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エウレールの森の民 作者:アヤキリュウ
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第42話

 再び表に返されたお好み焼きを眺めつつ、アスティが終わりの見えないナウルの講釈を聞いていると、突然、入り口の扉ががらりと音を立てて開いた。入って来たのは、癖の強い茶髪と黒縁の眼鏡が印象的な細身の男だ。
「いらっしゃーい!」
 入り口に背を向けて奥のテーブルを片付けていた店主が、威勢のいい声と共に振り返った。
「お……ラディックか。」
 店主は入り口に立つ男の姿を目に留めると、驚いたように呟く。どうやら店主の知り合いのようだが、アスティも、この男と以前にどこかで会ったことがあるような気がしていた。ただ、どこで見たのかが思い出せない。ラディックという名前にも心当たりはない。
「こんにちは。八人なんだけど、入れるかな? 若い連中が腹ぺこなんだ。」
 ラディックと呼ばれた男は、微笑を浮かべて店主に尋ねた。「若い連中」などと言う彼自身も、見たところ二十代前半といった風で十分若そうなのだが、続いて店に飛び込んできた子供たちを見て、アスティは浮かんだ疑問を手放した。
「オレ、豚玉ぁ!」
「チーズ入ってるのがええ!」
「じゃあ、じゃあ僕は……一番高い奴!」
「ずりぃ!」
 元気な子供たちは口々に声を上げ、ラディックを取り囲む。
「また随分と大所帯やな。今、こっちのテーブルを片付けたるから、ちょっとそいつら黙らせや。」
 店主は、子供たちの声にうるさそうに片耳を押さえ、渋々と言った様子でラディックに返す。
「ほらみんな、一旦外に出ろ。」
 そう子供たちに命じたのは、ラディックではなかった。他の子供たちよりもやや年長と思われる少年だ。アスティの従兄弟のティムと同じくらいの年頃だろうか。
「騒ぐ奴は、食わせてやらないぞ!」
 少年に追い立てられて、子供たちははしゃぎながら店を出て行く。
「ったく……。」
 子供たちを全員店の外に押し出した少年がため息を吐くと、ラディックがポンと少年の肩を叩いた。
「ありがとう、ヤン。やっぱり君は頼りになるな。」
「いえ、別に……。」
 振り返った少年は、照れ隠しなのか、仏頂面でラディックから視線を逸らす。その視線がアスティたちの方を向いた瞬間、少年の顔色が変わった。両目を見開き、お化けでも見たかのように青ざめている。少年の視線は真っ直ぐにアスティたちを——否、イニスを見つめていた。
「お知り合いですか?」
 アスティが振り返ってイニスに尋ねると、イニスは「いや……。」と小さく答えて、鉄板の上のお好み焼きに視線を戻す。
 しかし、少年の方はじっとイニスを見つめたままだ。いや、見つめていると言うよりも、それはもはや睨んでいると言うに等しい。当初の怯えたような印象は消失し、少年は、明らかな敵意をむき出しにしていた。口は一文字に結ばれ、握り締めた両拳が僅かに震えている。
「どうした、ヤン?」
 ラディックも少年の不自然な態度に気付いたのか、怪訝そうに問うが、少年は答えない。
「……ああ、そういうことか。」
 少年の視線を追い、ラディックがふっと口元に笑みを浮かべた。呟きと共に向けられた笑みは、好意の微笑みと言うよりもむしろ侮蔑を含んだ嘲笑のようで、アスティは戸惑いながら眉を顰める。ラディックの視線もまた、明らかにイニスを向いていた。
「悪魔もお好み焼きを食べるとはね。人の生き血を啜って生きてるのかと思ってたよ。」
 続けてラディックが口にした言葉で、アスティは思い出した。昨晩、王宮前広場で、アスティはラディックと会っている。政府への抗議デモのために集まった大勢の人々の中心にいたのが、この男だった。
