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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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よりによってお前かよ

 グリズワードの森に近いこの街道は、ここ最近魔物が頻繁に現れるらしい。幸運にも今のところ商隊の前には姿を見せない。しかし夜になると夜行性の魔物も数多くいる為、更に警戒を高める必要がある。

 現在3名体制で見張りをしている冒険者たちの元へと足を運んだ。恵二が到着したことを確認すると、3人の中で一番早く見張りに着いていた女冒険者が立ち上がる。

「ふわー、やっとこれで眠れるわね」

 確かカルイアと名乗った20代くらいの女冒険者が、大きなあくびをしながら伸びをする。

「おう、お疲れさん。ゆっくり休んでくれ」
「ちぇ、いいよなぁ。俺は後2時間もお仕事か」

 労いの言葉をかける弓を持った冒険者リックと、先に見張り番から解放されたカイルアを恨めしそうに愚痴をこぼす大男。棍棒と盾を装備した大男は、確かゴッシュと名乗っていたかと頭の中の記憶を思い起こした。

「それじゃ、ケージ君。頑張ってね」

 当番から解放されたカルイアは、後は宜しくと言って軽い足取りで女性用のテントへと向かった。

「来たな、ケージ。それじゃあ早速お仕事の続きといくか」
「若い女もいなくなって男3人の見張りか。やる気起きねー・・・・」

(んなこと言われても、こっちもおっさん二人よりカルイアさんみたいな美人のお姉さんと一緒に見張り番したかったよ・・・)

 正直な感想は心の中にだけ留めておき、先輩冒険者に軽く挨拶をする恵二。するとリックはまず恵二に夜の見張りをしたことがあるかと尋ねる。夜の森は危険だと聞かされていた恵二は、夜間は殆ど出かけたことが無い。当然初めての経験なのでそう告げると、まずは簡単に見張りのコツを教えてくれた。

 “夜間は視野が狭まる為、音や匂いなどを頼りにしろ”だとか、“盗賊などの知能ある輩が襲う場合は真っ先に見張りから殺しにかかるから気を付けろ”などと脅されもした。

 このおせっかいなおっさん冒険者は、恵二と同じコマイラの町から依頼を受けた冒険者だ。町では恵二とお互い顔を合わせたことはあるものの、まともに話すようになったのはこの旅からであった。最初の護衛配置の際に助言をくれたりと恵二に対し色々と親切にしてくれる。また弓の腕も確かで、射た矢は殆どそれることなく目標へと突き刺さっていた。

 一通りアドバイスを貰った恵二は、リックの指示で2人揃って森の方を警戒する。もう1人の見張り番ゴッシュは念の為、反対方向に視線を向けて警戒する。異世界の夜は、街灯だらけの現代日本とはまるで真逆で本当に視野がきかなかった。その分音を頼りに警戒していた3人はしばらく無言で警戒に当たっていた。

 しかしそれに痺れを切らしたのか、大男ゴッシュが気を紛らわす為にあれこれと話しかけてくる。それは本当に他愛ない会話であった。出身地の村での出来事、冒険者になった時の事、依頼票を読み間違えて危うく死にかけた体験など。

 それは恵二にとってはまさしく憧れの、これから体験するであろう冒険譚の話に聞こえた。ゴッシュは話に乗ってきた恵二に気分を良くしたのか、あれこれと話を盛って体験談を披露した。途中からリックも交えて男3人で冒険話に盛り上がる。

 すっかり夢中になっていた恵二たちは、時間を立つのも忘れて話し込んでいた。すると突然誰かが近づいてくる足音がし、会話をピタリと止める3人。しかしそれが野営地から来る足音だと気がつきすぐに警戒を緩める。

「おっと、もう上がりの時間か?あっという間だったな」
「お疲れ様です、リックさん」
「あーあ。俺は後1時間か。どうせなら色っぽい鞭のねーちゃんか、可愛い魔術師の嬢ちゃんがこねーかな」

