ダンジョンを改築しよう2
トランプでレフィを大人げないぐらいボコボコにし、ふて寝させた後で俺は、本来の目的――ダンジョン改築のため、一度玉座の間から出て洞窟に来ていた。
行うは、階層の追加。
「さて、どんなものか――」
俺は中空に指を滑らせ、操作を続ける。
今回追加する階層は――草原。
そう、ダンジョンの不思議力があれば、そんなものすら追加出来るのである。
構想としては、基本フィールドを草原とし、そこに様々なオプションを加えていくつもりだ。
少なくない量のDPを支払い、洞窟と玉座の間の間に、まずは草原エリアを追加する。
「――おお……本当に草原だ」
洞窟を抜けると、そこは草原だった。
雪国ではないです。
洞窟にポツンと設置された扉。
それは前から一緒なのだが、そのドアノブを回して扉を開いた先には、草原が広がっていた。
洞窟内だというのに、大空がどこまでも広がり、陽光が青々とした緑を照らしている。
緩やかな風が時折吹き、草を揺らして俺の頬を撫でていく。
その柔らかな自然の中――遠くにポツンと立っているあれは、玉座の間に繋がる扉か。
何と言うか……今更だけど本当に不思議パワーだ。面白いもんだな。
真っ平な草原にポツンと立っているもんだから、一際存在感を放っているその扉まで向かい、中に入ってみると、やはり繋がっているのは玉座の間。
不思議そうに俺を見てくるイルーナや新人君達を横目にもう一度草原の方に出て、扉の裏に回ってみるも、そこにあるのは扉だけ。
……なんか、鏡を初めて見たチンパンジーみたいな動きをしてしまったが、まさしく気分はそんな感じだ。
これ、どこまで広がっているんだろうな。完全に一つの世界出来上がっちゃってるけど。
そう思って少し時間を掛けて歩き回ったり飛び回ったりしてみたのだが、どうやら制限はちゃんとあるようで、ゲームの侵入不可地域のように透明な壁らしいものがあり、それより先には行けないようになっている。
広さ的には、玉座の間の扉を中心に半径五キロぐらい。上空には一キロぐらいか。飛んでいる途中で頭ゴツンとやって、痛くはないがちょっとびっくりした。
いいな、思っていたより広さがある。しかもどうやら、この広さを拡張することも可能なようなので、もし手狭に感じることがあったら、その都度広くしていくことにしよう。
次に操作するのは、オプション設定。
流石に辺り一面草原だけじゃ殺風景なので……川と、背景に山と……あ、川があるなら橋も欲しいな。それと、桜の木なんかも欲しい。俺、桜好きなんだよ。
……この光景を見ているとなんか、日本家屋っぽいのが欲しくなって来るな……おっ、旅館か。追加しよう。待て待て、それなら温泉も欲しい。あることは確認しているし、どうせなら露天風呂にしよう。庭に池も欲しいな。モンスターと言えるのか甚だ疑問であるが、モンスター一覧の中に鯉もいたので、これも追加しようか――。
* * *
川辺に佇む一軒の宿。
中は古式ゆかしい造りの、どこか郷愁を感じさせる空間が広がり、その縁側からは池と一本の美麗な桜が窺え、心を落ち着かせる。
見渡す限りに広がる草原と、遠くに覗く雄々しい山脈。
「……まあ、悪くはないよな、うん」
――ハッと我に返った時そこには、高級旅館としても通りそうなぐらい、絵になる立派な温泉宿が完成していた。
当初の目的と違って物凄いほのぼのした雰囲気になってしまったが……ま、まあいいか。魔王城はその内別個で建てるつもりだし。今はこんな、ほのぼのしててもいいじゃない。
そうだ、俺はクリエイティブ魔王。皆がもっと、心休まる空間を得られるように建ててみただけだからな。決して調子に乗って色々追加してたらこんな風になってたとか、DPの無駄遣いとか、そんな事実はない。計画通りなのである。
そう、この宿こそが我が魔王道の新たなる一歩、そして我が野望への大きな足掛かりとなるのだ。フハハハハ!!
何言ってるのか自分でもわからん。
「ご主人ー、お昼が出来たっすよー――っておわぁっ!?ど、どこっすかここ!?洞窟のはずじゃ――って、しかもなんか、いつの間にか家が建ってる!?」
と、お昼の準備をし終えて俺を呼びに来たリューインが、玉座の間に繋がる扉から顔を覗かせる。
ちなみにその扉は、旅館のすぐ隣にある。それを見越して旅館を隣に建てたからな。
こんなフロアを追加してしまったら、洞窟の外に出るのが大変になりそうなものだが、実はそうでもない。
さっき色々試している時に気付いたのだが、ハ〇ルの動く城に出て来るドアノブを回すと外の光景が変わるドア、みたいな感じのに玉座の間に続く扉がいつの間にかなっており、ドアノブを捻って設定を変えるだけで直接玉座の間から洞窟に出る扉へと繋ぐことが出来る。
ただ、この機能はダンジョン関係者しか使えないから、いまだ侵入者扱いのレフィや新人君二人が外に出る時は、俺かイルーナが回してやらないと洞窟には繋がらないんだけどな。ちょっと面倒臭いが、仕方ない。
「お、リュー、飯か。すぐ行く」
今まで飯の準備は俺の仕事だったからな。非常にありがたい。
飯はもっぱらレイラが作るようになったのだが、彼女は非常に手際が良いため、前世の料理もみるみる内に吸収して作れるようになっていった。やはりこういうのは女性の方が得意なんだなと、しみじみと思ってしまったぐらいだ。
リューは……まあ、うん、真面目に仕事してくれようとしているからそれでいいです。
「えっ、あの……ご、ご主人、これに関する説明はないんすか!?」
「え?あぁ、そりゃ……あれよ。魔王の不思議パワーってヤツよ」
「ご主人、すみません、全然わかんないっす」
ですよね。
「まあぶっちゃけ、俺も何でこんなことが出来るかはわからん。出来るから出来る。そうとしか言えんな。――それよりリュー、ここは慣れて来たか?」
俺も詳しく説明なんか出来ないので、盛大に話を誤魔化して、そう彼女に聞き返す。
「あ、はい、そうっすね……何だか、おかしな気分っす。奴隷になった時は、もう完璧にウチの人生が終わったもんだと思ってたのに、今じゃあこうしてここで働かせてもらってるんすから」
「ハハ、まあ、人生はおかしなことばっかりだよな」
俺なんてお前、異世界来ちゃったからな。
「でも、ここに来れて良かったっすよ、自分。ご飯は美味しいし、寝床も綺麗だし、面白いものもたくさんあるし。それに何より、モフリル様がいるっすから!!そうだ、ご主人、次はいつモフリル様が帰って来るんすか!?」
「え、あー……それはわかんないなー、あいつ神出鬼没だしなー」
「ご主人?何で急にそんな棒読みになるんすか?」
リルはなんか、リューに苦手意識を持ったようだからな。俺が呼ばない限りあんまり近寄らないと思うぞ。
「おい!お主ら、早く来んか!飯が冷めて――って、草原になっとる!?これは……おい、ユキ、お主また何かヘンなことやったのか?」
「ヘンとは失礼な。我がダンジョンの繁栄のための大きな一歩だぞ、これは」
「まあそんなのは何でもよい。とにかく二人とも、早く戻ってまいれ。でないと儂らが全部食い尽すぞ」
「「へーい」」
気の抜けた返事を返して俺達は、レフィに続いて玉座の間へと戻って行った。