クリエイティブ魔王2
クリエイティブ魔王。
いいぞ。これは新しい魔王の境地かもしれない。俺自身が新たな魔王道の先駆けとなるのだ。
その肝心の『武器錬成』スキルに必要なものだが、幸いなことに鉄などの素材はカタログで交換出来る。想像も最近お湯龍を出現させるため妄想――もとい、イメージトレーニングばっかしてたから大分鍛え上げられている。魔力量に関しては、平均よりかなり高いとレフィのお墨付きだ。
これなら、出来上がる武器の質に関しても期待出来るはず。
そして、『武器錬成』スキルを見つけた際に、実はもう一つ目を付けていたスキルがある。
それが――『魔術付与』。
魔法ではなく魔術とあるが、どうやら魔法がイメージで発動するものであるのに対し、魔術は理論を立てて発動する、より学問的なものという違いがあるらしい。レフィに聞いた。
スキルの効果としては、対象に魔術回路を付与し、魔法具にするといったもの。付与出来る魔術回路に関しては、スキルレベルⅠだと『効果範囲上昇:小』『魔力軽減:小』の二つのみ。
スキルレベルが上がるにつれて、付与可能な魔術回路が増えていく。ただ、それ以外のものでも自身で魔術回路を覚えていれば、それを付与することも出来るらしい。その内どうにかして覚えたいものだ。
また、対象に付与出来る魔術回路の数や効果の程に関しては、その物のサイズや形状、品質に依存する。
例えば、元から魔力の含まれる魔銀鉱石などの素材が使用された物であれば、魔力が通しやすくなるため付与出来る魔術回路の数が増え、その発揮する効果も大きくなるのに対して、素材がただの鉄だったりすると、付与出来る魔術回路の数は減り、その発揮する効果が小さくなる。
俺は魔法に関してもどしどし使っていくつもりだから、武器がそういう魔法の補助となってくれるのであれば非常にありがたい。スキルレベルⅠで覚えられる魔術回路だと、まだ大した差はないかもしれないが、そのちょっとした差が明暗を分けることもあるだろう。
ゆくゆくは、RPG終盤に出て来るような、特殊効果増し増しの武器を作れるようになりたいものだ。
そんなことを考えながら俺は、さっそくとばかりにスキルスクロールを出現させ、スキルを習得する。
名:ユキ
種族:アークデーモン
クラス:魔王
レベル:32
HP:2511/2511
MP:7180/7180
筋力:713
耐久:744
敏捷:652
魔力:992
器用:1310
幸運:72
スキルポイント:3
固有スキル:魔力眼、言語翻訳、飛翔
スキル:アイテムボックス、分析lvⅧ、体術lvⅣ、原初魔法lvⅣ、隠密lvⅤ、索敵lvⅣ、剣術lvⅠ、武器錬成lvⅠ、魔術付与lvⅠ
称号:異世界の魔王、覇龍の飼い主
DP:32041
よしよし、ちゃんと習得出来ているな。
レベルも、前回見た時と比べかなり大きく上がっている。幸運値が地味に上昇しているのがちょっと嬉しい。
固定値じゃなくて本当に良かった。
スキルポイントはちょっと前に分析のスキルレベルを上げるために費やしたので、まだほとんど溜まっていない。分析スキルはマジで有用だから、これが最大レベルになるまでは全部そこに費やすこととなるだろう。
目指すは、レフィのステータスが見えるまでだ。これだけ上げても見えないからな。
……って、なんか変な称号が増えてんな。
新たに増えていた称号へと指を滑らせ、確認する。
覇龍の飼い主:世界に覇を打ち立てた龍を飼い馴らす、恐れ知らず。
……間違ってはない、のか?