 当番を終えたリックに恵二は挨拶をし、ゴッシュは何か色ボケたことを口走っていた。しかしゴッシュの期待とは裏腹に、夜の暗闇から現れたのは大きな斧を持ったむさ苦しいおっさんであった。

「お?なんだゴッシュか」
「よりによってお前かよ!」

 それは最初に冒険者たちが自己紹介をした時、恵二に突っかかってきた斧使いの大男ダグラトであった。どうやら大男2人は周知の仲のようだが、お互いの顔を見て嫌そうな表情をする。そして恵二の方を見ると更に顔をしかめる。最初の気まずい一件以来、ろくに会話をしなかった二人の間には当然微妙な空気が漂う。それを察したリックは恵二に憐れんだ視線を送ると、そのまま野営のテントへと向かって行く。

「・・・ま、とにかく見張りの続きだ。ダグはケージと森の方でも見張っとけよ」

(よりによってこいつとか・・・)

 さっきまでの会話の盛り上がりも一気に冷めて、しかしこれも仕事と割り切った恵二は森へと身体を向け見張り番を続ける。

 なんとも気まずい雰囲気の中、3人は黙って見張りを続ける。時たまゴッシュが眠いだの暇だのと呟いていたが、特に襲撃もなく平穏であった。しかしそんな静寂を打ち破ったのはやはりゴッシュであった。

「ダグ。色々と横のケージが気になるんだろうが、ちっとは俺と話そうぜ」

「・・・お前は本当に空気を読まねーのな」

 おしゃべりな性格なのかゴッシュはこんな雰囲気でもかまわずダグラトに話しかける。それにダグラトは少し嫌そうな表情をする。あちらも恵二との気まずい空気を察して黙っていたのに、その作戦をぶち壊されたからだ。そんなダグラトのことなどお構いなしにゴッシュは語りかける。

「お?やっぱケージを意識してたのか。まぁ最初に突っかかった手前、実力を見抜けなかったのが後になって恥ずかしいってか?」

「・・・ちっ、うるせーよ」

 ゴッシュの煽るような台詞に悪態をつく大男。完全な嫌味に聞こえるその台詞に今すぐ腹を立てるんじゃないかと恵二は思っていた。しかし弱々しい返事だけで余り怒っている様子はない。

 代わりにダグラトは大きな溜息をつくと、気難しい顔を恵二へと向けて口を開いた。

「あー。まぁ、その。なんだ・・・」

 少年の倍くらいの体型と年齢を重ねた目の前の大男は、口を開くも中々思った言葉が出てこないようだ。それを訝しんだ恵二に横からゴッシュが割って入る。

「ケージ。こいつはお前さんに謝りたいんだとよ」

「へ?」
「――っ! て、テメェ!」

 意外なゴッシュの言葉に思わず間抜けな声を出す恵二と恥ずかしさのあまり慌てる斧使い。どうやら恵二の実力を見誤った斧使いの冒険者は、最初に突っかかったことを詫びたいとゴッシュに話していたそうだ。しかしタイミングが掴めず、ずっと気にしていたらしい。

 それを第三者から聞かされ、さっきとは違った微妙な空気の当事者2人。意を決した大男は再度口を開く。

「ケージ、俺の目が節穴だった。ガキ扱いしたことを許してほしい」

「あ、いや。まぁ、俺もこんな見た目だし・・・。しょうがないんじゃないっすか?」

「それじゃー、最初の件は水に流してくれるか?」

「ええ。実際こういった依頼は初めてだし、冒険者としてはまだまだ新米ですから」

 これは正直な気持ちだった。スキルを使えばここにいるどんな冒険者にも負ける気はしない。しかし素の状態では自分がこの中で一番非力であろう。それにまだまだ冒険者のイロハも分かってなどいない。2日間しか護衛をしていないが周りの冒険者たちの手際を観察し、それをひどく痛感した。

