶をカルイアに渡す商人。周りの者がそれを見て息を飲む。ただ1人それが何だか分からない恵二を除いて。

「まさか・・・それ、【マジックポーション】?」

「はい、これで幾らか魔力を回復できるはずです」

 どうやら名前から察するに魔力を回復することができるアイテムのようだ。ファンタジーゲームではお馴染みのアイテムを実際に目の当たりにするとは。周囲の反応を見るとどうやら値打ちものらしい。受け取ったカルイアも本当にいいのかと再度確認をする。

「いいんですよ。彼は私たちを守る為に命を懸けてくれたのですから。きっとダーナさんも同じことをするでしょう」

 意を決したカルイアは瓶の蓋を空け一気に飲み干す。なんだか綺麗な女性が一気飲みをする光景は色っぽいなと馬鹿なことを考える思春期の少年。
 恐らく自分が1年間身を粉にして働いて稼いだ分と同じくらいの額であろうマジックポーションを飲み終えると、すぐに変化は現れた。彼女の身体から、先程より濃密な魔力を感じる。すぐさま詠唱を始めるカルイア。

 こうして何度かの回復魔術を施したリックの容体は何とか一命は取り留めたのであった。



 森から遅れてやって来たダグラトたちと合流し、更に前方の馬車の護衛についていたガルムたち冒険者とダーナたち商人とも合流を果たす。重傷者が数名いるものの、なんとか全員生きて再会する事が出来た。

 ガルムは全身傷だらけの身体に鞭を打ちながら、ダーナや冒険者たちに何度も謝っていた。自分の判断が間違っていた。南の街道を使うべきであったと。気にするな、流石にこの事態は想定できなかったと周りは慰めるが、本人は疲労からか気を失うまで謝罪の言葉を口にしていた。

「一刻も早く町へと向かいましょう」

 旅の指揮を執っていたガルムの代わりに、商隊の代表であるダーナがそう口にする。目的地であるシドリスの町はもうすぐそこだ。重傷者も町の療養所にすぐ連れて行きたい。誰もダーナのその言葉に異論などなかった。

 重傷者であるガルムとリック、それとイアンの3人を馬車に乗せ再び出発をする。イアンは骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)の膝蹴りでどうやら胸部の骨が折れているようだ。
  一番重症なのはやはりリックなようで、まだ目を覚ましていないが大分容態は安定してきたようだ。ガルムも先程気を失ってからまだ目を覚ましていない。それでもリックに比べると若干マシだと言えた。

 冒険者たちは馬車を護衛しながら歩いている最中、お互いの情報交換を行った。ガルムたちを襲った魔物は、やはりアンデッドであったようだ。それも骸骨の猟犬(スケルトンハンター)が群れを成して襲ってきたと語る。恵二たちの所には全部で6匹の骸骨の猟犬(スケルトンハンター)が現れたが、その何倍もの数が襲いかかってきたらしい。パックは30匹を超えたところで数えるのを諦めたとおどけて語っていた。
 更には青白く光った特殊な個体が1匹いたようだ。姿形は骸骨の猟犬(スケルトンハンター)だが、強さが段違いであったらしい。主にガルムが応戦していたようだが多勢に無勢でやられてしまった。もう駄目かと思った時、急に青白く光った骸骨の猟犬(スケルトンハンター)は去っていったらしい。その後はなんとか戦況を巻き返して殲滅できたとパックは語った。

 アンデッドを初めてみる恵二には判断が難しいが、話を聞く限りあの骸骨の魔術師と青白く光っていた猟犬はどこか異常であった。特に魔術師とは思えない体術を披露したアイツには何だか不気味なものを感じた。全力でないとはいえ、最強だと思っていた自分のスキルで強化した魔術を綺麗に防いでみせたのだ。

 とにかく町に着いたら、魔物大全集でアンデッドを調べてみようと思う恵二であった。



 想定外の襲撃はあったものの、とりあえず全員生きたまま次の町へと到着することができた。目の前には高い塀に囲まれた町が見えた。コマイラの町と規模はそう変わらなそうだが、高い塀が与える威圧感は町をそれ以上の大きさへと錯覚させる。
 道の先には門のようなものが見える。あそこで手続きをして町に入るようだ。しかし、どうもさっきから違和感を感じる。衛兵の姿もちらほらと見えてきたが、どうもこちらをかなり警戒しているようだ。どうにも雲行きが怪しい。しばらく辺りを観察していると、恵二はその違和感に気がついた。

(そうか。さっきから衛兵以外は誰も見かけないからだ)

 コマイラの町や他の町にしても、ある程度の規模なら多少は門の周りに人の列が出来ていた。町への出入りには基本許可が必要で、場合によっては荷を調べたり調書したりと時間がかかる。だがこの町は門の周辺はおろか、門に続く道にもすれ違う人は皆無であった。それに門が閉まりきっているのも変だ。いちいち人が出入りする度にあの馬鹿でかい門を開け閉めするのだろうか。ハーデアルト王国の王都でさえも門は常に開いていたのだ。

(つまり、何か異常事態があったということか)

 恵二はつい先程自分たちの身に起こった異常事態を思い出す。考えてみればあの襲撃は町の比較的近くで行われていた。普通計画をたてて襲うなら、巡回の兵を恐れてもっと町から離れた距離でするのではないだろうか。
 これはやはりシドリスの町も、既に何かの異常事態に巻き込まれているのであろうか。まだすぐには休めそうにないかもと不安が恵二の中によぎる。


