新たなる武器1
「――それじゃあ、次ね!これが、りんご」
「リン、オ」
「ちがうちがう、ご、だよ!り、ん、ご!」
「リ、ン……ゴ!」
「そうそう!」
キャッキャと喜ぶ二人の幼女。可愛い。可愛い可愛い言い過ぎてちょっとゲシュタルト崩壊してきたが、それもやむなしか、と思うぐらいには可愛い。
今彼女らは、イルーナが先生役となり、張り切ってシィに言葉を教えている。シィは『身体変化』により疑似的な発声器官を得た訳だが、まだまだ言葉はたどたどしいからな。
昨日はあの後、買って来たお土産を皆に渡し、俺達がいない間のダンジョンの様子や、俺達が行った街での出来事などを晩飯を交えながら話し、一日を終えた。
その翌日の今日は、二人組の幼女はあのように微笑ましくやっており、レイラとリューの二人は家事、レフィは宣言通り布団の上でゴロゴロしていて――そして俺は、新たな武器を作ろうと部屋の隅っこの方で作業を行っていた。
主要素材は――例の、呪いの魔剣。
アイテムボックスからソイツを取り出すと、以前のように俺の精神にまで浸食してこようとはしないが、相変わらず絡みつくようなウザったい魔力が武器全体から溢れ出し、ずっとアイテムボックスに突っ込まれたまま放置されていたことが不満らしく、その魔力がチクチクと俺の肌を刺す。
ごめんて。忘れてなかったんだから許せ。
「うわっ……な、何すかご主人、それ……な、なんか、物凄い禍々しい感じがするんすけど……」
「ほぉ~……呪い付きの魔剣ですかー、それが昨日言っていた物ですねー?」
と、その時、ちょうど近くにいた我が家のメイドさん達が、片方は恐る恐る、もう片方は興味津々な様子で俺の手元を覗き込む。
「おう。まあ、今は大人しくしてるから大丈夫だ。ただ、あんまり近付くと具合悪くなるらしいから気を付けろよ」
「大人しくって、ペットじゃないんすから……というか、ご主人は大丈夫なんすか?」
「これぐらいは余裕だ」
呆れたように言うリューに、俺は肩を竦める。
今回用意したものは、その魔剣と街で見つけた太古の英雄の剣――それとDPで出現させた、『オリハルコン』なる希少金属だ。
このオリハルコンは魔力を非常に通しやすく、劣化した武器などを補修する際に一緒に使うと、往年の輝きを取り戻すことが出来る上にさらに強化することが可能になるらしい。まあ、普通はそんな勿体ない使い方はしないそうだが、これを混ぜれば太古の英雄の剣もいくらかその力を取り戻すんじゃないかと思ったのだ。
世界にある伝説級の剣などにおいては、全てこのオリハルコンが使用されているそうで、名匠がオリハルコンを用いて作り上げた武器などは、世界最強の種族である龍族の鱗ですら斬り裂けるそうだ。全部レフィに聞いた。レフィ自身の鱗はオリハルコン程度じゃ傷つかないそうだが。どんな鱗やねん。
ただ、それだけ優れた金属であるため、これもまた当然の如く出すのにメチャクチャDPを使用し、一キロの塊を出すのに旅館換算で三つ建てられるぐらいのシロモノである。
DPに関しては、近い内にまた使わなければならない用事があるため、明日辺りまたリルと狩りの日々に出掛けるとしよう。
「……魔王様、もしかしてそれ、オリハルコンですかー?」
「――えっ、オリハルコン!?」
「お、よくわかったな」
感心したようにそう言うと、レイラはしみじみと言葉を紡ぐ。
「はー……ここにいると、本当に色んな物を見ることが出来ますねー」
「……いや、そういうレベルのもんじゃないと思うんすけど……オリハルコンって、伝説級の鉱物だし……いや、伝説級の覇龍様やフェンリル様がいるここでは、そんなおかしなことじゃないんすかね……?」
完全にギャラリーに回った二人がそう溢すのを聞きながら俺は、素材群を並べて集中する。
――今回作るのは、魔剣に囚われたくだらない怨念どもが、昇華させられるような、そんな武器。
失敗は、出来ない。俺の持っているコイツらは一点物だ。失敗してしまえばそれまで。こんな高価な物を揃えたのに、全てムダになっちまう。
今までの武器製作で学んで来たが、武器に求めるものはシンプルでいい。あまり難しいものを要求すると、大概失敗する。
――俺が求めるものは、二つ。
重く、鋭く。ただそれだけだ。
そして、この悪趣味な外観をぶっ壊し、もっとコイツらが武器としての己を許容して、武器としての矜持を保てるような、そんなものに出来れば、尚良い。
――安心しろ、テメェら。生まれ変わったら俺がこき使ってやるからな。ビシバシ働いてくれ。
そう、イメージが十分に固まったところで、俺は練り上げた魔力を素材群に流し込み――スキルを、発動させた。
「――グッ……」
使っている素材が、過去最高に良い物であるためか、凄い勢いで魔力を吸われていく。『破塞』に費やした以上の魔力消費だ。
――こなくそ!!
気合を入れ、魔力が抜けていく多大な虚脱感に歯を食いしばって耐える。
三つの素材は、魔力の高まりと同時にまるで高熱の炉に溶かされているかのように発光を始め、やがて絡まり合うようにして一つへと融合していき――。
長くなったので分割。




