挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

15/205

善処します

 出発の前日の午後、恵二は冒険者ギルドの長ホーキンに連れられて、今回の依頼主である商人たちへの顔見せを行っていた。

「はじめまして、ケージ君。私はこの商隊のまとめ役をしていますダーナと言います」

 そう言い人が良さそうな顔で握手を求めてくる40才くらいの男。商人のまとめ役というくらいで裕福なのであろう。その顔は血色がよく、若干肥満気味な体型をしている。

「はじめまして。Dランク冒険者のケイジ・ミツジです」

 恵二は求められた手を握り、軽く握手をしながら無難な挨拶をする。その他の商人たちとも挨拶を交わしていき、最後にこの商隊の護衛隊長を務める冒険者に話しかけられる。

「俺は今回の護衛隊長を務めるBランク冒険者、ガルムだ。よろしくな!」

 そういい恵二の手を握るガルム。しっかりと握手を交わした後ガルムが続けて話しかけた。

「噂は聴いてるぜ。この町最速のDランク到達者なんだってな?期待してるぜ」

「あー。えっと。はい。ありがとうございます」

 今まで出会った現役冒険者の中では一番高ランクのガルムから褒められて、むず痒い気持ちになる恵二。

「なーに一丁前に照れてるんだ。ケージももうDランク冒険者なんだ。しっかりしろよ?」

「・・・誰かさんのお蔭で危うく昇格出来なかったところでしたけどね」

 元Aランクとは思えないおっさんに、厳しい言葉で返す恵二。

 これ以上話しても藪蛇だとホーキンは友人のダーナの元へと向かう。

 それを見て、もう粗方挨拶の済んだ恵二は明日の準備があるからとこの場を抜けるのであった。

 実のところ、明日の準備は既に午前中で済ませていた。その代わり午後は、この1か月間でお世話になった人たちの元へ挨拶をしに周った。
 この町はお隣の国グリズワードとの国境に近い為か、よく旅人が往来する町でもある。それ故、町の住人は出会いに別れは慣れっこであった。ほとんどの者が笑ってまたな、と声を掛けてくれた。湿っぽいのが苦手な恵二は助かったと安堵した。

 一通り挨拶に周った恵二は、最後に一番お世話になったギルドへと向かった。


「あ、いらっしゃいケージ君。もう準備は終わった?」

 そう明るい口調で話す受付嬢のレミ。彼女は恵二が依頼で明日コマイラを発つことはとっくに知っていた。それでも一番お世話になったのだ。改めて挨拶をと思いやってきたのだ。

「ええ、一通り終わりましたよ。今日は挨拶に来ました」

「・・・そっか。明日は朝早いものね」

 夜の危険な移動を少しでも避ける為、商隊は日が明けるとともに出発をする。その為レミとは今日でお別れであった。

「色々ご迷惑をおかけしました。それと、ありがとうございました」

「うん。ケージ君、旅先でも元気でね。後、少しは自重しなさいよ」

「・・・あはは。善処します」

 最後まで彼女には頭が上がりそうになかった。

 レミにとって恵二は好意の男性というより、まさに手のかかる弟といった感じであった。この後も延々とあれには気を付けろ、ここはこうしろと色々助言をくれる。流石に少し嬉しくも鬱陶しくなってきた恵二は逃げるように去るのであった。またねと言う言葉を残して。

「・・・ばいばい」

 それを見送ったレミは寂しそうにそう呟いた。



 一夜明けてというにはまだ早い、明ける前のまだ暗い時間。コマイラの西門では大勢の人と4台の馬車が集まっていた。その集団のトップ、商隊をまとめるダーナが声を掛けると商人たちが集まりだした。一方護衛の責任者である隊長のガルムも同時に声を掛ける。それに冒険者一同は応じ集まる。

「あー、既に知っている者もいると思うが、改めて自己紹介だ。俺は今回護衛の責任者を務めるガルムだ。宜しく頼む」

 ガルムの自己紹介に思い思いに返す冒険者たち。続けてガルムはこう話す。

「さて、これからしばらくは一緒の飯を食べ、命を預け合う仲だ。早速だが右から順番に自己紹介していってくれ」

 そう言って恵二のすぐ隣を指差すガルム。それを見た恵二は思いもよらないイベントに慌てだす。

(――っ!ってことは次は俺の番か!?やべっ!挨拶なんて考えてないぞ!?)

