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象さんのお話し
作:ウルトラヤース


 夏休みにお婆ちゃんの家に遊びに行った私に、夏の暑い日差しを浴びながら、田舎の家らしい縁側で、お婆ちゃんがお話をしてくれました。


 昔々の象さんの鼻は、今のように長くはありませんでした、そして耳も今のように大きくはありませんでした。
 ある日のこと、象さんは可愛い女の子に恋をしました。
 象さんの可愛い目に、その女の子も好意を持って、二人は毎日会うようになりました。
 象さんは、女の子を背中に乗せ、あちこち遊びに行ったり、二人のことを話し合ったりして、楽しい日々を過ごしていました。

 女の子が象さんに言いました。
「どうして、象さんはそんなに可愛い目をしているの?」
 象さんは、それに答えて
「君を、可愛いと思って見ているから、そうなるんだよ。」
「へー、そうなんだ、何だか嬉しい!」
 たわいのない、二人の会話がその後も続きました。

 その年の夏は、何日も雨が降ることが無く、日照りの続く厳しいものになりました。
 日毎に、川の水が少なくなり、池の水は枯れていきます。
 ある日のこと、もう目に見える範囲の水は全て無くなってしまい一面が砂漠のようになりました。
 女の子は、乾いた唇で象さんに言いました。
「ねえ、喉が渇いたわ、水が欲しいの!」
「僕も、欲しいけど、どうしようも無いんだよ。」
「あなたは、私を愛しているのでしょ?だったら何とかしてよ、お願い!」
「・・・・・」
 象さんは、女の子に言われて、何とかしようと思い、前足で砂を掘り出しました。
1m程掘り起こすと、穴の底に、水が湧き出てきました。
「ほら、水だよ。」
「わー、ありがとう。」
 女の子は、象さんの愛情を感じました。

 乾燥した日々は更に続き、もう1m位掘っても、水は出てこなくなりました。
「ねえ、もっと水が欲しいの!」
「僕も、欲しいけど、今度はどうしようも無いんだよ。」
「あなたは、私を愛しているのでしょ?だったら何とかしてよ、お願い!」
「・・・・・」
 象さんは、女の子に言われて、また何とかしようと思い、前足で更に砂を掘り出し、自分の体が完全に埋まってしまうところまで掘って、その底に水を発見しました。
 でも、気付いたときには、自分が這い出すことが出来ない状態で、女の子に水を渡すこともできませんでした。
 そこで象さんは、神様に頼みました。
「神様、私はここから出られなくても良いですから、彼女に水を渡すことが出来るようにして下さい。」
 その象さんの願いが、天に通じたのか、見る見る間に象さんの鼻が長くのびて、足下にある水を、彼女に渡すことが出来るようになりました。
 水を飲みながら、女の子が象さんに言いました。
「どうして、象さんはそんなに鼻が長くなったの?」
 象さんは、それに答えて
「君を、愛しているから、そうなったんだよ。」
「へー、そうなんだ、何だか嬉しい!」

 その後も、熱い乾燥した風のない日が続き、少女は熱射病にかかりそうになっていました。
象さんは、水を汲んで上げることは出来ても、少女の熱射病を防ぐことが出来ませんでした。
 そこで象さんは、神様に頼みました。
「神様、私はここから出られなくても良いですから、彼女の熱射病を治すことが出来るようにして下さい。」
 その象さんの願いが、天に通じたのか、見る見る間に象さんの耳が大きくなって、穴の中から、彼女に涼しい風を送ることが出来るようになりました。
 水を飲み、涼しい風に当たりながら、女の子が象さんに言いました。
「どうして、象さんはそんなに耳が大きくなったの?」
 象さんは、それに答えて
「君を、愛しているから、そうなったんだよ。」
「へー、そうなんだ、何だかとっても嬉しい!」

