教会勢力1
「……まあいい、ネルの雇った従者と言うのであれば、いいだろう。正直、今の我々は猫の手も借りたい状況なのだ。実力者というのであれば、歓迎する。とりあえず中へ行こうか」
軽鎧の女騎士――カロッタと呼ばれていた女性は、フッと警戒の視線を弱めると、割と柔和な態度で俺達にそう促した。
お……?これはいけそうな感じか?
やるじゃん、勇者。お前結構信頼されてるのな。
そのままスタスタと扉の向こうに入って行ったカロッタに続いて、ネル、俺と順に入って行き――。
「…………ん?」
――違和感。
ボロボロの扉を潜った瞬間、知らない何かが身体を通り抜けていったかのような、不快な感触が一瞬だけ走る。
何か、された……?
「……今のを気付くか。本当に実力者なのだな」
幾分か驚いた様子で、こちらを見る女騎士。
「……何をした?」
「そう身構えるな。流石に我々も、ネルの紹介と言えど見ず知らずの人間を内部に入れる程考え無しではないのでな。その扉を潜れた、ということは、我々に害意を持つ者ではないようだ。そして……ふむ、そうか、人間ではあるようだな。その仮面も魔導具では無いようだし……」
部屋の奥からススス、と寄って来た男が手渡した、何かの紙を眺めながら、そう呟くカロッタ。
「え……?」
その言葉に、勇者が思わず女騎士の方を向く。
俺は視線で黙ってろと勇者に促してから、肩を竦めた。
「当然だ。俺はただネ――勇者殿に協力するため来ただけだからな」
「ふっ……そうか。失礼した」
そう極めて平然といった様子で女騎士に言葉を溢しつつも、俺は内心バクバクだった。
っぶねー!こええよ、この女!俺に対する警戒を解いたような顔しておきながら、普通に試していやがった!
よ、よかった、予めネルに相手の能力値を知ることが出来る魔導具があるって聞いておいて。そうじゃなかったら今ので一発アウトだったぞ。
――俺が人間であると判断されたのは当然、俺が人間に生まれ変わった訳ではない。これは、新たに取得したスキル『偽装』の効果だ。
このスキルは、レフィが使っていたステータスを弄るのと同じようなもので、相手に見せたいものを見せ、見せたくないものを隠すことが出来る。ここに至る道中で、予めステータスを変更しておいた。
遠隔操作ロボはやめて、今回はこちらにDPを費やしておいた訳だ。
なので、今の俺のステータスは、向こうにはこう見えているはずだ。
名:ワイ
種族:人間
クラス:シーフ
レベル:35
HP:1603/1603
MP:1167/1167
筋力:411
耐久:443
敏捷:682
魔力:451
器用:638
幸運:72
スキル:体術lvⅢ、隠密lvⅣ、索敵lvⅢ、剣術lvⅠ
称号:断罪者
名前のワイは、そのままユキの頭文字を取った『Y』だ。これぐらい簡単な方が、偽名として俺自身も忘れないだろう。
ステータスは勇者であるネルの二回りぐらい下に設定しておき、クラスを何となくの思い付きでシーフにしたので、微妙に敏捷と器用の値だけ高くしておいた。
スキルもそれっぽいものだけ残してあり、スキルレベルはⅤもあれば、その道の上級者、達人級だそうなので、全体的に少しだけ数値を下げておいた。
称号は、無しもなんか虚しかったので、問題無さそうなこれだけ残してある。
どの程度までステータスを見られたのかはわからないが、しかしこれならまあ、人間の中でも結構な実力者として通じるはずだ。
ちなみに、今の俺の本当のステータスはこっちだ。
名:ユキ
種族:魔王
クラス:断罪の魔王
レベル:43
HP:3101/3101
MP:10442/10442
筋力:911
耐久:926
敏捷:818
魔力:1161
器用:1423
幸運:73
スキルポイント:0
固有ユニークスキル:魔力眼、言語翻訳、飛翔
スキル:アイテムボックス、分析lvⅧ、体術lvⅣ、原初魔法lvⅤ、隠密lvⅤ、索敵lvⅤ、剣術lvⅡ、武器錬成lvⅣ、魔術付与lvⅣ、罠術lvⅠ、大剣術lvⅡ、偽装lvⅡ、危機察知lvⅠ
称号:異世界の魔王、覇龍の飼い主、断罪者、人類の敵対者
DP:104356
以前より少しだけレベルが上がり、全体的にスキルレベルも上がっている。剣術スキルのスキルレベルも、とうとう一つ上がった。やったぜ。
新しく増えたスキルは、『大剣術』と今回のためにDPで取得した『偽装』、それとついでに有用そうだから取っておいた『危機察知』の三つ。
『大剣術』は大剣をブンブン振り回している内に勝手にスキルレベルが上がっていったが、『偽装』の方は持っていたスキルポイントを全て費やして一つスキルレベルを上げている。
この『偽装』スキルもまた、ステータス準拠で効果が左右されるので、スキルレベルはそんなに高くないが、俺よりステータスが圧倒的に低いヤツを相手にする分には十分だろう。
「ワイ、だったか。貴殿が何者かはこの際問わないでおこう。こちらに害意が無いのであれば問題ない。その実力を見込んで、我々に協力していただけるか?」
「元よりそのつもりで来たんだが?」
「感謝する。人手が足りないのも確かなのでな。それでは、今度こそ中へ行こうか」
そう言って、ボロ屋の奥へと進んで行ったカロッタに続き、俺とネルは後ろを付いて行く。
と、辺りの様子を仮面の奥でキョロキョロ見渡していた俺に、勇者がこそっと耳打ちする。
「……おにーさん、何したの?」
「俺の方のステータスを弄っておいた。だから言ったろ?大丈夫だって」
「……うん、正直すごい不安だったけど、良かった」
まあ、俺も内心ドキドキだったのだけども。だって、気の抜けたタイミングでこちらの正体を探ってくるんだもんな。元からそのタイミングを狙っていたのかもしれないが。
「――こちらだ。少々道が悪いから、足元に気を付けろ」
何の変哲もないボロ屋の中を進んで行くと、カロッタがただの壁の前に突然立ち止まり――。
「『主への道を』」
――そう、彼女が語句を唱えると同時、ぼわ、と壁に扉が浮かび上がる。
「……おぉ」
すげぇ、ガチの隠し扉だ。こういうの一回通ってみたかった。
女騎士が開けた扉の向こうに見える通路は地下へと向かっているようで、天井に薄明かりが吊るされ、飾り気のない通路をほんのりと照らしている。
「では、行こうか」
そう言って再び歩き出した女騎士の後ろを、俺は内心で少しワクワクしながら付いて行った――。




