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エウレールの森の民 作者:アヤキリュウ
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第9話 パン屋の息子

 橋を渡ると、すぐに市街地に入った。石畳の道路の両端に、民家や商店が窮屈そうに並んでいる。人通りも多くなり、移動用円盤ディスク・ボードはもちろん、四輪自動車が列を作っている。四輪自動車自体は、移住勧奨に来た政府の役人や行商人が使っていたから、アスティも何度か目にしていたし、王都までの道でも数台とすれ違っていた。ただ、王都に来て驚いたのは、その色形の多様性と数だ。紫色や黄緑色の派手な車体をした車があれば、車高もカモノハシのくちばしのように平べったいものから、四角い箱のようなもの、球体に近いものまで様々で、車体の上に大きな星を載せているものまであった。
「変わった車がいっぱいあるんですね。」
「最近、趣味の悪い成金が増えたからな。」
 アスティが感嘆の息を漏らしながら述べた感想に、イニスは苦々しげに返した。
「今日は道が混んでるな……少し歩くか。」
 イニスは自動車の合間をすり抜けるように移動用円盤を操っていたが、数メートル先で車が完全に道路を塞いでいることに気づくと、移動用円盤を路肩に停めた。
「なんや、降りるんか?」
 後ろを付いてきたナウルがイニスに尋ねる。
「道が混んでるからな。これなら歩いた方が早いだろう。」
 イニスは移動用円盤から降り、アスティもそれに続いた。イニスが移動用円盤の側面を軽く蹴飛ばすと楕円形の移動用円盤は円形に戻り、イニスが携帯端末装置を操作している間に独りでに飛び去った。
「え? あれ、飛んで行っちゃいましたよ!?」
 アスティは慌てて叫んだが、イニスは動じない。
「自動操縦で王宮に帰した。荷物になるからな。」
「歩くんめんどいんやけどなあ……。」
 後ろから付いてきたナウルがまだ移動用円盤に乗ったままで呟く。
「とっとと降りろ。公用円盤の歩道走行は緊急時を除いて禁じられてるんだ。」
 イニスがナウルを睨みつけながら言う。
「今、緊急時やねん。俺、もう疲れて歩けへん。」
「そうか、なら早くそれから降りて喫茶店にでも入って休むことだな!」
 イニスはにこりと微笑んだかと思うと、ナウルの移動用円盤を乱暴に蹴飛ばした。ナウルの足を固定していた金具が外れると同時に、移動用円盤は一回転してナウルを地面に転げ落とす。ナウルの肩に乗っていたキーロは空に飛び上がって難を逃れ、アスティの肩に着地した。
「……ったぁ! いきなり何すんねん! 暴力反対!」
 地面に打ちつけたらしい腰をさすりながらナウルが声を上げるが、イニスは相手にすることなくナウルに背を向けて歩き始めている。
「行くぞ、アスティ。ナウルはしばらく休みたいらしい。」
 アスティは地面に座り込んだままのナウルを振り返り、見下ろした。ナウルと目が合い、ナウルがにこりと微笑む。
「えっと……お大事に!」
 アスティあそうナウルに声を掛けてからイニスを追って駆け出した。
「ちょ、そらないんとちゃうか!? しかもキーロまで裏切りよって! ちょい待ちぃや、俺一人置いてかんといて!」
 背後から叫び声と共にナウルが追いかけてくる。文句を言いながらも走って追いかけてくるところを見ると、ナウルはまだまだ元気そうだ。

 渋滞中の大通りから脇道に入ると、商店街が広がっていた。石畳の道の左右に石造りの建物が連なり、それぞれ鮮やかな看板を出している。
 八百屋、魚屋、肉屋に花屋、一見してそれと分かる商店もあれば、おもちゃ屋のようながらくた屋のような何の店だかよく分からない不思議な雰囲気の店もある。
 通りは車両の通行が禁止されているようで、道いっぱいに買い物を楽しむ人が溢れていた。
「すごい、人がいっぱい……。」
