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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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これ、怒られないかな?

 中央大陸の東部には広大な森がある。そこには人が簡単には踏み込めないような魔境や、遺跡が多数あるのだとか。
 その話を聞いた恵二は、すぐさま森の奥へ突撃したい衝動に駆られたが、森の奥は凶悪な魔物の巣窟だと知り自重する。

(スキルを得たばかりでまだ慣れていない。迂闊な真似はしないほうがいいな)

 広大なグリズワードの森も、 町付近の浅い場所ならそう危険はない。ゴブリン討伐の依頼も兼ねて、コマイラの町から徒歩30分ほど距離がある森へと到着した。

 恵二は辺りを見渡し、付近に人影がないことを確認すると早速得たばかりのスキルを発動する。

 恵二のスキル、超強化(ハイブースト)。これにより恵二の五感と運動能力は大幅に向上する。スキルを使用した途端、周りの世界が止まったかのように制止する。否、正確には止まったかのように見えるほど、恵二以外の周囲がゆっくりとわずかだが動いている。
 さっきまで風を受けていた木々の葉は、ビデオのスローモーションを見ているかのようにゆっくりと動き 、空を飛ぶ鳥たちはまるで空中に縫い付けられているようであった。

 試しに体を動かしてみると、最初の時とは違って普通に動かせる。あくまで恵二の感覚では普通に動かしているだけだが、もしこの場で恵二を見ている者がいたら超高速のその動き故に、何をしているか視認できなかったであろう。

 恵二にとっては凡そ1分くらいの時間が経過するとスキルの効果は切れた。しかし他の者からしたら、そのスキルの効果時間はあっという間であろう。しかし、それでも十分な性能であった。

 超強化(ハイブースト)はスピードだけでなく、パワーにも絶大な恩恵を与える。先程の騒動では、自分の倍くらいの体重はあろうかという男をデコピン一発で吹き飛ばしてみせたのだから。

(・・・一応パワーの方も確認してみるか)

 再度スキルを発動し試そうとする恵二。しかし今度はまったく身体に変化が現れなかった。

(――っ!使えない!?なんだろう妙な感じだ。・・・使用回数に制限でもあるのか・・・?)

 何度もスキルを使おうと試すが一向に発動しない。どうやらある程度身体を休めなければ、これ以上スキルを使用できないようだ。なんとなく、としか言いようのない感覚でそれが理解できた。

 恵二は以前に、ランバルドが勇者たちにスキルの助言をしていたことを思い出す。どうやらスキルは常時発動しているタイプや、時間ごとの使用制限、魔力を使用しての許容制限など様々あるのだという。

 この場合、自分はどれに当てはまるのだろうか。魔力量の少ない恵二は、このスキルが魔力を媒介とするものだとしたら厄介だなと思ったがどうやら減っている様子はみられない。時間制限なのかはそれこそ試してみないとわからない。心なしかなんだか体が重い気がする。

(もしかして体力を取られてるのか?それとも単にスキルで強化した身体を動かした際の疲労だろうか)

 あれこれ考えながら一先ずは身体を休める。



 それから森の中で色々試すこと三時間後、大体だが自身のスキルがわかってきた。

 スキルはあれから30分後に再使用できた。その際パワーを試した恵二は全力で近くにあった大木を殴った。すると恵二の三人分はあろうかという太い幹が粉微塵に吹き飛んだ。その衝撃の余波で、後ろにあった木々も大きく揺さぶられ危うく折れかけた。

 それを見た恵二は、あの時デコピンにしておいて本当に良かったと心から思うのであった。

 しかし、このままでは使い勝手が悪すぎるなと、試しに今度は別の木に指先でトンと突いてみた。すると突いた場所がベコッと音を立てて少し凹む。まだ少し強い気がする。

 そこで恵二は発想を変えてみることにした。力加減を調整するのではなく、スキルの効果を調整できないかと。

 再度休んでからスキルを使用する恵二。どうやら恵二のスキルは、体力か活力といったものを削るらしい。限界まで使用すると疲れてしまい、大体30分後に再び発動できる。
 今度はスキル、超強化(ハイブースト)の効果を抑え目で使用しようとする。最初の時は斧を避けるのに全力を注いでいた恵二だが、今後は加減出来ればそれに越した事は無い。軽く、軽くと自分に言い聞かせスキルを発動させる。

 すると恵二の身体が少し軽くなる。試しに身体を動かしてみると、自分でもビックリなくらい素早く体を動かせた。危うく目の前の木にぶつかりそうになり、慌てて停止する恵二。

 しかし、ここでふと疑問が生じる。さっきより加減してスキルを発動したはずなのに、何故今までより早く動けたのか、と。その疑問は周りに目を遣るとすぐに解決した。

(周りの時が平常に流れている。そうか!運動能力だけ強化されているのか)

どうやらさっきより素早く動けたのではなく、素早いように感じただけであった。

 そう、さっきまでの恵二は運動能力の強化と合わせて感覚の方も強化されていた。だから周りからすると視認できないほどのスピードでも、恵二にとっては普通の感覚でいられたのだ。
 しかし今の恵二の動きは、他の者が見れば確かに素早い動きなのだろうが視認できるレベルであった。ただ感覚の方は普段のままだったので、自身が素早く感じられたのだ。