 叔父のトールクは、反政府デモを主催する市民団体のリーダーであるこの男を尊敬しているようだったが、昨晩といい、今といい、彼がイニスに向かって投げ付けた侮辱の言葉は、イニスや政府に対する誤解が前提とは言え、あんまりだ。
 アスティは思わず腰を浮かせ、反論の言葉を口にしかけたが、途端、手首を強く引き下げられた。
 振り返ると、イニスがテーブルの下でアスティの手首を掴んでいた。にもかかわらず、イニスの視線はじっと鉄板の上のお好み焼きに注がれている。アスティが迷いながら腰を椅子に落とすと、イニスの手がそっと離れた。
「わざわざ騎士団長自ら貧民街まで監視にいらっしゃるとはね、噂通りの忠犬ぶりだな。そんなにこっちの動きが気になるのか?」
 ラディックはアスティたちのテーブルに近付くと、イニスを見下ろして問う。
「私はこの店に食事に来ただけです。」
 イニスが視線を動かすことなく端的に答えると、ラディックは鼻で笑った。
「王宮騎士団長がわざわざ貧民街のお好み焼き屋なんかで食事とはね。」
 ラディックの嘲笑的な笑みに、アスティは苛立ちながらもぎゅっと膝の上で拳を握りしめていた。先程イニスに強く止められたことからしても、ここでアスティがラディックと喧嘩を始めるようなことをイニスは望まないだろう。
「別に誰が来たってええやん。ここのお好み焼きは王都で一番うまいねん。」
 明るい声で口を挟んだのはナウルだ。ナウルはテーブルに頬杖をつき、にこりとラディックを見上げる。
「……あなた方も大概だな。隣に悪魔を置いてよくまぁそんな平然と食事ができるものですね。」
 ラディックがため息混じりに漏らした。
「そら、おおきに。まぁ、悪魔ごときにビビるほど肝っ玉の小さい奴にお好み焼き名人は務まらへんからな。」
 ナウルは「ナウル様専用」のコテをくるくると器用に片手で回したかと思うと、素早く握り直してラディックに突きつけた。かっこ良くポーズを決めたつもりなのか、ナウルの表情は得意げだが、ラディックは呆れたように小さくため息を吐いて頭を振った。
「恐ろしいのは、悪に対する無自覚さですよ。悪魔の囁きに耳を傾けるうちに、それを天使の声と思いこんでしまう……。国の現実から目を背け、庶民の声を聞かず、権力の上にあぐらをかいている連中を、僕は決して認めません。」
 ラディックは強い口調で言い、イニスを睨み付けた。イニスは一瞬、ラディックに視線を向けたものの、すぐに視線を正面の鉄板の上に戻す。ナウルはラディックの話を聞いているのかいないのか、両手にそれぞれ一本ずつ構えたコテを同時にくるくると回し始めた。
 イニスが反論しないことを確認するように一呼吸いて、ラディックが続ける。
「知識も力も、正しく使ってこそ価値があるものだ。使い方を誤れば、せっかくの頭の良さも優れた剣術の腕もただの飾りと同じ。逆に、正しく使えば、弱い者でも高い成果を上げられる。この国を良くするのは、傲慢なエリートなんかじゃない、誠実な庶民なんだ! 国は、一部の上流階級を守るためにあるんじゃない。緑の大地を殺し、未来ある子供達を蔑ろにして発展する国などあるはずがないんだ。国の本質を見誤ったあなたたちにいつまでも好き勝手はさせません。僕たちは、必ずこの国を悪魔の手から取り戻す。絶対にだ!」
 ラディックが熱のこもった口調で語ると、店の奥から「おぉ。」という歓声が上がり、パチパチと控えめな拍手が続いた。そこには、確かに小さな熱狂があった。
 ラディックに対して否定的な印象を持って聞いていたアスティでさえ、一瞬、ラディックの話に聞き入ってしまった。
 アスティには、ラディックが悪魔と呼び、傲慢だと非難するイニスたちが、そこまで言われるほどの悪人とは思えない。一方で、この国をより良くしたいというラディックの思いも本物に思える。
 イニスとラディックの間にあるものは、小さな誤解に過ぎないのかもしれない。ただ、きっと、その小さな誤解が、決定的に二人の立場を違えているのだ。