確かに餌付けしている感じはあるけども。レフィにバレたら「儂を愛玩動物扱いとはいい度胸じゃな、ユキ!!」とか言って、プンスコむくれそうだな。
そう言えば称号に関してなのだが、レフィは俺の『異世界の魔王』を見ているはずなのに特に何の反応も示さないので、「俺、異世界人なんだぜ」と言ってみたところ、「ふーん」と淡泊な返事が返って来た。
まあ、レフィにとってはそんなの、どうでもいいことなのだろう。
俺としても、未練が無いと言ったらウソになるが、死んじまった前世についてはすでにただの過去と成り下がっているので、ぶっちゃけもうどうでもいい。魔王ライフ、結構楽しいし。
自分のいる場所が、自分の『世界』なのだ。環境が変わったところで、それは絶対に変わらない。
……まあ前世のことはいいのだ。とりあえずそれは置いておいて、スキルを使ってみよう。
まずはどんなもんかの具合を確認するため、DPで拳大の鉄インゴットを交換する。本当に今更だが、何でこんなものまでカタログに載ってんだ。
「む?何かまたユキがおかしなことを始めておるの」
「おにいちゃん、また新しい手品見せてくれるの?」
レフィにオセロで負けて、わかりやすく「むぅー」と頬を膨らませていたイルーナまでもが寄って来る。
「手品じゃないけど、似たようなものか?あとレフィ、俺がいつもおかしなことをしているみたいな言い草はやめてもらおうか」
色々出来ること出来ないことを試しているだけです。
「まあ、そんな見てても面白いことは多分ないぞ」
興味津々に眺めてくるイルーナと、何だかんだ言ってもやっぱりこっちの様子が気になるらしいレフィにそう言って苦笑してから、俺は目の前へと再び顔を向けた。
まずは……短剣辺りでも作ってみよう。
イメージするのは、ステンレスナイフ。
持ち手までが金属の、軍人とかが持っていそうなヤツだ。
俺は一番イメージがしやすい、FPSの近接武器としてよく使っていたナイフを頭に思い浮かべ、魔力を素材に込めていく。
その魔力が十分に素材全体に行き渡ったところで――『武器錬成』スキルを発動した。
すると、途端に鉄インゴットがぐにぐにと変化を始め、まるで意志を持っているかのようにナイフの形へと集約していく。正直、ちょっと気持ち悪い動きだ。
「おお……上手くいったな」
やがて出来上がったナイフは、イメージそのもの。
刃渡りは十二センチ程。刃は肉厚で、全てが鉄で出来ているため柄の方もかなり角ばっている。握るには柄に縄か何か巻いた方がいいだろう。
試しにアイテムボックスを開き、虚空の裂け目から魔物の肉を取り出して斬ってみると、スパッとちゃんと斬ることが出来た。
鋳造も鍛造もしていないのに、なかなかの硬度と斬れ味だ。どんな理屈かわかったもんじゃないな。魔力が鉄の元素に直接影響でも及ぼしているのだろうか。
魔王の短剣:魔王ユキが作成した鉄製の短剣。銘は無し。品質B−。
分析スキルなのだが、スキルレベルがまた上がったためか、品質まで表示されるようになった。B−は、ちょっといい物という評価だ。普段使いの物より千円高い道具、みたいな。自分で言っててわかりにくい例えだな。
一発で上手くいくことが出来たが、スキルの説明によるとどうやらこれは、俺の無駄に一番高い値の器用値が関係しているようだ。この値が高ければ高い程、出来上がる品質に差が出るらしい。
今まで息してなかった器用値が、ここに来てようやく本領を発揮したといった感じだな。クリエイティブな魔王になりたければ、諸君らは器用値をあげたまえ。
「ほう、今のは山の民らが使う鍛冶魔法の一つか。ということは、これはお主が作った訳じゃな。なかなか良い出来ではないか」
レフィがしげしげと俺の作ったナイフを眺める。
「おにいちゃん、お料理も美味いし、器用さんなんだね!お母さんみたい!」
その評価は俺、喜んでいいのだろうか。
「まだまだこれからよ。次からが本番だ」
そう言って俺は、再度カタログを開き、今度は十キロ程はあろうかという鉄インゴットを出す。魔銀鉱石のインゴットを出したいところだが、それは高過ぎて無理だった。
さっきので要領はわかった。
次は、今作成したナイフを両刃にして、もっとサイズを大きくしたものを――。
……いや、待てよ?確か『魔術付与』スキルの効果は形状にも依存する。だったら、そのことも考慮したフォルムにした方がいいだろう。
俺、これからメインで使うのは水魔法になりそうな感じがあるから、なんかこう、水の流れのような、流線的な形がいいかもしれない。全体的なシルエットも、水滴をイメージして丸みを帯びた感じの……。
――と、余計なことを考えて作ったからだろうか。
「…………」
鉄製の柄と、その先に続く滑らかな流体を描く刀身――刀身って言えるのか?これ。
素材は鉄のはずなのだが、仄かに青みが掛かり、どことなく幻想的な色合いだ。
「わぁ、シィだぁ!」
――次に出来上がったのは、柄から先がなんか、スライムみたいな形状になっている武器だった。