 アスティはイニスの後ろをついて歩きながら呟いた。政府が科学技術振興令が発せられる前の活気に溢れていた東の森の集落と比べても、通りを行き交う人は数倍多いのではないだろうか。アスティにとって、こんなにもたくさんの人間を見ることは生まれて初めての経験だった。
「ここは王都でも一番賑やかな商店街だからな。人通りの多さならオフィス街の摩天楼群よりも上だ。」
「へえぇ……。」
 アスティはきょろきょろと辺りを見回しながら、イニスとはぐれないように時折早足でイニスを追いかけた。
 ふと、甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「おいしそうな匂い……。」
 アスティが呟きながら匂いの元を探ると、パン屋の看板が目についた。匂いの発生源はパン屋らしい。
「寄ってくか?」
 イニスが振り返って尋ね、アスティは大きく頷いた。キーロもアスティの肩で「クエッ!」と賛同の声を上げる。
「じゃ、こいつにはしばらく外で待っててもらわないとな。」
 イニスはアスティの肩にとまったキーロを見て言った。キーロが不機嫌そうな声を上げる。
「悪気があって言ってるんじゃない。衛生管理上、鳥が店の中に入るのはまずいんだ。」
 イニスが説明すると、キーロは理解したのか、渋々アスティの肩から飛び上がり、店の看板の上にとまった。
「賢いな。こいつ、本当に人間の言葉が分かるのか?」
 イニスが驚いた様子でキーロを見上げる。これまで、アスティはキーロと一緒に暮らしながら、何となくキーロの考えていることが分かるような気がしていたし、キーロもアスティの気持ちを理解してくれているような気はしていたが、キーロが言葉を理解しているとまで思ったことはなかった。
 それでも、今日のナウルやイニスとのやりとりを見ていると、キーロは全て正しく理解しているようにも思える。
「分かってるみたい……ですね。」
 アスティはキーロを見上げながら微笑んだ。
 イニスがパン屋の扉を押し開けると、扉に付いたベルがカランコロンと楽しげな音を立て、店の奥から元気のいい声が響いてきた。
「はい、いらっしゃーい!」
 イニスに促されて店に足を踏み入れると、茶色のエプロンを付けた恰幅のいい年輩の女性店員がせっせとパンを棚に並べている。
「おや、まあ! イニスやないの!」
 女性店員はイニスの姿を認めるなり、嬉しそうに声を上げた。
「ご無沙汰しています。」
 イニスが恭しく頭を下げる。どうやらこの女性店員とイニスとは顔馴染みらしい。
「ちょうどいいところやわ! 今、あんたの好物のあれが焼き上がったとこなんよ! ちょいと待っとってや!」
 女性店員はイニスとアスティの会話を遮るほどの大きな声で言い、どたどたと店の奥へ姿を消した。アスティは女性店員が消えた店の奥を見つめながら、首を傾げる。過去にどこかで彼女に会ったことがあるような気がするのだ。
 間もなくして、女性店員は紙袋を抱えて戻ってきた。
「はい、いつもの奴ね。持ってって!」
 女性店員はイニスの胸に押しつけるように紙袋を差し出す。
「あ、いや、代金はちゃんと……。」
「いいの、いいの! うちのどら息子が世話になってんだから!」
 イニスが遠慮がちに発した言葉を遮って、女性店員はバシバシとイニスの腕を叩きながら言う。
「どら息子……?」
 アスティがきょとんとして呟くと、女性店員はやっとアスティの存在に気づいたような様子で、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「おや、この子、あんたの連れかい? ついに彼女ができたんやね!」
 女性店員はアスティを見ながら嬉しそうに声を上げた。
「違います!」
 イニスが慌てた様子で声を上げる。
「そんな照れなくたってええやないの。あたしとあんたの仲やんか。隠し事はなしやで!」
「いや、だから違いますって! 彼女は仕事上保護しているだけです。」
 イニスが答えると、女性は「そうなん?」とアスティを振り返った。
