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エウレールの森の民 作者:アヤキリュウ
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第13話 ユミリエール姫のお友達

 花や蝶の繊細な彫刻が刻まれた可愛らしい調度品に囲まれて、アスティは小さくなっていた。
 廊下でのやり取りの後、アスティはユミリエールに腕を掴まれ、彼女の自室と思われる部屋に引きずり込まれた。イニスとナウルも付いてきてくれたが、そのことが余計にユミリエールを不機嫌にしているようにも思われる。
「あなたたちは付いてこなくてもよかったんだけど?」
 ユミリエールは窓際に置かれたふかふかの椅子に腰掛けて足を組み、イニスとナウルを見上げている。
「私に報告にしろとおっしゃったのはあなたですよ、ユミリエール殿下。」
「それをあなたはさっき断ったじゃない。」
 イニスの反論はユミリエールに一蹴され、イニスがため息を吐いた。
「彼女は俺の客人です。彼女に問題があるとお考えなら、私におっしゃってください。」
「私はこの小娘に問題があるなんてまだ一言も言ってないわよ? これから言おうとは思ってたけど。」
 ユミリエールがイニスに向けていた視線をアスティへ移し、アスティはますます身体を小さくする。
 自分の存在がユミリエールの機嫌を害しているらしいことは理解できたが、その理由までは分からない。勝手に——イニスに連れられてではあるが——王族の居宅でもある王宮へ立ち入ったことが問題なのかもしれないし、あるいは、国王陛下の一人娘であるユミリエール姫の前に平服でいることが失礼に当たるのかもしれない。
「それであなた、名前は?」
 ユミリエールがアスティに向かって尋ねた。
「あ、アスティです。」
「アスティ? 変な名前ね。」
 アスティが緊張しながら答えると、ユミリエールはつまらなそうに吐き捨てた。
「そんなことあらへんよ!」
 突然口を挟んだのはナウルだ。
「俺はアスティちゃんの名前、可愛ええ思うで。」
 ナウルはにこりと微笑んでアスティの手を取った。
「ナウル、あなたは黙ってて。」
 ユミリエールが眉間に手を当てながら、ため息混じりに呟く。 
「それで、あなたは東の森から遥々王都までやって来て、これからどうするつもりなわけ? イニスに取り入って王宮に入り込んで国王暗殺でももくろんでるわけ?」
「あ、暗殺!?」
 ユミリエールの口から出た予想外の言葉に、アスティは驚いて声を上げた。
「あら、違うの? 森の民はみんなお父様のことが嫌いなんでしょう? 二十四時間三百六十五日、いつもいつでも森を守れの一辺倒。己の無能さから目を背けて、都合の悪いことは全部国王のせいにするのよ。本当に最っ低の連中だわ!」
 ユミリエールの罵倒に、アスティはただ唖然とするしかなかった。
「ユミリエール殿下、お言葉が過ぎます。」
 イニスが感情のない声で窘めると、ユミリエールはふんっと鼻を鳴らして横を向く。
 アスティは何と返せばいいのか分からなかった。国王の一人娘であるユミリエールが森の民を「最低の連中」と考えているならば、きっと国王も森の民を快く思ってはいないだろう。
 アスティが王都へ来たのは、国王に東の森の保護を訴えるためだが、国王に「最低の連中」と思われていては、話を聞き入れてもらうどころか、話を聞いてもらうことすらできないかもしれない。
 そう、アスティが王都へ来たのは国王に東の森の保護を訴えるためだ。そして最終的には、国王はもちろん、政府の役人や王都の人々、みんなが納得するように森を保護する必要性を説明しなければならない。説得すべき対象には、国王の一人娘であるユミリエールも当然入ってくる。
 ユミリエールがどうしてそこまで「森の民」を嫌うのかは分からないが、何らかの誤解があることは間違いない。
 きちんと話をしなければ——。そのために、自分は王都へ来たのだから……。
 アスティはそう心の中で自分に言い聞かせ、一呼吸すると、落ち着いて口を開いた。
