更なる変化
「さて、何か変わってっかな」
いつものように玉座の上にあぐらで腰掛け、メニューを開く。
機能自体は……特に変わってなさそうだ。
ただ、色々見てみると、どうやら出現させられるものの項目が増えているようだ。召喚出来る魔物の種類や、建てられるダンジョンの施設、アイテムなどのページ数が少し増えている。へぇ……なるほどな。今までのリストは全部じゃなかったのか。
どうやら俺の予想した、ダンジョンのレベルアップというのは正解だったらしい。これからもダンジョンが成長すれば、更なる機能が追加されるかもしれない。
ちょっと、楽しみだな。今よりもダンジョン領域を拡張して、もっとDPを得られるように頑張ろうか。
と、色々見ていると、不思議そうな声。
「……お?何じゃお主、いつの間にそんな魔力が変質したんじゃ?」
声の主はレフィ。
今になってようやく頭が覚醒したのだろう。俺の変化に気付いたらしく、怪訝そうに首を傾げながらそう問い掛けてくる。
「なんか俺、種族進化したらしいぞ」
「ほう?……なるほど、確かに変わっておるな。……魔王、というのは種族なのか?」
「そうらしい。何だ、魔王って種族は見たことなかったのか?」
「基本的に、他人の能力値は見とらんからの。儂の方が強いから」
まあ、そりゃそうか。レフィにとって他生物は皆弱者だからな。そんな有象無象のステータスなんか、いちいち気にしてらんないよな。俺と最初会った時もそうだったし。
「そう言えば、レフィは種族進化したことあるのか?」
「いや、儂はないな。種族進化は生物がそれまでの肉体の頸木を逃れ、強者へと至るために行うものじゃからな。元々強者である古代龍は、それ以上進化することがない」
な、なるほど。元々最強の種であるから、それ以上に進化しようがないと。つまり、最初がミ〇リュウではなく、最初からカイリ〇ウであるという訳か。
「まあ、儂がいまだその境地に達していないだけで、もしかしたらするのかもしれんがな」
「お前のレベルだったら、もうちょっとだったりするんじゃないか?」
「フフ、今の能力値に達してから、もう数十年変動しておらんからな。これからさらに上がりにくくなるじゃろうし、まあ、あと千年もしたらそうなるやもしれんの」
スケールのでかい話だこって。
あ、いや、そう言えば俺もそれぐらいまで寿命延びてるんだったな。
……千年後か。まあ、コイツにその時が来たら、盛大に祝ってやるとしよう。
「しかしお主、種族進化したという割には、外見に差がないの」
「やっぱり、普通は変わるもん?」
「うむ。ガラッと様相が変わるもんじゃ。魔物だったら角が生えたり牙が生えたり。お主らヒトであれば髪色が変わったり、瞳の色が変わったりじゃな。魔族で種族進化した奴に、なんか身体から触手とか牙とかが生えてる気持ち悪い化け物みたいなのもおったの。ネチョネチョと触手を操って攻撃してくるんじゃ。本当に気持ち悪い奴じゃった」
心底嫌そうな顔をして、そう語るレフィ。
しょ、触手か。よかった、そんな風にならなくて。そういう脚の多いヤツとかワチャワチャしているヤツとか無理なんだよね。
あれか、やっぱり俺、SAN値低いのかもしれない。グロも結構ダメだし。
――いや、待て。そう言えばまだ確認していないものがあった。
……俺の翼、どうなっているだろうか。
どうしよう、確認するのがちょっと怖い。流石にないと思うが、翼と一緒に触手が身体から生えて来たら、自分でそれを引き千切るかもしれない。
そんなことを考えながら俺は、あんまり尻込みしていても仕方が無いので、玉座から降り、少々怖気づきながらも確認のため翼を出現させてみる。
「……増えてんな」
俺の容姿自体に差異は生まれなかったが、しかしどうやらこちらは変化していたようだ。一対だったはずの翼が二対になっており、背中の肩甲骨より下の辺りから新たな翼が生えて、計四枚の羽になっている。
新しく増えた翼は……なんか、赤黒い。
