酒場《2》
名:ネル
種族:ミド・デビル(人間)
クラス:上級剣士(勇者)
レベル:59
HP:2996/2996
MP:7670/7670
筋力:684
耐久:757
敏捷:902
魔力:898
器用:1101
幸運:1299
固有スキル:結界魔法、俊足
スキル:聖魔法lv6、剣術lv5、索敵lv4、危機察知lv5、短剣術lv3、火魔法lv2
称号:聖剣の使い手、流され少女、守護者
一応、分析スキルを誤魔化すような魔導具は持っているようだが、魔界の王が持っていたものより性能が下のようだ。
俺の分析スキルを全く誤魔化せておらず、本名と本当の種族名がかっこ付きが表示されてしまっているし、数値なんかそのまんま見えている。
……って、コイツ、いつの間にか相当成長してやがるな。
モノによっては1000に届いている上に、それ以外の数値も大分そのラインに近付いている。
幸運値も、何でか知らんがコイツ、ほぼ微動だにしない俺と違って大分上昇しているようだ。何故だ。羨ましい。
このステータスであれば、魔界の魔族相手でも十分に立ち回ることが可能だろう。いつかのオリハルコン冒険者よりすでに強いしな。
コイツと別れてから一か月経ったか経ってないかぐらいのはずなのだが……あれか。勇者ってやっぱり、成長率が凄まじいのか。
流石、大層なクラスをしているだけある。
コイツがどこまで強くなれるのか、ちょっと気になるところだ。
「な、何でおにーさんがここに?」
「そりゃこっちのセリフだ。何でお前がこんなところにいる?仲間探しでもしてんのか? ここ、酒場だしな」
「え?いや、別に探してないけど……」
きょとんとした顔でそう言う勇者。
何でもないです。忘れてください。
「……知り合い?」
と、その時、勇者の対面にいたもう一人のフードが、そう怪訝そうに言葉を放つ。
声からしてどうやら若い女のようだが……何だか眠たげな声だ。
ネルと一緒にいるから、もう一人は聖騎士のカロッタかと思ったが、どうもそうではないらしい。
まあアイツ、一応お偉いさんだったもんな。そう気軽に国の外には出られないのだろう。
……今ふと思ったんだが、俺って女の知り合い多くないか?
女の友人は多いような気がするが、逆に男で友人って呼べるヤツは全くいないような気が……。
……深く、考えないようにしよう。
「あ、えっと、その……」
「ひょんなことで知り合ってな。ただそれだけさ」
魔族である俺と知り合いであることを、どう説明したものかとしどろもどろになる勇者に、そう助け船を出したつもりだったのだが……何故か勇者は、少しだけ不満そうに俺の方を見る。
あ?何だ?
何か俺、そんな気に障ることを今言ったか?
「そう」
と、ソイツは俺の答えにただその一言を呟くと、すぐに興味を失ったらしくこちらから視線を外し、目の前のコップの中身をズズズ、と飲み始めた。
……何だかコイツも、なかなかに独特の性格をしていやがる。
「あ、えっと、その子はロニアだよ。僕の友達。――ロニア、この人はユキ。こっちも僕の友達」
「おう、よろしく」
「ん」
眠たげな声で、ただ短く頷くロニア。
エンみたいな返事をするヤツである。
名:ロニア=ルシードル
種族:ミド・デビル(人間)
クラス:上級魔術師(宮廷魔術師)
レベル:42
……なるほど、宮廷魔術師ね。
ステータスは特に大したことのない人間らしいものだが、魔力値と器用値だけは突出して非常に高い。
恐らく、彼女も魔法戦においてはかなり戦えるのだろう。
まあ、その二つの数値も、ネルのステータスには及んでいないようだが。
宮廷魔術師などという専門職を凌駕する魔力を持っている辺り、勇者というものが人間の中において如何に規格外の存在であるか、ということがよくわかる。
今更だが、ネルと会ったのがまだ全然育ってない時でよかった。
そうじゃなかったら俺、一番最初に出会った時、斬り殺されていたかもしれん。
……いや、そう言えば最初に出会った時ってコイツ、ただビビッて腰を抜かしてたんだったな。
じゃあ別に大丈夫か。
ちなみに彼女らは、変装らしく頭に小さな角を生やしており、両頬に何か、紋様のようなものを描いている。
全身を覆っているロングコートで見えないが、もしかすると悪魔尻尾も生やしているかもしれない。
アレが恐らく、『ミド・デビル』とか言う魔族の特徴なのだろう。
「……おにーさん、あんまり気を悪くしないであげてね。その、この子、そんな人と話すのが得意じゃないんだ」
「違う。皆が私の話を理解しないだけ」
「う、うーん……そうは言っても、ロニアの話は難しいから、理解出来る人は少ないと思うよ」
苦笑いを浮かべながら、そう言葉を溢す勇者。
「レイラさんも、久しぶり。……って、あれ?そっちの女の子は……」
「あー……えっと、俺の子だ」
「えっ……お、おにーさん、子持ちだったの!?だ、だ、誰との子!?レフィとの子!?」
座っている椅子から身を乗り出し、ガバッと顔を近付けてくるネルに、俺は思わず少しだけ上半身を仰け反らせる。
「お、おう、まあそうとも言える。――コレ」
「……布を巻かれてるからわかんないけど、その大きさ、前にも使ってたおにーさんの武器だよね?」
言外に「それがどうしたの?」と言って来るネルに、俺はエンの本体である罪焔を掴みながら、淡々と言葉を続けた。
「おう。コレがこの子」
そう言って俺は、反対の手でポンポンとエンの頭に手を置く。
「……え?」
「正しくは、コレの擬人化した姿が、この子、エンだ。俺が作った武器で、中にレフィの素材も含まれているから、俺の子ともレフィの子とも言えるだろ?」
「…………おにーさん、僕わかんないんだけど、何故、そんな……何をしたら、武器が人の姿を取れるようになる訳?」
「知らん。やってみたら出来た」
「…………そっか。やってみたら出来ちゃったのか」
頭の痛そうな様子で、頭部を押さえるネル。
頭痛薬なら持ってるぞ。呑むか?
「ネル様ー、一つだけ助言させていただきますと、ユキ様に常識を求めては疲れるだけですよー?」
「……うん、そうだよね。おにーさんと会話する時は、そーいうこと気にしてたらもう、キリがないよね」
「おい何だ、その俺がどうしようもない変人みたいな言い草は」
「ごめん、おにーさん。僕は、率直に言っておにーさんは変人だと思う」
「申し訳ありませんがユキ様ー、何も弁護することが出来ませんー」
「………………そんなこと、ない。主、とっても良い人」
お前ら良い度胸してやがるぜ。覚えてやがれよ。
それとレイラ、お前はウチのメイドだろ。俺の味方をしろよ。
……あと、エン。反論してくれたのはすげー嬉しいんだが、言葉を放つのにいつもより時間が掛からなかったか?
なぁ、エン。こっちを向いてくれ。
何で、俺から顔を逸らすんだ。