『――そこで止まれ!!』

 門前に立っている衛兵から大声で停止の指示が飛ぶ。それを聞いた先頭の御者はすぐさま停止をし、続いて他3台の馬車も一旦止まる。それを見た衛兵はダーナ商隊に向けこう続ける。

『現在この町は閉鎖をしている。特に要件が無ければお引き取り願おう!』

 どうやら恵二の不安は的中したようだ。何かがこの町に起こったのだ。門の周辺にいる衛兵たちは皆ピリピリと殺気立っていた。迂闊な行動をしようものなら今すぐにでも襲われかねない雰囲気だ。しかしここで引くわけにもいかず、代表であるダーナは一歩前へ出ると大声で衛兵に語り掛けた。

『私は商人のダーナと申します。この町へは取引の為に伺いました。しかし、道中で仲間が魔物に襲われ深手を負ったのです。どうか町の中へ入れて治療をさせてはくれませんか?』

 ダーナの言葉に耳を貸した衛兵たちは商人たちを通すのか、それとも追い返すのか相談をしていた。これがただ商売の為という目的ならば追い返されてたかもしれない。しかし怪我人の治療をしてほしいという人情に訴えた商人の言葉を、あっさりと拒否するほど衛兵たちも薄情ではなかったようだ。

 自分たちでは決めかねたのか、衛兵は上司へと報告をしたのであろう。武装を見る限り一般兵とは少し異なった出で立ちの兵士が部下数名を連れて門の上にある見張り台にまで来ていた。その偉そうな兵士は大声でこう告げた。

『私はこの町の警備を任されている者だ。ダーナと名乗った商人ともう1人だけ帯同を許す。他の者はそのままの位置で待て。中で諸君らの事情を聴いた上で追って判断をする!』

 重傷者がいるというのに何を悠長なと言いたくはなるが、この場合はやむを得ないであろう。むしろ話を聴いてくれるだけでも有り難かった。先程までの雰囲気を考えると門前払いもありえたからだ。

 ダーナはさっそく帯同者を指名する。最初は雇われ冒険者であるカンテかアルミラに頼もうとしたのだが、重傷のガルムを看ている2人を連れて行くのを少し躊躇った。
 そこでダーナは恵二に同行を願い出たのだ。理由は有事の際に戦力になることと、恵二の容姿はまだ幼く見え向こうにとっては無害であると思わせる為であった。

 特に断る理由の無い恵二はそれを快諾する。念の為に武器は予め外しておくことにした。愛用の短剣をセオッツに預けると、恵二はダーナと共に町の門へと向かう。


 門前に着くと恵二たち2人は身体検査をさせられた。武器を持った衛兵たちに囲まれる形でボディーチェックをさせられ少しムッとした気分になるが、事前に衛兵からは念の為だからと謝罪されていたのでここは気持ちを抑える。

 それが終わると2人は門のすぐ横にある見張り小屋へと案内される。部屋の奥へと通されるとそこには厳重な扉があった。どうやらここの扉は町の中へと続いているらしい。しかしこんな所に扉があるのなら、あの馬鹿でかい門は無意味ではないのだろうか。そう思った恵二だが扉を通った先の光景を見て納得をした。

 扉の先も建物内のようで目の前にはとても頑丈そうな鉄格子があったのだ。兵士の数も相当配備されている。これなら賊が襲ってきてもそうやすやすと突破されることはないだろう。

 衛兵に案内された2人は鉄格子にある扉を抜け、更に奥へと進んで行く。話を聞くとどうやらこの建物は町の兵舎らしい。どうりで兵の数が多いわけであった。しかし小さい町の兵舎ということで、流石に王城の兵士と比べるとその数や武装の質は大分落ちるようであった。通路を曲がった所で、ようやく目的の部屋に到着したようだ。兵に促されるままに部屋へと入るダーナと恵二。するとそこには先程の偉そうな兵士と土木作業服のようなものを着た大男、それと数人の兵が室内にいた。

「おお、間違いねえ。やはりダーナさんか!」

 まず最初に土木作業服の男が口を開いた。身長はそこそこ高いといったところだが、腕や胸板の筋肉は冒険者顔負けといった体つきであった。男はどうやらダーナさんの知り合いのようだ。

「御無沙汰しております親方さん。色々とありましたが、なんとか無事にシドリスに着くことが出来ました」

 どうやら親方と呼ばれたこの男はダーナの今回の取引相手であるようだ。名前はマイクというらしいが余り似合わない。本人もそれがわかっているのか、周りには親方と呼ばせている。どうやらこのシドリスの町の近くにある炭鉱の責任者であるようだ。

「ゆっくりと再会のご挨拶をしたい所ですが、何やらこの町で不穏なことが起こったようですね。こちらも少し急いでおりまして、出来ればそちらの方をご紹介頂けないでしょうか?」

 ダーナはもう1人同伴している偉そうな兵士とは面識がないようだ。彼は親方に促されると、姿勢を正しハキハキと自己紹介を始める。

「自分はシドリスの駐屯兵団を預かっているトッシュと言います。先程は大変失礼を致しました」

 この町の兵士長トッシュは先程までの対応を改めてダーナたちに丁寧な挨拶をした。詳しいことは分からないが、どうやらこの町の全員が目の前にいる親方に頭が上がらないらしい。
 そんな親方の知り合いのダーナにも自然と畏まった態度をとってしまう兵士長。彼は続けてこう言った。

「実は貴殿方にお願いがあるのです」

 なんて初対面の旅人に突然お願いをするという、ファンタジー世界でお約束のクエストが発生したようだ。
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