 アスティとしては、「仕事上保護しているだけ」というイニスの主張には若干同意し難い部分もあるが、イニスがそう言う以上、そうなのだろうし、少なくともこの場面では、そうだということにしておかないとイニスにとっては不都合らしいと思えたので、アスティは黙って頷いた。
「なんやあ、おもろないわぁ。」
 女性店員はがっかりした様子で大きくため息を吐く。
「……全く騒がしい奴っちゃなぁ。イニスが呆れとるやないか。」
 店の奥から低い男の声がして、アスティは振り返った。白い服に身を包み、コック帽を被った男は、きっとこの店の——そしてこの女性店員の主人だろう。
「ほら、こいつも並べてくれ。」
 男は焼き立てらしいパンが載ったトレイを女性店員に差し出して言った。
「久しぶりやなあ、イニス。」
 トレイを女性店員に渡すと、男はにこにことイニスに話しかけてきた。
「ご無沙汰しています。このところ仕事が立て込んでいて、なかなかお伺いできなくて……。」
「そない気にせんでええねん。騎士団長様には大事な仕事がようけあるんやろし。それより、うちのどら息子はちゃんと仕事しとるんかね? また色々迷惑掛けとるんとちゃうか?」
 男が心配そうに尋ねる。
「まあ、それなりにやってると思いますよ。」
 イニスが苦笑しながら答える。
「あいつももう少し真面目に働いてくれたらええんやけど……。」
 男はそう言って大きなため息を吐く。
「そう言えば、ナウルさんの姿が見えませんけど、はぐれちゃったんですかね?」
 イニスと男の会話が途切れたところで、アスティはイニスに尋ねた。商店街に入った時は、確かに一緒だったはずなのだが、パン屋に入ろうとした辺りから姿が見えなくなっていた。
「なんや? ナウルの奴も一緒なんか?」
 男が驚いた様子で声を上げる。
「え? ナウルさんともお知り合いなんですか?」
 アスティが男を振り返って尋ねるのとほぼ同時に、「あ、ナウル!」と女性店員が声を上げた。アスティが女性店員を振り返ると、店の窓からナウルがこちらを覗いていた。
「……ナウルさん?」
 アスティは入り口の扉を開け、ナウルに声を掛けた。しかし、ナウルは店の中に入るのをためらっているようで、もじもじしながら視線を泳がせている。
「ナウル! そないところで覗いとらんと、店入りや! ろくに連絡もせんで、久しぶりに帰って来たんやからちゃんと挨拶くらいしぃや!」
 アスティに続いて店の外に出た女性店員がナウルを怒鳴り付け、ナウルが怯む。
「ナウルさん?」
 アスティが重ねて声を掛けると、ナウルは意を決したように、アスティと女性店員の方に向き直り、にこりと笑った。
「……えっと、まあ……ただいま!」
 アスティはきょとんとし、女性店員はふんっと鼻を鳴らす。
 女性店員が店の中に入り、ナウルも苦笑しながらアスティを促し、店に入った。
「いやあ、久しぶりやなあ、元気しとった?」
 店に入り、ナウルは主人らしい男に向かって片手を上げて挨拶する。
「何が久しぶりや、このどら息子が。」
 男が吐き捨てるが、ナウルはへらへらと笑っている。
「……どら息子? あ、あの……このお店って……。」
 アスティは恐々とナウルを見上げた。
「ん、まあ、端的に言うとやなあ……、そっちにおるんが俺のおかんのナディで、こっちがおとんのジヴルっちゅうこっちゃ!」
 ナウルが女性店員とこの店の主人らしい男を交互に見ながら言い、アスティは叫んだ。
「え、ええーっ!?」
「そんなに驚くほどのことでもないだろう。」
 イニスが落ち着いた口調で言う。確かに、独特のイントネーションを持った喋り方は三人とも共通だし、女性店員と「どこかで会ったことがある」ような気がしたのも、ナウルと雰囲気が似ていたからと言われれば、その通りだと思う。
「ナウルさんのおうちって、パン屋さんだったんですか……。」
 アスティはため息混じりに呟いた。
「うちの店のパンは王都一番の味やで。どれでも好きなパン選んで持ってってや!」
 ナウルがにこりと笑って言う。
「どら息子が何を偉そうに言うとんねん!」
