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マザーズドール ~人形の少女と魔法使いの旅~【完結済み】 作者:播磨ゆき@3次落ち

第三章

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3.再会Ⅰ ‐ロータス‐

 
「世界を滅ぼす凶悪な魔法使いっていうのは、お前だな?」

 腰の剣を抜きながら、ロータスが言った。
 リセットされる以前は短剣を扱っていた彼も、今はアステルと同じ長剣を装備している。

「世界を滅ぼす……か。そうだね。五十年前にも同じことを言われたよ。僕の力があればこんな世界、いつだって壊せるんだってね」

 階段の下からベンジャミンが返す。その顔には相変わらず余裕の笑みが浮かんでいる。

「アステルの話は本当だったんだな。こんな廃墟に立ち寄るとは思わなかったが……、ここがお前の故郷だというのなら納得もいく」

 ロータスの口からアステルの名が挙がると、それまで黙っていたオリヴィアは、ベンジャミンの後ろからひょっこりと顔を出して言った。

「ねえロータス。あなた、どうしてアステルと一緒にいるの? どうしてマグノリアに入ったの?」
「俺のことを知っているのか?」

 自分の名を言い当てられて、ロータスは怪訝な目を彼女に向けた。

「知ってるわよ! 知ってるからこそ、信じられないのよ。あなたがマグノリアに入ったなんて」

 剣を構えるロータスの身形は、アステルのそれとよく似ている。
 黒を基調とした動きやすそうなその服は、マグノリアの制服とほとんど変わらなかった。

 しかし、

「俺はマグノリアじゃない。俺が所属するのは第二特別攻撃隊――『ヴェロニカ』だ」
「ヴェロニカ……?」

 初めて耳にするその名称に、オリヴィアは首を傾げた。

「マグノリアは、人間だけで構成された特殊部隊だ。俺のような機械人形ドールはヴェロニカに配属される」
「それでも、やってることは同じなんでしょう? アステルと一緒に……機械人形を捕まえたり、殺したりするんでしょう?」
「主人の命令に従うだけだ。今回はお前たちの討伐――世界を滅ぼす魔法使いを始末しろと命ぜられている」

 言い終えるなり、彼は手にした剣の切っ先を二人へと向けた。
 そこには迷いのない殺意が剥き出しになっている。

「主人って、アステルのこと? あれだけ憎んでいたはずなのに……。アザミさんが殺されたときのことも、覚えてないの?」
「何……?」

 オリヴィアの言葉に、ロータスの目がわずかに見開かれる。

 だが、次の瞬間。

 彼はいきなりその場に膝をついたかと思うと、そのまま脱力して前方へと倒れかかってきた。

「えっ……?」

 突然のことに目を丸くするオリヴィアとベンジャミンの前で、ロータスの身体は階段を転がり落ちてくる。

 その後ろ、階段の最上段には、無表情で佇むアステルの姿があった。

「余計なことを吹き込まないでほしいですね」

 氷のように冷たい声で、彼は言った。

「アステル……」

 オリヴィアはロータスのことが心配だったが、その場から動くことはできなかった。

「ひどいですね、あなたたちは。せっかく彼の悲しい記憶を取り除いてあげたというのに、わざわざ思い出させてしまうなんて、気の毒じゃないですか」
「やっぱり、リセットをかけたんだね」

 微笑を浮かべたまま、ベンジャミンが言う。

「知らない方が良いこともありますからね」

 アステルがそう返したとき、ロータスの身体は最後の一段を転がり終え、ベンジャミンの足元でやっと止まった。
 投げ出された四肢はぴくりともしない。

「ロータス……?」

 オリヴィアが恐る恐る声をかけるも反応はない。

「ありゃ。もしかして、またリセットされちゃった?」

 おどけたようにベンジャミンが言うと、オリヴィアは言葉を失った。

「アステル、君も趣味が悪いね。ロータスの記憶を消して、もともと敵だった君に服従させるなんてさ」

 ベンジャミンがニヤニヤしながら言うと、アステルは相変わらず真面目な声で応えた。

「機械人形の寿命は十年あります。彼の身体は性能が良いので、味方につければ大きな戦力となります」
「本人にとってはこの上にない屈辱だと思うけどね」
「ただ処分するよりはマシじゃないですか。……世界を処分しようとしているあなたには、わからないでしょうけれど」

