その後《2》
――ステータスに関して変わったことと言えば、もう一つ。
俺の分析スキルが、とうとう『分析lv10』となった。
レベルが一気に上がり、スキルポイントが溜まりに溜まっていたので、分析スキルがマックスになるまで全部振ったのだ。
まだまだスキルポイントは残っているが、これはまた後で何に振るか考えておこう。
普通に使用してりゃ伸びるのに、今俺が持ってるスキルに使ったらちょっと勿体ないからな。
喫緊で上げる必要がある時や、スキルレベルが8とか9とかまで上がって、それ以上上げるのが難しい場合に使う時以外は、溜めておくとしようか。
どうせ、今のスキルレベルに割り振ったところで、こんなに量があっても一つ、もしくは二つぐらいしかスキルをカンストさせられないだろうし。
分析スキルがカンストしたことによって、今ではかなり詳細に物を見られるようになり、そしてなんとレフィのステータスも少しだけだが覗けるようになっている。
名:レフィシオス
種族:古代龍
クラス:覇龍
レベル:987
HP:???3?1??/???3?1??
MP:?9???????/?9???????
筋力:????8?
耐久:?7????
敏捷:???1??
魔力:??4????
器用:????0
幸運:???
称号:覇龍、魔王の伴侶
うん、大して見えるの、変わってないね。
ただ、どうも桁は正しく見えるようになったようで、レフィのHPは一千万単位であり、MPに関しては億単位であることがわかった。
これ、絶対誰もHP削り切れないだろ……ほぼ不死みたいなもんだな。
それ以外のステータスに関しては、大体十万オーバー。
魔力値とか百万オーバーだし。頭おかしいとしか言うことが出来ん。
レフィの隣を目指しているとは言え、もはや怪物化け物の領域だな。
うむ、俺も一日も早く化け物になれるよう、努力しなければ。
怪物を目指すとか、魔王らしくっていいね。
スキルについては、少し意外だったのだが、数十しかレフィは持っていなかった。
やはり全て文字化けしているので、どんなスキルを持っているのかまではわからなかったのだが、俺が思っていたより非常に少ない。
百ぐらいは余裕で超えているのだと勝手に思っていたのだが……あれか。数多使い切れないスキルを持っているより、少数のスキルを使いこなせている方が強い、ということだろうか。
まあ、単純にもっといっぱいスキルを持っているけれど、俺が見えていないだけって可能性もあるが。
そして、称号に関しては……。
魔王の伴侶:魔王ユキの嫁。まさか伝説の龍である覇龍が番を持つことになるとは、この世の誰も思わなかっただろう。
……文字化けしている称号がいっぱい並んでいる中で、『覇龍』の称号と並んでこれが見えるようになっていた。
恐らくはレフィ自身が、他人に見えるよう設定しているのだろうが……これも、恥ずかしいから深く掘り下げるのはやめておこう。
――彼女に関してのことは、まだ色々とある。
寝込んでいた俺が目を覚ました後、レフィはあまり深く皆に何があったのかを説明していなかったようなので、我がダンジョンの住人達には外で何が起こったのか、ということと――俺とレフィが、まあ、その……ふ、夫婦となった、ということを説明した。
その反応としては、メイド隊の二人がキャーッと黄色い悲鳴を上げ、ウチの幼女達が自分も俺のお嫁さんになりたい!と元気に主張を始めた。
イルーナとシィと、レイス三人娘がそんなことを言い出すだろうとは薄々予想していたが、エンまでもが控えめにそう言って来たことはちょっと意外だった。
……当然、断りましたよ?
