ダンジョンを改築しよう1
今日は、いい加減ダンジョンの改築を行おうと思う。
今までこの本丸の洞窟に対する侵入者が、例のお犬君しかいなかったので後回しになっていたのだが、そろそろダンジョンとしての体裁を整えるべきだろう。
と言っても、よくあるRPGみたいな、洞窟が何階層も続くようなダンジョンにするつもりはない。
俺の最終目標は、ラスボスが住んでいそうな感じの魔王城。それも、アノー〇・ロンドばりに立派なヤツだ。
まあ、あそこまで広くするつもりはないが、男なら夢はでっかく行かんとな。
であるならば、今回に関してもその前段階となるような改装をしたい。
そんなことを考えながら俺は、とりあえず所持DPを確認しようと自身のステータスを開き――そして、それに気付く。
「……何か、ヘンな称号がまた増えとる」
名:ユキ
種族:アークデーモン
クラス:魔王
レベル:35
HP:2540/2540
MP:7211/7211
筋力:716
耐久:747
敏捷:658
魔力:996
器用:1313
幸運:72
スキルポイント:6
固有スキル:魔力眼、言語翻訳、飛翔
スキル:アイテムボックス、分析lvⅧ、体術lvⅣ、原初魔法lvⅣ、隠密lvⅤ、索敵lvⅣ、剣術lvⅠ、武器錬成lvⅢ、魔術付与lvⅡ
称号:異世界の魔王、覇龍の飼い主、断罪者
DP:152400
断罪者:罪を憎み、裁きを与える者。罪科の称号を持つ者と対峙する時に限り、全ステータスが1.5倍となる。
……まあ、まだ有用そうだからいいけどよ。
つか、この称号ってどういう基準で付けられてるんだろうな。
「――なあレフィ、称号ってどういう基準で付けられるんだ?」
俺は、新人のリューインに得意げにルールを教え、そしてボロクソに負けたせいで火が付いたらしく、特訓と称して一人ババ抜きをしているレフィに、そう問い掛ける。
レフィさんや、それ、一人で出来るゲームじゃないと思うんだが。
「む?あぁ、称号か。そればっかりは儂にもわからん。大体、何かデカいことをすると付くことが多いの。あとは、道理を外れた者に付くこともな。それ故、神が儂らの行いを見て称号付けを行っておるなどと言う輩もおるが、それは儂らには知覚出来んことじゃからな。いつの間にかあるもの、と認識する他ない」
……思った以上に深い答えが返って来たな。
「神っていないのか?」
「それは宗教的な話か?少なくとも儂は見たことないな」
そうか、異世界ってもんだから神様ぐらいいるんだろうと勝手ながらに思っていたのだが……レフィが見たことないってんなら、恐らくいたとしても前世と同じように、俺達には見えない存在なんだろうな。
「……そういや、レフィの称号って、覇龍の一つだけなのか?」
「いや、他にも数え切れん程あるが、そっちは隠しておる。覇龍の称号がお主にも見えておるのは、儂が見せとるだけじゃ。これだけあれば、儂が何者か相手に伝わりやすいからな。その気になれば、名前から称号まで何一つ他に見せんようにすることも可能じゃの」
あぁ……なるほど。コイツが覇龍という称号を見えるようにしているのは、有象無象を振り払うための、コイツなりの処世術なのか。
ステータスを弄れる風に言っているのも、相手のステータスを見ることが出来るスキルがあるなら、それを相手から見せなくさせるスキルもあることは想像に難くない。今度もう一度スキル一覧でも探してみようか。
イルーナが捕まっていた時、どうやって自力で逃げたかなど気になってはいたのだが、きっとそんな感じのスキルがあって、俺には見えていないだけなのだろう。
ま、聞きゃしないがな。俺達にすら言わないってことは、きっと彼女にとってそれは、並々ならぬ秘密なのだろうし。それを根掘り葉掘り聞くのは、野暮ってもんだ。
「む?何じゃ、その残念そうな顔は」
「いや、俺、お前のステータスが全部見られるようになるのを成長の目標にしてたからさ。隠そうと思ったら隠せるんだろ?それ」
つまりは、全てコイツの匙加減という訳だ。
「カカカ、そうか。ならば頑張って能力を上げるんじゃな。儂と同レベル帯になる頃には、見えるようになると思うぞ」
愉快そうに笑うレフィ。
「同レベル帯って……何百年掛かるんだよ。寿命で死ぬわ、普通に」
「? 何を言っておる。お主に寿命なぞ恐らくないぞ?」
「――――へっ?」
何気ない調子でレフィから語られた言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げて、彼女の方を見る俺。
「いや、無いことはないのかもしれんが、恐らく千年、二千年単位で生きることは間違いないぞ。お主は自然発生した種類の魔族で、その種類の魔族は身体が魔素で構成されているって話はしたじゃろ?」
「え、お、おう、聞いたけど……」
確か、ダンジョンマスターである魔王という存在を作り出すための力が核となり、そこに魔素が集結して俺が生まれたって話か。
「魔素で身体が構成された魔族というものは、非常に長命じゃ。呼吸するだけで、身体の構成に必要なものを常に得られておるという訳じゃからな。腕とか吹っ飛んでも、時間が経つにつれ勝手に再構成されて、生えて来よる。故にこの世界に魔素がある限り、ユキのような種類の魔族は、他に殺される以外ほとんど死ぬことがない。……本来はお主、食物を摂る必要もないんじゃぞ?」
……確かに、この身体になってから空腹をあまり感じないなとは思っていたが……。
つまり――俺もまた、ダンジョンモンスターであるシィやリルと同じような身体をしているということか。
ま、マジか。
驚愕の新事実。
俺、いつの間にか不老不死に近い肉体になっていたでござる。
「……な、ならお前はどうなんだ?随分長く生きてるみたいだけど」
衝撃的過ぎるその事実に、思わず頭を混乱させながらもさらにそうレフィに聞く。
「儂か?まあ、龍族もまた、元々非常に長命な種族である上、儂自身強くなり過ぎて身体がかなり魔素に順応しておるからの。儂の膨大な体力が全て削られるか、この世界から魔素が無くなるかせん限り、死ぬことは恐らく無いじゃろうな」
「……ならまあ……いいか。お前が生きていてくれるんだったら、それだけ長く生きることになっても暇にはならないだろうし――レフィ?どうした?顔赤くして」
「……な、何でもないわ!それより、そんな話をするってことは、何か新しい称号でも――って、何じゃ『覇龍の飼い主』って!!」
「あ、まだ気付いてなかったのか」
「お、お、お主、儂を愛玩動物扱いとは、いい度胸じゃな!?」
お、予想通りの反応だ。
「ま、ほら、気にするな。俺達が知覚出来ない何かが付けた称号だからさ。客観的に見た事実がそういうことになってしまっている訳よ」
ニヤリと笑みを浮かべてそう言うと、「ぬぐぐぅ……」と唸るレフィ。
「ま、それがわかったなら、ここは一つ、愛玩動物らしく俺に媚びを売ってみたらどうだ?」
「くううっ、調子に乗りおって!!ユキ!!貴様に決闘を申し込む!!いざ尋常に勝負せい!!」
「フハハハハ!!望むところだ!!俺が勝ったら、お前に犬の如く這いつくばらせて足を舐めさせてやる!!」
「お、お主……やはりそういう趣味が――」
「ここで急に冷静にならないでくれます!?」
ドン引きするレフィに、思わず慌ててツッコむ俺がそこにいた。




