挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

21/106

俺は確かに見たんだ!

骸骨の弓手(スケルトンシューター)
 不死生物(アンデッド)と呼ばれる特殊な魔物の1つであり、正確には生きていない。血や生命力の代わりに魔力を糧に行動をし、生きているものには基本無差別に襲い掛かる。日の光に弱い為、その多くは光の届かない洞窟やダンジョンに棲息している。偶に夜間にも出没する厄介な魔物である。

 骸骨の弓手(スケルトンシューター)は生前に射手であったものが蘇った魔物だと言われている。暗闇の狙撃手とも恐れられているが、その個体によって力量も様々で基本Cランクの魔物と位置づけられている。

 そんな魔物が何故か真昼間の森の中に姿を現したのだ。セオッツが驚くのも無理は無い。骸骨の弓手(スケルトンシューター)は木の上から冒険者たちに矢を浴びせようと構えるが、投げナイフや投石で骸骨の弓手(スケルトンシューター)を木の上から落としていく冒険者たち。

 セオッツも最初は驚きの声を上げたものの、その後は器用に大樹を三角飛びの要領で蹴りあげ、枝の上にいる骸骨の弓手(スケルトンシューター)を叩き斬る。

 これだけ近づかれた上、ろくに身動きの取れない木の上では骸骨の弓手(スケルトンシューター)といえども形無しであった。あっという間にその数を減らして行く。

 粗方始末したようで、周囲を安全確認する冒険者たち。セオッツも2匹目の骸骨の弓手(スケルトンシューター)を仕留めたようだが、何故か浮かない顔をしていた。

(まあ、こんな時間にアンデッドがいたんじゃな)

 てっきりセオッツも同じことを考えていると思っていたのだが、何か様子がおかしい。さっきからアンデッドの亡骸を確認するセオッツ。

 アンデッドに果たして亡骸という言葉は正しいのであろうか。その残骸を確認し終えたセオッツはこう口に出した。

「やっぱりおかしい。俺はさっき生きてる人間を見たんだ」

 土盾(アースシールド)ごしにやりあっていた時にセオッツは射手を視認していたようだ。その時セオッツが見たものは確かに人間であったと主張するのだ。

「・・・他にも人間の射手が居たってことか?」

「ここにいる奴は全部アンデッドだったぞ?」

 改めてその残骸を確認するが骨と身に付けていた装備だけのようだ。人であったら必ずあるであろう肉片や血溜まりは一切なかった。

「俺は確かに見たんだ!人間が木の上から矢を放ってたんだ!」

 何を馬鹿な話をと言いたくなるが、この場にいる誰もがセオッツの話を真剣に聞いていた。馬鹿な話といえば真っ昼間からアンデッドが出現している時点で異常なのである。既に何人もの襲撃者を撃退しているセオッツの存在を軽く見る者など、この中にはいなかったのだ。

 しかし何時までこの場にいても得るものは無い。それより前2つの馬車を護衛していた者たちが心配だ。あちらにも魔物が出現したらしいのだから。

 恵二たちは射手を排除するという目的を達成した以上、ガルムたちの応援に向かおうと引き返し始めた。

 その直後、馬車の方から大きな悲鳴が聞こえた。

「――!」

 その声に反応し、急ぎ馬車の方に向かう。慌てて森を出ようとする恵二たちの目の前に突如それは現れた。

 それはゆったりとした白いローブを身に纏い、1メートルほどの長さの杖を持っている魔術師であった。手に持っている杖の先には深紫の宝珠が禍々しい光を放つ。そして何よりも注目すべきはその顔。魔術師の顔には皮膚や血肉は一切なく、白骨が露出している。眼球があったであろう場所の窪みには薄暗い赤の光を灯している。

 それはどこからどう見ても先程の射手と同じ不死生物(アンデッド)であった。

「おいおい。お次は骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)かよ!」

 いきなりの新手に動きを止めた冒険者たち。しかしすぐに思い直し2名の冒険者が骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)へと駆けて行く。相手はその名の通り魔術を得意とする不死生物(アンデッド)だ。距離を置いていればそれだけ不利になると判断し、まずは片手剣と盾を装備した冒険者マルクが距離を詰める。

 そうはさせまいと骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)は杖を前方にかざす。すると杖の先の宝珠は鈍い光を放ち、同時にそこから黒い弾丸の魔術を放つ。詠唱無しでの魔術に一瞬驚いたマルクではあったが、左手で持っている盾を前面に構え遣り過ごす。

「――っぐ!甘めェ!!」

 なんとか盾で魔術の衝撃に耐えたマルクは、間合いに入ると今度は右手の片手剣で骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)の首筋を狙う。剣撃を放つ寸前マルクはうまく盾で剣を隠していた。そこからのあの剣速、到底躱せないと誰もが思った。

 しかしこともあろうかその骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)は、徒手の左手でマルクの剣を弾いたのだ。

「――っ!?」

 流石にこれは予想できなかったのかマルクに動揺が走る。だがこの場にはもう1人骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)へと駆けていた者がいた。手甲を両手に装備した筋肉質な大男イアンがマルクに一歩遅れて横から迫っていた。

