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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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教えて

 7体もの一角鬼(シングルオーガ)からの襲撃にも関わらず、軽傷者すら出なかったのは奇跡と言えよう。そんな戦果の立役者である恵二は、冒険者たちに謝っていた。

「すみません、魔物を消し炭にしてしまって」

 護衛依頼の最中に襲ってきた魔物たちの素材は、冒険者たちにとっては馬鹿に出来ない臨時収入となる。一角鬼のトレードマークである角や、鋭い牙は金になるのだ。それらの大半を焼き尽くしてしまった恵二に、冒険者たちの視線が集まりいたたまれない気持ちになる。

 だが、冒険者たちは何も恵二に非難の目を向けているわけではなかった。つい先程まではおまけ扱いであった新人(ルーキー)が、先の戦闘で恐ろしいまでの火力を持った同業者(ライバル)であると知った為に注目しているのだ。

「ケージ!お前、すげーなー!!」
「坊主、やるじゃねーか」
「あんた、無詠唱であの威力って一体どうなってんのよ・・・」

 セオッツがはしゃぎ、おっさん冒険者が恵二の背中をバンバン叩く。背中を強く叩かれ少しむせた恵二にサミは呆れた声で疑問を投げ掛ける。

 スキルで強化したと正直に話すのを躊躇った恵二は、誤魔化し笑いでその場をやりしのぐ。すると、今度は別の者から声がかかる。そちらを見やると護衛隊長ガルムと魔術師のカンテ、それと鞭使いの女冒険者アルミラが揃って立っていた。

「やるヤツだってのはホーキンの旦那に聞いてはいたが、想像以上の腕だな」
「その若さであそこまでの魔術を使われたんじゃ、カンテの立つ瀬がないね。どうだい、代わりにうち等のパーティーに来ないかい?」
「おいコラ待て!」

 ガルムが褒め称えアルミラが恵二を勧誘しだすと、秤にかけられたカンテがそれに待ったをかける。

 どうやらこの3人はパーティーでダーナに雇われているようだ。先程の戦闘がスムーズに事を運べたのもガルム隊長の素早い全体への指示とカンテの後衛組への目標指示、そしてアルミラの立ち回りがあればこそであろう。

「カンテさんも大切な戦力です。代わりなんて居ませんよ。でもケージ君さえ良ければ是非うちで雇いたい人材ですねえ」

 突然後ろからこの商隊の代表でもあるダーナが話しかけてきた。先の戦闘はダーナたち商人も見ていた。目聡い商人は、さっそく前途有望な恵二を勧誘しようと話に割ってきたのだ。それは良いと賛成の意思をみせるガルムたち。しかし恵二の答えは既に出ていた。

「すみません。俺にはやりたいことがありまして・・・。今回の依頼はキッチリとやりますので」

「そうですか。残念ですがここは大人しく引いておきましょう」

 顔は凄く残念がってはいるが、それとは裏腹にあっさりと身を引く商人。恐らく恵二が断ることを見越していたのであろう。ただ、気が変わったら何時でも返事をくれという言葉だけはしっかりと残し馬車へと戻っていく。

「さて、話は変わるがケージ。お前さっきの魔術を、あと何発撃てる?」

 突然のガルムの問いに、恵二は少し考える。自分の底をペラペラとしゃべるのは余り良い行為ではないということくらいは、経験の浅い恵二にも理解していた。しかしこの場で黙秘したり嘘を付くのは出来ればしたくはない。よって無難な回答を口にする。

「まだある程度は放てますよ」

「そうか・・・。ちょっと待っててくれ」

 そう言うとガルムはダーナが去って行った馬車の方に向かう。何やらダーナを含めた商人たちと話し合いをしている。それは数分を要したが何やら決まったのであろう。ガルムは再び恵二の元へと戻ると、他の冒険者にも聞こえるほどの大声で今後の方針を口にする。