「ユミリエール姫。私は、国王陛下の暗殺なんて考えていません。私はただ、東の森の守護者として、国王陛下にお願いしたいことがあって王都へ来ました。」
「お願い?」
 ユミリエールが聞き返し、アスティは大きく頷いて続けた。
「東の森を壊さないでほしいんです。森の植物や動物たちを守ってほしいんです。」
「またその話? 馬鹿の一つ覚えみたいに同じ事ばかり繰り返して、森の民って『森を守れ』以外の言葉を知らないの? これだから嫌いなのよ、教養のない人間って。」
「殿下、彼女は私の客人です。彼女に対する侮辱は私に対する侮辱ですよ。」
 イニスが低く抑えた声で割り込んだが、ユミリエールは構わず話し続けた。
「一体どうやってイニスに取り入ったのか知らないけど、どうせろくな方法じゃないんでしょう? 教養のない森の民の頭で考えられることなんてたかが知れてるものね。」
 ユミリエールが椅子から立ち上がり、くいと右手の指先でアスティの顎を持ち上げた。
 アスティはされるがままに黙ってユミリエールを見つめ返す。窓から射し込む光を反射するブロンドの髪に、髪と同じ色の長いまつげが影を落とす瞳は澄んだ青空と同じ色をしている。紅色の差す頬も柔らかそうで、アスティは間近に見たユミリエールの顔を改めて綺麗だと思った。
 ユミリエールの不敵な笑みが苦々しげな表情に変わったかと思うと、彼女は吐き捨てるように漏らした。
「……本当に、不潔な女。」
 ユミリエールが突き上げるようにアスティの顎を押し上げ、アスティは後ろへよろめいた。
「ユミリエール殿下!」
 突然、怒声が響き、ユミリエールが怯んだ。声を上げたのはイニスらしい。初めて耳にしたイニスの怒声に、アスティは一瞬、その声の主がイニスであることが分からなかった。
「今のお言葉は、私に対する侮辱です。撤回してください。」
 イニスはユミリエールを睨み付け、低く抑えた声で言った。
「……な、何よ。イニス、あなた最近、臣下の分際で生意気じゃない? 自分の立場、分かってるの?」
 ユミリエールは腕を組み、笑みを浮かべながら返したが、その表情は不自然にひきつり、怯えを含んだ動揺がはっきりと見て取れる。
「私の主君はエウレール王国国王、あなたの父上です。あなたではありません。」
 イニスが静かに返すと、ユミリエールは頬を紅潮させ、言葉に詰まった。
「あなたの方こそ、自分の立場をよくお考えになった方がいい。聡明なお父上の跡を継ぐおつもりなら、もう少し分別を身に付けてください。いつまでもわがままなお姫様では臣下も離れますよ。」
 イニスが続けると、ユミリエールは俯いて握り締めた両拳を震わせる。
「な、何よ……いつもお説教ばかりして、ちょっと出世したからって偉そうに……私の気持ちも知らないで……。」
 ぽたり——。水滴が一粒、絨毯に落ちた。
「あ、あの……ごめんなさい。私がユミリエール姫を怒らせたから、イニスさんが怒って、それでユミリエール姫が泣いちゃって……ええと、よく分からないけど、私のせい……ですよね?」
 アスティは目の前で泣いているユミリエールをどう慰めたらいいのか分からず、ただユミリエールの側で両手を上下させながらユミリエールに声を掛けた。
「アスティ、気にするな。お前は悪くない。悪いのは全部こいつだ。」
 イニスは全く動じることなく、俯いて涙をこぼすユミリエールを睨み付けながら毅然と言い放つ。
「で、でも……。」
 アスティが助けを求めるようにナウルを振り返ると、ナウルはにこやかな笑みを見せて泣きじゃくるユミリエールに声を掛けた。
「あれまぁ、そない泣いたらせっかくの美人が台無しやで。」
 言いながら、ナウルはユミリエールの前にひざまづき、その目元にそっと手を伸ばして涙を指先で拭った。
「ナウル、いちいち構うな。こんなのはしばらく一人で泣かせておけばいいんだ。」
 イニスが不愉快そうにナウルに向かって言うと、ナウルは苦笑いを浮かべて振り返った。
「そやかて、お前、姫様のご機嫌取りが俺の腕の見せ所や言うたやん。」
 ナウルに言われ、イニスがぐっと押し黙る。確かに、王宮に入ってすぐ、イニスは、ナウルに一人でユミリエールの所へ報告に行くように命じながらそんなことを言っていたとアスティも思い出した。