 イアンは駆けた勢いそのままに、その巨体の重さを乗せた右ストレートを骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)に繰り出す。しかし骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)はその身体を軽く後ろへと引くことによってイアンの右ストレートを躱す。渾身の一撃を避けられ、骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)の目の前で大勢を崩すイアン。

 すると骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)は、鮮やかに拳を躱され驚いているイアンの胸板に膝蹴りを繰り出した。

 アンデッドとはいえ魔術師があんな攻撃をするとは夢にも思わず、見守っていた冒険者たちは面を食らう。骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)の膝蹴りが入った瞬間、鈍い衝撃音と共に、バリンとガラスが割れたような音がした。どうやらサミのかけた光の防御魔術が破壊された音のようだ。

(――まずい!)

 このままではマルクとイアンが危ない。そう判断した恵二は超強化(ハイブースト)を使用し即座に助けに向かった。他の冒険者も同じことを考えたのかほぼ同時に動き出す。しかしその直後――

 冒険者たちの背後、森の奥からさらにに新手がやってきた。その襲撃者たちもやはり骨だけの不死生物(アンデッド)であった。ただ今までの相手と違うのは、彼らは人型ではなかった。四本足の動物の不死生物(アンデッド)であろうか。尻尾のような骨まで付いている。

「ちぃ!骸骨の猟犬(スケルトンハンター)までいやがるのかよ!!」

骸骨の猟犬(スケルトンハンター)
 不死生物(アンデッド)の発生する場所ではよく見かける魔物だ。ランクはDで生前のような猟犬の嗅覚は失われ、そこまで手強い魔物では無い。しかしすばしっこい動きをする上、群れで行動することが多く決して油断は出来ない相手だ。鋭い牙は骨だけになっても健在なので、当然噛まれれば大怪我をする。

 骸骨の猟犬(スケルトンハンター)が全部で6匹背後から襲ってきた。それを迎撃するために180度体の向きを変える冒険者たち。恵二も!骸骨の猟犬(スケルトンハンター)を迎撃しようとしたが、それに待ったがかかる。

「ケージ!お前はイアンたちをフォローしてやってくれ。頼む!」

 自らの獲物である斧を構えながらダグラトは恵二に2人を助けてくれと頼む。少し迷った後その言葉に頷くと、改めてターゲットを骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)へと切り替える。

(もともと魔術師に対抗する為に俺も来たんだ。あいつは俺が仕留める!)

 心の中で気合を入れ直し、再び目標の魔術師を見定める。丁度マルクが片手剣で再度攻撃を繰り出しているところであった。骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)はそれを今度は杖で弾くと、お返しだと言わんばかりにその杖をマルクの盾へと叩きつけた。

「ぐっ!!」

 一体あの骨だけの腕にどれだけの力が込められているのであろう。杖の攻撃を受けた盾は粉々になり、更にその衝撃でマルクは数メートル吹き飛ばされてしまう。イアンは先程の膝蹴りのせいで、すでに地面に倒れ伏していた。魔術師の周りには立っている人間は皆無であった。
 今なら骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)に魔術を叩きつけても、誤って冒険者に当てることはないだろう。そう判断した恵二は無詠唱で火弾(ファイヤーショット)を3発放つ。強めに強化した火弾(ファイヤーショット)はその威力・弾速共に申し分なく、骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)は躱すことも叶わずそれを受ける。しかし、強化された火弾(ファイヤーショット)が着弾してもいつもの轟音は無く、代わりにバリンと鈍い音が木霊する。

「「――っ!!」」

 それに両者は驚く。恵二は今まで一度でも放てば必勝であった魔術を防がれたことに、骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)は己の魔術障壁を破壊した少年のその魔術の威力に。

「・・・」

 骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)がそこで改めて少年を見定める。肉の無い骨だけの表情では何を考えているのかは全く分からない。薄暗い炎のような赤い目をただ爛々と光らせている。

(――っ!どうする?あれを防がれるとなると、次は接近戦を仕掛けるか?)

 しかし魔力・スキル共に残りわずかな恵二は躊躇った。どうやら馬車の方でもなにかあったようでこの後また戦闘があるかもしれない。ここでの消耗はできるだけ避けたい。しかし、目の前の不死生物(アンデッド)はそんな生易しい考えで倒せる相手ではなさそうだ。

 恵二が悩んでいる間に、骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)は行動に出た。右手に持った杖をかざすと、杖の宝玉から鈍い光が放たれる。恐らくまた魔術を使うのであろう。

「――させるかよ!」

 恵二は覚悟を決め、己の身体に強化をかけようとする。しかし、どうも相手の様子がおかしい。杖からは一向に攻撃魔術を放つ様子は無く、骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)の足元には何やら淡い光を放った模様が浮かび上がる。その魔法陣のような模様がさらに一層輝きを増すと、一瞬の強い光と共に骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)の姿は目の前から完全に消えていた。