「我々はこの後、予定していた南の街道ではなく北の街道を通る」

 その決定に数名の冒険者は何かを理解したのか顔色を変え考え込む。

「ん?なんだ?北の街道に何かあるのか?」

 素直に疑問を口にするセオッツ。恵二も同じ疑問を思っていると横から事情を知っていそうな顔で女魔術師サミが理由を教えてくれた。

「北の街道、つまり旧馬車街道のことなんだけど・・・。そこは魔物が頻繁に出没する厄介な道なのよ」

 どうやらここから西に進むには、数キロ先にある分かれ道の北か南の道を行く必要があるらしい。最短距離で行けるのは北の道ではあるが、近年北の街道近くの森から頻繁に魔物が出没するようになったのだ。その為、森林警備隊や冒険者たちは今でも通ったりするようだが商人や旅人たちは通常南の安全な道を選ぶという。

 しかし、南の道は西にある大きな山脈を迂回するルートとなるそうで、どんなに早く進んでも5日はかかるらしい。それに比べて北のルートは最速で1日と半日。その差は歴然である。

 どうやらダーナたちはハーデアルトでの取引に予定外の時間を割いてしまい、本来のスケジュールが詰まっていたようだ。本当はもっとコマイラの町で旧友と話をしたかったらしいのだが、滞在時間を減らして出発してもいまだに予定より遅れているようだ。

 ガルムは続けてこう説明する。

「諸君らが俺の思っていた以上に腕が立つようなので、急遽北の街道を使うことにした。目的地での商談に間に合うようであれば報酬に色も付けさせて貰う」

 その言葉を聞いた冒険者たちからは歓声があがった。誰も北の街道に出没する魔物を恐れてなどはいなかった。

「はーい。オレ、賛成。北の街道に一票!」

 セオッツが手を上げて同意すると周りの冒険者たちもこぞって賛成をした。

「まったく、能天気な連中ね」

 そう口では悪態ついていたサミだが、報酬が増えるとあってか口元には笑みを浮かべていた。

 誰も反対の意見が出ないことを確認すると早速ガルムは出発の号令を出し、一行は魔物が出没するという旧馬車街道へと向かった。


 1時間ほど経つと分かれ道があり、商隊は北の道へと向かって行く。その道はグリズワードの南部にある大きな山脈の北側を通るルートで、ほぼ直進で西に進む事が出来る為、目的地に早く到着をする。しかし先程までとは違って少し道が悪く、馬車の揺れが若干大きくなる。後ろで歩いている恵二も荒れた地面のせいで少し歩きにくい。

 街道を歩いている恵二たちの右側、つまり北側には大きな森林地帯が見られる。この大陸で二番目に広大な森、グリズワードの森だ。その中心部には竜種も住んでいるとされるが詳しいことは誰も分からない。冒険者でもせいぜい足を踏み入れるのは十数キロ程度だ。この森は100キロ以上はあるらしい。

(一度この森の中も見て回りたいが、まずは魔術を勉強したいな)

 恐らくスキルだけでも森を踏破することは出来るとは思う。ただ恵二のスキルは万能に近いが絶対ではない。今の恵二が全力でスキルを使用すれば、たった2分で効果が切れてしまう。当初は1分だったことを考えると成長はしているが、やはりまだ心もとない。
 スキルの効果を抑えて使用すれば更に長時間続けていられるが、それだけ効果も落ちる。それを補うために魔術のバリエーションを増やしたいのだ。


 今のところ特に魔物の姿はなく、順調に歩を進めるダーナ商隊。日が暮れ始めると、今日はここで野営をしようと声がかかり、手際良く準備をはじめる冒険者たち。恵二もテント張りを手伝い一息ついたところに同年代の少女、魔術師サミから声を掛けられた。

「ケージ。このあと時間貰える?」

「ん?大丈夫だけど・・・」

 野営の準備が終わり商人たちが晩飯の支度をはじめる。その間することのない恵二は本でも読んでいようかと思っていたところであった。

「そう、良かったわ。ケージ、私に魔術を教えてくれない?」

「――え?」

 何の用だろうとあれこれ想像したが、まさか魔術を教えてくれと頼まれるのは完全に想定外であった。むしろこっちが教わりたいくらいだと思っていたのだ。

(俺が教える?初級魔術3つしか使えないぞ・・・)