 昨日の顔見せでてっきりこのような場があるなど思いもよらなかった恵二。どう話そう。何か気の利いたジョークでも交えるべきかと思案していた恵二を余所に、最初の冒険者の自己紹介が始まった。

「俺はセオッツ。Dランク冒険者だ。武器は片手剣で接近戦は得意だが魔術は使えない。前衛は任せてくれ」

 セオッツと名乗った冒険者は見事な赤髪で、まだ恵二と同い年くらいの少年であった。少年はこういう場に慣れているのか、ハキハキと自分の獲物や得意なポジショニングを話していった。どうやらあんな感じでいいらしい。冗談なんか考えている場合ではなかった。

 次、とガルムが話すといよいよ恵二の番であった。渾身のギャグは既に霧散していた。

「えーっと。Dランク冒険者、ケイジ・ミツジです。武器は短剣のみ。魔術も少し使えるので前衛後衛両方行けると思います」

 これでいいのだろうかと周りの反応を伺っていると、一人大きな斧を持った男が声をあげた。

「ちょっと待ってくれ!なんで今回の依頼はガキばっかいやがるんだ?ここは孤児院じゃねーぞ?」

 恵二とセオッツを指差して、年季の入った冒険者が文句を言う。 その声に2、3人が同調し、そうだそうだと声を上げる。

(・・・また斧使いか。俺に何の恨みがあるんだ?)

 当然今声を上げたのは、恵二がコマイラに来て初日に絡んできた斧使いの冒険者とは別人だ。それでもこう立て続けに斧使いに絡まれては、今後出会う斧持ち全員に偏見をもってしまうのではと考えてしまう。

 そんなどうでもいいことを考えていたら、すかさずガルムが声を上げ反論する。

「気持ちはわからんでもないが押さえてくれ。この二人はちゃんと依頼を受ける条件に達している。ケージに至ってはこの町期待の新人(ルーキー)だ。問題は無い」

 そうガルムが口にすると、恐らく恵二と同じコマイラから補充されたであろう冒険者も恵二の実力は保証できると援護してくれる。それを聞いて渋々と納得したのか斧使いは口を引っ込めた。それを見たガルムは次の者へ自己紹介を続けるよう催促する。

「よし、時間が惜しい。次、頼む」

 こうして冒険者たち各自の紹介が続いて行く。彼らは順々に自らの獲物や得意技を話していく。それは多種多様であった。剣・斧・鈍器・弓・杖・鞭なんて武器を所持する者もいた。その年齢もバラバラで20代くらいの元気な男から、50過ぎのひょろ長おじさんまで。流石に恵二やセオッツに近い年代はいないようだ。

 否、一人いたようだ。

「名はサミ。Cランク。武器はこの杖、魔術師よ。当然後衛希望ね」

 そう名乗ったサミという少女は、自分やセオッツとほぼ同い年であろう。茶髪のポニーテールで格好は魔術師とは一見思えない軽装だ。麻の服にスパッツといった動きやすい服装で、その片手には杖が握られている。杖がなければ前衛の探索職(シーカー)と勘違いしそうであった。


 残りの者たちも自己紹介が終わり、ガルムを含めた計16名が今回の護衛任務にあたる。商人たちも打ち合わせが終わったのか、まとめ役のダーナが声を掛ける。

「さて、皆さん。そろそろ夜が明けます。そろそろ出発といきましょう」

 その掛け声と同時に、護衛の冒険者たちは思い思いの場所につく。

(え?打ち合わせとかしないのか?)

 てっきりそれぞれ場所を決めてから出発するのかと思い、馬車に対してどこの位置に着こうかと考える恵二。そんな恵二にコマイラの町で何度か会った冒険者のおじさんが親切に教えてくれる。

「今回はお互い出会ったばかりだし、そういう場合はそれぞれ好きな場所につくのさ」

 そのうち連携とかポジショニングとかを話し合うのだという。その前にまずは各々の判断で動き、信頼を得るのだとか。

(なるほど、確かにそれの方が効率いいのかな?)

 恵二は助言してくれた壮年の冒険者に礼を言うと、全体が見渡せる後方がいいかなと最後尾の馬車の更に後ろの方に付く。

 同じ事を考えたのであろうか、先程セオッツと名乗った赤髪の少年も恵二のすぐ隣に付く。

「よう!俺はセオッツ。よろしくな、ケージ」

 さっきの自己紹介を覚えてくれていたようだ。ゴタゴタもあった上、同年代という事もあって覚えていてくれたのであろう。

「よろしくセオッツ」

 そう短く返し握手をする二人。しかし少し進むと、なんだか前の方から大声が聞こえる。何人かが慌てて隊列を変えているようだ。

(何かトラブルか?)

