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読んでくださりありがとうございます。
マイガーさんがオルガさんに連れ拐われると、他の従業員がサッと現れ接客を始めた。
うちの従業員は優秀だ。
私は王子殿下に視線をうつした。
「なんだ?」
「お金を払うと言ったこと忘れてませんよ」
「解ってる」
私は満足しながら庶民棟の二人に視線をうつした。
二人は王子殿下の登場に顔を真っ赤にしている。
しかも、私と王子殿下を交互に見ると私の腕を掴んで引き寄せると、小声で言った。
「「侯爵様など止めて王子にした方が良いですよ!」」
この二人は本当に仲良しだ。
「私は伯爵令嬢です身分が違いすぎるでしょ?」
「「そんな~」」
二人が残念そうに言うと王子殿下は首をかしげた。
「なんだ?ちゃんと買うぞ?」
見当違いのことを言って王子殿下は不思議そうな顔だ。
「私はこれを買ってもらおうかな」
「君は要らないだろ?」
「何で?」
「ここは君の店だ。欲しいものは、すでに持ってるだろ」
私が舌打ちしたのは言うまでもない。
庶民棟の二人が無茶苦茶ビックリしていた。
「舌打ちをしないように気を付けようって気は無いのか?」
「ついです。お気になさらず」
「気にならないわけないだろ?」
「殿下、私達お友達でしょ?」
「………はやまったかもしれん」
王子殿下が項垂れるのを見て顔がゆるんでしまった。
私は庶民棟の二人に好きなものを選ぶようにすすめた。
「さあ、殿下と言う名のお財布がいるのです。ジャンジャン選んでください」
「嫌な呼び方をするな」
「今のうちにマチルダさんに会いますか?」
「………そうだな」
私は王子殿下を連れてマチルダさんのもとへ向かった。
ドアをノックすると髪の毛をボサボサにしたマチルダさんがぐったりとした様子でドアを開けてくれた。
「まあ!珍しいお客様ですこと!」
「ま、マチルダも珍しい格好だな」
「今、締め切り間際で格好に気なんて使ってられませんから………お嬢様、出来上がった分を読んでいただいても?」
「勿論」
私と王子殿下は一緒にマチルダさんの部屋に入った。
マチルダさんの部屋は天井まである本棚に囲まれ、それでも足りない本が床に乱雑に置かれた部屋で椅子すらも本だ。
マチルダさんは私に原稿を渡すとお茶を淹れるために奥の部屋に消えた。
マチルダさんから受け取った原稿の内容はあの小説の終盤。
バナッシュさん似の主人公が婚約者様似の侯爵家の長男と目の前に居る王子殿下似の王子に求婚されて王子殿下を選ぶシーンである。
「うわ」
私の言葉に王子殿下が首をかしげた。
「なんか色々遅かったみたいですよ」
「なにがだ?」
私は持っていた原稿を王子殿下に手渡した。
王子殿下はそれを見ると顔を真っ青にさせた。
「どうでしたか?あら、王子が読むような話ではないですよ」
紅茶を淹れて持ってきてくれたマチルダさんは本の上にお盆をのせて笑った。
「ま、マチルダ」
「何でしょう?」
「お願いだ!結末を変えてくれ!」
王子殿下はマチルダさんに必死でバナッシュさんの話を始めた。
マチルダさんは私の方をチラチラ見ながらその話を聞くと立ち上がった。
「お嬢様を蔑ろにしてるんですかあのアホボンボン」
「マチルダ、誰のことを?」
「王子は知らないんですか?あのラモールの事です!」
王子が驚いている中マチルダさんは私の手を握ると言った。
「アイツをギャフンと言わせたくて小説では王子を選ぶようにしたのに没落させてやる!」
私は笑って言った。
「内容の変更をしてください。主人公は侯爵を選ぶハッピーエンドに」
「何故です!」
「リアルの事情なの!王子殿下を彼女が狙っているのはたしかで、この小説で彼女は小説の通りにすれば誰もが自分を好きになると信じているのです。ラモール様にとってもお似合いなのよ。だからこそ小説の中でも結ばれて欲しいのよ」
「………解りました」
マチルダさんの言葉と共に王子殿下の手にあった原稿が燃え上がって炭になった。
魔法だ。
この国の一部の人間が使えるのが魔法。
滅多に見られるものではない。
少し感動している私をよそに王子殿下は慌てたようだった。
そりゃそうだろ。
目の前で手の中にあったものが燃え上がったのだから。
「マチルダ……」
「王子、ついついごめんなさい」
「マチルダまでついついか?」
王子殿下が項垂れるとマチルダさんはニヤッと笑顔を作った。
「王子には幸せになってほしいのです」
マチルダさんはニヤニヤしながら私を見た。
「お嬢様」
「嫌な予感がするわ」
「大丈夫です!幸せにしますから」
マチルダさんは紙とペンを握るとサラサラと何かを書きはじめた。
「こんな感じにします!」
そこに書かれていたのは、学園で嫌われものになってしまった私似の伯爵令嬢が王子と奇跡的に恋に落ちる内容だった。
「無理があるんじゃ?」
「私はお嬢様にも幸せになってほしいのです!私の息子である王子とお嬢様・・・良い!」
こうなったらマチルダさんは止まらないだろう。
私は諦めた。
「殿下、内容を変えてくれるそうですよ!もう、どうにもなりません」
「………君はそれで良いのか?」
「別に?私と私モデルの伯爵令嬢は似ていないので」
「………そうか」
王子殿下も納得してくれたようだ。
私達はもう話を聞いてくれないマチルダさんを残して部屋を後にした。
店に戻ると庶民棟の二人がコーデを完成させていた。
可愛いコーデを完成させていた二人に私は顔を緩めた。
「………」
王子殿下に視線を外されたがそんなにお高くはなっていないはずだ。
うちの店は安くてしっかりした作りで可愛いのが売りだ!
「「ノッガー様!」」
二人が手をふるのを見て私も小さく手をふりかえした。
「ノッガー様、私は靴はこの青い物にして空色のワンピースにしました小物もこれにしました」
「私はモスグリーンの靴にワインレッドのインナーにモスグリーンのロングスカートにしました!小物はワインレッドで統一しました!」
「スゴく素敵ですね。殿下、お会計」
「はいはい」
請求書を作成して渡した。
驚いた事に王子殿下は現金を所持していた。
私は王子殿下にキッチリお釣りと領収書を渡して満足した。
「安いな」
「でしょ!良い物を安くがモットーですから!」
私が自信満々で言うと王子殿下に頭をポンポンと優しく叩かれた。
「助かった。ありがとうな」
王子殿下はそれだけ言うと帰って行った。
私は不覚にも少しだけ王子殿下にキュンとしてしまった。
その事実に私は慌ててマチルダさんの所に行き、今あった事を話して小説にのせてもらうことにした。
だって、私がキュンとするぐらいだ!他の女の子ならキュンキュンしまくるに違いない!
私の報告にマチルダさんは喜んでその話を小説に盛り込んでくれた。
私はこれでまた売り上げが伸びるとほくそ笑むのであった。