「姫様は睡眠不足でちょっと御機嫌斜めになっとったねんな? そやかて、アスティちゃんに当たるんは筋違いやで。」
 ナウルはユミリエールに向き直り、穏やかな声でユミリエールに語り掛ける。
「まあ、誰が悪いか言うたら、そら間違いなく、女心の分からへんそこの黒ん坊やねんから。」
「……おい、待て。誰が悪いって?」
 ナウルの言葉に、イニスが口を挟んだ。
「何や? そんなんお前に決まっとるやろ、イニス。」
「はぁ!? 何で俺なんだ! どう考えても悪いのはユミリエールだろうが!」
 振り返ったナウルに、イニスが抗議の声を上げる。
「ちゃう! 悪いのはイニスや。アスティちゃんもそう思うやろ?」
 ナウルはイニスの抗議を一蹴し、同意を求めてアスティを振り返った。
「え、ええと……。」
 アスティは返答に困り、言葉を濁す。
 確かに、ユミリエールに対するイニスの態度はいささか厳しすぎたような気がしないでもないが、ユミリエールの言葉をきちんと理解仕切れなかったアスティにはよく分からないものの、イニスが怒ったのにはそれなりの理由があったに違いなく、ナウルに賛同してイニスが悪いと言うのは気が引けた。だからと言って、ユミリエールが悪いというイニスの意見にも賛同しづらい。
 アスティが明確な返答を躊躇っていると、アスティの肩でキーロが鳴いた。
「クエッ!」
「ほれみい、キーロもイニスが悪いって言っとるで!」
「いや、ただ鳴いただけろ。」
「ちゃう。キーロはイニスが悪いって思とるから鳴いたんや! な?」
 ナウルがキーロを振り返ると、キーロはこくりと頷いて見せた。
「……鳥のくせに。」
 イニスが苦々しげに呟いたが、それ以上口論を続けるつもりはないらしく、ふいと横を向く。
「……というわけで、悪いのは全部イニスやねんから、アスティちゃんとユミリエール姫が仲違いする理由はあらへん! ささ、仲直りの握手や!」
 言いながら、ナウルはアスティとユミリエールの背を押して二人を向かい合わせる。
「わ、私はあなたと仲良くするつもりなんか……。」
 ユミリエールが不満そうに顔を背けたが、ナウルは構わず右手でユミリエールの手を掴み、同様に左手でアスティの手を掴むと、半ば無理矢理に両者の手を繋がせた。
「年も近いんやし、仲良うせんと! 姫様はいつもそうやってつまらへん意地ばっか張っとるから、友達が一人もおらんようになるんやで?」
「え? ユミリエール姫は、お友達いないんですか?」
 ナウルの言葉に、アスティは驚いてユミリエールを見つめ、聞き返した。
 かつてアスティが読んだ絵本の中のお姫様は、美人で優しくて人気者だった。お姫様というのは、お城の中で大勢の人に囲まれて幸せに暮らしているものだと思っていた。事実、目の前のユミリエールはとても可愛らしい女の子で、まさに理想のお姫様だ。それが、友達の一人もいないだなんて……アスティには驚きだった。
「……ば、馬鹿にしないで! いるわよ、友達くらい!」
 ユミリエールは一瞬驚いた表情を見せた後、アスティの手を振り払って叫んだ。
「ナウル、あなた余計なことばっか言ってると後で後悔することになるわよ。」
 ユミリエールがナウルを睨み付けたが、ナウルは相変わらずにこにこと笑みを浮かべている。
「ところで、あなたが連れてるそのぬいぐるみ、何?」
 ユミリエールに問われ、アスティは手にしていたナウルのお手製ロボットを見、聞き返した。
「これのこと、ですか?」
「まさか。そんなガラクタはどうでもいいのよ。」
 ユミリエールはアスティが手にしているロボットを見遣り、鼻で笑った。
「……が、ガラクタ?」
 アスティはロボットを手に再度ユミリエールに聞き返す。
「ガラクタでしょう、どう見ても。」
「ち、違います!」
 アスティは慌てて叫んだ。せっかくナウルが作ってくれたロボットなのに、作った本人の前でガラクタ呼ばわりしてはあまりにもナウルに失礼だ。
「これはナウルさんが作ってくれたロボットです。歌って踊って魔法も使えるんですよ。」