 そこで恵二は自身のスキルの更なる進化の可能性に気が付きはじめる。運動能力と感覚を強弱つけて強化することができる。ならば、その他はどうだろう。そう、例えば魔術を強化出来るのだとしたら。

 試してみたい。そう考えた恵二の思考を何者かが邪魔をする。右側の茂みの奥からガサガサと音がするではないか。すっかり忘れていた恵二だが、浅いとはいえここは森の中だ。もしや依頼にあったゴブリンではと目を凝らす。

 すると茂みから飛び出してきたのは猪であった。以前見た黒猪より若干大きい。咄嗟に腰の短剣を抜く。応戦の構えを取ろうとした恵二だが、ふとその考えを思い直す。これはスキルで魔術を試すチャンスなのでは、そう考えたからだ。

 そう思ってからは早かった。恵二は右手に持った短剣の代わりに、無手の左手を猪に向け魔術とスキルを同時発動する。

火弾(ファイヤーショット)!」(超強化(ハイブースト)!)

 つい先程身体を強化したばかりだが、先程は軽めにしたお蔭で問題なくスキルを再使用できた。放った火属性魔術の強化に成功する。その分恵二が放った火の魔術にかかる強化は少し衰えたが、そんな影響は見せないほどの熱量を秘めた火の大玉は、突進してくる猪へと襲い掛かった。

 直撃した瞬間、赤みがかった強い光と熱風が恵二に届く。思わず目を細めてしまうが今は戦闘中。猪はどうなったかと目を開いて確認すると、恵二の視界には黒く焦げた平地が数メートル広がっていた。
 何本か殴り倒してしまったものの、それでもさっきまでその周辺は木々が生茂っていた。それが今では王都にあった広場ほどのスペースが空いており、その地面は焼き焦げている。その空地の外側の木々は、まだ若干の炎が燃え残っていた。

「――っ!やば!山火事になる!」

 慌てて消化しよと試みる恵二だが、近くに川や湖といった水場はなかった。恵二は水属性の魔術を習っていない。もっともスキルが使えない今、水の魔術で消火しようにも焼け石に水といった状態であったが。

 結局スキルを再使用できるまでは燃え広がるのをただ黙って眺めていた。その後スキルを駆使し大慌てで燃えた木々を吹き飛ばしていった恵二。段々と日が沈みはじめてきたころには、恵二の周辺は焦げた大地と大きなクレーター、横倒しになっている大木といった凄惨な光景が広がっていた。

「・・・これ、怒られないかな?」

 そう呟き大慌てで町に逃げ帰る元勇者であった。



 コマイラの町に戻った頃にはすっかり日が落ちていた。なんとか暗くなりきる前に帰れた恵二は、町に入る際に夜の番をしている守衛に声を掛けられる。

「随分遅かったな?森の方で凄まじい音や煙が上がってたが巻き込まれたのか?」

「い、いや。別に」

 首を横にブンブンと振る恵二。ポーカーフェイスは苦手であった。しかし守衛はあまり気に留めなかったのか、そうかと呟き恵二を町に入れた。

 その後すれ違った住人の話を盗み聞きすると、どうやら森での騒動は町中にまで届いていたらしい。大慌てで冒険者や町の守衛が森へと向かって行ったようだ。恵二とはすれ違いであったようで、思わずホッと息を吐く。

 心身共に疲労した恵二は、何時もより多めの食事をとった後すぐに宿泊先のベッドへと潜り込む。疲れた体に冷たい布団が心地いい。粗悪な作りの布団だが、この気持ち良さは日本でもケレスセレスでもそう変わらないなとしみじみと思う。
 すぐにでも寝入ってしまいそうな脳みそに鞭を打って、恵二は今日の事と今後の事を思う。冒険者になったこと。突然スキルが使えるようになったこと。そのスキルのおかげで強力な力を得たことや魔術も今後期待が持てるということ。

(・・・魔術の威力は凄かったなぁ。こうなると初級でもいいからどんどん覚えて行きたい。魔術を覚えるにはどうしたら・・・)

 ついに限界が来たのか、考えも纏まらない内に意識を手放してしまう。こうして恵二の冒険者としての初日は終わりを迎えた。



(エイルーンに行こう)

 二日続けての遅い朝食をとっていた恵二は、今後の事を考えた後にそう決断した。

<魔術都市エイルーン>中央大陸の西部に位置する都市国家。その国土は狭く天然資源の少ない国ではあるが、その都市国家の名は大陸中に知れ渡っていた。その理由の一つが魔術学園の存在である。

 中央大陸にはいくつかの魔術を学べる学舎があるのだという。エイルーンにある魔術学園はその中でも古参で由緒ある学園らしい。その他にも魔術の研究機関や魔術師ギルドも存在する。マジックアイテムを扱っている商会も多く大変栄えている都市らしい。
 魔術といえば西はエイルーン、東はシイーズと謳われている程だとか。