「――!?」

 目標を見失った恵二はすかさず五感を強化(ブースト)させる。しかし恵二の強化された目、耳、鼻は骸骨の魔術師(スケルトンメイジ)を捉えることは出来ない。魔力探索(マジックサーチ)を試みても同様だ。どうやら去ったらしい。
 周囲を見渡すとセオッツたちが骸骨の猟犬(スケルトンハンター)を殲滅し終えたのが見えた。戦闘が終わるとダグラトは倒れているイアンの元へと急いで向かう。吹き飛ばされたマルクは軽傷だったのか、既に自らの足で立ち上がっていた。

 すると横から恵二に声がかかる

「逃げたのか?」

「・・・どうやらそうらしいです」

 恵二に質問してきたゴッシュにそう答える。しかしあのまま戦っていたらどうなっていたのだろうか。戦わずして逃げてくれたことに少しホッとする恵二。だがそんな時間はないことをすぐに思い出した。

「――俺、馬車に戻ります!」

「ケージ。俺もいくぜ!」

 恵二はゴッシュにそう告げると、セオッツも付いて行くと言い2人そろって馬車の方へと駆けだす。

 後ろから「こっちも後から向かう!」というゴッシュの声が響いた。



「・・・何が起こったんだ!?」

 急いで馬車に戻った恵二とセオッツが見た光景は、血だらけになっているリックとサミの姿であった。

 リックは腹から出血をしているのか、腹部から中心に服は真っ赤に染まっていた。サミも服が真っ赤になっていたが、どうやらサミに怪我は無いようでリックの血で染まっただけのようだ。彼女は必死にリックの手当てをしていた。一緒にいた御者と商人たちが馬車から慌てて薬や包帯を持ってきた。それをサミは受け取ると手際よく処置を施す。

「ぐっ。・・・すまねぇ、嬢ちゃん・・・」

「喋らないで。傷に響くわ」

 端から見ていた恵二は思わず顔をしかめる。ひどい傷口で見ているだけで痛くなってきそうだ。血生臭い修羅場にまだ慣れきっていない恵二はオロオロとするしかなかった。反面セオッツは平気そうだがこの場では役に立ちそうもなく、同じく手を持て余していた御者に事情を伺っていた。

 どうやらこちらにも襲撃があったようだ。しかもそれは予期しないところからであったという。

 恵二たちが射手を排除しに森へと向かった後、リックは援護の為に弓を構え様子を伺っていた。魔力が空になったサミは短剣を抜き商人や御者たちを護衛していた。

 しばらく森の様子を伺っていたリック。すると突然背後から低い呻き声と物音がした。咄嗟に背後を振り向くと、そこには片腕の骸骨の戦士(スケルトンファイター)がいた。

 骸骨の戦士(スケルトンファイター)はすぐさまリックとの距離を詰める。リックも弓で応戦しようとしたが距離が近すぎた為、腹部をショートソードで斬りつけられる。近くでそれを見ていたサミもすぐに加勢をし、なんとか撃退するも深手を負ったリックはそのまま倒れてしまった。それから今の現状に至るらしい。

 片腕の不死生物(アンデッド)と聞いて恵二はもしやと思った。自分が片腕を斬り落とした賊がそのまま死んで、不死生物(アンデッド)として蘇ったのではないかと。慌てて賊の姿を探したが見当たらない。

 恵二の考えを察したのか、リックを手当てしながらサミはこう口にした。

「恐らく恵二のせいじゃないわ。あいつ気を失ってたけど、ちゃんと生きていたもの」

 そうフォローしてくれたが、状況から言って間違いなくあの片腕の賊が骸骨の戦士(スケルトンファイター)の正体だろうともサミはつけ加えた。

「とにかくこのままだとリックさんが危ないわ。誰か回復魔術の使える人を呼んできて」

「――っ!わかった、すぐ連れて来る」

 サミに返事した後、すぐにガルムたちの応援に向かう。ゴッシュの話では前のほうの馬車にも魔物の襲撃があったらしい。すぐに街道の先を駆けると、そう離れていない距離に残り2台の馬車は停車していた。

 遠方から伺った限りでは、どうやら戦いは終わった後らしく静かであった。まさか全滅したのではと一瞬嫌な考えが頭を過ぎるが、すぐに動いてる人影を何人か発見した。

 あちらも恵二の姿を確認したのか手振りで安全だと知らせてくれる。

「ケージ、無事だったか!そっちにも襲撃があったようだが大丈夫か?」

 槍を片手に持った若い青年冒険者が声をかけてくる。確かパックという名前のDランク冒険者だ。

「ええ、ひとまず無事です。ただリックさんが大怪我をしまして、どなたか回復魔術を使える人はいませんか?」

 辺りを見回すも魔術を扱えそうなものは見かけなかった。確か自己紹介の時には唯一使える冒険者がいたはずだ。彼女の姿を探す。

「ああ、カイルアなら奥にいるぞ。今ガルムさんの手当てをしている」

 そう言ってパックは馬車の方を指した。どうやら裏側にいるらしい。ガルムも傷を負ったらしく、現在彼女が看ているようだ。すぐさま恵二は馬車の裏側へと駆けて行く。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