 アスティが微笑んで答えると、ユミリエールは驚いた様子でぽかんと口を開けた。歌って踊って、その上魔法も使える機械というのは、アスティにとってかなり驚きの発明品だったが、ユミリエールの驚きぶりからすると、どうやら王都でもかなり珍しいものらしい。
「今は、エネルギー不足で動かないそうなんですけど……。」
「……あなた、バカでしょ?」
 アスティの説明に、ユミリエールは眉を顰めて言った。
「え?」
「……森の民ってみんなこんななわけ? 文明から取り残されて、かわいそうなほどに無教養なのね。」
 ユミリエールは大きくため息を吐き、嘆くような調子でこぼした。
「ユミリエール、言い過ぎだ。」
 イニスがため息混じりに口を挟んだ。アスティは自分がユミリエールに馬鹿にされているらしいことは理解したが、なぜ馬鹿にされたのかがよく分からない。
 妙な沈黙が流れ、アスティがきょとんとしていると、突然、ナウルがポンッと手を打った。
「あ、そやそや! 姫様にもプレゼントを用意したんやで。」
 ナウルがそう言いながらごそごそと懐を漁る。
「プレゼント?」
 ユミリエールの声が期待を帯びて微かに高くなった。
「じゃじゃーん! 東の森の稀少植物の蔓で作ったナウルさん人形や!」
 そう言ってナウルは懐から取り出したものを頭上に掲げたが、同時に、期待に膨らんだ部屋の空気がしぼんだ。ナウルが頭上に掲げたものは、見たところ、ただの薄汚れた藁人形だ。
「あれ? もっと『おお!』とか『わあ!』とか言ってくれへんの? これ、すごいんやで! 髪の毛は東の森に自生しとる木の樹皮を割いて作っとるし、服も東の森の植物の繊維を編んだもんで、これ全部、東の森に特有の植物でできとるんや! な、すごいやろ?」
 ナウルは自慢げに言うが、ユミリエールの表情は冴えず、イニスは呆れた様子でため息を吐く。
「汚い……。」
 ユミリエールが眉をひそめながら呟いた。確かに、ユミリエールの言うとおり、ナウルが掲げた人形は全体的に薄茶色で、ナウルの白衣を背景にして見るとだいぶ汚れているようにも見える。
「な、何言うてんねん! 汚くなんかあらへん! これが自然の色や! なあ、アスティちゃんなら分かるやろ?」
 突然、ナウルに問いを振られ、アスティは「え?」と聞き返した。
「え? ……やのうて! この蔦は東の森でもかなりの稀少種なんやで! それを使こて作ったこの人形はものすごいレアものなんや! 王都暮らしの姫様には珍しいやろ思て一生懸命作ったんやで!」
 ナウルは藁人形を手にユミリエールの前にひざまづき、ユミリエールの両手を掴んで訴えた。
 ナウルの話を聞きながら、アスティは東の森でナウルがこそこそと何やら作業に励んでいたことを思い出した。あの時、ナウルが作っていたものがこの藁人形だったのだろう。
「……要らないわ。」
 ユミリエールが顔を背けながら呟く。
「なんで! 姫様のために一生懸命作ったんやで? すっごくすっごく愛情込めたんやで? 森の民には、大切な人に自分の分身の人形を手作りして贈るっちゅう伝統があって、それを忠実に再現したんやで! それなのに……要らへんの?」
 ナウルは涙で潤んだ瞳をきらきらと輝かせながらユミリエールを見つめる。自分の分身の人形を贈るという森の民の伝統はアスティには初耳だったが、かつて東の森に多くの集落が点在していた頃は、集落ごとに様々な習慣や文化があったと言うから、ナウルの言う伝統もそういった集落単位のものなのかもしれない。
「わ、分かったわよ。貰えばいいんでしょ、貰えば!」
 ユミリエールはナウルの手から藁人形をひったくるように奪うと、眼前に人形を掲げながらしかめっ面でそれと向き合った。
「大事にしてな。」
 人形がユミリエールの手に渡ると、ナウルはにこりと微笑み、満足した様子で言い添えたが、アスティの耳には、ナウルに背を向けて人形をサイドテーブルの上に置いたユミリエールが「どうせ後で捨てるけど。」と呟く声が届いていた。
「……それよりも、私は聞きたかったのは、あなたが肩に乗せているぬいぐるみの方よ。さっきちょっと動いてたけど、まさかそれもナウルのお手製じゃないわよね? だいぶ出来がいいみたいだけど。」