 女性店員——すなわちナウルの母であるナディがベシッとナウルの腕を叩く。
「どら息子っちゅうけど、ちゃんと毎月仕送りしとるやんかぁ。」
 ナウルが叩かれた腕をさすりながら不満そうに漏らす。
「金だけ送ってくればええっちゅうもんやないねん! ろくに連絡もよこさんで、またイニスに迷惑掛けとるんとちゃうやろな!?」
「連絡って、そない毎日報告することもあらへんし……王宮騎士団も結構忙しいやねんで、なあ、イニス?」
 ナウルはナディの追及にたじたじになりながらイニスに助けを求める。
「ああ、確かに忙しいな。お前が度々当番をさぼるせいで、俺も他の団員も余計な仕事が増えてるからな。」
 イニスがにやりと笑って答える。
「……な、なんちゅうこと言うねん!」
「やっぱり! またあんたはほんまにイニスに迷惑ばっかかけよってからに……!」
 イニスの答えにナウルが顔色を変え、ナディがバシンッとナウルの腕を叩く。
「ちゃ、ちゃうねん! 俺には森の生態系の研究っちゅう重要な仕事があってやな……。」
「そない言い訳しよって! 真面目に働かんとクビになるで!」
 ナディは、更にバシンッと一発ナウルの腕をひっぱたく。アスティはこの親子喧嘩を止めるべきか悩んだが、度々ひっぱたかれているにもかかわらずナウルはどこか嬉しそうで、イニスと主人の男——ナウルの父ジヴルも二人のやりとりを微笑ましげに眺めている。だからたぶん、この二人の喧嘩は特段心配することはないのだ。
 しばらくして、ナウルとナディの言い争いが落ち着くと、アスティはナウルに勧められていくつかのパンを選んだ。それらをナディに紙袋に詰めて貰いながら、アスティはイニスを振り返る。
「そう言えば、イニスさんの好物のパンってどんなパンなんですか?」
「え?」
 突然の問いに、イニスが虚を突かれたような表情を返す。
「ちょっと甘い匂いがしますね。」
 アスティがイニスが抱えている紙袋をくんくんと嗅ぐと、イニスが紙袋をぎゅっと抱えた。
「あ、別にイニスさんのパンを取ろうってわけじゃないですよ。」
 アスティが言うと、イニスは気まずそうに視線を逸らした。
「せっかくやから、アスティちゃんにも同じのあげるわ。焼き立てやしなあ。ジヴル! あれ、一つ持ってきて!」
 ナディが叫ぶと、ジヴルはいったん店の奥に引っ込み、すぐに小さな紙袋を一つ手にして戻ってきた。
「ほいよ。焼き立ての熱々は特に旨いさかい、すぐに食べられるようにこれだけ別に渡しとくで。」
 ジヴルから小さな紙袋を受け取り、アスティはそっと袋を開いた。
「……わ、かわいい!」
 袋の中のパンを見て、アスティは思わず声を上げた。
 小さな紙袋の中に入っていたのは、ウサギの顔の形をしたパンだった。細長く延ばしたパン生地で鼻と口元が形作られ、目には赤い木の実——チコの実だろうか——が付いている。
「いい年した男が少女趣味やろ?」
 ナウルがイニスをちらりと見て笑う。
「うまいんだよ、これが一番。」
 イニスは抱えた紙袋からウサギ型のパンを取り出し、不満そうに呟く。
「味だけなら普通の丸いミルクパンでも同じやん。」
 ナウルは店の棚に並んだ丸いミルクパンを指さしながら言う。
「違う! 丸いミルクパンにはチコの実が付いてない!」
 イニスは袋から取り出したウサギ型パンの目の部分を指さして主張した。
「……チコの実? そんなんただの飾りやん! 味に影響せぇへんわ!」
「そんなことない! このチコの実のあるなしで味は全然違うんだよ! 味音痴のお前には分からないだろうけどな!」
 イニスはナウルに向かってウサギ型パンを突きつけた後、苛立たしげにウサギの左耳にかぶりついた。むしゃむしゃと勢いよくパンを頬張りながらも、その表情は少しずつ緩んでいく。大好物を口にすれば、ナウルに対する怒りの感情も和らぐらしい。アスティが作った果物入り雑炊を食べていた時とはだいぶ異なる表情だ。
「このウサギ型のミルクパンはね、あたしが開発したパンなんよ!」
 ナディが言った。