「……あー、お主、これは?」
「……武器です」
「ほう、そうか、いったいどうやって使うのかご教授願いたいの」
「ええっと……こう、柄を握ってですね、先の流線的な部分で叩き潰すような、そんな武器です」
「そうか。随分と強そうな武器じゃ」
えぇ、ホントに。
しかしそれにしても、これを魔銀鉱石で失敗しなくてよかった。そんだけDP掛けて粗大ゴミにしたら、立ち直るのにかなりの時間を要したのは間違いない。
「……ま、まあいい。次だ次」
もう一度、鉄を――っと、待て待て、そうだ、あれがあった。
俺はカタログではなくアイテムボックスを開くと、その虚空の裂け目から、黒く先の尖った、何か角のようなものを中から取り出す。
コイツは、乗用車並にデカいカブトムシっぽい体躯を持っていた魔物の角だ。
そのデカカブトムシはこの角の突きで大木を砕いていて、何かに使えるかもと、ソイツを倒した後角だけ折って持っていたのである。
こうして持ってみても、サイズもかなりの大きさ、重量もほどほどにあり、硬度も大木を砕ける程には硬い。俺の求める大剣の素材としては、非常に適していると言えよう。
武器の素材だからと鉄を使っていたが、素材と言うのであれば、これも使えるはずだ。もはや完全にモン〇ン脳だが、無理ではないはず。
――よし、集中だ。集中しよう。
さっきは余分なことを考え過ぎた。
もっとシンプルでいい。魔術を付与することは、今は考慮しなくていいのだ。
求めるは、重量と斬れ味。ただそれのみ。
形状も、もっと簡単でいい。柄と両刃、それだけあれば十分だ。
イメージを固めながら魔力を流し込んでいくと、やはり素材の質が良いためか、三分の二残っていたMPがぐんぐん吸い取られていく。これは失敗出来ないな。
そうして集中していき、魔力もほとんど吸い上げられたところで、いざスキルを発動させようとした――その瞬間。
視界の端に映っていたレフィが何やらニヤリと笑みを浮かべると、俺の傍にススス、と寄って来て、耳元で「お・は・な」――お花?
「――ってうわぁっ!?な、なんじゃこりゃあ!」
スキルが発動し、武器が出来上がる。
そこにあったのは、柄があり、鍔があり――そしてその先に咲く、お花。
刀身が花の茎みたいになっており、天辺に花が咲いているのだ。
魔王の大剣:魔王ユキの作成した、頂点に花の咲き誇る美しい大剣。銘は無し。品質:A−。
こ、これは、最後に花を思い浮かべてしまったからか!?しかもムダに品質良いぞ!?
「お、お、お前ぇ!何してくれてんだ!!」
再錬成は……出来ない。
どうやら、同じ対象に対して再度スキルを発動することは出来ないようだ。というか、もう魔力も切れてしまったので、どっちにしろ無理だ。
素材に関しても、これ一個しか持っていない。再度狩ろうにも、カブトムシみたいな魔物は、あの一体しか見たことがない。探すとしてもかなり時間が掛かりそうだ。
つまり――現状俺が作れる最高スペックの武器は、このお花ブレードとなってしまった訳である。
「クッ、プグッ、き、綺麗な花ではないか。お洒落で良い武器じゃと儂は思うぞ」
「こ、これ素材一個しか持ってなかったんだぞ!?」
「そ、その武器を使えばよいではないか。さぞ数多の魔物をほ、屠れるだろうよ」
と、そこで耐え切れなくなったようで、レフィが腹を抱えて大爆笑して転げまわる。
「クッ……こ、この、身体は子供、中身も子供ヤローめ……ッ!!つーかお花って、魔法の時も最初に教わったの花出す魔法だったし、実は花好きかコノヤロー!!菓子も好き、お花も好きって、随分乙女チックな覇龍だな!!」
「なっ、よ、よいではないか、別に!!儂の趣味がどんなものでも!!」
「ハンッ、別にテメェの趣味はどうでもいいがな!!似合わねぇなって言ってんだよ!!」
「お、おおお主!!言ってはならぬことを言ったな!!上等じゃ、覇龍の儂に喧嘩を売ることがどういうことか教えてやろう!!」
「いつまでも覇龍覇龍って気取ってんじゃねえぞ!!そしてお前は覇龍じゃなくて駄龍だ!!」
「ムキーッ!!またそれを言ったな!!覚悟せいユキ、地獄という言葉が何故あるのかお主に教えてやる!!」
そうして喧嘩を始めた俺とレフィを見て、「あーあ、また始まっちゃった。ねぇ、シィ、一緒に遊ぼう!」と、そんなイルーナの声が小さく玉座の間に響いた。
ちなみにこのお花ブレードは、ムカつくことに性能はそんな悪くないので、レフィの言う通りその後しばらく俺のメイン武器となった。
……早くいい素材手に入れなければ。
器用値の説明ですが、器用値は魔法の操作向上に効果があります。ユキの魔法の比較対象がレフィであるため、本人は自分の魔法の精度がかなり高いことに気付いていません。
それと、彼は勘違いしていますが、器用値が高ければ武器の扱いも向上します。ユキが剣の扱いが下手なのは、魔王のスペックに武器が耐えられていないのと、使用者が素人であるのと、そして単純にセンスがないだけです。本人もその内勘違いに気付きます。




