挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
エウレールの森の民 作者:アヤキリュウ
16/61

第15話

 豪華な扉を入ると、そこは思いの外小さな部屋だった。中央に円卓が置かれ、壁際には飾り棚と数脚の椅子が並べられている。天井や壁紙などの造りこそ豪華だったが、広さだけを取り出して言えば、ユミリエールの部屋の方がずっと広かっただろう。天井が高い分、東の森でアスティとムリクが暮らしていたテントよりはずっと広々としているが、王宮の規模と比較したらあまりにも小さく思えた。一国の王の部屋としては少々物足りない。
「ここが王様のお部屋……ですか?」
 アスティは部屋の中を見回しながら尋ねた。
「ああ……って言っても、ここは来客を取り次ぐための小部屋で、陛下の執務室はこの奥の二重扉の先だ。」
 そう言ってイニスが指さした先には、アスティたちが入って来た扉とは別の扉がある。
 言われてみれば、部屋の中にはベッド代わりになりそうなものも見当たらず、この部屋一つで生活するのは無理があるだろう。
「とりあえず、俺が先に陛下と話をしてくる。陛下の許可を得るまでお前たちはここで待っててくれ。」
 イニスは円卓の上に、ジヴルとナディの店で貰ったパンの入った紙袋を置くと、奥の扉へと進みながら言った。
「私は一緒に行ってもいいでしょ? お父様の娘なんだから。」
 ユミリエールが中央の円卓を回り込んでイニスを追いかける。
「だめだ。陛下だけならともかく、首相が来てる。仕事の話が先だ。」
「はいはい! そんなら俺はどや? 仕事の話なら俺も関係あるんとちゃう?」
 ナウルが手を挙げながらぴょんぴょんと跳ねると、イニスが不愉快そうに眉を顰めてきびすを返した。
「お前はここで大人しくユミリエールの相手でもしてろ。」
「えー!」
 ナウルがつまらなそうに声を上げるが、イニスは答えず、真っ直ぐに部屋の奥の扉へと向かう。
 ナウルがなおも不満を呟くと、イニスは奥の扉の取っ手を掴みながら、ナウルを振り返った。
「……いいか、邪魔するなよ?」
 そう念を押し、イニスは扉の向こうへと姿を消した。

 ***

 次室の奥の扉を後ろ手に閉め、イニスは二重扉の間にある二メートル四方程の何もない小さな空間でため息を吐いた。
 従前から、イニスは、エウレール王国の首相であるオーヴェルジーニとはあまり相性がよくない。できることなら顔を合わせたくない相手だが、それゆえ、国王とオーヴェルジーニの会談を放置しておくわけにはいかなかった。
 議会で選出される首相には、議会で多数派を占める政党の党首が就くことが慣例であり、オーヴェルジーニもまたその慣例に従って首相の職と与党党首の職を兼ねている。現在の与党は国王の掲げる科学技術推進政策を支持しているし、オーヴェルジーニが国王の遠縁に当たることもあって、世間では彼と国王は互いに協力的かつ安定した関係にあると理解されている。
 だが、それは表向きの話にすぎない。
 オーヴェルジーニは、国王の遠戚であるがゆえに政府と国王とのパイプ役としての役割を期待されて与党党首に担ぎ出され、首相の地位を得たが、いわばそれだけの男だった。本来、彼は首相の器ではないのだ。王族の末裔であるという事実は、彼を極めて高慢かつ野心的な人間にし、首相の地位を得たことでその傾向は一層強まった。オーヴェルジーニは、国王を差し置いて、エウレールにおける政治的権力を掌握しようと目論んでいる。
 諸外国に広がりつつある民主主義の思想を取り入れるという名目の下、オーヴェルジーニは国王の権限を少しずつ議会へ移すことを提唱しているが、彼の真の狙いは与党党首として議会を牛耳る自分のもとへ権力を集めることだ。挙げ句の果てには、国王の一人娘であるユミリエールを自分の息子と結婚させ、名実ともに権力を手に入れようと躍起になっている。もっとも、ユミリエールの方はオーヴェルジーニの息子と結婚する気など全くないわけで、二年ほど前に、四次元定理を証明し損ねたオーヴェルジーニの息子は、グラスの水を被って蹴り飛ばされるという不幸な《事故》に見舞われた。