 恵二が現在使える魔術はいずれも初級魔術、火弾(ファイヤーショット)土盾(アースシールド)風刃(ウインドカッター)といったラインナップだ。
 あとはコマイラの町で活動していた時に身に着いた魔力探索(マジックサーチ)くらいである。これは魔術というよりも技術的なもので、ある程度の魔術師ならば普通に使える技のようなものだ。

 少し考えたが全く彼女に教えることが出来なさそうな恵二は正直にそう告げる。

「すまない。俺、初級魔術しか使えないから何も教えられないよ」

「――は?初級魔術だけって、さっきオーガどもを丸焼きにした魔術があるじゃない?」

「そう。だからその火弾(ファイヤーショット)土盾(アースシールド)、あとは風刃(ウインドカッター)くらいだよ。使えるの」

「あれが火弾(ファイヤーショット)!?」

 先程の戦闘で披露した恵二の魔術は全て無詠唱で行われていた。故にあれがどういった魔術なのか判別できなかったサミは自分の知らない中級、あるいは上級魔術なのではないかと思ったのだ。それがまさか、自分が冒険者になる前から修得していた火弾であったとは想像もつかなかったのだ。

 そんなサミの胸中を余所に、改めて教えることはできないと断りをいれる恵二。そんなやりとりをしていたら丁度晩飯の支度が終わったようだ。何かぶつぶつ呟いているサミを尻目に晩飯の配給に向かう。


 晩飯は昼とほぼ同じ内容であったが、肉料理が1品追加されていた。これなら多少は腹が膨れるであろうと安堵する恵二。お腹が減っていたのかサッと平らげるとその後は読書タイムへと移行する。

 晩御飯が終われば、後はそれぞれ自由に行動をできるが全員ではない。交代で3名ずつ見張りを立てている。1刻経てば1人が抜け、別の1人が見張りへとつきそれを朝まで繰り返す。恵二の番は次であったので、それまでは起きて読書をしようと考えていたのだ。

 しばらく本を読んでいると、やはり物珍しいのかセオッツが話しかけてくる。

「なぁ。それって本だろう?ケージ、字読めるのか?」

「ああ」

「・・・ケージって実は貴族とかいいところの坊ちゃんなのか?」

 この世界の識字率は低く、読み書きをできる人間は限られる。その殆どが貴族などの金持ちや、後は読み書きが必要な商人の家系くらいであろう。セオッツがそう思うのも無理はない。

「まさか。ただの一般人だよ」

 ただし異世界のね、と心の中でつけ足す。

「ふーん。字も読めるのね、ケージ」

 そこへ先程自分に魔術の教えを請いたいと言ってきたサミが割って入る。彼女は恵二の持っている本を見つめると口を開く。

「魔物・・・大全集?ずいぶん面白そうなものを読んでるのね」

「何!?魔物の本なのか!ドラゴンとか載ってるのか!?」

 どうやらサミも字が読めるらしく、恵二の読んでいる本に興味を持ったようだ。しかしそれ以上にセオッツが食いつく。さっきからドラゴン、ドラゴンと騒がしい。周りで寝ていた冒険者が若干不機嫌な顔でこっちを睨む。

「静かにしなさい。寝てる人もいるのよ」

「う、すまん」

 それに気づいたサミが騒いでいるセオッツを戒める。注意されたセオッツは声のトーンを落とし語りはじめる。

「やっぱ男ならドラゴンの1匹や2匹、退治してみてーじゃねーか。実際にどれだけ強いのか気になるんだよ。なぁ、その本にはドラゴン載ってるのか?」

「・・・載ってるな」

「ホントか!?」

 この本は前のページからランクの低い順に魔物の生態が記載されている。ドラゴンなら後ろの方であろうと当たりをつけた恵二はパラパラとページをめくっていく。どうやらその考えは当たっていたらしく、それらしい個体がいくつか記載されていた。赤鱗竜、大地竜、銀翼竜etc...。その内適当なページを二人に開いて見せてみる。