 拍手が止むと、ラディックは小さく息を吐いた。
「どうも、ここで食事をする気分ではなくなってしまったな。」
 ラディックは不敵な笑みを浮かべて独りごち、アスティたちに背を向けた。
「悪いけど、やっぱり席はいいや。また悪魔のいない時に来ることにするよ。」
 ラディックはそう店の奥の店主に声を掛けると、「行こう、ヤン。」とイニスを睨んだままの少年の肩に手を置き、店の外へと促す。少年は店の入り口で振り返り、再びイニスを強く睨み付けると、ラディックと共に店を出て行った。
 しばらくの間、店内はシンと静まり返っていた。鉄板の上で油の跳ねる音が妙に大きく聞こえる。
「……休みの日までそないな格好しとるから悪目立ちすんねん。」
 唐突にナウルが呟いた。
「え?」
「……どんな格好したって同じだよ。」
 ナウルが何の話をしているか分からずにきょとんとしたアスティの隣で、イニスが答える。憂鬱そうな表情で、指先に前髪を絡めていた。
 ナウルの言葉がイニスに向かって発せられたものならば、ナウルが「そないな格好」と呼んだのは、イニスが身に付けている王宮騎士団の真っ黒な制服のことだろう。王宮の中ならばともかく、街に出れば、それが目立つ格好であることは間違いない。
 そして、イニスが答えた「どんな格好をしたって同じ」なのは、きっと、イニスのその髪色のせいだ。東の森ではもちろん、王都に来てからも、未だにアスティはイニス以外に闇のように真っ黒な髪の持ち主に出会ったことはない。
 その特殊な髪色は王都でも唯一無二の存在に違いなく、その髪色を見れば、王都の人々は彼が王宮騎士団長であるとすぐに分かるのだろう。そして、少なからぬ人々が、王宮騎士団長は残虐非道な危険人物であると思い込んでいることを前提にすれば、イニスが人々から向けられる視線がどのようなものになるかは明白だ。
 この店までの道すがら、アスティたちと言うよりもむしろイニスに対して向けられていた視線は、きっとそういう趣旨のものだ。通りで違った酔っぱらいの老人のよそよそしい態度も、この店に入った時の店主の戸惑いの表情も、イニスを睨み付けた少年の怯えや敵意も……。
 王宮の中でこそ、イニスは多くの騎士団員に囲まれ、慕われているように見えたが、一度街へ出れば、彼の来訪を歓迎する者ばかりではないのだ。東の森で、アスティやムリクに立ち退きを迫った役人たちをアスティたちが決して歓迎しなかったのと同じように、その存在を疎ましく思っている人たちがいる。
 特に、この貧民街に入ってからは、イニスに向けられる視線は厳しかった。商店街の裏通りや高層ビルに囲まれた街を歩いていた時には、みんなそれぞれ忙しそうで、イニスとすれ違ってもその姿を凝視するような人はいなかった。あの時のアスティが周囲の目新しい景色に浮かれて注意力を奪われていたとしても、貧民街に入ってからのようなあからさまな視線を注がれて全く気付かないなどということはあり得ない。
 イニスが貧民街へ近付くことを嫌がった理由は、単に治安が悪いからというだけではなく、そこが自分の歓迎されない場所だと知っていたからなのかもしれない。
 憂鬱そうなイニスの横顔に、アスティは何か声を掛けたいと思ったが、ありきたりな慰めや励ましの言葉がイニスに笑顔をもたらすとは思えなかった。
 再び店内が客たちのお喋りで騒がしくなり始めると、店の奥から店主が出て来た。小さなため息と共に、ラディックたちが出て行った後、開け放されたままだった扉がそっと閉められる。
「しっかし、俺が来ぇへん間に随分とおもろい客が来るようになったんやね?」
 店の奥に戻ろうとした店主にナウルが声を掛けた。
「そら、ラディックのことか?」
「頑固親父が『お好み焼き屋なんか』言われて黙っとるから、余程の上客なんやろうなぁ、思て。」
 ナウルはテーブルに頬杖をつき、笑いながら店主を見上げる。
「いや、あれがうちに来るのはこれが初めてやで。ただ、あれにはこの辺の悪ガキどもがなついとるから……なぁ。」