 そう思った恵二とセオッツは、騒がしい前の方へと駆けて行く。

 その先では護衛の冒険者たちが慌ただしく動いており、なんだか話し合っている。その話し声の一部が恵二の耳に入り、この騒動の原因を即座に理解する。

 それは恵二が原因であった。

「――っ冗談じゃねぇぞ!いきなりBランクの魔物が襲ってくるなんて!」

「いや、まだ距離がある。このまま左に避ければ遭遇せずには済むぜ!」

「相手は銀色の狼(シルバーウルフ)だぞ!?逃げられるわけがねえ」

(・・・うん。あれはどっからどう見てもポチたちだな)

 そう商隊の右には切り立った崖が見える。その崖の上には巨大な銀狼ポチと、その子銀狼
 ヒイ・フウ・ミイ・ヨオが整列していた。
 恵二の姿を確認すると、5匹は揃って遠吠えを何度も上げた。

 それを見た冒険者は銀狼の襲撃に備え構えた。その反面コマイラから合流した冒険者は森の守り神が見送りに来てくれたと声を上げ、事情を知らない冒険者たちに説明をする。

「――っ!あいつら・・・!」

 恵二は腕を目一杯振り回し、見送りに来てくれた銀狼一家に別れを告げるのであった。



 こうして恵二はダーナ商隊と共にコマイラの町を去るのであった。



「しっかし驚いたなぁ。まさかコマイラにあんな銀狼が棲みついていたなんて」

 セオッツと名乗った赤髪の少年は、最後尾で馬車の警護をしながら同じく横で歩いている恵二に話しかけた。

「言っとくけどあいつらが特別に大人しいだけであって、他の銀狼はどうなのか知らないぞ?」

「分かってるよ。近づいてガブリなんてされたら目も当てられない」

 何度目かの会話を交わす少年二人。話していく内に段々とお互いの事がわかっていく。セオッツはハーデアルト王国東部の村出身だそうだ。実家は農業を営んでいるが、兄弟が多い上に貧しく三男のセオッツは小さい頃から冒険者になることを決めていたらしい。15才で冒険者ギルドに入り今年で2年目だとか。

(俺より1こ上で、1年以上先輩の冒険者か・・・)

 元の世界なら1つ年上でも敬語を使う恵二であったが、この世界で出来た知り合いならタメ口の方がいいであろうとそのままの口調で会話を続ける。

 恵二もこちらの事を話したら、1か月でDランクまで上り詰めたことに驚かれた。

(まぁ、俺はスキルでズルしてるからな・・・)

 なんだか罪悪感が浮かんでしまう。スキルを得た今でも訓練は欠かしていない恵二だが、それでもスキルが無ければDランクなんて後何年もかかっていたことであろう。

 そんな会話を続けていた二人だが、商隊が進みだして3時間ほどすると唐突に前の方から声が上がる。

『敵襲!ゴブリン。数は19!!』

 どうやら右前方の森の中からゴブリンの群れが飛び出てきたようだ。間違いなくこの商隊を狙っての行動であろう。

「待ってました!」

 そう声を上げたと同時に、片手剣を抜き前へと駆けるセオッツ。恵二もそれに続こうとするが、そこにベテランの剣と盾を持った冒険者が二人に待ったをかける。

「おいおい、ゴブリン相手に全員で行く気か?お前たちは奇襲を警戒してここに残れ」

 そう言うとベテラン冒険者は前方へ応援に向かった。

「そ、そんなぁ~」

 出番を無くされてがっくりと肩を落とすセオッツ。それに負けないくらい恵二もがっかりとしていた。

(俺、またゴブリンと戦えなかった・・・)

 以前グリズワードの森に入った時も全くゴブリンと遭遇することはなかった。どうやらつくづく縁が無いらしい。

 目の前の冒険者たちがバッタバッタとゴブリンを倒していく光景を、少年二人で指を咥えて眺めているのであった。



 ゴブリンはあっという間に一掃された。この護衛依頼は難易度Cランク。ゴブリンに後れを取るものなど、誰一人いなかったのだ。

 討伐が済んだ冒険者たちはゴブリンから必要最低限の素材や持ち物だけをさらっていく。これも護衛の醍醐味、ちょっとした臨時収入になるのだとか。恵二たちは留守番で戦闘に参加しなかった為、勿論1つも貰えない。
 それを不憫に思ったベテランの冒険者が、二人に戦利品を少し分けてくれた。セオッツはそれを嬉しそうに受け取っていたが、恵二はゴブリンの耳を渡され顔を引きつらせる。
 流石にこの1か月間、冒険者業に揉まれたと言ってもゴブリンの耳は正直気持ちが悪い。それでもこの世界では貴重な収入源だと自分に言い聞かせ、自前の袋の中に収納する。


「よし、では出発だ!」

 ガルムが声を上げ、一行は西へ進む。町へ出る時の出発の音頭はダーナがとっていたが、こと町の外では冒険者であるガルムに判断が委ねられる。

 ダーナ商隊は再度の襲撃を警戒しながら歩み始める。このまま特に問題が無ければ、今日中にはハーデアルト王国とグリズワード国との境にある町に着くのだとか。そこでは一日だけ滞在をし、翌日の早朝すぐに出発となる。なかなかのハードスケジュールだ。

(まぁ、いきなり野宿ではないだけ有り難いか)

 しかしこの先そういったことも起こるだろうと心の準備だけはして置く。

 結局ゴブリンの襲撃以降は何事もなく、日が暮れる前には目的の町へと到着するのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