 アスティはユミリエールの視線を追って自分の右肩にとまっていたキーロを見る。
 階段の踊り場でアスティが大人しくしているようにと言い聞かせて以降、先ほどナウルの問いに答えたことを除けば、キーロは言われた通りに大人しくアスティの肩にとまっていた。動かず黙っていれば、ぬいぐるみに見えないこともないかもしれない。
「クエッ!」
 キーロが大きなくちばしを開いて、挨拶代わりに一声鳴くと、ユミリエールは驚いた表情を見せた。
「随分と精巧なロボットね?」
「いえ、キーロはロボットじゃありません。生きている鳥です。」
 ユミリエールの問いにアスティが答えると、キーロが翼を広げてアスティの肩から飛び上がり、ユミリエールは悲鳴を上げて後ろへ跳び退いた。
「怖がらなくても大丈夫ですよ。キーロは私の友達ですから……。」
 ユミリエールに向かって言いながら、アスティは王都に来る途中、キーロがイニスを攻撃したことを思い出した。恐る恐る隣に立つイニスを見上げると、イニスは何も言わずにふいと横を向く。
「この鳥が、あなたの友達?」
 部屋の中を飛び回るキーロを見上げていたユミリエールは、キーロが再びアスティの肩に着地すると、アスティに一歩近づいた。
「……鳥が友達って、もしかしてあなた、人間の友達いないの?」
 ユミリエールは怪訝な表情で視線をキーロからアスティに移し、アスティは返答に困った。かつては東の森に遊び仲間が大勢いたが、彼らは家族と共に少しずつ森を出て行った。最後まで東の森に残っていたアスティの遊び仲間は三歳年下のいとこだが、彼とも久しく会っていないし、彼は友達というよりも弟に近い存在だ。
 アスティが何と返すべきか迷っていると、ナウルが笑いながら口を挟んだ。
「何や、アスティちゃんも姫様と同じっちゅうことか。まあ、姫様の場合は人間じゃない友達もおらへんけど。」
「ちょっと……いるって言ったでしょ、友達くらい!」
 ユミリエールは拳を握りしめて叫んだ。
「へー、具体的には誰ですのん?」
 ナウルが問うと、ユミリエールは言い淀み、俯いた。
「それは……ジェーンとか、サラとか……。」
「侍女の名前やな?」
 ナウルが笑顔で返すと、ユミリエールは俯いたまま口を結んだ。
「……と、とにかく! 私にはあなたと友達になるつもりなんかこれっぽっちもないわ!」
 ユミリエールは突然顔を上げたかと思うと、アスティを指さして宣言した。
「は、はあ……。」
 アスティはユミリエールの勢いに気圧されながら、曖昧な返事を返す。
 部屋の中に沈黙が流れ、ユミリエールはコホンと一つ咳払いをして、キーロに視線を戻した。
「……それにしても。変な鳥よね。見た目も、声も。」
「発言に気を付けないと食われますよ。」
 イニスが呟くように注意したが、ユミリエールは既にキーロの頭に手を伸ばしている。
 アスティも「変な鳥」と言われたキーロが機嫌を損ねてユミリエールを攻撃するのではないかと心配したのだが、キーロは機嫌よくユミリエールに撫でられた。
「図書館の百科事典でも見たことのない鳥だわ。これが伝説の鳥なんじゃないの?」
 ユミリエールはキーロを撫でながらイニスに向かって問い掛ける。
「伝説の鳥は黄金の鳥だと聞きましたが? こいつはどこからどう見ても黒い鳥ですよ。」
 イニスがキーロを睨みつけながら言った。
「そうね、イニスと同じで真っ黒だわ。」
 ユミリエールがキーロを見つめながら言うと、ナウルが隣でくくっと笑った。イニスが不愉快そうにナウルを睨む。
「でも、お父様のところへ連れて行ったら金色に変わるかもしれないわ。黄金の鳥は、森の王の側でしか真の姿を現さないのでしょう?」
「古文書の記述ではそういうことになっとりました。」
 ユミリエールに問われ、ナウルが真面目な声で答えた。
「じゃあ、連れて行ってみましょう。あなたもお父様のところへ報告に行くんでしょう? ちょうどいいわ。」
 キーロがアスティの肩からユミリエールの腕に飛び移ると、ユミリエールはイニスを見上げて微笑んだ。

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