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第二章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・発端編
13:事件前日
 12月19日
 本の一族居住区

 脇に裸の田園が広がる裏道を、一人の青年が歩いていた。
 碧眼、背に一本垂らした長い白髪。一族の型を取りながら、異端のレッテルを張られる禁忌の子の一人。
『子』というには年長の青年―――――――スティール・ケイリスクは、息が鼻先で白い靄になるのを見ながら茫洋として見知った道路を散歩に励んでいた。
 スティールには弟が一人いる。弟、ビスはまだ幼く、異世界人である父の方に性質が似たため、一人離れて疎開している。
 約一年ぶりに年末を家族と過ごすため、明日弟は一時帰宅できることになっていた。

 19にもなって恥ずかしい話であるが、スティールは久々の一家が揃う正月を少しばかり憂鬱な気分で待っていた。
 面立ちは父に似たが、性質は『本』である母に似たスティール。
 面立ちが母に似て、性質は『異端者イレギュラー』のビス。
 生まれてから一度もこの一族の『輪』から出たことがないスティール、この世界の外へ逃がされているビス――――――――

 ――――――――自分が12歳の時は、そんなことしてくれなかった。

 分かっている。この年にもなって、両親の扱いの差に憤りを感じているのだ。
 分かっている。この世に二人といない、同じ血を持つ兄弟で、『禁忌の子』だ。両親が望むのは、長い将来を弟と助け合うことだ。
 分かっている。自分は『本』だ。一族の能力がある。
 分かっている。本の一族は保護対象だ。この世界から出すわけにはいけない。

 異世界人に侵略されつくした歴史のある本の一族は、とっくに世界の物語から、『筋書き』からは脱線している。どこの世界を探しても、この本の一族の住まう世界を綴る物語はもう無い。
 管理局は異世界人からの侵略から守ろうにも、予測不可能の世界では、一族に張り付いていないと守りきれないのだ。
 一族の血を引いている以上、仕方ないことだった。扱いの差があるのは当然だ。違うのだから。
 けれど夢想する。自分はなぜ弟では無かったのだろうか。

 口数の少ない弟と何を離したらいいのか分からない。長く離れた間に、奴がどういう人間だったのかを忘れてしまったように思う。絶った二人の兄弟なのに――――――
(………情けない)
 家族が自分に求めているものは、長男がこうして弟に引け目を感じることではないだろう。
 快く弟を出迎えてやれればいいものを―――――――普通の一家なら、きっと―――――――――矮小――――卑屈――――低能―――――――……。
 ふと、思考にふける視界に白いものが映りこんだ。
(雪か)
 この世界で雪が降ることは珍しい。積もるとなればなおさらだ。それはこの世界の70パーセントの地面の下に、水脈の様にマグマが巡っているからであるし、それによって地熱で雪が解けてしまうからでもある。
 地面のごく表層を溶岩が流れるこの世界は、星のほとんどが火山なのである。故に、年間の雨量は多いが行きは一年に一度あるか無いか。
 だから一族は雪を嫌う、生物が沈黙する季節を親の仇の様に嫌う。白を忌む。
 この短い生で、何度『普通であったなら』と夢想したことだろうか。この髪に、どんなに淡くても少しでも色が乗っていたなら――――――。

 スティールは顔をしかめて頭を掻き回した。
 寒いのはめっぽう苦手だ。雪が嫌いなのは、自分だって同じである。『白』が憎いのは自分もだ。『禁忌』を産んだ両親を、疎ましく思ったことだってある。
 けれどスティールは、それを口にしたことは無い。いくら主張しても『違い』は変わらないのだ。自分の頭は白いし、自分の両親は彼らだけだった。両親に擁護される現状が、きっと自分の人生で最も平穏な時間になるだろうと分かっている。
 ――――――分かっているけれど、恨めしく思わずにいられるだろうか?





 12月20日。弟が帰ってくる朝。
 窓を開けると広がるのは、この国で100年ぶりの銀世界だった。






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