 店主は難しそうな顔をして、頭を掻いた。
「今もぎょうさん子供連れとったけど、あいつらみんな、あの兄ちゃんの子とちゃうん?」
 ナウルが興味深げに店主に返すと、店主は声を上げて笑った。
「いくら何でもそんな年やあらへんやろ! 俺はよう知らんけど、最近、この辺の悪ガキ集めて、飯奢ったり、勉強教えたりしとるみたいや。時々、そこの通りでさっきみたいな小難しいこと叫んどるよ。」
 店主が苦笑してナウルに返す。
「ふーん……しかし、おっちゃんも随分と丸くなったんやねぇ? 俺が初めて来た時は、焼き方がなっとらん言うて散々怒鳴られた挙げ句、お好み焼きの奥深さが分からへん奴に食わすもんはあらへんて食べる前に追い返されたんに……。」
 ナウルが恨めしげにため息を吐いた。
「ははは、さすがに今はもう、焼き方間違えたくらいで追い返したりはせえへんよ! まあ、せっかくふっくら焼けとるところをコテで押しつぶしてぺしゃんこにしてまう客を見ると多少苛つかんでもないんやけど……。」
 店主の男は言いながらイニスが焼いているお好み焼きに視線を落とし、それからちらりとイニスを見た。ナウルに限らず、「お好み焼き名人」にはそこが重要な点なのだろう。黙って店主とナウルのやり取りを眺めていたイニスが気まずそうに視線を逸らすと、ナウルが勝ち誇ったような笑みを見せた。
「……さて、そろそろええ頃合いやな! おっちゃん、ご飯二つ持ってきてや!」
 ナウルが声を上げると、店主は「ほいほい。」と軽く応じて店の奥へと戻って行く。
「イニス、ソース取ってや。」
 ナウルがお好み焼きを見つめながら、片手を差し出してイニスに命じた。イニスは不満げな表情を浮かべつつも、テーブルの端に並んでいた容器から、濃い茶色の液体が入った半透明の筒と細い木の棒が突き出た蓋付きの丸い陶製容器を選び取って、ナウルに差し出す。
「ええか? うまいお好み焼きを作るにはな、仕上げのソースの掛け方にも注意せなあかんのやで!」
 ナウルは機嫌良さそうにアスティに説明しながら、イニスから二つの容器を受け取り、自分の側に二つの容器を並べ置いた。
「まずは、この辛口のソースをさらっと掛けるんや。」
 ナウルは半透明の円筒型容器を手に取って正面に構え、説明する。
「これは掛け過ぎんように注意せなあかんで。」
 言いながら、ナウルは円筒型の容器をひっくり返し、生地の上で素早く左右に往復させながら茶色いソースの線を描く。
「ほんで、次は甘口ソースや!」
 ナウルは円筒型の容器を脇に置くと、蓋付きの容器を開けた。ナウルが容器から突き出た木の棒を引き上げると、その先には、とろりと茶色のソースがまとわりついている。先ほどの辛口ソースよりも粘り気が強そうだ。
「こっちは思う存分、たーっぷりかけるんが正解や! ちょっと鉄板にはみ出して少し焦がすくらいがええねんで。」
 ナウルが生地の上で刷毛を数往復させると、生地の表面につやつやとした茶色が広がっていく。ナウルは一旦刷毛を容器に戻し、再びソースを滴らせながらもう一度生地に塗り重ねた。
 掛け過ぎではないかと思うほどたっぷりのソースは生地からはみ出し、鉄板がジュワッと音を立て、香ばしい匂いが鼻を突く。
「そして青海苔や!」
 ナウルがイニスに向かって片手を差し出すと、イニスがやはりテーブルの端にあったやや小ぶりの蓋付き容器をナウルの手に載せる。
「アスティちゃんは知ってるかどうか分からへんけど、これは海で取れる海藻を乾燥させたもんや。まぁ、水草の仲間やね。」
 ナウルが木製の小匙で容器から取り出したのは、緑色の粉——と呼ぶには一片一片が少し大き過ぎるだろうか——細かく刻んだ薬草のような小片だった。
「これをひらひらーっと振り掛ける。」
 ナウルは掬い出した青海苔を、生地の上に満遍なく振りかける。茶色のソースに散った緑色の小片は、雨上がりの地面に生えた苔のようだ。
