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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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自重して下さい

 少しだけ体力が回復してきた恵二は、痛めた右手を摩りながら立ち上がる。それを申し訳なさそうに見つめる巨体な銀色の毛をした狼。

(この体格差でお手は無謀だったか・・・)

 自分の迂闊さに反省する恵二。しかし、と恵二は思考を切り替える。

(なんだか懐かれたようだが、どうしてコイツは言葉がわかるんだ?Bランクの魔物だし賢いからか?)

 恵二の疑問も尤もではあった。通常シルバーウルフは人族の言葉を理解できない。しかし獣人族の狼族に伝わる古来の言語は、高い知能を持った狼の魔物と会話をすることができる。恵二は勿論そんな言語の存在は知らない。しかしこの世界に召喚された際の影響で、白の世界<ケレスセレス>にある言語の殆どを理解し話す事が出来る。

 つまりこの銀狼は古来の狼族の言語を理解していた為、恵二の言葉も分かるのだ。

 しかし、そんなことは露知らず。恵二はこの現象をこの狼が賢いからで片づけてしまった。そうなると恵二の興味は別のものへと動く。親銀狼と同じ様に懐いてくる、この子銀狼たちのことだ。

「・・・お前たちも俺の言葉がわかるのか?」

 話しかけてみるも特に反応は無い。まだ幼くて理解できなかったのであろうか。3匹はすりすりと身体を恵二に擦り付けてくる。たしか猫は人間に匂いをつける為に身体を摺り寄せるという話を聞いたことがある。狼にも同じ習性があるのかなと考えていた恵二。だがその時、大蛇の亡骸がある方からか細い鳴き声のようなものが聞こえた。

 ハッと振り返る恵二と狼一同。その声は大蛇の腹の中から聞こえるようであった。

(――もしかして!)

 恵二は急いで大蛇の亡骸に近づくと、その巨大な腹の部分にマジッククォーツ製の短剣を突き刺す。しかし相当な硬さなのであろう、キンと音をたてて弾かれてしまう。それでも刃こぼれが無いのは流石ではある。

「――っ!やっぱ強化なしでは無理か」

 そう呟きスキルを発動できるか確認する。どうやら休んだおかげで再使用可能であった。今度は軽く自身に強化をかけてから短剣の刃を大蛇の亡骸にあてがう。するとさっきとは打って変わって、スッと刃が鱗を切り裂いていく。
 恵二は大蛇の腹の中にいるであろうソレを傷つけないように、丁寧に切り裂いていく。それを見守る狼一家。大蛇の腹を掻っ捌いてから数分後そこから現れたのは大蛇の子、なんて事は無く消化される前であった銀狼の子であった。大蛇の胃液に浸かっていた為か少し衰弱している。
 しかし流石は子供とはいえBランクの魔物。親銀狼にペロペロと胃液を舐めとってもらうと、元気が出たのかもうケロッとしていた。それを見て一息ついた恵二は思案する。

(とにかく銀狼一家が無事でよかったが、よく考えたらこいつら討伐対象なんだよなぁ)

 仲睦まじくしている親銀狼と4匹の子銀狼を見ながら、目の前の銀狼たちの今後の扱い方を考える。だが中々いい案は浮かばず、ひとまず恵二は大蛇の亡骸を解体する作業に取り掛かることにした。

 魔物の死体はお金になると城で教わった。特定の部位は討伐の証としてお金が入り、その他の部位も武器や道具、薬などの素材となる。しかし召喚された勇者たちに求められたのは解体する技術ではなく、脅威を退ける為の戦闘能力だ。知識として教わってはいたが、解体のレクチャーは受けてはいなかった。
 しかし恵二はその好奇心のお蔭か魔物の解体作業を見学していた。巡回していた騎士が討伐し持ち帰った魔物を解体する所を見ていたのだ。その時のことを思い出し、恵二は見様見真似で解体を進めていく。

 蛇の解体を見たことの無い恵二には難しく思ったよりも作業が進まなかった。貴重な鱗などをボロボロにしてしまい遂には匙を投げた。それはベテラン冒険者が見たら悲鳴を上げたくなるくらいの状態であった。

(よし、このまま持って帰ろう)

 なんでもっと早くそう決断できなかったのかと後悔する恵二。貴重な高ランク魔物の亡骸を傷めてしまった上、大分時間が経過してしまった。もうさっさと帰ろうと思い直す。

 少年の体では当然このままでは大蛇の亡骸は持ち運べない。そこで恵二は己の頼れるスキル<超強化(ハイブースト)>を使用する。今回強化するのはパワーのみ、それもちょうど大蛇を持ち運べるくらいの力加減で強化する。
 これでスキルの効果もすぐ切れる事は無く、加減調節の練習にもなる。そう考えた恵二はひょいっと分離された大蛇の頭部と身体を持ち上げると銀狼にお別れを告げた。

