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マザーズドール ~人形の少女と魔法使いの旅~ 作者:播磨ゆき

第二章

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3.逃亡者たち

 
「狩る側にも、理由が……」

 狭い路地を進みながら、オリヴィアはその言葉を反芻するように呟く。
 やがて、二人は貧民街の方までやってきた。石畳だった道は土に変わり、民家は古い木造のものが目立つ。

「ふうん。貧富の差が激しいんだね。この辺りなら警備も薄そうだ」

 周囲を見渡しながら、ベンジャミンは嬉しそうに言った。

「ね、ねえベンジャミン。なんか……待ち伏せされてない?」
「ん?」

 オリヴィアに促され、ベンジャミンは前方を見る。
 すると、彼らの向かう先には三人の少年少女が立っていた。歳は十代の中頃。道を塞ぐように、待ち構えるかのようにしてこちらへ威圧的な視線を向けている。

「あっ、あの子!」

 三人の顔を見て、オリヴィアは思わず声を上げた。華奢な腕をぴんと伸ばし、真ん中に立つ少年をまっすぐに指差す。
 指し示された当人は無言のまま、静かにオリヴィアたちを見つめていた。黒い髪に褐色の肌、赤い瞳を持つその顔は、オリヴィアたちの記憶に新しい。
 先ほどの騒ぎを起こした張本人――野良人形のらドールの少年がそこに立っていた。

「……お前たちも、野良人形なんだろ?」

 開口一番、少年はそんなことを言った。
 図星のオリヴィアは何も答えない。

「隠しても無駄だぞ。こっちには探知機があるからな」

 そう言って、少年は懐から一つの機械を取り出してみせた。

「そ、それ……機械人形ドール探知機?」

 少年の手元に目を落としながら、オリヴィアは恐る恐る聞く。

「それって、すっごく高価な物なんでしょう? 一体どうやって手に入れたの?」
「決まってるだろ。盗んだんだ」
「盗んだ、って……泥棒したってこと?」

 オリヴィアが怪訝な顔をすると、三人は明らかに気分を害した様子で、

「人間の決めた法律になんて従っていたら、野良人形おれたちは生きていけないからな」

 右側に立つ少年が、そう開き直るように言った。

「あなたたち、私たちと手を組まない?」

 今度はそう、左側に立つ少女が言う。

「手を……組む?」

 ベンジャミンが反応した。その声には警戒の色が滲んでいる。
 その様子に、三人は一度お互いの顔を見合わせると、やがて真ん中に立つ少年が一歩前に出て言った。

「俺の名はロータス。こいつらはオステオとアザミ。わかってるとは思うが、全員野良人形だ。俺たちは、今夜の祭りに合わせてこの街からの脱出を図る」
「脱出? この街から?」

 オリヴィアが驚いて聞いた。
 つい今しがたこの街へ入った二人からすれば、脱出作戦など寝耳に水である。

第一特別攻撃隊マグノリアの連中が来てから、街の警備が厳しくなっただろう? 特に、あのアステルが来てからは野良人形が次々と狩られてる。このままだと全滅する……けど、街を出ようとしたところで審査も厳しくなってるし」
「それで、作戦を立てたの? ……その、お祭りっていうのは?」
「なんだ、知らないのか?」

 右側に立つ少年――オステオが呆れた様子で言った。

「平和祭……街の平和を祝う祭りだよ。今年は第一特別攻撃隊の連中が表彰を受けるはずだ。その隙に、街の城壁を爆破する。それも四箇所同時に、盛大にな」

 ニッと不敵な笑みを浮かべる彼の隣から、アザミと呼ばれた少女がオリヴィアたちの方へと、歩み寄った。そして懐から一枚の地図を取り出して、

「これが爆破地点よ。よく覚えておいて。他の野良人形たちに詳細は伝えてあるから。時間になったらみんな集まってくるはずよ」

 そう短く説明を終えると、三人はもう用は済んだとばかりに踵を返す。

「祭りで上がる花火が爆破の合図だ。それじゃ、しっかりやれよ!」

 最後にロータスがそう言って、彼らは歩き去った。
 道端に残されたオリヴィアとベンジャミンは、互いに顔を見合わせる。

「……なんだか大変なことになってるのね。私たちが簡単に街に入ったことなんて、言える雰囲気じゃないわ」
「別に言う必要なんてないんじゃないかな。僕らがここへ来たのは、ただ身体を休めるためだけなんだから。今夜の作戦だって、僕らが参加する必要はないよ」
「それは、そうなんだけど……」

 オリヴィアが言い淀んでいると、

「何。もしかしてオリヴィア、あの子たちのことが心配なの?」

 黄金色の眼を細め、ベンジャミンが聞く。

「私……すごく嫌な予感がするの。あの作戦、うまくいくといいけど……成功する保障なんてどこにもないでしょう?」
「そうだね。もしも失敗して騒ぎになったら、殺し合いになるかもしれない。人間か機械人形か、どちらかに死者が出てもおかしくはないね」
「殺し合い、だなんて……」

 そんな物騒な言葉に、オリヴィアはぞくりとした。

「ねえ、ベンジャミン。私に出来ることって、何かないかしら?」

 物憂げな瞳で見上げてくる彼女を前に、ベンジャミンは「ふむ」と腕を組んだ。

「まあ……君があの作戦に参加したいと言うのなら、僕もそうするけど」

 そんな彼の申し出に、オリヴィアの顔はぱっと明るさを取り戻す。
 コロコロと表情を変える彼女の様子に、ベンジャミンはくすりと笑った。

「君の望みは、僕が叶える。……君のママ――フリージアのためにもね」







       ◇◆◇







 二人は貧民街にある、日当たりの良い小さな宿で休息を取った。
 窓の外では人や機械人形たちが、絶えず道を行き交う音がする。祭りの準備か、あるいは作戦の準備を整えているのかもしれない。

 やがて西の空に日は落ちて、夜がやってきた。
 
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