宰相閣下も巻き込みます
お腹すいた。
お城で舞踏会が行われる日。
私はお父様に会うため、舞踏会に出席することにした。
私は新しいドレスや宝石が手に入った時にしか基本的に舞踏会には出席しない。
新しい物を宣伝して、次の舞踏会ではかぶらないように出席しない。
それが定番の販売戦術である。
けれども、今回は忙しいお父様を捕まえるために出席しようと思う。
お城の舞踏会なら有力貴族は必ず来ている。
うちのお父様も例外ではない。
舞踏会の会場で私はニコニコしながらお父様を探した。
お父様は宰相閣下と話し合い中だった。
邪魔しては駄目だろうか?
「おや、そこに居るのは貴方の娘さんでは?」
「ああ、ユリアス。こっちに来なさい」
私は営業スマイルで二人に近づいた。
「御話し中に申し訳ございません」
「ユリアス嬢は見るたびに美しくなりますね」
「ありがとうございます宰相様」
宰相閣下は私にニヤリと笑顔を向けた。
「最近は殿下と仲良くされていると聞きました」
「はい。友人にしていただきましたので」
「友人……」
宰相閣下はゆっくりと言った。
「貴女のお父上は野心家ではないですか。まさか殿下と友人でとどまる気でいるわけでは無いでしょう」
宰相閣下はニコニコしている。
私は負けずにニコニコしながら言った。
「宰相様だから言わせていただきますわ。ここだけの話、私は父に負けず劣らず野心家ですわ。ですので、殿下のことは家が有利に事を運ぶための歯車だと思っていますの」
「は、歯車…」
私はニヤリとすると続けた。
「殿下と恋仲になるよりも国外の外交が有利になるよう、殿下には歯車とし…ではなく友人として手を貸してほしいとお願いしています」
「殿下は貴女が殿下を歯車だと思っていることも知らずに貴女を側に置いていると」
「知ってるぞ」
そこに現れたのは殿下だった。
殿下は私にジト目で言った。
「あの女も来ている」
「知ってます!出来るだけ一人にならないようにしたらどうです?」
「助けろ!あいつぶつかってくる気満々だぞ!」
「知ってます!頑張れ」
「レポート書いてやったろ!」
思わず舌打ちしたのは言うまでもない。
私は、かなり驚いた顔の宰相閣下に笑顔を向けた。
「心配せずとも、殿下は私がこんな性格だと知っているので色仕掛けも今更なんですの」
そして、王子殿下に向かって言った。
「ちょっと宰相様と会話をしている雰囲気出して待ってて下さいな。お父様お願いがあるの」
「ユリアスがおねだりだなんて珍しいな」
「婚約破棄するので書類を全て私に渡して下さい」
「………あんなに侯爵の爵位を欲しがっていたのに何かあったのか?」
私はクスクス笑って言った。
「殿下が友人になってくださって、一筆書いてくださると約束してくださったので必要なくなりました。それに、ラモール様が私とは絶対に結婚しないと言うので………侯爵の爵位は要らなくなりました」
「そうかそうか、侯爵に気付かれないようにラモールにサインさせるんだぞ」
「勿論です。向こうは結婚したいお嬢さんがいるらしいので慰謝料もたっぷりいただくつもりです」
「解った。有利になるような書類に侯爵のサインがあればいいんだな」
私とお父様は一緒にクスクスと笑った。
「殿下、友人は選んだ方がよろしいかと思います」
「解ってる。俺も後悔は…しなくもない。けどな、俺を変な女から守る腕だけは間違いないからな」
「変な女?」
「後で予言書を見せてやる」
「予言書?」
宰相閣下は困惑している。
そりゃそうだろう。
そこに、殿下の背後から近寄るバナッシュさんが見えた。
バナッシュさんはうまい具合に殿下にぶつかって見せた。
「ご、ごめんなさい!あっ!王子様!」
王子殿下の顔がひきつった。
「まあ、バナッシュさんまた殿下にぶつかってますの?」
「わ、わざとじゃ無いんです!」
いやいや、わざとだろ!
「そう、なら随分と注意力が散漫なのね。もっと人の少ない端を歩いたらどうかしら?」
「そ、そんな言い方しなくても………」
私は提案しただけだ。
「あら、気分を害してしまいましたか?それはごめんなさい。殿下に毎回迷惑をかけているようだから気を付けて欲しかっただけなのよ」
「迷惑だなんて…」
「毎回ぶつかってくるのは迷惑じゃないのかしら?」
「それは偶然で」
「偶然!偶然で毎回殿下にぶつかるなんて!運命なのかしら?」
バナッシュさんの顔がパァーっと明るくなった。
「運命だなんて!」
声のキーが上がってるぞ。
「ユリアス!」
焦ったような王子殿下の声に私は笑顔を向けた。
「事ある毎にぶつかってくるバナッシュさんが運命なら〝咲き誇る薔薇の中ではじめて会った私と殿下も運命だったのかしら?〟」
王子殿下は驚いた顔の後に笑った。
「〝君との出会いは運命だと思っている〟」
私と王子殿下が笑い合うとバナッシュさんは悔しそうに私を睨み付けて、去って行った。
「予言書の通りだな」
「あちらが予言書を駆使してくるなら私だって最新の予言書で対抗します。殿下、よく予言書の台詞を覚えていましたね?ナイス演技でしたよ」
「あれぐらいならまかせろ」
私はニヤリと笑った。
「殿下、うちの娘にちょっかいを出さないでいただきたい」
突然のお父様の声にふりかえるとお父様の口元がひくひくしていた。
「お父様、演技ですから大丈夫ですよ!」
「演技?」
「殿下を彼女から守る契約を殿下としてますの」
お父様と宰相閣下は何が何だか解らないと言った顔だ。
「宰相様、ちゃんと説明がしたいので人の来ない所に行きませんか?」
「………では、自分の執務室に」
私は王子殿下とお父様を連れて宰相閣下と宰相閣下の執務室に向かったのだった。
カップ麺が食いたい……