 それは目の前にいるダグラトにも同じことがいえた。移動時は率先して危険な森側を警戒し、突然の一角鬼(シングルオーガ)の襲撃にも怯まず前衛の役割をしてみせた。

 恵二は自分の心の中で、斧使いの評価を少し見直したのであった。

 それからは3人でまたくだらない会話を始めた。主に喋っていたのはゴッシュであったが、恵二とダグラトはそれに適当な相槌を打つ。

 するとあっという間に時間は過ぎ、今度はゴッシュに代わって高齢の槍使いが見張りにやってきた。やっと解放されたゴッシュは意気揚々とテントに向かって行ったが、代わりに来た冒険者はまるで正反対の寡黙さで最低限の挨拶をするとサッと見張りの位置に着く。

 男は今回依頼を受けた冒険者の中では恐らく最高齢であろう。自己紹介ではたしかダンノと名乗っていた。獲物は長い槍で、刃の部分は枝分かれせず真っ直ぐ伸びている。たしか直槍という種類だっただろうか。
 男が会話をしているところを恵二は余り見たことが無い。しかし寡黙な男のその腕は確かなようで一角鬼(シングルオーガ)襲撃の際には、恵二が仕留める前に既にその直槍で相手は深手を負っていた。

 お喋りが抜けて寡黙な老冒険者が加わると、再び静寂が周りを支配した。ダグラトも元々口数が少ない性格のようで黙って森側を警戒する。

(やべ、ちょっと眠くなってきたかな・・・)

 森は静かで特に警戒すべきものも見当たらない。少し気を抜きかけた恵二だが、ふと森の茂みを何かが通ったような音がかすかに聞こえた。

『――っ!!』

 咄嗟にそれぞれ武器を持ち構え、音がした方を凝視するも特に変化はない。

(・・・思い過ごしか?)

 風か何かかもしれない。そう思った恵二の考えを否定したのは寡黙な男の台詞であった。

「・・・去ったか」

「爺さん。あんたさっきの何だったのか分かったのか?」

 何かが去ったと呟いた老冒険者にダグラトが問いかける。すると老人は首を横に振りこう続ける。

「遠くてハッキリとは聞き分けられなかった。が、人に近い大きさの何かがいたことは分かる」

 老冒険者は人間くらいの大きさの何者かが森の茂みにいたと話す。

「ゴブリンかオークか?」

 ダグラトはパッと思いついた人のサイズに近い魔物を列挙していく。

小鬼(ゴブリン)ごときにあんな気配の消し方ができるとは思えんが・・・。オークにしては素早かったしのう」

 このまま話していても埒が明かない。この場合は見張りとしてどう行動するべきであろう。やはりまずは報告であろうか。恵二と同じことを思ったのかダグラトが恵二に指示を飛ばす。

「ケージ。お前は今の件をガルムの旦那に報告しろ。この場は俺と爺さんで見張る」

 それを聞いた恵二は、すぐにでも知らせた方がいいとガルムのいるダーナが寝ているテントへと向かう。


 恵二たち冒険者が持ち回りで見張りをしている間、ガルムたち雇われパーティーの3人はダーナたち商人が寝泊まりしているテントの護衛に着いていた。
 そのダーナたちのテント前に辿り着くと、丁度見張りで起きていたのは護衛隊長ガルムであった。ガルムは恵二の顔を確認すると、何があったと話しかけてくる。見張り番のシフトを組んだのはガルム本人である為、現在当番の最中である恵二がここに来たことに異常を嗅ぎ取ったのであろう。

 恵二は先程起こった出来事を余す事無く伝えきる。するとガルムは深刻な表情で少しの間考え込む。

「・・・分かった。とりあえずこちらと他の冒険者で対応する。お前はもう時間だろう?寝ていいぞ」

 てっきりまずい事態でも想定していたかと思われたが、ガルムに寝ていいと言われ少し拍子抜けする恵二。しかし、恵二が起きていても何か進展するとは限らない。ここはお言葉に甘えて寝てしまおうと頷き、あてがわれたテントへと向かう。

