エピローグ
真っ白な部屋の中に一人の少女が積み木で遊んでいる。何故かは分からないが、とても嬉しそうに夢中になって積み木を組み立てている。
その部屋に一人の男が入って来る。
その男は高校生くらいの男であり、手にポリ袋を持ってゆったりとしたペースで少女の元にやってきたのだ。
「あっ! お兄ちゃん!」
少女は綺麗な顔で、その男に笑いかけた。
「調子はどうだ?」
男は抑揚のない声で、少女に尋ねた。
「私はね、すっごい元気だよ! えとねえとね。もうすぐね。私のお城が完成するんだ。名前は何て名前にしょうかな?」
少女は口に右手の人差し指を当てて、かわいらしく首をかしげた。
「そうだなぁ……。“パンチネロ”のお城とかにしたら――どうだ?」
男は一瞬だけ考え、すぐに答えを出してしまった。とても本気で考えているようには見えない。
しかし、少女はその答えを聞いた瞬間パッと顔を輝かせた。
「お兄ちゃん! その名前いい! 凄く気に入った! このお城の名前、その名前にする!」
少女は「“パンチネロ”のお城、“パンチネロ”のお城」と言いながら、再び積み木を組み立て始めた。
「今日はりんごを持ってきたから、ここにおいて置くぞ。早く良くなってくれよ」
「うん! 早く退院して、お母さんやお父さんやお兄ちゃんやもう一人のお兄ちゃんと一緒に遊びたい!」
そう言って少女は無邪気な顔をして、にっこりと微笑んだ。
それを見た男は、少し顔をしかめて顔を下に向けた。
「悪い……。ちょっと急用を思い出した。また今度遊ぼうな」
「え~! 今来たばっかりじゃん! やだやだやだ!」
少女は口を風船のように膨らませ、駄々をこね始めた。
「本当に悪い……。明日また来るから……。な?」
「約束だよ! 忘れたら針千本飲ますからね!」
そう言うと少女は再び積み木を組み立て始めた。
男は、それを見ると風のように速くドアから出て行った。
「正直……あれ以上あんな状態のあいつを見てらんねえよ………」
そう言うと彼は自分の後頭部を、閉めたドアに軽く打ち付けた。
「来てたのか、“グラシオーソ”氏」
ドアの前に立っている男の前に、もう一人別の男がやってきた。
「ああ、おっさん。相変わらず進展なしだ。彼女がああなってからもう三週間。一体どうしてこうなっちまったんだろうな……」
「あの少年“道化師”が、それだけ人に愛されてたってことだろう。彼のお姉さんも一日中家にこもって彼の遺灰と話しているそうだ。まぁ私は何度家に行っても、家に入れてくれないから、近所の人から聞いた話なのだがな」
そう言っておっさんと言われるにはまだ少し若い男も、先ほどの男同様ドアを開けて中に入ろうとした。
「やめたほうがいいぜ」
しかし“グラシオーソ”と言う名の男は彼がドアを開けることを制止した。
「何故だ? こうやって差し入れも持ってきたと言うのに?」
そう言って若いおっさんは、ポリ袋を“グラシオーソ”の顔の高さところまで持っていった。
「ああ……もっとタイミングが悪いな。さっき俺も差し入れを持ってったんだ」
「ああ、それは確かにまずいな。君はこれから時間はあるか?」
若いおっさんはいきなり話を変える。
その言葉を聞いて、“グラシオーソ”も怪訝そうな顔で彼の顔を見た。
「暇だったら何か問題でもあるのか?」
「今からこれを持って、彼女の家に行ってくれないか? ご両親も相当参っているようだし」
そう言って若いおっさんは“グラシオーソ”に差し入れを押し付けた。
「仕方ないな。それなら行ってやるよ。でも忘れるなよ。これで貸しひとつだからな!」
“グラシオーソ”は文句は言ったが、意外にもすんなりと差し入れを持って下の階へと続く階段を降りていった。
「さてと。そろそろ出てきたらどうなんだ?」
若いおっさんは誰もいなくなった通路に向かって独り言を発した。
「あや、お気づきになられていましたか。これは失礼いたしました」
誰もいないはずの通路から声が聞こえてきた。
男が見上げると、天井に“ピエロ”の姿をした者が立っていた。
先ほどの丁寧なしゃべり方と随分とミスマッチな印象を与えるが、不思議なことに不快な感じは一切しない。
「いつから私達を見ていた?」
「最初からです。貴方達があの町に着いた時からずっと見てました。この目で」
“ピエロ”がそう言った瞬間、天井が全て無数の目で埋め尽くされた。
「うえ。悪趣味な奴だな。お前一体何者だ?」
若いおっさんの質問に“ピエロ”はにっこりと微笑みながら、こう答えた。
「これは申し遅れました。私は“ラムダ”と申します――」
サイコパスの道化師-another case- Fin
これで終わりです。
長い間、お読みいただきましてありがとうございます。
多分続きます。気長にお待ちください。(多分誰も待たないと思いますが)
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