新たなる武器2
「――へぇ……」
高熱の炉のような光が収まり、三つが一つへと完全に融合を果たしたソレの柄を掴み、グッと腕に力を込めて持ち上げる。
真・玉座の間のシャンデリアの光を反射して、キラリと刀身が煌めく。
――出来上がったのは、一振りの『刀』だった。
いわゆる太刀と呼ばれる種類の刀だろうが――コイツは、さらにデカい。俺はそのままアイテムボックスにしまっているから関係ないが、しかし鞘があれば抜き放つのさえ一苦労だろう。
流石に俺が普段使っているような大剣程刀身は広くなく、刃もそこまで肉厚ではないのだが……しかし、それらに劣らぬ――いや、さらに超える程のずしりと来る確かな重厚さがある。
シンプルな造りの柄の先に鍔は無く、そしてそのさらに先に広がる刀身は紅く染まっている。まるで燃え盛る焔を具現化したかのような、とても綺麗な紅色だ。
――コイツの銘は……そうだな……。
「……よし、お前の銘は『罪焔』だ」
罪焔:魔王ユキの作成した、刀の形状をした紅色の大剣。罪を憎み、罪ある者を許さず、裁きを与える断罪の剣。生物の血を吸うことで、その刀身の鋭さを増し、更に成長していく。装備時に限り、装備者のステータスを大きく増幅させる。品質:測定不能。
――罪を紅の刃で滅し、裁きを与える剣。
凄まじい性能だ。今まで造った物の中でも、まず間違いなく最高の出来だろう。いや、これから先に造る武器でも、コイツを超えるものは果たして造り出せるだろうか。
しかも説明を見る限り、どうやらここで完成形ではないらしい。品質が測定不能なのも、その辺りが理由だろう。
最高だわ、成長するって辺りにロマンがある。
これから俺が、世界の名立たる名剣に負けないような、最強の一振りに育て上げてやろう。
武器からは、自身があんなクソみたいな武器から生まれ変わったことが嬉しいのか、今までのような怨恨に溢れたつまらないものではなく、隠し切れない喜びの感情が握った柄を通して流れ込んで来る。
うむうむ、苦しゅうない。これからは俺の武器として存分にその力を揮いたまえ。
「うひゃあ、大きい……それに、何だか不思議な反りのある剣っすね、ご主人。カトラス、っすか?」
「いや、コイツは刀ってんだ。カトラスとはまた別物だな」
「カタナですかー、確か東の方の国の武器ですねー」
そう言いながら、興味深そうに武器を観察するレイラ。
あれだな、この子はちょっと、好奇心旺盛なところがあるんだな。最近わかってきた。
「へぇぇ……ご主人、ちょっと持ってみてもいいっすか?」
「いいけど、多分持てねぇぞ。重過ぎて」
「大丈夫っす!ウチ、これでもウォーウルフ族なんで、力はある方――って重っ!?」
うん、期待通りの反応をありがとう。
額に汗を浮かべ、落とさないように必死に両腕で支えるリューにレイラと一緒になって笑ってから俺は、ヒョイとそれを受け取る。
「うぅ、重かった……というか、ヒドいっすよ、二人して笑ってぇ」
「いや、お前があまりにも型通りの反応するもんで。――よし、じゃあ俺、さっそくコイツの性能を試して来るわ」
「魔王様、お帰りはー?」
「晩飯前には帰って来る!」
そう言葉を残しながら俺は、真・玉座の間の扉を潜って行った。
* * *
「へぇ……コイツは、良いな」
幾度か素振りをして感触を確かめてから、配下の魔物達と森に戻って行ったリルを呼び出し、魔物狩りへと赴いた俺は、今しがた倒した魔物の前でそう言葉を溢した。
武器が合わせてくれる、という表現がピッタリだろうか。
俺が罪焔を振るうのに合わせ、罪焔自身が微調整を行ってくれるため、対象に対しまっすぐ刃筋が立ち、すんげー綺麗な断面を見せている。
そのおかげで、今まで力任せに振り回していたが故に無駄になっていた力が武器へとしっかり流れ、非常に扱いやすい。
しかも、コイツ自体にステータス補正があるためか、罪焔を振っている時は非常に身体が軽いのだ。
今ならスタントマンばりのアクロバティックな動きも可能だろう。
斬れ味にも、凄まじいものがある。
罪焔を魔物へと振り抜いた時に、勢い余って隣の木まで斬ってしまったのだが、それをまるでバターの如くすぱっと斬り倒してしまった時は、流石にビビった。
刀身なんか触った日には、そのままポトリと簡単に落ちてしまうんじゃないだろうか。
元々コイツには、意志とでも呼ぶべきものが宿っていたからな。その意志が武器としての本懐を果たそうとしているからこそ、これだけの凄まじい性能になるのだろう。
「超絶カッコいい上に使いやすくて斬れ味凄まじいとか、最高だな、お前」
そう褒めると、武器から嬉しそうな感情が流れ込んで来る。
……うん、あれだな、なんかコイツ、ホント愛嬌のあるヤツだな。ちょっと可愛いと思ってしまった。
――よし、決めた。コイツにはその内、火魔法関連の魔術回路でも埋め込むとしようか。斬った後にその断面が燃え上がり、そのまま相手を燃やし尽くして灰にするようなヤツ。
確か、買ってきた魔術回路の本の中にそういうのもあったはずだ。
破塞よりも込めた魔力は多かったのだが、しかし元の素材が良いためか、コイツには三つ魔術回路を埋め込める枠があったのだ。
……いや、待て、燃やしてしまうと武器が成長するための血を吸えないか?
まあいいや、その辺りは色々試してから決めるか。
残りの枠は……その内考えるとしよう。
そうして俺は、リルに苦笑されながらも隠し切れないワクワクと共に、その日一日を試し斬りに費やしたのだった。
擬人化すらしていない武器萌え……これは新たな萌えの境地ではないだろうか……。