 色々とあって疲れていた恵二はテントの中に入ると、異世界での初野営を味わう間もなくその意識を手放した。



 早朝目を覚ました恵二は配給された朝食を口にする。昨晩と比べると少なめで物足りなさを感じてしまう。

(そういえば、昨日の件はどうしたんだろう)

 周囲を見渡してみるが、あれからの事情を知っていそうなガルムや後から見張りに来たダグラトとダンノの姿が見えない。すると寝不足気味な顔をした同世代の少年少女を見かけたので声を掛けてみた。

「2人とも寝不足って顔だぞ?大丈夫か?」

「・・・コイツが余りにも物覚え悪いから」
「・・・サミの教え方が悪いから」

 どうやらあの後、早速サミはセオッツに字を教えていたらしい。だが理解力の乏しいセオッツに教えるのは中々骨が折れたようだ。セオッツが主張するにはサミの教え方が大雑把だかららしいが。


 朝食を終えた冒険者たちはテントを畳み出発に向け準備を始める。一通り作業が終わると、ガルムたちパーティーと老冒険者ダンノが姿を現す。見かけなかったダグラトもいつの間にか冒険者たちと合流していた。どうやら昨日の件で先程まで話し合っていたようで、冒険者たちの前に現れたガルムは今後の事について話を切り出す。

「今日は予定通り旧街道を進み、最低でも日が暮れる前には次の目的地シドリスに到着をする予定だ」

 シドリスは小さな炭鉱の町である。町の南東には鉱山を含んだ山脈地帯が連なっていて、主に銅が採掘され、まれに希少な鉱物が取れたりもするようだ。
 北にはグリズワードの森が広がっている為、町の外壁は魔物対策で高い塀に囲まれている。その町で2日後に商談を控えていたダーナは、本来山脈を迂回して南ルートを通るところ、恵二という戦力を当てに魔物の蔓延る旧北街道を使い時間の短縮を図る。

 しかし実際には魔物の襲撃は全く無く順調に進めるかと思った矢先に昨夜の出来事が起こった。その件についてどうやらガルムから話があるようだ。

「昨夜、盗賊の偵察員と思われる輩が出没した」

 その言葉にざわつき出す冒険者たち。すかさず冒険者の1人が質問を投げかける。

「その盗賊団はどのくらいの規模なんだ?何か情報はあるのか?」

「・・・情報はほとんど無いな」

 それを聞いて更にざわつき始める冒険者たちを余所にガルムは説明を続ける。

 昨夜恵二が床に就いた後、ガルムは予め非常時の補充員として準備していた冒険者を叩き起こした。一番最初の見張り当番だった冒険者レグルは1時間しか見張りをしていない為、何かの非常時には駆り出されることをガルムから告げられていたのだ。ガルムはレグルと一緒に現場へと向かう。

 残って見張りをしていたダグラトたちと合流すると、すぐに音のした所を徹底的に調べた。すると明らかに人間のいた形跡を発見したのだ。こんな時間に森の中で逃げ出した者はなんなのか、ガルムたちの行きついた結論は盗賊団の存在だ。

 本来もっと魔物が現れてもおかしくないこの街道でこれまで全く遭遇しなかったのは、大きな盗賊団の棲家がこの辺りにあるのではと予想を立てた。

「あくまで予想だが、高確率で盗賊団が近くにいる。今後は魔物だけでなく、そちらにも最大限注意を払って行動してほしい」

 警戒する対象が魔物から人に切り替わっただけ。そう割り切っていつも通りに準備をする冒険者たち。ただ一人恵二を除いては。

(・・・人を相手にするのか)

 魔物相手には既に何度も死闘を繰り返してきた恵二。しかし人を相手に命のやり取りをした事は無かった。

 言い知れない不安が恵二の胸を締めつけるのであった。
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