 本当はハーデアルト王国に引き返してランバルドに教わるのが一番なのであろうが、自分の勝手で出て行った身。どの面下げて戻れるというのか。

 それに魔術都市というフレーズにも興味がある。しかもエイルーンにはファンタジーのお約束、ダンジョンがあるらしい。その情報を耳に入れていた恵二はずっと前から行ってみたかったのだ。

 エイルーンに行く為には、まず冒険者Dランクを目指し国を行き来する資格を得なければならない。そうと決まれば善は急げと、昨日は出来なかったゴブリン討伐をするべく森へと向かう。



 昨日滅茶苦茶にしてしまった場所は避けて、森の奥の方まで歩き進む恵二。歩きながらスキル<超強化(ハイブースト)>の訓練をする。
 森を歩く恵二の周りには、テニスボールくらいの大きさの火の玉が3つクルクルと飛び周っている。無詠唱で出した極小サイズの<火弾(ファイヤーショット)>を、ほんの少しだけ強化し自身の周囲を飛び回らせていた。
 今の恵二には一日に5、6発が限界の火弾だが、魔力を少なめにし発動することで何十発も放つ事が出来る。

 本来魔術の詠唱を短くしたり破棄したりすると、発現してもその効果は大分落ちるか最悪失敗する。それは魔力の量を減らしても同じなのだが、威力が落ちるデメリットはスキルで帳消しできると恵二は考えた。
 また恵二は無詠唱で魔術を行っても失敗することがない。魔術操作の技術においてはどの勇者たちにも負けてはいなかったのだ。

 恵二は更に極小の火弾を増やし、その数なんと10個。いくら初級魔術とはいえ10個の魔術を同時に放つだけならともかく10個同時に操作するなど、あの王宮魔術師長のランバルドにも不可能であった。

 そんなこととは露知らず、更に火弾の数を増やし歩いて行く。歩きながらの訓練を続けていると、魔術もそうだがスキルの扱い方も段々と慣れてきた。最初は加減が分からなかった恵二だが、今周りで浮かべている火弾の威力は、森ごと焼き払わないよう適度に押さえて強化されている。
 そろそろ実戦投入しても問題なさそうだと考えた恵二は、キョロキョロと周囲を見ながら歩き進んで行くが魔物や獣の類は見当たらない。

「・・・なんも出てこないなぁ」

 段々と火玉の操作に飽きてきた恵二は他の魔術、<土盾(アースシールド)>を発動し強化する。すると地面から出てきたのは、いつも通りの小さい土の壁であった。

 失敗したかと首を捻る恵二。しかし再度スキルを使ってみても失敗している感覚は無い。成功しているのだ。

(だとすると・・・強度か?)

 試しに軽く強化した火弾を土壁に当ててみる。すると細い樹木なら燃え削ってしまいそうな威力の火弾を、その小さい土壁は見事凌いで見せたのだ。

(やっぱり強度が格段に上がっている・・・しかしこれだけ小さいと使い勝手が悪いなぁ)

 このままではとっても頑丈で躓きやすい、小さな障害物でしかない。そう思った恵二はどうやったら大きな土壁にできるだろうかと頭を悩ませる。

 そういえば初めて土盾(アースシールド)を成功させた時のことを恵二は思い出した。



 その時は土属性の魔術を初めて成功させた嬉しさの余り、急いでランバルドの元へと報告に行って魔術を披露してみせた。小さい盾を出現させて、どうだと胸を張る恵二に魔術師はこう言った。

「随分小せぇなぁ・・・。やっぱ魔力不足は否めねえなぁ。」

 こう返され意気消沈する恵二。それを察したのかランバルドは続けてこうフォローした。

「しかし、よくそんな少量の魔力で成功させるな。普通なら失敗してるぞ?これ・・・。ま、今は魔力量を増やすこった。そうすれば盾も大きくなる」



 確かランバルドは魔力量さえ増えれば盾も大きくなると言っていた。それを思い出した恵二は更に頭を悩ませ、一つのアイデアを絞り出す。

(・・・感覚に運動能力、魔術も強化できるんだ。なら魔力量も強化できるのでは?)

 強化イコール増加となるのかは怪しいが試してみる価値はある。早速魔力の量を強化する感覚でスキルを使う。最初は四苦八苦したが、時間をかけてようやく成功したんじゃないかという感覚を得る。今までとは比べ物にならない量の魔力を己自身から感じる。

 その感覚を維持したまま、恵二は再度土属性の魔術を発動させる。

土盾(アースシールド)!」

 すると恵二の足元から、自分の背丈以上の土壁が出現し視界を塞ぐ。どうやら事前に魔力量を強化し魔術を放つことに成功したらしい。

「――っ!凄い!凄いぞこのスキル!!」

 余りの万能ぶりな己のスキルに思わず興奮する恵二。このスキルさえあればこの世界の冒険も怖いもの無しだ。そう考えていた恵二は浮かれていて忘れていたのだ。

 ここはグリズワードの森の奥。人が普段踏み入れない魔物たちの領域(テリトリー)である。

 興奮する恵二の目の前、茂みから何者かが近づいてくる。その音にようやく気が付いた恵二の目の前には、立派な銀色の毛をした巨大な狼が現れた。

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