城内戦闘2
「陛下!?――と、貴殿……」
「おにーさん!?」
その後誰にも邪魔をされず、とりあえず眠ったままの王女を安全な場所に避難させるため、城の内部を通って救出部隊が来ると思われる王城の正面の方へ向かって行く。
そして、ちょうど城外に出たところで、惚れ惚れする程キビキビとした動きでやって来たそれらしい部隊と、俺達は遭遇した。
その部隊の一番前で彼らを率いていたのは――女騎士カロッタ。
その隣には勇者もいる。
「お、ネル。お前も来たのか」
カロッタは前線指揮官のようだからわかるが、最重要の国王の救出任務にネルが同行しているのを見る限り、やはり彼女は教会にとって非常に重要な戦力であるのだろう。
「おにーさんが何でここに!?」
「んー、まあ、成り行きだ。詳しく話すと長い」
「よせ、ネル。聞きたいことが山ほどあるのは私も同じだが、陛下の御前だ。問うのは後にしろ」
カロッタはネルを諫めると同時、部隊の面々と共にズササ、と国王に対して膝を突く。
「陛下。並びにご息女がご無事のご様子、何よりでございます」
「良い。面を上げよ。緊急時だ、そう畏まるでない」
「ハッ!」
国王の言葉に、即座に救出部隊の面々は屹然とした様子で立ち上がる。
と、その様子を眺めながら俺は、こそりと隣の国王に耳打ちをする。
「……コイツらとは知り合いだが、コイツらは俺の正体を知らない。バラすなよ」
小さくコクリと頷きを返す国王。
まあ、ネルは俺が魔王だと知っているが……そのことは知られない方がいいだろう。
「では、陛下。緊急につき、速やかに部隊の者と避難していただけますか」
「いや、ならぬ。娘だけ避難させてくれ」
「ハッ……?」
まさか断られるとは思っていなかったようで、一瞬だけカロッタの顔が呆ける。
「諸君らは、このまま愚息の下へと向かうのだろう?それに私も同行する」
「い、いや、しかし……」
「無茶を言っているのはわかる。だが……伏して頼む」
意外と頑固な国王に、困り顔を浮かべるカロッタ。
――その会話を終えるきっかけとなったのは、無粋な闖入者だった。
突如、敵地だからと常時発動していた索敵スキルに反応。
同時、有用そうだからと少し前に取得した危機察知スキルもまた、反応を示す。
危機察知スキルは、その危機の大きさによって示す反応の強弱が変わる。
例えば、イルーナがむくれてポコポコ可愛く叩いてくる場合に危機察知スキルは反応を示さないが、しかしレフィがむくれてポコポコ可愛く叩いてくる場合だと、多大な危機を全身に伝えて来る。
スキルレベルが上がっていくと、その危機を感じ取れる距離が伸びていき、その精度がどんどん増していくようだ。
今回のこれは、レフィがむくれるよりは危機の度合いが大きく下がるようだが……しかし、反応を示す程には危険であるということだ。
こういう時、一歩でも対処が遅れると大きなケガをすると魔境の森で学んでいた俺は、もはや反射的な動きで迎撃態勢を取り、肩に担いでいた罪焔をグオン、と両スキルが反応を示した方向――上空へと即座に振り上げる。
刹那、ガキィ、刀身を通して腕に鈍い衝撃が伝わって来る。
恐らくは、王城の上から飛び降りて来たのだろう。ともすれば押し切られてしまいそうになる程の、非常に重い衝撃だ。
「おお!!貴様!!今のを受け止めるか!!」
振り返った俺の視界に飛び込んで来たのは――武器を振り抜いた格好で、何故か喜色満面の表情を浮かべている一人の男。
「ッ、ケツを掘られる趣味は無いんで、ねッ!!」
言葉尻と共に回し蹴りを放つと、敵はヒュン、と大きく俺から距離を取って躱し、すぐに構えを取る。
「フフフ、有名な教会の女騎士や勇者と剣を交える機会があるかもしれんと、クソつまらん依頼でもとりあえず受けたのだが……予想以上の幸運だ。これなら邪魔がいない内にもっと早く出て来るべきだった」
その眼をギラつかせながら、心底楽しそうに笑みを浮かべる男。
うわぁ……嫌だ。どうしよう。
確信した。コイツ、戦闘狂の類だ。
装備を見るに、正規兵ではない。それより劣っているのであれば万々歳だが、残念ながら分析スキルで確認する限りかなり良い物を纏っている。
依頼と言っていたところを見る限り、傭兵か……冒険者か。
闖入者に、場の緊張が一気に高まる。
「お、おにーさん!!大丈夫!?」
「大丈夫だが、そっちは早く話を纏めてくれ」
どうも面倒なことに、俺はこの戦闘狂から力を揮うに値する敵として認定されてしまったようだ。
他の者には全く目を向けず、ただ俺だけに向かって剣を構えている。この様子じゃあ、逃げても絶対に追い掛けて来るだろう。
勘弁してくれ。俺は平和主義者なのだ。必要だから戦闘を行っているが、好きだから行っている訳じゃない。
と、その時、救出部隊の一人がまるで忍者かと言わんばかりの動きで戦闘狂に接近し、その死角から攻撃を仕掛けるが――。
「雑魚はしゃしゃり出て来るな」
一閃。
ただ、無造作に一閃しただけで、攻撃を敢行した味方の上半身と下半身を泣き別れさせる。
その状況を見て指揮官のカロッタは忌々しそうに舌打ちをすると、すぐに指示に取り掛かった。
「貴殿!!援護は!?」
「いらん。むしろ邪魔だ」
罪焔は、一言で言ってデカい。その間合いは長大で、味方の位置取りまで勘案していたら、とてもじゃないが振れたもんじゃない。
俺、そこまで剣術得意じゃないんだよ。援護なんていたら、絶対に味方ごと叩き斬っちまうわ。
「オルガ!!デュオ!!二人はご息女を連れて離脱しろ!!それ以外は私と共に殿下の身柄を取り押さえに行く!!陛下、絶対に我々の傍から離れないでください!!」
『ハッ!!』
「了解した」
「ワイ!!ではここは任せるぞ!!貴殿には色々聞かねばならんことがある、死んでくれるなよ!!」
「お、おにーさん!!気を付けてね!!」
「わかったわかった、はよ行け」
俺が正面を見据えながら言葉を返すと、彼女らはコクリと頷きを返し、すぐに各々の行動へと取り掛かって行った。
――やがて場に残るは、俺と戦闘狂の変態。
「いいのか、国王見逃して。そっちの目的だろう」
「どうでもいい。契約内容に入っていない。俺の契約内容は、強い敵をぶっ殺すこと。そして、あの場で一番強いのは恐らくお前だ。あぁ……俺は何て幸運な男なのだ。こんな強敵と相見える機会が訪れるとは、これも日ごろの行いが良いからに違いない」
まるで恋する乙女のような表情で男はそう言うが……野郎からそんな顔を向けられても、気色悪いことこの上ない。
「アンタの様子を見る限りじゃ、とてもそうは思えないがな!!」
吐き捨てるように言うと同時、俺は中空を駆り、まるで瞬間移動のような勢いで、相手へと飛び掛かって行った――。
戦闘まで辿り着かなかったでござる。
百話到達。やったぜ。
これも、読んでいただける皆さまのおかげです。いつもありがとうございます。