「あー。俺は帰るけどもう人間は襲うなよ。向こうから襲ってきたら別だが極力殺すな」

 そう言うとクウーンと悲しそうな声を上げる親と子狼。また自分の知らない間に懐かれたもんだなぁ、と恵二は王城で別れた勇者仲間たちを思い出す。

「心配するな。俺はしばらくコマイラの町にいるよ。多分また依頼で森にくるよ」

 そう続けて言葉にすると嬉しそうに尻尾を振る銀狼。その巨体でなければBランクの魔物とは到底思えない。完全に飼い慣らされた犬に見えたであろう。

 銀狼たちに別れを告げると、再び大蛇の亡骸を引きずりながら町へと向かう。しばらくズルズルズルズルと音をたてながら歩いていると、ふと重大なことに気が付き呟く。

「・・・迷子になった」

 訓練やら銀狼やらおまけに大蛇の襲来で、すっかり方向感覚が狂ってしまった恵二であった。



 森をズルズル歩くこと数時間、ようやくコマイラの町へと辿り着いた。あれから恵二は、森で迷った場合の日本で得た豆知識をフル活用していたのだ。
 木や石についている苔を見たり、木の年輪の偏りで方角が大体わかる。また太陽の位置でもある程度方向が分かる。しかし木が生茂っていて確認が難しそうだと考えた恵二は、ふとあることを思いつく。それはジャンプをすることだ。
 脚力を強化して森の木を飛び越すほどのジャンプをして町を探す。もしくは高い木の上にでも飛び乗ればいい。これもスキルの練習になると考え早速実行する。

 その甲斐あってか思ったよりも早く町に着けた。ズルズルと大蛇の首より下を引きずりながら、もう片方の手で大蛇の頭部を持ち上げて町へと近づく。それを見た町の守衛は驚きの余り持っていた槍を恵二の方へと向けた。少年の体は大蛇と比べると小さく、遠目では大蛇が這い寄ってきているように見えたらしい。

「ちょっと待った!大丈夫。こいつは死んでるよ、死体だよ!」

慌てて無害アピールをする恵二。

「し、死体!?」

 恵二の声が届いたのか、守衛は目を凝らすようにしてこっちを見ると、首が離れていることに気が付いたのかホッと胸を撫で下ろす。

 今恵二がいる場所は町の北門。そこには守衛だけでなく旅人や行商人、他の冒険者たちも大勢いた。そんな中を、少年が見たこともない巨体な蛇をズルズル引きずっている行くのである。嫌でも注目の的になってしまっていた。

 少し気恥ずかしくなった恵二は、さっさと守衛に冒険者証を見せるとギルドに向けて再度歩み始める。



 現在恵二はギルドの正面に来ていた。大蛇を解体することは諦めて、ギルドに丸ごと売ろうと来ていたのだ。しかし以前恵二が壊したお蔭で真新しくなった扉を目の前にその足をピタッと止める。

「入らない・・・」

 大蛇の体ならなんとか入れられるだろうが、その頭部は幅があり建物の中へ入れるのは無理であろう。とりあえず職員を呼ぶしかないなと恵二は扉を開けようとしたら、丁度中から出てくる人がいたようだ。それも見知った顔だ。

「なんだか外が五月蠅いですけど、なんの騒ぎで・・・・・・すか?」

 そこにはギルドに入会する際、お世話になった女性職員レミの姿があった。彼女は外が騒がしいことにいち早く気が付き、また冒険者が問題でも起こしているのかと様子を見に来ていたのだ。
 その騒動の原因は、町中で大蛇をズルズル引きずりまわしていた恵二にあった。当然ギャラリーが集まる。これはまた怒られるかもと恵二はレミを申し訳なさそうに見遣るが、彼女は大蛇の顔をどアップで見てしまいフリーズしてしまう。まさに蛇に睨まれた美少女。

 しかしそこは若くても冒険者ギルドの職員。すぐに恵二へとこの状況を問いただした。魔物の亡骸など見慣れていたが、余りの巨体さに若干狼狽してしまったのはご愛嬌。

 恵二は大蛇を仕留めた事、解体に挑戦したが駄目だった事、丸ごと買い取ってほしいが大蛇の亡骸が扉につっかえそうで困っていたことを告げる。するとレミはこう答える。

「はぁ。扉を壊さないよう気を使ってくれたんだね。でも今度はもっと他のことに気を使おうかな?」

 ため息交じりにそう口にする。扉を壊さず職員を呼ぼうとしたことには評価してくれた。しかし大蛇を町中で引きずり回し騒動を起こしたことは叱られてしまった。町に入る前に一旦ギルド職員を呼んでくれればよかったのにとアドバイスされる。

「まぁ、そのまま通した守衛にも問題があるとおもうけど。ケージ君、もう少し自重しなさい」

 やっぱりまた怒られてしまった。そう思い若干気落ちしてしまう。思えば王城でこの世界の常識を文官から習った勇者たちだが、あれは意味があったのだろうかと常々思ってしまう。