 オーヴェルジーニの目論見が失敗に終わったという意味では、その事故はイニスにとって結構なことだったが、被害を被ったのがオーヴェルジーニ本人ではなくその息子だったという点については、ユミリエールの警護員として現場に立ち会い、彼の惨状を直接目撃した者の一人として同情しないでもない。
 最初の事故後、彼は声を上げて泣き出し、それゆえにユミリエールから本来王女が口にすべきではないと思われる罵詈雑言を延々と浴びせられることとなったため、彼が心身に受けた傷は極めて大きなものとなったのである。
 この事故で、オーヴェルジーニの息子は強度の心理的負荷による記憶障害に陥り、一部始終の貴重な目撃者であるイニスとマリアンヌは臣下としての慎み深さから王女ユミリエールのとんでもない言動について口外することを躊躇ったため、オーヴェルジーニは息子の婚約話が破談になった経緯を詳しく知ることはできなかった。
 結果として、オーヴェルジーニは事故現場に同席していたイニスが二人の邪魔をしたに違いないと訝るようになったが、オーヴェルジーニのイニスに対する態度は元々友好的でなかったから、この事故の前後でオーヴェルジーニからの風当たりが特に強くなったというわけでもない。
 オーヴェルジーニがエウレールにおいて全政治的権力を掌握しようと思えば、王宮騎士団という国王直属の実力部隊を率いる王宮騎士団長の存在が邪魔になることは間違いなく、オーヴェルジーニがイニスに敵意を持つことも当然のことではある。それでも、先代騎士団長は、オーヴェルジーニを上手くあしらい、その地位を利用してさえいたのだが、残念ながら、イニスは先代騎士団長ほどに上手く立ち回ることはできなかった。そもそも、オーヴェルジーニのイニスに対する敵対的な態度は、イニスが王宮騎士団長に就任する前どころか、正式に王宮騎士団に入団する前、先代騎士団長と共に暮らしていた頃からのものなのだ。
 イニスには特にオーヴェルジーニの不興を買うようなことをしたという記憶はないのだが、顔を合わせる度に、オーヴェルジーニから一方的に嫌みを言われ続けてきた。今更修復可能な関係だとも思わないし、修復する必要性も感じない。
 何しろ、聡明な国王は、既にオーヴェルジーニの目論見に気付いているのだ。国王がオーヴェルジーニの息子とユミリエールの婚約話を進めたのは、オーヴェルジーニの妻である従姉との関係を重視したからであり、あくまでも形式上のものだった。万が一の場合に備えて、二人のお喋りの場にイニスとマリアンヌを同席させたのも、オーヴェルジーニの謀を警戒してのことだ。
 そんなわけで、イニスは、王宮外壁の爆発事件について国王が自分よりも先にオーヴェルジーニと話をしているということに危機感を抱きつつも、できれば顔を合わせたくない相手と対峙せざるを得ない憂鬱さに襲われて、二重扉の前で大きなため息を吐いたのだった。
 憂鬱さを吐息と共に吐き切ると、イニスは背筋を伸ばして扉を叩いた。
「失礼いたします。」
 扉を開けると、部屋の中央の応接セットに国王とオーヴェルジーニが向かい合って座っていた。
 突然、部屋に入ってきたイニスを認めるなり、国王はほっとした表情を浮かべ、オーヴェルジーニはいかにも不愉快そうな表情を見せた。
 二人の対照的な表情を確認するまでもなく、国王がオーヴェルジーニとの会談を望んでいなかったことは明らかだ。とは言え、議会で選ばれ、行政の実務を取り仕切る首相が会談を求めてきたとなれば、その立場上、無碍に追い返すわけにもいかず、受け入れざるを得なかったのだろう。
 表面上親しくはしていても、水面下では完全な敵対関係にある相手との二人きりの会談が国王にとっていかに不安なものだったかは想像に難くない。ましてや、最も信頼を置く臣下が不在の折り、不審な事件が起きた直後のことである。