幼女達の気持ちはとても嬉しい限りなのだが、笑顔のレフィさんが色々と恐ろしいことや、彼女らがまだまだ幼いということで、「もう少し大きくなったらね」と話を誤魔化してこの件は有耶無耶にした。
……何だか、着実に自分の首を絞めている気がするのは、気のせいだろうか。気のせいだな。うん。
だって、どうしようもないし……。
そして、レフィから日々得られていたDP収入が、いつの間にか無くなっていた。
恐らくは、ダンジョンからもレフィが俺の身内であると判断されたのだろう。
今まで結構な量をレフィから得られるDPに依存していたので、痛くないと言えばウソになるが……まあ、何だか、嬉しい気がするのも確かだ。
彼女と、ちゃんと身内になったのだということが実感出来て、嬉しくもあり、気恥ずかしくもあり、というのが今の気分だな。
今までがボーナスステージだった、とそう思っておこう。
それに、今はかなりダンジョン領域も広がって、一日に得られる総DPはかなり増えたからな。
レフィからのDP収入が無くなっても、やっていくことは全然可能だろう。
「ご主人ご主人」
「あん?」
騒ぎ疲れて、俺の膝の上で眠ってしまったイルーナとエン、そして玉座にもたれ掛かるようにして眠っているシィの三人を、こちらの様子を見て察したレイラが敷いた布団にそれぞれ横たえていると、それを手伝っていたリューがちょいちょいと俺の服の裾を引く。
「ご主人が付けてるそれって、もしや……」
ニヤニヤ顔のリューが指差したのは、俺の左手の薬指に嵌まっている――指輪。
婚約指輪:覇龍レフィシオスが、時間を掛け丹精に作り上げた指輪。保有魔力:1002。品質:S+。
意匠は以前街に行った際俺がレフィにあげた指輪と似通ったもので、形状はシンプルなシルバーのリング。
中央に一本ラインが走っており、それが一か所だけ十字になっていて、その十字の中心に碧色の淡く綺麗な宝石のようなものが埋め込まれている。
俺があげたものと違うところと言えば、こちらは鱗を主軸に作られているために、質感が金属っぽくはないところか。
分析スキルがカンストしたことによりその材質までもが見えるようになったのだが、使われているのはレフィの鱗と牙、そして彼女がどこかから持って来た、魔力の結晶である魔石であるようだ。
――この指輪はなんと、レフィが手ずから作ってくれたものだ。
ちょっと前、レフィの元住処へと彼女と共に行った時、彼女が自身の素材をいくつか回収している様子は見ていたのだが……もしやあの時から、これを作ってくれるつもりだったのだろうか。
特に加工とかが出来るようになるスキルは所持していないそうなのだが、この指輪の材料が魔石以外自身の素材であるため、魔力を流して形状を変更することが可能だったそうだ。
素材が世界最高峰のものが使用されているため、品質がS+という破格なものである上に、これ自体にも魔力があり、さらに『魔術付与』スキルで確認したところ、こんな小さいくせに魔術回路が二つも組み込める超優れ物である。
まさに、国宝級の指輪と言えるのではなかろうか。
王都で王子が身に付けていた指輪も、組み込まれていた魔術回路は一つだけだったしな。
それに対して以前俺があげた指輪は、ただの街売り品で大した効果も持っていないので、非常に申し訳ない思いだったのだが……レフィとしてはアレ、結構気に入ってくれているらしく、俺も新たに作って渡そうかと言ったら断られてしまった。
……そうだな、今度、普通にプレゼントでもするか。別に指輪一個だけしかプレゼントしちゃダメって訳じゃないしな。
「……あー……まあ、その……レフィに貰ったモンだ」
「へええ、やるっすねぇ。レフィ様も。げへへへへ、このこのぉ、気分はどうっすか?色男ぉ!」
「…………」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、肘で俺を突くリューにちょっとイラッとした俺は、彼女のほっぺを両手でぐいと掴むと、上下左右に引っ張った。