「ミルクパンは主人の一番得意なパンで、開店当初からうちの看板商品なんやけど、地味やからあまり売れへんかったんよ。それをあたしの閃きで可愛いウサギの形にしたところ、これがまあ大ヒットしてもうて!」
「開発っちゅうほどのことちゃうやろ……形変えただけやし。」
 ナウルがぼそりと呟くと、ナディはナウルの肩を叩いた。
「何言うてんねん! 名前だってあたしが決めたんやで! 名付けて、ふわふわウサギのミルクパン! 可愛ええやろ?」
「……まんまやし。」
 二度目のナウルの突っ込みを無視して、ナディは続けた。
「でも、この形と名前のおかげで、今ではうちの一番の売れ筋商品なんよ!」
「……イニスが買い占めとるだけちゃうの?」
 ナウルの薄笑いして漏らすと、ナディの右手肘とイニスの左肘が同時にナウルの腹部を突き、ナウルは体を折ってしゃがみ込んだ。
「とにかく! せっかくやから、アスティちゃんも焼き立て味わってや!」
 ナディに促され、アスティはふわふわウサギのミルクパンを紙袋から取り出し、そっと右耳をちぎった。その名の通り、確かにふわふわだ。
「……どやろ?」
 ナディがアスティの顔を覗き込み、イニスも様子を窺うようにアスティを見下ろしている。
 アスティは少し緊張しながら、ふわふわウサギの右耳を口に運んだ。もぐもぐと口を動かしながら、自然と頬が緩んだ。
 口の中に甘く優しいミルクの香りがふんわりと広がる。
「……おいしいです!」
 ふわふわウサギの右耳を飲み込み、アスティは声を上げた。
「そやろ? 可愛いウサギの形のおかげでおいしさも倍増やねん!」
 ナディが満足げに頷く。
「初めて食べるのに、すごく懐かしい味がします。」
「うちのミルクパンは新鮮な牛乳をたっぷり使っているからね。」
 アスティの感想に、ジヴルも嬉しそうに微笑む。
「この目のところがうまいんだ。」
 イニスが横からふわふわウサギの目を指さし、アスティはふわふわウサギの右の頭をちぎってもう一口、口へ運んだ。再びミルクの香りが広がり、直後にチコの実の甘酸っぱさが広がる。確かに、この実は優しい甘さに対するアクセントになっている。
「甘酸っぱくて、ミルクの甘さが引き立つ感じですね。」
「だろう?」
 イニスは満足した様子でアスティに微笑むと、物言いたげな様子のナウルを睨み付ける。
「……あ、そうだ、お代……!」
 ふわふわウサギのミルクパンを完食し、アスティは声を上げた。
「あ、ええよ、ええよ! どうせナウルが色々迷惑掛けとるんやろ? こんくらいはお詫びやて!」
 ナディはけらけらと笑いながら言う。
「そんな、迷惑だなんて……ナウルさんには私の方が色々お世話になってて……。」
「それならそれで、ナウルの大事なお友達や! お近付きの印やて!」
 アスティが慌てると、ナディはレジ台に載せられていた紙袋——最初にアスティが選んだパンが詰められている——をアスティの胸に押しつけた。
「まあ、食べてみて気に入ったパンがあったら今度また買いに来てくれたらええねん。」
 ジヴルが言い、アスティは恐縮しながら紙袋を受け取った。
「あ、イニスのも今日はサービスやで!」
 ナディが付け足し、イニスは微笑んで頭を下げる。
「ありがとうございます。」
「まあ、イニスにはほんまに色々迷惑かけて申し訳ないんやけど、ナウルのこと、よろしゅう頼むわ。」
 ジヴルが恐縮した様子でイニスに言った。
「ええ。部下の監督も俺の仕事のうちですから。」
「……迷惑なんて掛けてへん言うとるんに……。」
 ナウルは相変わらず不満そうだ。イニスもナディも、そしてジヴルも、ナウルの呟きは耳に入っているはずだが、それを相手にするつもりはないらしい。
「また遊びに来てや!」
「たまにはちゃんと帰って来るんやで!」
 ナディとジヴルに見送られ、アスティとイニス、そしてナウルはパン屋を出た。

最新の執筆状況(更新予定)等はTwitter(@ayaki_ryu)で呟いています。

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