「イニス、東の森から戻ったのだな!」
 国王が嬉しそうな声を上げた。
「いきなり何の用かね? 私は国王陛下と二人で話したいとマリアンヌに伝えていたはずなんだがね。」
 オーヴェルジーニは自慢の口ひげを撫でつけながら、イニスを睨みつけた。
「お話中申し訳ございません。私の留守中に外壁の崩落事故があったとお伺いしたものですから、至急、陛下に御相談をと……。」
「ああ、我々もちょうどその話をしていたところだ。ちょうどいいではないか。」
 国王は椅子から立ち上がり、イニスに自分の席へ座るよう促した。国王のイニスに対する親愛の現れだが、首相であるオーヴェルジーニを差し置いて、臣下の立場で国王と並ぶわけにはいかない。
「私はこちらで結構ですので……。」
 イニスは丁重に辞退して、二人が向かい合うテーブルから少し離れたところでひざまずいた。オーヴェルジーニの前で椅子に腰掛けてくつろぐつもりなどない。いざという時に国王を守れるよう、一歩踏み込めば国王に手が届く範囲内で、かつ、すぐに剣を引き抜ける空間を周囲に確保した上で、位置を定めた。
 オーヴェルジーニが不満そうにイニスを見下ろしたが、オーヴェルジーニも国王の意に反してまでイニスを追い返すことはできない。オーヴェルジーニは渋々イニスの同席を了承した。
「まあ、せっかくですから、騎士団長殿の御意見もお伺いしましょうかね。それで、騎士団長殿は今回の事件の犯人は誰だとお思いで?」
 オーヴェルジーニが問い掛けてきた。
「事件の犯人……ですか。政府の公式発表では『事故』のはずでは?」
 イニスはわざと問い返した。
 王宮外壁の損傷が事故ではなく事件の結果であるらしいことは、イニスもジェイスとギムニクの報告を聞いて確信していたが、未だ非公表の事実を自ら開示してオーヴェルジーニに情報提供をしてやる義理はない。この一件に、オーヴェルジーニが関与している可能性もないとは言えないのだ。できれば、こちらの情報を伝える前に、オーヴェルジーニがこの件についてどこまで知っているのかを把握しておきたい。
「あれは国民を不安にさせないようにという陛下の御指示で『事故』と発表したまでですよ。事故であんな壊れ方をするはずがないことくらい、子供でも分かるでしょう。現場から爆弾の残骸らしき部品も回収されて、騎士団の機械部門で分析中だと私は伺っていますがね? 騎士団長殿はその程度の報告も受けずに陛下と何をお話になろうといらっしゃったんだか……。」
 オーヴェルジーニは不快感を露わにするが、イニスにとって、この反応は予想の範囲内だ。イニスが知りたかったオーヴェルジーニの現状認識も自ら口にしてくれたという意味では期待以上のものではあるが。
「現場で機械部品が見つかったことについては報告を受けております。それが外壁の崩落と関係しているかどうかは、未だ分析中ですので……。」
 ギムニクの分析は事実上終わっているし、その報告も口頭で受けたところだが、正式な報告書が出てきていない以上、分析結果が出たとは言い難い。オーヴェルジーニが首相の立場にある以上、いずれは正式な報告が上がるはずだが、警戒対象の相手にわざわざ先んじて教えてやることはない。
「全く、そんなのんびりしたことでは困りますな! これはテロ事件かもしれないのですよ!」
 オーヴェルジーニが声をあらげた。イニスの失態を非難したつもりだろうが、イニスにとってはむしろ有り難い情報提供だった。オーヴェルジーニが元々お喋りの気質を有していることは知っていたが、この調子なら予想以上に情報を引き出せそうだ。
「……テロ事件?」
 イニスが聞き返すと、国王がため息混じりに口を挟んだ。
「まだそうと決まったわけでは……。」
「何を暢気なことをおっしゃっているんです! これは爆弾によるテロ事件です! 犯人は野党の過激派連中に違いありません! 最近、陛下がお優しくされているから、調子に乗っているんですよ! 放置しておけば、今度は外壁どころか王宮ごと吹き飛ばされてしまいますよ!」