一枚目がコウモリだかドラゴンだかわからないような翼だったが、二枚目のこちらは、悪魔とか死神とかが生やしてそうな感じの翼だ。
ぶっちゃけ、ちょっとカッコいい。
しかしよかった、触手生えなくて。なんか禍々しさが増してしまった感じだが、俺は魔王だからな。禍々しさはステータスだぜ。
「ほーお……どうよレフィ、結構良くねぇか?これ」
そう自慢げに隣を見ると――あんぐりと口を開けて固まっているレフィ。
「……あー、レフィさん?」
「か、か、か…………かっこいい」
「は?」
「お、おおおおお主、お主なんじゃそれは。何故それを今まで隠していた!」
「うひゃあ!?おっ、落ち着けっ、つか羽触るな!!くすぐってぇ!!」
「そ、そんなこと言わずに。い、いいじゃろう。ほら、た、頼む。頼むから。ご、後生じゃ」
ハァ、ハァ、と呼吸を荒くし、頬を紅く染め、腕を伸ばして俺の翼を触ろうとしてくるレフィの頭をガッと掴み、動きを止める。
「やめっ、おまっ、手をわきわきさせんな!!おっさん臭いぞ動きが!!」
「何故止める!!い、いいじゃろう触るぐらい!!」
「なんか気持ち悪いんだよお前の動きが!!」
だが、当然覇龍に力で敵う訳はなく、徐々に俺の方が押され、じりじりとレフィがにじり寄って来る。
「くっ、この翼フェチが……ッ!わかった、わかったから落ち着け!!落ち着いたら触らせてやる!!」
「はい、落ち着きます」
その瞬間、ピタッと動きを止めるレフィ。
ほ、本気だコイツ……!
「じゃ、じゃあほら、お前も翼触らせろ。俺だけじゃ公平じゃないだろ?」
こっちも触ってたら、そんなヘンなことはしないだろうし。
「う、うむ。そうだな。ほれ、触らしてやるからお主のを触らせろ」
そう言ってレフィは、翼を出現させる。
彼女の髪と同じ銀色の、美麗な翼。
「おぉ……相変わらず綺麗な翼だな」
咄嗟に言ってしまったことだったが、しかしレフィの翼を触ってみたいとは、実は俺も前々から思っていたことだ。俺、グッジョブ。
「そ、そうか。うむ、お主の翼も最高にかっこよいぞ」
「お、おう、ありがと」
何だかおかしなことになってしまったが、そうして俺達は互いに翼を差し出し、指を伸ばす。
――あぁ……すごいな、これは。
絹のように滑らかで、ずっと触っていたくなるような触り心地。
まるで最高級羽毛布団のような、その感触。
これは……ヤバい。夢中になる。
枕にしたらもう、天上にも昇るような気分で眠ることが出来ることだろう。
「んっ……お主、その、あっ……さ、触るのは良いが、も、もう少し、んっ、や、優しく頼む」
「あ、あぁ……す、すまん」
俺もくすぐったいが、しかしレフィは俺よりも敏感なのかもしれない。指を這わせる度に、艶やかな声を漏らす。
――もはや俺達には、他のものは見えていなかった。
どれだけそうしていただろうか。
お互いがお互いの翼を、夢中になって触り続ける。
レフィの翼を触る度に彼女が官能的な喘ぎを漏らし、俺もまた彼女の翼の感触に気分が高揚し、呼吸が荒くなる。
――やがて、交差する俺とレフィの視線。
俺の翼を思う存分触れたことでそうなったのか、それとも俺に自身の翼を触られてそうなったのか。はたまた両方か。
彼女の瞳はとろんとしており、頬に朱がさし、息遣いは荒い。
「…………」
「…………」
無言で、視線を交わし合う。
俺は彼女のその表情から目が離せず、彼女の翼を触ったまま、思わずもう片方の手をレフィの頬へと伸ばし――。
「……あのー、お二方、そういうエッチなことは、夜の誰も見てないところでされた方がいいと思いますよー?」
「「ち、違う!!」」
レイラのジト目に、バッと一瞬でお互いからお互いが離れ、そして同時に発した俺とレフィの慌てた否定の叫びが玉座の間に響いた。
ポ〇モンでこれ、世代がバレますね……。私の中で最強といったら、やはり彼なんですよ。
皆さんは何フェチでしょうか。私は脚フェチです(真顔)。