 恵二から見たらこの世界は非常識の塊であった。魔術なんてなかったし魔物が闊歩することもなかった。そのギャップを埋めようと、勇者たちは王城でこの世界の常識を学んでいたつもりであった。
 しかしいざ外の世界へと出た恵二は気づいてしまったのだ。この町に住む人たちにとっては、王城の贅沢な暮らしこそが非常識なのだと。そんな所で常識なんて学べるわけがなかったのだ。

(・・・今後の課題だな。実際に生活して身に着けていくしかない)

 改めてここは異世界なのだと思い知らされる恵二であった。



「はい。これがケージ君の取り分、30万キュールよ」

 そう言ってレミが硬貨の入った袋を渡してくる。日本円にして凡そ3万円分。Aランクの魔物にしては少ないのではと考えてしまうが、先程の説明を思い出すと納得せざるを得ない。

 まず今回の大蛇はAランク<凶弾の蛇(デスサーペント)>であった。その討伐依頼報酬は100万キュールはくだらないのだとか。しかし今回はそもそも討伐依頼が出されていなかった。その為本来なら単純に素材としての買取額のみとなるのだが、その素材が随分傷んでいた。頭部は綺麗な状態であったが、その下の胴体部分はズタボロであった。子銀狼を助ける為に腹を掻っ捌いたり、自力で解体しようとした結果だ。
 その上、解体作業が恵二にはできず専門の職員に頼む形となった。それも必要経費として天引きされるそうだ。
 だがマイナス要素だけではない。今回の凶弾の蛇(デスサーペント)は冒険者ギルドにとって寝耳に水であった。それも当然だ。この町コマイラには腕利き冒険者が少ない。今滞在しているのは最高でもCランク。Bランクの依頼である<銀色の狼(シルバーウルフ)>の討伐が放置されているのもその為であった。
 危険な大蛇が森の奥に棲息している。それだけでも値が付く貴重な情報だが、恵二はそれを見事討伐してみせたのだ。その分もちゃんと評価されての報酬であった。

 ギルドに入ったばかりの新人(ルーキー)がAランクの魔物を倒した。

 その噂はあっという間に町の中へと広まっていくのであったが、そんな先のことを本人は全く知らずに報酬の硬貨を受け取る。
 報酬を恵二に渡した女性職員の後ろには、何故か満面の笑みを浮かべてうんうん頷いているおっさんがいた。
 彼の名はホーキン。元Aランクの凄腕冒険者であり、現在はここのギルド長を務めていた。肌は少し日焼けをしており、背丈は180cmほど。そんな筋肉質のギルド長は笑いながら恵二へと話しかけた。

「がはは、やるじゃねーか坊主。まさか凶弾の蛇(デスサーペント)を倒しちまうとは。なんならギルド長権限でこのBランク依頼を受けてみねーか?お前なら銀色の狼(シルバーウルフ)も楽勝だろう?」

 その狼たちはさっき助けました。

 とは言えず、返答に困る恵二。しかし恵二のランクは現在Fランク。本来なら1つ上のEランクまでの依頼しか受けられないはず。ギルド長権限って凄いんだなと感心してしまう。

 しかし、そんなギルド長の言葉にレミが反論する。

「なんてこと言うんですか!ケージ君はまだFランクですよ!?何かあったらどう責任取るつもりですか!」

「いや、でもそいつAランクの大蛇ぶった斬ってるんだし余裕じゃん?」

「それでもです。高ランクの魔物退治なんて何が起こるか分からないんです。彼にはもっと経験を積ませるべきです」

 そう反論するレミに心の中で同意してしまう恵二。確かにスキルを使えばあの蛇は瞬殺できた。しかしその結果は、勝ちはしたものの危うく毒で死にかけた。自分には経験が足りないのだと改めて痛感する。

 しかしレミの反論にもめげずにホーキンはこう言葉にする。

「いや、だからだな。その経験を積ませようとだな・・・」

 だんだん口調が弱くなってくるギルド長。それに畳み掛けるようにカウンターの奥からレミへの援護射撃が入る。

「ギルド長、いい加減にして下さい!今回も急なAランクの報酬に頭を悩ませているんです。臨機応変なのも結構ですけど、少しはルールも遵守して下さい」

 そう言葉を放ったのは、奥で経理処理をしていた男性職員のようだ。どうやらこの貧乏ギルドにとって恵二の報酬は手痛い出費だったようだ。そのことに申し訳なさそうな顔をしてみると、経理担当の職員はすかさずフォローを入れた。

「ケージ君が気にすることではありませんよ。むしろこちらがお礼を言いたいくらいです」

 なんでも今回の大蛇の鱗は相当価値のある素材のようだ。状態こそよくはなかったが、恵二の報酬を差し引きしてもギルドに大きな利益をもたらすらしい。その話を聞いて、それなら自重しなくてもいいんだなと恵二は思った。

 恵二と同じことを考えたのかギルド長が調子に乗る。

「よし、なら話は早い!ケージに溜まっている討伐依頼をじゃんじゃん回そう。これでうちのギルドも安泰だな!」

「「ギルド長は自重して下さい!!」」

「・・・はい」
(・・・はい)

 心の中でおっさんと共に反省する恵二であった。
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