異世界観光:飯処
「……それにしても、ホントによく食べるね、二人とも」
円形のテーブルで、隣に座る勇者が、呆れた様子で俺達二人を交互に見る。
勇者に案内されたのは、大衆食堂だった。
恰幅の良い女将が結構広い店内を切り盛りしており、中々に繁盛している。街の居酒屋、といった雰囲気だ。
女将の娘さんらしい明るくあか抜けた子がその手伝いを行っており、店内の男どものデレデレな顔を見る限り、あの子目当てで来ているヤツも多いのかもしれない。
「……そう言えば俺、こっちに来てから飯の量増えたな」
「いや、何でおにーさんが不思議そうな顔してるのさ」
「俺、ダンジョンだとそんなに食べなかったからさ」
別に何も食わない訳じゃないが、そこまでお腹が空くということもなく、普通に一人前ぐらいしか食べなかったのに、今は二人前を余裕で食べている。
なんか腹減るんだよな、街に来てから。
「ここはあの森と比べて魔素が極端に薄いからな。お主の自然回復だけじゃ足りなくて、その分を補おうとしておるのだろう」
そう、肉増し増しのスパゲティをもきゅもきゅ食いながらレフィが答える。
通りがかりの女将のおばちゃんが、「おお!お嬢ちゃんいい食いっぷりだねぇ!!」と快活に笑って横を過ぎていったのに軽く会釈してから、俺はレフィに首を向ける。
「そんなに違うか?正直、そこまで違いがわからん」
「お主が鈍いからわからんだけじゃ」
「…………」
声を大にして否定出来ないのが悔しいところだ。
まあ、そうか、そういう理由なら納得出来る。これだけ食べて腹が満腹にならない辺り、この身体、実は結構な大食漢だったんだな。
「――そうだ、ネル、あの魔剣の話なんだけどよ、結局領主のおっさんは、何を気にしてたんだ?」
俺は照り焼きチキンのような肉をレタスっぽい野菜で包み、そこにトマトっぽい野菜とたっぷりのチーズっぽいヤツをトッピングし、最後にパンっぽいので挟んだハンバーガーのような料理をナイフで切り分け、フォークで刺し、ガブリと噛み付きながら勇者にそう問い掛けた。
何一つとしてはっきりしていないが……うん、美味い。
海外でジャンクフードではないハンバーガーを食べたことのある人ならわかると思うが、ちゃんとした料理のハンバーガーは本当に美味い。
ジャンクフードのハンバーガーと何でここまで味が違うんだろうな。不思議だ。
「……まあ、そこまで隠さなきゃいけないってことでもないし、言っても大丈夫か。えっとね、僕達が遭遇したような事件、実は、同じことが何件か起きているらしいんだ」
「……へぇ?」
食べる手を止め、勇者の方に顔を向ける。
「つまり、呪いの魔剣持ちが何人もいたってことか?」
「いや、魔剣を持ってたのは、僕達が遭遇した時のだけだったらしいけどね。でも、今まで真面目だった人が急に凶暴になって誰かを殺しちゃっただとか、薬物か何かで完全に頭がおかしくなっちゃってる人が暴れる事件とか、そんな感じのが起きてるらしくて」
「偶然重なっただけってのは?」
「最初は、領主様もそういう風に考えていたらしいんだけどね。ただ、今月に入ってから急にそういう事件が増え始めたらしくて、それで君が倒したのが魔剣持ちだったでしょ?」
「おう」
「あんな強力な呪いのある魔剣、そうそう一般に出回る訳がなくてさ。それで、僕達に絡んで来た人達をこの街の衛兵さんが尋問したらしいんだけど……あの魔剣、君が倒したあの男が、他の誰かから貰ったものらしいんだよね」
「……なるほど、見えてきたぞ」
つまり、あの魔剣のような人をおかしくさせる何かを、この街にばら撒いているヤツが水面下にいるってことか。
「それであんなに物々しい訳か」
「うん、そうらしいよ」
チラリと店の外へ視線を向けると、ちょうど鎧を身に纏った衛兵が今、三人一組となって巡回していた。
最初はこんなもんなのかと思っていたが……実際はそう言う訳ではなかったらしい。
「この街、誰かに狙われてんのか?」
「今のところ君達以外に心当たりはないそうだけどね」
「……やってないからな?」
「わかってるよ。おにーさんならそんな回りくどいことはしないだろうし」
まあ、そうだな。俺がこの街を襲うなら、しこたまダンジョンモンスターを出現させて、数の暴力で襲いに来るだろう。
あの森の魔物相手ならともかく、人間相手ならそれで十分だ。
「まあとにかく、そう言う訳だから観光するなら気を付けてね。おにーさんならともかく、レフィだけでそんな相手に遭遇したら危ないからさ」
「えっ?あぁ、うん……」
そういやコイツ、レフィの正体知らなかったな。
「気を付けろだってさ、レフィ」
「……む?何じゃて?食い過ぎをか?」
「うん、まあ、それでいいや」
「……いや、全然違うからね?」
大丈夫大丈夫。レフィはお前が思っているより、恐らく数百倍ぐらい強いからな。




