私のお店へようこそ!
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休日、私は新しい靴のデザインと服のデザインを持って、工場に向かっていた。
うちの工場は店の裏に隣接している。
店の方にも顔を出せるから一石二鳥だ。
馬車で送るという執事を黙らせて徒歩で店までたどりつくと、店の前には学食で色の指定をしてくれた二人が立っていた。
「こんにちは」
私が声をかけると二人はビクッと肩を跳ねさせた。
「「ノッガー様」」
「入らないの?」
「「あれ」」
二人が指を指した方には、バナッシュさんがいた。
しかも、マチルダさんの息子のマイガーさんに何かを言っている。
「面倒臭いですね」
思わず呟くと二人もコクコク頷いてくれた。
「新作を一緒に見るなんていかがかしら?」
「えっ?」
「ご迷惑じゃ?」
私が苦笑いを浮かべて言うと、二人は慌てたようにそう言った。
「実は、今日からあの色違いの靴が販売なんです。内緒で割り引いて差し上げますね」
「「えっ!いいんですか?」」
二人が目をキラキラさせているのを見て私も嬉しくなった。
「タダでプレゼント出来なくてごめんなさい」
二人が跳び上がって喜んでくれたのを見ていたら店の中から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
「このままじゃ貴方が暴力をふるわれてしまいます!」
営業妨害も大概にしてくれないかな?
「お嬢は俺に暴力は、ふるいません。大丈夫です」
「でも、でも、私は知ってるの………」
さっきまで跳び上がっていた二人が気まずそうに私を見ている。
私は深いため息をついた。
「あれは見なかった事にしましょう」
「「はい!ノッガー様!あれは見えません!」」
なんて心強いのだろう。
私はニッコリ笑顔を作ってバナッシュさんとマイガーさんを無視して店に入った。
私は新作を置いている棚を目指したのだけれど、腕を掴まれて阻まれた。
「お嬢!無視しないで!」
「お取り込み中だったみたいだから」
「お取り込み中だよ!お嬢が俺に暴力ふるうって言うんだよあの客!」
私は私の腕を掴んでいるマイガーさんの手を軽く叩いた。
「はい。叩いた」
マイガーさんはあからさまに頬を膨らませた。
クリクリの赤茶色の短髪に焦げ茶の瞳身長は私より頭ひとつでかく接客の時は大人な雰囲気を漂わせるこの人は何故か私の前だけ子供っぽくなる。
それが可愛いのが不思議だ。
「叩くならもっと強く!」
「嫌だよドM」
残念な事に彼はドMだ。
どちらかと言えば強く叩かれたい人。
本当に残念。
格好良いのに本当に残念。
「見ての通りお嬢は俺を本気で叩いてくれないんですよ。俺はお嬢にだったらピンヒールで踏まれたって嬉しいのに」
「客に聞かれると売り上げに響くから止めて」
唖然とするバナッシュさんをよそに、私が睨むとマイガーさんは嬉しそうに笑った。
何故か私にだけドMなマイガーさんを本気で殴るのはここの店長だけだとおもう。
「お嬢が踏んでくれるならボーナス要らない」
「………どうしましょう……」
ボーナスカット、魅力的。
私が悩んでいると深いため息が聞こえた。
振り返るとそこには王子殿下が立っていた。
「よー兄弟!どうした?」
「マイガー、お前いつのまに変態になったんだ?」
「えーっと?お嬢が俺をここに置いてくれるようになってから?それに、お嬢にしか踏まれたくないぞ」
王子が更に深いため息をついた。
「ユリアス、俺の兄弟に何してくれてんだ?」
「別に?うちで働くように勧誘しただけです」
マイガーさんは目をキラキラさせて言った。
「俺が王宮の仕事で失敗して先輩にボコられてた時に颯爽と現れて『そんなに使えないのなら彼を私にくださらない?』ってマジで格好良かった!あの時のお嬢には踏まれたいってマジで思ったんだ!」
ああ、あの時からマイガーさんは変態になってしまったのか。
残念だ。
「君のせいだ」
「すみません」
一応謝っておいた。
「ってか、王子殿下は何しにここへ?」
「ああ、そうだったマチルダに会いに来た」
「お袋?上に居るんじゃん?」
マイガーさんが上を指差す。
王子殿下も上を見上げた瞬間、バナッシュさんが王子殿下に体当たりした。
「キャ~ごめんなさい!」
王子殿下はバナッシュさんを見ると顔を強ばらせた。
バナッシュさんに気がついていなかったようだ。
「私、うっかりしてしまって」
「そ、そうか、早く離れてくれ」
怯えすぎじゃ無かろうか?
「怪我などはありませんか?」
バナッシュさんは王子殿下にしがみついたまま怪我の心配をした。
いやいや、怪我するような体当たりじゃなかったし王子殿下ふらつきもしなかったのに怪我の心配って無理ないか?
「ぶつかってしまったお詫びにお茶でも奢らせてください!お願いします!」
王子殿下が私の方に助けを求めるような視線を向けてくるが私は新作の靴を手に取り、庶民棟の二人に見せて言った。
「この靴に合うように帽子も作りました!どうです?」
「「買います!」」
そこに手を上げたのが王子殿下だった。
「ユリアス、そちらのお嬢さん達にフルコーデを俺からプレゼントしよう」
「まいどあり~」
私はバナッシュさんの前に立つと言った。
「バナッシュさん、貴女はここでお買い物かしら?貴女にならこちらの服がお似合いだと思うの」
私が薄いピンクのワンピースを手に取り見せるとバナッシュさんはショックをうけたような顔をした。
「わ、私には庶民の服がお似合いって言いたいんですか?」
「似合うなら何でも良いでしょ?」
私が微笑むとバナッシュさんは目に涙を浮かべて言った。
「そ、そりゃ私は庶民あがりだけど、今は貴族なんです!そんな服着ません!」
さも、苛められても頑張って貴族らしく言い返す自分を装ったのだろう。
「では、買い物に来た理由は帽子?靴?バッグ?ハンカチかしら?」
「全部庶民用の店で買ったりしません」
彼女が涙をポロポロ流しながら叫ぶと、奥から真っ黒な瞳に白髪混じりの黒髪をキッチリ頭に撫で付けた紳士が現れた。
この店の店長のオルガさんだ。
「涙をおふきください」
オルガさんはバナッシュさんにハンカチを渡すと彼女の背中を押して店の外に追い出した。
流れるような動きに皆が見とれていると、オルガさんはニッコリ笑顔でバナッシュさんに言った。
「この店は庶民の皆様も貴族の皆様も関係なく自由なお洒落をしてほしいとユリアスお嬢様が作った店です。この店で買い物をしたくないのであればお引き取りください。他のお客様への迷惑になります。ちなみにユリアスお嬢様の今日の服装は髪飾りから靴まで全てこの店の商品でございます。つきましては、ユリアスお嬢様とこの店を侮辱なさる貴女様は今後一切の当店への出入りを禁止させていただきます。問題ありませんよね?この店で買う物などないと叫ばれてらっしゃいましたから」
「………」
「ごきげんよう」
うわ~オルガさん格好良い!
「オルガさん、惚れてしまいそうな鮮やかなクレーマー処理でした!」
「ユリアスお嬢様に誉めていただけるなんて至福の極みにございます。マイガー、踏んであげるからこっちに来なさい」
「お嬢さん達、こちらのスカートを試着しませんか?」
「マイガー」
「嫌だ!お嬢助けて!」
私はオルガさんに首根っこを掴まれて店の奥に連れていかれるマイガーさんを手を振って見送ったのだった。
長くなったので切りました。