「ほんで最後に、鰹節!」
 ナウルが再びイニスに向かって手を伸ばし、やはりイニスがテーブルの端の容器をナウルの手に載せる。
「この鰹節っちゅうのは、魚の身ぃを燻して乾燥させてから薄く削ったもんやで。」
 ナウルはそう言いながら、蓋付き容器からスプーンで小片を掬った。薄茶色の小片は、祖父ムリクが工芸品を作るときに出る木くずのようにも見えた。
「ええ香りするやろ?」
 ナウルが鰹節を載せたスプーンをアスティの眼前に差し出した。アスティは鰹節を吹き飛ばさないように気を付けつつこれが、鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。確かに、おいしそうな匂いだ。
「このおいしい鰹節を振り掛けながら、ちょいと魔法を掛ければおいしいお好み焼きの出来上がりや!」
「魔法……ですか?」
「そう、おいしいお好み焼きを作るには仕上げの魔法が肝心やねん! ちゃんと上手く魔法が掛かると、お好み焼きの上で鰹節が踊り出すんやで!」
 ナウルにそう言われて、アスティはじっとお好み焼きの上の鰹節を見つめた。確かに、ナウル言うとおり、鰹節はお好み焼きの上でゆらゆらと揺れている。単に風に吹かれて揺れていると言うにしては、複雑な動きだ。
「……踊ってます……ね。」
 アスティは驚いて呟く。
「……やろ? これがおいしく魔法の掛かった証拠やねん!」
「まぁ、湯気で煽られて吸湿による膨張と乾燥を繰り返しているだけだけどな。」
 ナウルが自慢げに宣言するも、隣でイニスがぼそりとつまらなそうに呟いた。
「湯気……?」
「ああ、ああ! そういう頭の固い奴のつまらん説明は聞かんでええねん!」
 アスティがイニスを振り向くと、ナウルが大きな声を上げて割り込んで来た。イニスは不満そうに顔をしかめて黙り込む。
「とにかく! これでお好み焼きは完成や!」
 ナウルがコテを握りしめて宣言すると、ちょうど、小ぶりの深皿に盛られた白飯が二つ、ほかほかと湯気を立てながら運ばれて来た。
「ほい、ご飯二つな!」
 店主はテーブルの端に深皿二つを置くと、さっさと店の奥へ戻って行く。
「これはアスティちゃんの分な。」
 ナウルが真っ先に深皿に手を伸ばし、一つを自分の目の前に置きつつ、もう一つをアスティに差し出す。
「えっと、イニスさんの分……は?」
 ナウルから深皿を受け取りつつ、アスティはちらりと隣のイニスに視線を向けた。
「俺は要らない。」
 イニスは鉄板の上の潰れ気味のお好み焼きを切り分けながら端的に答える。
「え、でも……。」
「ええねん、ええねん。この阿呆はお好み焼きの正しい食べ方を理解してへんのや。」
 ナウルが手を振りながら笑った。
「正しい食べ方じゃなくて単なるお前の趣味だろうが。米の上に小麦粉載せて食べるなんて、炭水化物ばかりじゃないか。栄養学的に見て不合理だ。」
 イニスが毅然として答える。
「不合理はどっちや! 鰹節とソースの味で白いご飯が進むんやから、ご飯と一緒に食べた方がええに決まっとるやろが!」
 ナウルはイニスに怒鳴り返し、焼き上がったお好み焼きをコテで一口サイズに切り分ける。動作が妙に荒々しいのは、イニスに対する苛立ちのせいだろうか。
「全くほんまに、全然分かってへんのやから……。」
 ぶつくさと独りごちながら、ナウルは自分の分として確保した深皿を手に取り、ほかほかご飯の上に切り分けたお好み焼きを載せる。
「ほい、アスティちゃんはちゃんと正しい食べ方を覚えてな!」
 ナウルに数切れのお好み焼きをコテに載せて差し出され、アスティは苦笑いを浮かべながらほかほかご飯の盛られた自分の深皿を差し出した。

最新の執筆状況(更新予定)等はTwitter(@ayaki_ryu)で呟いています。

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