「いっ、いひゃいっす!す、すひらへん、すひらへんれひた!!」
リューが涙目になって「む、むり!千切れひゃう!千切れひゃうっす!」とパシパシ俺の腕を叩いてきた辺りで、俺はようやく手を放す。
「ウゥ……ヒドイっす。もうウチ、お嫁にいけないっす」
ぐりぐりと自身の手でほっぺをマッサージしながらそう言うリューに、俺は呆れた視線を向ける。
「ほっぺ引っ張ったぐらいで何言ってやがる」
「こう……キズモノにされた、的な?」
……コイツ、あれだよな。
いっつも思うが、結構図太い神経してやがるよな。
……いや、違うか。単純にアホなだけだな。
「何すか? ご主人。そんなマジマジとウチを見詰めて」
「いや、お前って、アホだなって思って」
「率直に悪口言われた!?」
愕然とした表情を浮かべるリュー。
「別に?悪口じゃないぞ。ただ感想を述べただけだ」
「なおヒドいっすよね!?うぅ……レイラ、聞いてくださいっす。ご主人がウチをいじめるっす!」
「ごめんなさいねー、リュー。あんまり庇えそうにないですー」
「同僚も敵だった!?」
「――何じゃ、騒がしいの」
俺達の声で目が覚めてしまったらしい。
レイラと俺がリューに笑っていると、幼女達よりも先に昼寝をしていたレフィが、眼を擦りながら身体を起こす。
「ほら、リュー、うるさいぞ。子供らも起きちまうだろ」
「え、ウチのせいっすか?異議申し立てをさせてほしいっす」
騒ぐリューを無視して、俺はレフィに顔を向ける。
「はよ、レフィー。前々から思ってたんだけど、お前、よくそんなずっと寝ていられるな」
「……まあ、この身体だと出力が大幅に下がって、言わば休眠状態のようになっとるでな。身体が基本的に体力を温存しようとするから、眠くなるんじゃ」
「へぇ……あ?いや、お前、前に龍形態の時も一日中寝てたとかそんなこと言ってなかったか?」
「…………」
「おい、納得しそうになったじゃねえか」
無言でサッと俺から視線を逸らしたレフィに、俺は苦笑を溢す。
ただ自堕落なだけですね、わかります。
「……コホン、じゃ、儂は三度寝に入るから、あんまり騒いでくれるなよ。ユキも、もうちょっと休んだらどうじゃ。まだ本調子ではないじゃろ?」
……流石にわかるか。
そう、ずっと心配の表情を浮かべていたシィだったが、彼女の予想は正しかった。
これ以上我が家の幼女達を心配させないよう、平気なフリをしていた俺だったが、実際のところただのやせ我慢だ。
身体は、まだかなりダルい。
他人の身体を無理やり動かしているような違和感がある。風邪を引いた時のダルさに近いかもな。
まあ、あれだけ身体がボロボロになって、ポーションで回復して、またボロボロになって、を繰り返していたら、こうもなるだろう。
「……じゃあ、俺も昼寝しようかな。レイラ、一時間ぐらい寝たら、起こしてくれ」
「かしこまりましたー」
レイラの返事を聞いてから俺は、いそいそと一つの布団へと向かう。
――レフィの布団に。
「……何故、儂の布団に入って来ようとする?」
「いや、ほら、俺の布団この子らに使われちゃってるし?今から俺が潜り込んで起こすのも可哀想だなーって思って」
「……仕方がないの。ほれ、こっちに来い」
肩を竦める俺に、レフィは小さくため息を吐くと、ポフポフと自身の隣を叩いてそう言った。
「ありがと、嫁さんや。――どうした、リュー。そんな砂糖いっぱいの紅茶でも飲んだみたいな、生暖かいような眼をして」
「いえ……何でもないっす」
――こうして、クソ龍と戦った後の俺の周囲は、少しだけ変化した。
……いや、そんなことはないな。
別に特に変わってないや。
龍王の称号は継承型です。龍王を倒した者は龍王になります。龍族の掟ですね。
この辺りはその内龍の里に行くので、その辺りで触れます。