 オーヴェルジーニは椅子から立ち上がって叫んび、イニスはオーヴェルジーニの頭の中にある筋書きを大方理解した。彼の日頃の考え方からすれば、ほぼ想定どおりの反応だ。
 要するに、オーヴェルジーニは今回の王宮外壁破壊事件を自らの政敵である野党関係者の仕業にしたいのだ。そうして野党に対する国王の、ひいては国民の信頼に傷つけ、議会における自らの地位をより強固なものとしたいのだろう。
 野党は、与党と異なる政策を掲げているからこそ野党なのであり、与党と国王の政策が表面上は一致している現状では、国王と野党との関係は遠い。特に、現国王がこれまで注力してきた科学振興政策について、野党議員の多くは反対を唱えている。
 オーヴェルジーニの主張するとおり、今回の事件が国王の政策に反発する連中の仕業である可能性は否定できない。しかし同時に、オーヴェルジーニが事件を野党の仕業とすることで政敵を排除しようと自ら仕組んだものであるという可能性もある。被害が外壁の損傷という比較的小規模なものにとどまり、人的被害もなく、犯行声明も出ていないという現状では、ただのいたずらと言うには度が過ぎるとは言え、これをテロ事件と断定するのは時期尚早だ。もし今回の犯人が本気でテロを考えているなら、事件はこれでは終わらない。そう言う意味では、今度は外壁どころか王宮ごと吹き飛ばされてしまうというオーヴェルジーニの指摘も当を得ている。
「そうならないように、警備を強化いたします。」
 イニスが口をひざまずいたまま申し述べると、オーヴェルジーニはふんっと鼻を鳴らした。
「本当に、そうしていただきたいですな! 肝心な時に留守では困りますよ。」
 オーヴェルジーニが吐き捨てた。
「まあ、そうイニスを責めんでくれ。東の森の調査は私が無理を言ってイニスに頼んだのだから。それで、ユミリエールが探していた鳥は見つかったかね?」
 国王はオーヴェルジーニを宥め、イニスに穏やかな表情を向ける。
 今回の事件に関するオーヴェルジーニの見立てについては、イニスが部屋に入ってくる前に既に散々聞かされていたのだろう。国王は話題を切り替えたのは、そろそろ会談を切り上げたいと思ってのことかもしれない。
「いえ、残念ながら……。」
 イニスは短く答えた。ユミリエールの考えでは、キーロが彼女の捜し求めていた黄金の鳥である可能性がないこともないが、どこからどう見ても黒い鳥を黄金の鳥だと主張して国王に献上するつもりはイニスにはなかったし、オーヴェルジーニの前でユミリエールの関わる件について長々と説明をしようとも思わなかった。余計なことを言ってくだらない嫉妬を買いたくはない。
「そうか……私も楽しみにしていたのだがね。」
 国王は残念そうに肩を落としたが、国王が残念がっているのは、珍しい鳥を発見できなかったことではなく、愛する一人娘の希望を叶えられなかったことだろう。
 重大事件が起きているのに暢気なことだが、オーヴェルジーニのようにいちいち取り乱して騒がれるよりはずっといい。人の上に立つ者は、事が大きければ大きいほど事態への冷静な対処を求められる。イニスはそう先代騎士団長から教えられ、これまでその言葉に従って自分を律してきた。
 騎士団長と国王とでは役割が異なるが、人の上に立つ者としての心構えは同じだろう。国王が一人娘を溺愛していることは間違いないが、それだけのぼんくらではないことは知っている。だからこそ、これまで仕えてきたのだ。
「御期待に応えられず申し訳ありません。」
 イニスは神妙な顔つきのまま頭を下げた。
「何、お前が謝ることじゃない。」
 国王は笑った。
「しかし、その代わりに騎士団長殿は東の森で小娘を一人見つけてこられたと伺っておりますがね。」
 突然、オーヴェルジーニが予想外の言葉を口にした。イニスは驚いて顔を上げ、嫌らしく笑うオーヴェルジーニの顔を見つめた。