 やがて、熱い熱い夏が過ぎ、少しずつ涼しくなりました。
 空がにわかに曇りだしたかと思うと、今までの天気が嘘のように、ザーッ!と雨が降り出し、山から川が出来、池にも水が貯まるようになりました。
 喜ぶ女の子の下で、象さんは恐怖に怯えていました。
 このまま雨が降り続くと、象さんの掘った穴にも水が一杯になって、象さんは溺れてしまうかも知れないのです。
 そこで象さんは、神様に頼みました。
「神様、私をここから出して下さい。」
 その象さんの願いが、天に届いたとき、雷鳴が響きわたり、大地を揺るがすような声が辺り一面に響きました。
「私は神だが、今のおまえの望みは、聞き入れられない。」
 象さんは、それを聞いて
「神様、どうしてダメなのでしょう?」
「おまえは、私に二度の頼み事をした、そのどちらの頼み事にも、おまえは『私はここから出られなくても良いですから、・・・・・』と言いながら、望みを言ったではないか。」
「そうでした、私は神様に頼むときに、そのように言いました。」
 そう言って、象さんは神様への頼み事を諦めました。
(彼女のために死ぬのだから、本望だ!)と・・・。

 その話を横で聞いていた女の子は、胸が締め付けられるような苦しみを感じ、気付かぬ間に、神様にお願いをしていました。
「神様、私はどうなってもかまいませんから、象さんを助けて下さい!」
「ダメだー!そんなことしたら、僕の今までの願いが無駄なものになる!」
 象さんは、叫びました。
 でも時は既に遅く、女の子の願いは聞き入れられて、象さんは穴の中から出てくることが出来ました。
その瞬間、象さんの入っていた穴に川の濁流が流れ込み、穴の側に立っていた少女を飲み込み、消し去っていました。
「何と言うことを・・・!」
 象さんは、悲しみに暮れ、涙は留まるところを知らず、流れるばかりでした。

 一週間の間泣き続けた象さんは、自分の望みばかり言ってた女の子が、実は自分のことを心から愛してくれていたことに気付き、自分の犠牲の上に相手の幸福を積み重ねることの不幸を知りました。
「私が死んでも良いから、相手を助けて!」という望みは、実は相手も殺すことだということに、思い至ったのです。
「二人が、仲良く生きることが出来るのが大事で、そのためにはお互いが我慢し会うことも大切なんだ。」と。

 涙も枯れ果てて、体中の水分が出てしまったようになった象さんは、少女を飲み込んだ川伝いに歩き、ある湖の畔に立ちました。
 湖面に映っている自分の姿を見て、象さんはビックリしました。
 そこには、長い鼻も大きな耳も無い、優しい目だけが印象的な男の子が立っていたのです。
 秋の風が湖面を揺らし、波立った後、鏡のように景色を映し出す湖面をもう一度のぞき込んだ男の子は、更に驚きました。
 そこには、あの女の子が写っているのです。
 湖面から自分の斜め後ろに目を移すと、そこには紛れもない、あの女の子が立っていました。
「どうして、そこに!」
「びっくりした?神様が生き返らしてくれたみたい。」
 神様が、二人に愛の尊さと、お互いを大事にすることの意味、そして相手を信じる心の大切さを教え、それぞれに人生の再出発を与えてくれたのです。
 その後の二人は、お互いを尊敬しあい、そして自分自身も相手のために大事にし、末永く幸せに暮らしました。
 そんなわけで、恋する二人にいつまでもその時のことを思い出すことが出来るように、象さんの鼻は今でも長く、耳は今でも大きいままになっています。
 キリンさんのお話は、又今度しましょうね・・・。


 いつの間にか降っていた夕立が止み、遠くの山に虹が架かっていました。
その時、庭の生け垣から入ってきたお爺ちゃんの目が、ものすごく優しく思えたのは、お婆ちゃんのお話のせいでしょうか?
 いいえ、その時私は、お爺ちゃんの足下にできている陰が、象さんに似ていることに気づいていました。














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