「・・・字、読めねえ」
「・・・大地竜?」

 やはりセオッツは読めないらしい。そこでセオッツは恵二に読んでくれとせがんでくる。しかしそろそろ夜の見張り番の時間であった恵二は、隣にいるサミを見て閃いた。

「サミ。お前字読めるんだろ?俺、これから見張り当番だからセオッツに読んであげてくれないか?」

「ハァ!?」
「おお!」

 同時に声を上げる二人。勿論前者がサミだ。すかさずサミが抗議を上げる。

「ちょっと待ってよ。私はケージに魔術を教わりに来たのよ。なんでコイツに本を読んであげなきゃいけないのよ!」

「魔術って・・・。さっき無理だって言ったじゃないか」

 どうやらサミは再度魔術教えて貰えるよう頼みに来たようだ。しかしさっき無理だと断ったのに何を考えているのかと疑問に思った恵二に、サミはこう話を続けた。

「よく考えたらさっきの魔術って初級の火弾なんでしょ?」

「ああ」

「信じられない話だけど、あの威力はケージの魔力あってのものだから仕方ないとして・・・」

 まさかスキルで強化しました、などとは言えず口を挟まず話の続きに耳を傾ける。

「でもあの火弾の操作技術には目を見張るものがあったわ。要は魔術の技術的な事を教えて欲しいのよ」

「技術的なこと・・・」

 以前王城で魔術を習っていた時、師であるランバルドは恵二の魔術制御だけは褒めていたことを思い出した。しかし本人に余り自覚は無く、論理的に制御の仕組みなど理解していなかったのだ。

「・・・難しいかも。感覚的なものになる。教えられてもかなりアバウトな表現になるかも・・・」

「まぁ、そうでしょうね。私だって他人に教えるとなると、そうなるでしょうし・・・。まぁ、それでもかまわないわ」

 何か切っ掛けになるかもしれないから、そう続けると彼女は再び恵二に魔術の教えを請う。そういうことなら断る理由もない。ついでに喧しいセオッツも押し付けられるのではと思い、こう提案する。

「分かった、俺でよければ魔術を教えるよ。その代り、サミはセオッツに本を読んであげてくれ」

「・・・ちょっと納得いかないわね。私は教えを受ける立場だから対価を払うけど、コイツは何もしていないじゃない」

 そう不満を口にしセオッツを指差す。すると指された赤髪の青年は、急に立ち上がると胸をドンっと叩いて口を開く。

「それなら俺はケージに剣を教えよう。確かケージは前衛もやるって言ってたよな?俺、剣には自信があるぞ」

 その提案に思案する恵二。ここのところ魔物相手に立ち回ってばかりで訓練も基本1人だ。剣の師であるバルディスの鍛練を怠るなという教えを今でも守っている恵二は、セオッツが訓練の相手をしてくれるという提案を受けることにした。

「なら決まりね。ケージが私に魔術を教えて、私がコイツに字を教える。で、コイツがケージに剣を教える。これでいいわね?」

「ちょっと待て。俺は読んでもらうだけでいい。別に字は習わなくていいぞ」

 恵二もてっきり本を代わりに読んでもらうだけのつもりで頼んだ。同じ事を思ったセオッツが異論を唱える。

「私がコイツに本を読み聞かすだなんて冗談じゃないわ。あんたもこの先冒険者を目指すなら、依頼票くらい自分で読めるようになりなさい」

 本を読むより教える方が負担がかかるのではと思った恵二であったが、セオッツの為にはそれのほうがいいかと考え黙っている。ただ本人は嫌そうな顔をしていたが。

 とにかくこれからの自由時間は、3人でそれぞれ教えあうことが決まった。
なんとかギリギリ今日中にあげることができました。おまたせして申し訳ありません。
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