 ***


 イニスが扉の向こうへ姿を消すと、アスティは壁際に並んだ椅子の一つに腰を下ろし、きょろきょろと部屋の中を見渡した。壁には錦糸の細かい刺繍絵が飾られ、高い天井にはきらきらと輝く宝石のようなランプが吊り下げられている。小さな部屋ではあるが、その装飾品はどれも手の込んだ高級品に違いない。
 アスティはその豪華さに感心しつつも、落ち着かない気持ちになった。キーロがユミリエールの肩から天井にぶら下がったランプへと移動したこともその一因だ。もしキーロがいかにも繊細そうなそのランプを壊してしまったら、それを弁償するのはキーロではなくアスティになるだろう。アスティは、何度かキーロに向かって下りてくるよう呼び掛けたのだが、キーロはきらきらと輝いて揺れるランプが面白いのか、一向に下りてくる気配がない。
 ユミリエールは円卓を囲む椅子に腰を下ろし、頬杖を突きながら退屈そうに足をぶらぶらと揺らしている。ナウルは小部屋の中をぐるぐると歩き回り、既に三周はしているはずだ。
 やはり、落ち着かない。
 不意にナウルが部屋の中央で足を止め、「よし! そろそろええやろ!」と声を上げた。
「何がいいのよ?」
 ユミリエールが不機嫌そうな声でナウルに尋ねる。
「そらもちろん、そろそろ中に入ってもええやろっちゅうこっちゃ!」
 ナウルはユミリエールを振り返り、にこりと微笑んだ。
「あなたねえ……イニスに待ってろって言われたの忘れたの? 邪魔したら今度こそ殺されるわよ。彼、仕事に関しては容赦ないんだから。」
 ユミリエールが呆れた口調でナウルに返す。
「大丈夫やって、ちょっと覗くくらい! ほんまに秘密の話やったら秘密の場所でもっとこっそりするはずやし。」
 ユミリエールの忠告を意に介す様子もなく、ナウルはぴょんぴょんと跳ねるように奥の部屋へと続く扉へ近付き、奥の部屋の様子を探るように扉に耳を押し当てる。
「ナウルさん、だめですよ! イニスさん、邪魔するなって……。」
 王都のルールはよく分からないが、偉い人たちが集まって話をしているところに、部外者が勝手に乗り込んでいくことが失礼になるであろうことはアスティにも察しが付いた。東の森で言えば、森の長や大人たちが大事な話し合いをしているところへ子供が遊びに行くようなものだろう。幼い頃、アスティもそれで何度か父と祖父に叱られたことがある。
「構へん、構へん! イニスの『邪魔するな』は、『しばらく経ったら邪魔しても大丈夫』っちゅうこっちゃ!」
 ナウルは扉から耳を鼻すと、顔の前で大きく手を振りながら答えた。
「そ、そうなんですか?」
「そやそや! 人間、するな言われたことはしたくなるもんや。王宮騎士団長ともあろう者がそんな人間心理の基本を知らんはずあらへんやろ?」
 ナウルに説明されて、アスティはなるほどと納得する。確かに、アスティも東の森にいた頃、祖父のムリクから登ってはいけないと言われていた神木にこっそり登っていたし、キーロはアスティが大事にとっておいた乾燥果物をしばしば無断でついばみ、アスティが叱って夕食抜きを命じた翌日には、被害はむしろ拡大していた。
「怒られるわよ、絶対に。」
 ユミリエールが呆れた様子で口を挟む。ユミリエールはナウルの説明には納得できなかったらしい。
「大丈夫やって。こんなところでぼーっと待っとっても退屈なだけやろ? たまには面白いことしよや!」
 ナウルがそう言いながら、扉の脇の壁際にあった小テーブルから花瓶を下ろし、代わりに壁際の椅子を一脚、その上に積んだ。
「面白いことって……首相とお父様の話なんか聞いたって面白いことなんか何もないと思うけど。」
「それを面白くするんが俺らの腕の見せ所や!」
 そう言いながら、ナウルは、テーブルの上に載せた椅子の上に飛び上がり、アスティはナウルが何をしようとしているのか分からず、ユミリエールと共に首を傾げた。

最新の執筆状況(更新予定)等はTwitter(@ayaki_ryu)で呟いています。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