 階段を隔てて対峙する二人の間に、不穏な空気が漂う。
 アステルは長剣を構え、刃先をベンジャミンに向けた。

「この僕に、一人で勝てると思ってるの?」

 挑発するようにベンジャミンが問う。

「劣勢なのはわかっています。ですが、そう言うあなたも余裕をこいている暇はありませんよ。凶悪な魔法使いの封印が解けたという噂はどんどん広がっています」
「大方、あんたが広めたんだろう?」
「ええ。鵜呑みにするのはごく少数ですが……それでも、今ごろ我々の仲間が東の果てに向かっているでしょう。眠ったままのあなたの半身も、いずれは破壊されることになる」
「あの封印が解けるとは思えないけどね。僕の身体を封印したのは、他でもない僕自身なんだから」
「……ならばせめて、半身であるあなたをここで処分します」

 そう言うと、アステルは懐から何か黒い機械を取り出した。

「!」

 瞬間。ベンジャミンは血相を変えて片手を頭上に振り上げる。
 すると、彼の手の先にあった天井は、いきなり爆発を起こし、割れた石の塊が階段を潰す勢いで落ちてきた。
 アステルは咄嗟の判断で後方へ飛び退き、石の塊の向こう側へと姿を眩ます。

「オリヴィア、走れ!」
「ベンジャミン!?」

 何が起こったのかわからずにいるオリヴィアの小さな手を引いて、ベンジャミンはどこか慌てた様子で迷路の先へと駆け出した。

「まずい。アステルが持っている機械は、たぶん電磁波を発生させるものだ。あんな貴重なものをどうして……」
「でんじは?」
「機械を狂わせるものだよ。僕の魔法が負けるわけはないけれど、媒体である身体を狂わされたらひとたまりもない」

 足の速度を緩めない彼の顔には、珍しく焦りの色が表れている。
 魔法はともかく、身体に関してはさすがに不安があるらしい。

「……こうなったら、この家を破壊して、今すぐにでも外へ出ようか」

 そんな彼の呟きに、オリヴィアは反論した。

「だめよ、そんなの!」

 反射的に足を止めた彼女の手に引かれて、ベンジャミンもまたその場に立ち止まる。

「だめよ、この家を壊すなんて。ここは、あなたの大切な家だったんでしょう?」
「面白いことを言うね、オリヴィア。僕らはこの家どころか、世界を壊そうとしているんだよ?」
「それは……」

 オリヴィアは何も言えなくなり、視線を下げて黙り込む。

「この家はもう過去のものだ。こうして残っていたこと自体が奇跡だった。だからもういい。……けれど最後に一つだけ、君に見せたいものがある」

 その言葉で、オリヴィアは先ほど彼の話していた『真実』について思い出す。

「急ごう。そこの角にある部屋だよ」

 指し示された先は暗く、よく見えない。
 だが二人がそこへ近づいていくと、ベンジャミンの手のひらの炎に照らされたそこには一つの扉があった。
 オリヴィアが恐る恐るドアノブに触れると、ボロボロだった扉は途端に崩れ落ち、ぽっかりと口を開けるようにして、部屋の中が露わになった。
 ベンジャミンが後ろからオリヴィアの背中を押して、二人はゆっくりと部屋に足を踏み入れる。

「暗くて何も見えないわ……」

 不安げなオリヴィアの声に応えるように、ベンジャミンは手のひらの炎をさらに大きくさせた。
 淡いオレンジの光に照らされて、部屋の全貌が二人の前に浮かび上がる。

「これは……――」

 目の前に広がった光景に、オリヴィアは息を呑んだ。
 
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