例によって例に漏れず現る勇者
「――んお?」
もうすっかり開き直って、我が魔王城を難攻不落のダンジョンにしてやろうと自作の罠とダンジョン産の罠などを使用して魔改造を施していると、突然、いつかのようにマップ機能が勝手に開いた。
つまり――侵入者である。
「……へぇ、コイツ……」
確認したところ、侵入者の正体は人間。人数は一人。
そして、面白いのはコイツのクラス。
名:ネル
種族:人間
クラス:勇者
レベル:42
HP:2120/2120
MP:6981/6981
筋力:519
耐久:652
敏捷:817
魔力:704
器用:987
幸運:1245
固有スキル:結界魔法、俊足
スキル:聖魔法lvⅤ、剣術lvⅣ、索敵lvⅡ、危機察知lvⅣ
称号:聖剣の使い手、流され少女
「――やっぱいるんだな、勇者って」
そう、侵入者は『勇者』だった。
ステータスも人間の中では群を抜いて強い。スキルも見るからに強力そうなものが揃っており、聖魔法なんてのに限ってはスキルレベルⅤだ。『聖』って付いてるぐらいだから、俺みたいな魔王には効果抜群なのだろうか。こうか は ばつぐん だ!!
しかも、幸運値に限っては千超えである。俺の幸運値の十倍以上だ。カジノとかに連れて行きたい。
「ははぁ……勇者ねぇ……」
俺は、監視用の魔物、『イービルアイ』の送ってくる映像で、何だかちょっとビクビクしつつ森の中を進む勇者の様子を見ながら、そう溢す。
勇者はどうやら、少女らしい。ボブショートの髪型でボーイッシュな見た目をしているが、その身体つきは女性のそれだ。
恐らく数でダメならと、質の高い個をよこしたのだろう。浅はかな考えだ。せめてパーティでよこせばいいのに、本当に単騎である。
お前、今時一騎駆けなんて流行らないぞ。縛りプレイでもあるまいに。
いや、何かの事情があるのかもしれないが、愚策であることには違いない。
――あくまで私見だが……俺は、勇者というものが気持ち悪くて仕方がない。
世界を救えだか何だか言われて放り出され、言われるがままに戦い、そして困っている人がいたからと、まるで機械のように人々を救う。
クソッタレだ。他人のために生きる人生なぞ、何の意味があるのだろうか。
それだったら俺は、断然魔王の方が好きだ。魔王は何をするにも、自由って感じがするからな。復讐に燃えるも、版図を広げるも、自身の望むがままに生きている。それは他人にとってはた迷惑な生き様かもしれないが、しかしそうやって好き勝手にする者こそが、人生に悔いなく生きられる者だと思うのだ。
その生き様に憧れる俺は、恐らく自己中心的な男なのだろう。
だからこそ俺は、自分が人間をやめ、他の何になろうが気にしないでいられる。
俺の本質が、どこまで行っても俺でしかないからだ。
まあ、流石に人型じゃない生物になったら焦ったかもしれないが、そうはならなかったからな。
俺が他人と比べ、より魔王に適しているとダンジョンに評価されたのも、その辺りが理由なのかもしれないな。
――まあ、何でもいいさ。敵対するのであれば、戦うまでだ。まだ製作途中だが、この城の嫌らしい罠の数々、試させてもらおう。
「おーい、お前ら!」
俺はそう声を投げ掛けながら、魔王城の中から飛び降り、瞬時に背中の翼を出現させて滑空し、城の中庭で「お茶会」をしているらしい我がダンジョンの住人達の近くにスッと降りる。
翼が二対になったおかげか、最近空中における姿勢制御が楽になり、かなり飛び方が安定してきたため、今までのような自由落下での着地ではなく、こうして狙った位置に的確に降りることが出来るようになった。
と言ってもまあ、リルと狩りに行く時は、いまだ高高度爆撃よろしく自由落下なのだが。楽しいので。敵倒すのに効率良いし。
「む?どうした、ユキ」
「おう、お前はすぐに翼触ってくるのやめーや」
俺が翼を出しているのを確認した瞬間、ススス、と寄って来て俺の翼を触りだすレフィに苦笑を溢してから、しかし彼女の相手をしていると話が進まないので、好きにさせたまま言葉を続ける。
「なんか、勇者がこっち来てるから、一応お前ら、真・玉座の間まで戻ってくれ」
「げぇっ!?勇者っすか!?」
そんな、あからさまに嫌そうな声を出したのは、リュー。
「なんだ?勇者が何だか知ってんのか?」
「そりゃ、知ってるっすよ。勇者って言ったら、バカみたいに強くて、そして人間以外を見れば構わず殺しに来る冷酷な殺人鬼って幼少から教わってきましたから」
「あぁ、なるほど……」
そうか、勇者って言ってもそれは人間サイドでの話で、人間と敵対している側からしたら殺人鬼で間違いないわな。前世でも、「自国では英雄、他国では大量殺人犯」って言葉があるくらいだし。
「ま、そういう訳だから、多分大丈夫だと思うけど、一応避難しといてくれ」
「わかった、おにいちゃん!」
「勇者ですかー、一目見てみたいものですー」
「レイラ、それ悪いクセっすよ。絶対やめといた方がいいっす」
そう言いながら彼女らは、中庭の隅に隠すように置いてある真・玉座の間へと直接繋がる扉から、その奥へと入って行った。
このど〇でもドアは、城の要所にいくつか設置されている。なんせ広過ぎてどこへ行くにも不便だからな。
以前まではダンジョン関係者しか行き先を変更出来なかったが、しかしダンジョンのレベルが一段階上がったことが契機となったのか、俺が許可を出した者であれば、自由に行き先変更が出来るようになっている。どんどん便利になっていって、嬉しい限りだ。
「儂は手伝わんでいいのか?」
そう、一人だけ残っていたレフィが問い掛けてくる。
「いいよいいよ。せっかくの城の防衛機構を試すチャンスだからな。お前は菓子でも食いながらその様子を眺めていてくれればいいさ」
「む……そうか。ならまあ、いいが。しかしお主、危なくなったら遠慮せず頼っていいんじゃぞ」
「そうだな、その時は素直にお前を頼らせてもらうよ。ま、基本的に前回みたいに玉座の間からポチポチ罠を発動させるだけだからな。そうそう危険にはならないだろ」
笑ってそう言ってから俺は、レフィと共に玉座の間へと戻って行った。




